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David Grubbs “The Thicket” / デイヴィッド・グラブス『ザ・シケット』


David Grubbs “The Thicket”

デイヴィッド・グラブス 『ザ・シケット』
発売: 1998年9月15日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)

 バストロやガスター・デル・ソルでの活動でも知られる、イリノイ州シカゴ出身のミュージシャン、デイヴィッド・グラブスの2枚目のソロ・アルバムです。シカゴの名門レーベル、ドラッグ・シティからのリリース。トータスのジョン・マッケンタイアが、ドラムとパーカッションで参加しています。

 デイヴィッド・グラブスは、作品によって音楽性が大きく異なり、実験的なアプローチからポップなセンスまで、幅広い音楽的語彙を持つミュージシャン。「鬼才」という呼称が似合う人です。本作『The Thicket』は、そんな彼のポップな面が色濃くにじんだ作品だと言えます。

 アコースティック・ギターを中心に、生楽器を使用しながら、できあがる音楽は現代的でポップ。回顧主義に陥らず、ルーツ・ミュージックの素材を上辺だけ拝借しただけでもない、すばらしいバランス感覚で構成されたアルバムです。カントリー的なサウンドと、素材を丁寧に組み上げるポストロック的な感覚を持ち合わせた、新しいポップ・ミュージックと呼ぶべき音楽が詰まった1作。

 1曲目「The Thicket」は、アコースティック・ギターとボーカルに、ふくよかなウッド・ベースが絡む、穏やかでありながら、スリリングな空気も同居するアンサンブル。再生時間0:48あたりでリズムが切り替わるところの、躍動感と加速感など、ロック的なダイナミズムも持っています。

 2曲目「Two Shades Of Blue」は、バイオリンが使用され、生楽器のみの編成のようですが、緩急のついた変幻自在のアンサンブルが構成されます。再生時間1:24あたりで、風景が一変するような展開も鮮烈。終盤の3:18あたりからトランペットが入ってきて、一気に加速するところもかっこいい。

 3曲目「Fool Summons Train」は、タイトルどおり、電車のように加速し、躍動感溢れる1曲。

 4曲目は「Orange Disaster」。1音目が鳴った瞬間からかっこいい曲というのがありますが、この曲がまさにそれ。オルガンとギターの音、タイトに細かいリズムを刻むドラム、バンドの隙間を縫い合わせるように動くベース、覆いかぶさるように鳴る持続音、全てがかっこいい。2分ほどの短い曲ということもありますが、あっという間に終わってしまいます。

 5曲目「Amleth’s Gambit」は、バンジョーのハリのあるサウンドと速弾き、タイトで細かくリズムを刻むドラムが、緩急をつけながら曲を加速させていきます。

 7曲目「Swami Vivekananda Way」は、流れるようなピアノと、トランペットが心地よい1曲。

 9曲目の「On “Worship”」は、持続音が幾重にも折り重なり、分厚い音の壁を作り上げる1曲。

 いわゆるオルタナ・カントリーと呼ばれるサウンドとも違う、現代音楽や実験音楽の要素を感じさせながら、ポップな作品になっています。モダン・カントリーとでも言うべき、雰囲気とサウンドを持ったアルバムです。

 デイヴィッドのポップ・センスと、幅広い音楽的教養が融合した、なかなかの良盤だと思います。

 





Gastr Del Sol “Upgrade & Afterlife” / ガスター・デル・ソル『アップグレード・アンド・アフターライフ』


Gastr Del Sol “Upgrade & Afterlife”

ガスター・デル・ソル 『アップグレード・アンド・アフターライフ』
発売: 1996年6月17日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)

 デイヴィッド・グラブスとジム・オルークという、非常に個性の強い2人が集ったグループ、ガスター・デル・ソルの1996年リリースのアルバムです。

 アコースティック・ギターは不協和音を響かせ、ピアノは奇妙なフレーズを弾き、耳障りなノイズが飛び交い、アンビエントな電子音が持続し、飾り気のない優しい声のボーカルが歌う…このアルバムの音を言語化してみると、このようになります。

