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Tortoise “Tortoise” / トータス『トータス』


Tortoise “Tortoise”

トータス 『トータス』
発売: 1994年6月22日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 シカゴのポストロック・バンド、トータスの記念すべきデビュー・アルバムです。

 この後の彼らの作品と比較すると、各楽器の音色も、全体のサウンド・プロダクションも、非常にシンプル。その代わりに、バンドが鳴らす音とアンサンブルが、むき出しのまま前景化される印象を受けます。

 シカゴ音響派という言葉でくくられることも多いトータス。本作は彼らのアルバムの中で、最も音響的な作品であると言えるかもしれません。

 1曲目は「Magnet Pulls Through」。アンビエントな電子ノイズが全体を包み、メロディーやリズムよりも、音響が前景化されたイントロ。しかし、再生時間1:05あたりからベース、続いてドラムが入ってくると、次第に躍動感が生まれ、形を持った音楽がゆっくりと目を覚まし、立ち上がります。

 2曲目「Night Air」は、スローテンポにのせて、各楽器がレイヤーのように重なりながら、漂っていく1曲。全くメロディアスではありませんが、ボーカルらしき声も入っています。しかし、メロディーやリズム、バンドのアンサンブルが前景化されるのではなく、あくまで全体のサウンドの響きを優先したような聴感。

 3曲目「Ry Cooder」は、イントロから比較的つかみやすいフォームを持って始まります。再生時間1:00あたりからの、うなりをあげるギターなど、進行感もあり、一般的なポップ・ミュージックに近い形式の1曲。と言っても、ヴァースとコーラスが循環するわけでは決してなく、刻一刻と変化を続けるサウンドスケープと言ったほうが適切。

 6曲目「Spiderwebbed」は、違和感を強く感じさせる奇妙なベースのフレーズが繰り返され、ギターやドラムが入り、徐々に音楽が形を明らかにするような展開。

 8曲目「On Noble」は、ドラムのリズムを中心に、緻密なアンサンブルが展開される1曲。再生時間0:36あたりで、ドラムが立体的にリズムを刻み始めてからのグルーヴ感が心地よい。

 10曲目「Cornpone Brunch」は、遊び心のあるイントロの後、各楽器が絡み合い、タベストリーのように美しいアンサンブルを編み込んでいく1曲です。模様が次々と変わっていくような、常に変化を続ける展開には、トータスらしさが凝縮されています。

 余計な飾り気なく、オーガニックな響きの楽器を用いて、淡々とアンサンブルを構成していく本作。全体のサウンドはどこか懐かしく、暖かみがありながら、無駄を一切削ぎ落としたストイックな雰囲気も漂います。

 アンサンブルの面でも、ポスト・プロダクションの面でも、今後のトータスと比較していまうと実験性や革新性は控えめですが、その代わりにバンド本来の音響とアンサンブルが、前景化された作品であるとも思います。

 このあとに発表される、2ndアルバム以降の作品があまりにも素晴らしいので、やや霞んでしまいますが、本作も優れたクオリティを持った作品であるのは間違いありません。

 





Tortoise “TNT” / トータス『TNT』


Tortoise “TNT”

トータス 『TNT』
発売: 1998年3月10日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)
プロデュース: John McEntire (ジョン・マッケンタイア)

 シカゴのポストロック・バンド、トータスの3枚目のスタジオ・アルバムです。

 この作品が紹介される際には、プロ・ツールスを使用したハードディスク・レコーディング、およびポスト・プロダクション云々といった話が、必ずと言っていいほど取り上げられます。確かにポスト・プロダクションによる音楽の解体・再構築のプロセス、そして出来上がった音楽の革新性には驚くべきものがあります。

 しかし、そうした話は多くの批評家やライターの方が書きつくしていると思いますので、ここでは実際にどんな音が鳴っているか、どのあたりが聴きどころなのか、というポイントに絞って、本作『TNT』をご紹介します。

 アルバムの幕を上げる1曲目の「TNT」は、イントロからさりげなく音出しをするようなドラムが、徐々に複雑なリズムを刻み、ギターをはじめ、多種多様なサウンドが折り重なるように加わっていきます。最初はバラバラのように思われたそれぞれの音が、やがて絡み合い、一体の生き物のようにいきいきと躍動していきます。

 ヴァース-コーラスが循環するような明確な形式は持たないものの、何度も顔を出すギターのフレーズに、また別の楽器のフレーズがレイヤーのように重なり、実に多層的でイマジナティヴな1曲です。

 2曲目「Swung From The Gutters」は、アンビエントな音響のイントロから、徐々にリズムが加わり、躍動感が増していく展開。再生時間0:41あたりから、スイッチが切り替わり、バンドが走り出す感じがたまらなくクールです。

 3曲目「Ten-Day Interval」は、音数を絞ったミニマルなイントロから、音が増殖して広がっていくような1曲。ひとつひとつの音が、やがて音楽となり、その場を満たしていくような感覚があります。ヴィブラフォンなのか、マレット系の打楽器と思われるサウンドも、幻想的な雰囲気を生み出しています。

 5曲目「Ten-Day Interval」は、電子音とアナログ・シンセと思われるサウンドが絡み合い、不思議なグルーヴ感を生んでいく1曲。一般的なロックやポップスでは前景化されない音ばかり使われていますが、全ての音が心地よく、サウンド・プロダクションがとにかく良い。

