Jim O’Rourke “Bad Timing” / ジム・オルーク『バッド・タイミング』


Jim O’Rourke “Bad Timing”

ジム・オルーク 『バッド・タイミング』
発売: 1997年8月25日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)
プロデュース: Jim O’Rourke (ジム・オルーク)

 イリノイ州シカゴ出身のミュージシャン、ジム・オルーク。彼の音楽活動は非常に多岐にわたり、ジャンルを特定するのは不可能…というより、彼のような音楽家を前にすると、あらためてジャンル分けの難しさを痛感します。

 本作『Bad Timing』は、ジム・オルークがDrag Cityからリリースした1作目のアルバム。これ以前の彼は、フリー・インプロヴィゼーションやミニマル・ミュージックなど、一般的に敷居が高いと思われる音楽をクリエイトしており、本作が普段ロックやポップスを聴いているリスナーにも受け入れられるであろう初の作品です。

 それでは実際にこの作品で、どんな音が鳴っているのかと言えば、カントリーなどアメリカのルーツ・ミュージックと、インプロヴィゼーションや実験音楽が溶け合い、ポップ・ミュージックとして結実しています。

 オーガニックな音色のアコースティック・ギターを中心に据え、ジム・オルークの幅広い音楽的教養が、随所に顔を出すアルバムです。…と書くと、なにやら難しいイメージを持たれるかもしれませんが、重要なのはこの作品が、大変にポップだということ。

 1曲目の「There’s Hell In Hello But More In Goodbye」は、これもジムの代名詞のひとつであるフィンガー・ピッキングによる、アコースティック・ギターの流れるような美しい旋律から始まります。(ちなみにフィンガー・スタイルのギター・ミュージック「American primitive guitar」というジャンルが存在し、ジムはその名手です。)

 時間が伸縮するように、自由にメロディーを紡いでいくギター。そこにはインプロヴィゼーションの香りも漂います。再生時間0:45あたりから加速し、1:16あたりでまたイントロのフレーズに戻る展開など、どこまでが予定調和で、どこまでが即興なのか、そんな疑問が意味をなさないほどに自由で、いきいきと躍動する音楽が溢れでてきます。

 2曲目の「94 The Long Way」も、哀愁を漂わせるイントロのギターから、徐々に楽器が増え、目の前に次々に風景が広がる1曲。アコースティック・ギターとペダル・スティール・ギターの響きが牧歌的な空気を作りながらも、いくつもの楽器が重層的に加わっていき、ジャンルレスでポップなアンサンブルを編み込んでいきます。

 3曲目「Bad Timing」も、フィンガー・ピッキングによるギターから幕を開けます。再生時間3:13あたりから、音が拡散するように増加し広がっていく展開は、サイケデリックかつ多幸感が溢れる音世界を作り出していきます。

 4曲目の「Happy Trails」は、イントロから重層的で厚みのあるサウンドが押し寄せ、眼前に音の壁が立ちはだかるかのよう。ノイズ的な持続音と、ナチュラルなギターの音色がレイヤー状に重なり、全体としては非常に心地いい耳ざわりになっているのが不思議。

 4曲収録で、およそ44分。ヴァース-コーラス形式を持った、いわゆる歌モノのアルバムではありませんが、耳自体に直接染み入ってくるような、ポップな音が満載の1作です。前述したとおり、敷居の高いと思われるジャンルの要素も含むものの、できあがった音楽はどこまでもポップ。

 聴いていると、風景が目に浮かび、音楽と共に変化していくような、実にイマジナティヴな音楽です。美しく楽しい音楽が詰まっていますから、難しく考えず、自由な気持ちで味わっていただきたい1枚です。