 いわゆるポップな音楽ではありませんが、アヴァンギャルドで取り付く島もないぐらいの作品かというと、そうでもありません。

 聴く人を選ぶ音楽であることは事実ですが、不協和音と思われていた響きが心地よく聞こえてきたり、耳障りなノイズと思っていた音が妙に耳に残ったり、という発見がいくつもある作品です。

 1曲目「Our Exquisite Replica Of “Eternity”」は、電子音が持続するアンビエントな1曲。再生時間2:30あたりから登場する、耳障りな高音ノイズがアクセント。

 2曲目「Rebecca Sylvester」は、どこか不穏な響きを持ったアコースティック・ギターに、素朴なボーカルが乗る1曲。途中から導入されるアンビエントな電子音が、不穏で幻想的な雰囲気をさらに色濃くします。

 3曲目「The Sea Incertain」は、捻れたピアノ・バラードといった空気の1曲。再生時間1:04あたりから近づいてくる電子音も、アンビエントで不可思議な空気感を演出します。アルバムを通して言えることですが、音質の選び方、音の置き方が、とても効果的だと思います。

 4曲目の「Hello Spiral」は、イントロから無数のノイズが飛び交い、それが過ぎ去ると、アンビエントな電子音とともに、牧歌的なボーカルとアコギが聞こえてきます。その後も再生時間2:30あたりから、複数のギターが重なっていったりと、次々と展開のある1曲。

 7曲目の「Dry Bones In The Valley (I Saw The Light Come Shining ‘Round And ‘Round)」は、フィンガー・スタイル・ギターの名手、ジョン・フェイヒィ(John Fahey)のカバー。イントロからアコースティック・ギターが大活躍し、アルバムの流れの中でほっとする1曲です。

 前述したとおり、明確な形式も持たず、誰でも楽しめる作品というわけではありませんが、随所にデイヴィッド・グラブスとジム・オルークという2人の鬼才の存在感が溢れる、スリリングな1作です。

 正直、一般的にはちょっと敷居が高いアルバムだとは思うのですが、ジム・オルークの歌モノが好きな方などにも、聴いてみてほしいです。

 





Gastr Del Sol “Crookt, Crackt, Or Fly” / ガスター・デル・ソル『クルックト・クラックト・オア・フライ』


Gastr Del Sol “Crookt, Crackt, Or Fly”

ガスター・デル・ソル 『クルックト・クラックト・オア・フライ』
発売: 1994年4月18日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)
プロデュース: Jim O’Rourke (ジム・オルーク)

 デイヴィッド・グラブスとジム・オルークの双頭グループ、ガスター・デル・ソルの1994年リリースのアルバムです。

 デイヴィッド・グラブスとジム・オルークという個性の強い2人、さらにかつてはジョン・マッケンタイアとバンディー・K・ブラウンが在籍していたことでも有名。本作のレコーディングには、ジョン・マッケンタイアも参加しています。

 本作『Crookt, Crackt, Or Fly』を一言であらわすなら、アコースティック・ギターを中心に据えた、実験的ポップス、といったところでしょうか。アコースティック・ギターを主軸に、電子音や激しく歪んだエレキ・ギター、素朴なボーカルが絡み合う1作です。

 奇妙なフレーズと不協和音を奏で続けるアコースティック・ギター、ときには牧歌的、ときにはスポークン・ワードのように感情を排した歌い方をするボーカルが、ある意味ではバランスの取れた組み合わせと言えます。

 歌とアコギが入っていると聞けば、歌モノの作品を想像してしまいますが、本作はいわゆるアコギの弾き語りのような音楽を想像して聴くと、期待を裏切られることでしょう。

 1曲目の「Wedding In The Park」は、フィールド・レコーディングされた虫の音と、飾り気のないボーカルが重なる1分ほどの曲。アルバムへのイントロダクション的な役割の曲ということでしょう。

 2曲目の「Work From Smoke」は、イントロからアコースティック・ギターが、不協和音を織り交ぜ、アヴァンギャルドなフレーズをひたすら弾き続けます。やがて飾り気のないボーカルが重なり、後半はアンビエントな持続音が、不穏な空気を醸し出す展開。

 4曲目の「Every Five Miles」も、アコースティック・ギターが実験的なサウンドを響かせる1曲。なにが協和で、なに不協和なのか、わからなくなってきます。

 5曲目の「Thos.Dudley Ah! Old Must Dye」は、奇妙な響きのアコースティック・ギターと、奥の方で鳴るノイズに、純粋無垢なボーカルが溶け合う…ような、溶け合わないような1曲。

 6曲目「Is That A Rifle When It Rains?」は、切れ味鋭く歪んだエレキ・ギターと、スポークン・ワードのようなメロディー感の希薄なボーカルが噛み合う、ロックでジャンクな1曲。

 8曲目の「The Wrong Soundings」は、14分を超える大曲。ここまでのアルバムを総括するように、不穏な響きのアコースティック・ギター、ジャンクに歪んだエレキ・ギター、アンビエントな空気感などが、コラージュのように重なり合う1曲です。

 前述したように、アコースティック・ギターを中心にした、歌も入った曲でありながら、一般的なロックやポップスを聴く感覚からすると、全くポップではありません。

 しかし、そこまで敷居の高い作品かというとそうでもなく、不協和だと思っていた響きが心地よく思えてきたり、奇妙なフレーズがやけに耳に残ったり、という体験をできるのが本作です。

 聴く人をある程度選ぶ作品だとは思いますが、気になった方はぜひとも聴いてみてください!

 





Edith Frost “Calling Over Time” / イーディス・フロスト『コーリング・オーバー・タイム』


Edith Frost “Calling Over Time”

イーディス・フロスト 『コーリング・オーバー・タイム』
発売: 1997年4月22日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)
プロデュース: Rian Murphy (リアン・マーフィー)

 テキサス州サンアントニオ出身の女性シンガーソングライター、イーディス・フロストの1stアルバム。シカゴの名門レーベル、ドラッグ・シティからの発売で、レコーディングにはジム・オルークやデヴィッド・グラブスも参加しています。

 アコースティックギターとピアノを中心に据えたミニマルで幻想的な1枚。エレキギター、ドラム、電子音も聞こえますが、あくまで味付け程度。しかし、どれも少ない音数で効果的にアルバムを彩っています。

 音数を絞ることで、イーディスの声が自ずと前景化される作品とも言えます。感情を排したような、しかしノスタルジックな雰囲気も漂う声が、耳に染み入るような1作です。派手なサウンド・プロダクションではなく、ビート感も希薄なアルバムですが、前述したように音数が少ないだけに、無駄な音が一切なく、全ての音に意味が感じられる作品でもあります。

 1曲目「Temporary Loan」は、アコースティック・ギターの弾き語りが基本でありながら、ポツリポツリと単音を弾くピアノがアクセントになっています。再生時間1:49あたりから入ってくるバイオリンも良い。

 2曲目は「Follow」。ベースなのかシンセサイザーで鳴らしているのか、イントロから聞こえる「ボボーン」という低音。そこに音数を絞ったピアノが入ってくるミニマルなアンサンブル。歌のメロディーとイーディスの声が、空間に染み入るように響きます。

 3曲目はアルバム表題曲の「Calling Over Time」。やや意外性のあるコード進行と、イーディスのささやくような高音域のボーカルが心地よい1曲。

 4曲目「Denied」では、イントロから2種類のサウンドの異なる持続音が響き、ほんの僅かにドラムも入ってきます。一般的にはかなり音数の少ない曲ですが、このアルバムにあっては、かなり音が入っている印象。ドラムが本当にわずかしか入ってこないのに、常にフックになっています。

 6曲目「Too Happy」は、楽器の数も多く、ドラムがビートを刻み、アルバム中では賑やかな1曲。再生時間0:49あたりから入るエレキギターのボトルネック奏法のような音も、流れるような雰囲気の曲にぴったり。

 10曲目「Give Up Your Love」は、アコースティック・ギターの弾き語りを基本にした1曲ですが、コードストロークがはっきりした、リズムが掴みやすい曲です。

 前述したように非常に音が少なく、ミニマルな1枚。その代わりにひとつひとつの音に意味が感じられ、アンサンブルの精度と歌の美しさ、オーガニックな各楽器の音色に、思わずため息がもれるような作品です。