 7曲目の「The Suspension Bridge At Iguazú Falls」は、アンサンブル的にもサウンド的にも、各楽器が溶け合うような、溶け合わないような、穏やかな雰囲気とわずかな違和感を持って進行していきます。再生時間1:00あたりから、風景が一変するようにアンビエントな音響へ。1曲を通しての変化とコントラストが大きく、次になにが起こるかわからない期待感が常にあります。

 11曲目「Jetty」は、ミニマル・テクノのようなイントロから、リズムやサウンドが満ち引きし、様々に表情を変えていく1曲。

 アルバム全体を通して、リラクシングな雰囲気が漂い、いきいきと躍動する自由な音楽が、とめどなく溢れてくる作品です。ロックやポップスが普通持っている明確なフォームは存在しませんが、難しい音楽ということはなく、自由に楽しめる音楽だと思います。

 さり気ない落書きがジャケットに採用されているのも示唆的。ポスト・プロダクション云々の小難しい話は脇に置いて、まずは気楽に音楽と向かい合ってくれということでしょうか。

 歌メロを追う、定型的なリズムに乗る、というような楽しみ方はできませんが、スリリングかつリラクシングな音楽の詰まったアルバムです。偏見なしに、自由な気持ちで聴いてみてください!

 





Tortoise “Millions Now Living Will Never Die” / トータス『ミリオンズ・ナウ・リヴィング・ウィル・ネヴァー・ダイ』


Tortoise “Millions Now Living Will Never Die”

トータス 『ミリオンズ・ナウ・リヴィング・ウィル・ネヴァー・ダイ』
発売: 1996年1月30日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)
プロデュース: John McEntire (ジョン・マッケンタイア)

 ポストロックを代表するバンドと目され、「シカゴ音響派」に括られることもあるトータス。そのような呼び名に本人たちが納得しているかどうかはさて置き、トータスの音楽がロック・ミュージックを確信する実験性に溢れ、サウンド自体を前景化させ音響を追求する面があるのは事実でしょう。

 今作は1994年発売の1stアルバム『Tortoise』に続く、2ndアルバム。シカゴを代表するインディペンデント・レーベル、スリル・ジョッキーからのリリース。というより、トータスがスリル・ジョッキーの看板バンドだと表現した方が適切かもしれません。

 今作『Millions Now Living Will Never Die』は、コーラスとヴァースの循環する明確なフォームは持たず、自由でイマジナティヴなサウンドスケープが展開されています。次に何が起こるかわからない、一寸先は闇のような緊張感のある音楽でもあれば、時間が緩やかに流れ眼前の風景が変わっていくようなリラクシングな音楽でもある。そのバランスが絶妙で、個人的に非常に思い入れの強い1枚です。

 1曲目の「Djed」は20分以上ある大曲で、前述したように、Aメロ→Bメロ→サビというような明確な形式は持っていないものの、次々と目の前の風景が変わっていくようなサウンドスケープが展開されます。わかりやすい進行感はないのに、音楽が徐々に加速し、生き生きと躍動していくのが実感できる、スリリングな1曲。

 一般的なロックが持つグルーヴ感とは、耳触りの異なるグルーヴ感と躍動感があります。初めて聴くと、何も起こらないじゃないか!と感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、和声進行とは違ったかたちで、音楽が表情を変え続ける曲ですので、まずはこの曲でトータスの世界観に耳をチューニングしてみてください。

 2曲目「Glass Museum」は、ゆったりとしたバンドのアンサンブルが心地よい1曲。空間に滲んで広がっていくようなヴィブラフォンのサウンドが、特に耳に染み渡ります。3曲目「A Survey」は、こちらに迫り来るように淡々とリズムを刻むベースに、ギターが絡みつくようにフレーズを弾いていく曲。

 4曲目「The Taut And Tame」は、イントロから疾走感と緊張感が溢れる1曲。ヴィブラフォンとアナログ・シンセをはじめ、各楽器の音も生々しく録音されていて、臨場感あるサウンドも素晴らしい。各楽器が有機的に絡み合い、ひとつの生物のように加速と減速を繰り返しながら、躍動するようなアンサンブルが展開されます。

 5曲目は「Dear Grandma And Grandpa」。タイトルが示唆するように、どこかノスタルジックな音像。アルバム中、最もアンビエント色の強い1色。

 ラスト6曲目は「Along The Banks Of Rivers」。枯れたような渋いギター・サウンドが中心となり、ルーツ・ミュージックを感じさせながら、革新的な音楽を創り上げるバランスが絶妙です。ドラムだけでなく、ギター以外のバンド全体でリズムをキープするように、分厚い音の壁を作り上げているようにも聴こえます。

 オリジナル盤は6曲収録ですが、日本盤にはさらに4曲のボーナス・トラックが収録されています。この4曲も優れた楽曲揃いなので、購入するならこちらがおすすめ。ダウンロード版にもボーナス・トラックが含まれているようです。

 ボーナス・トラックからも1曲だけご紹介。7曲目に収録されている「Gamera」は、イントロからアコースティック・ギターをフィーチャーし、フォーキーな耳ざわりの1曲。でも、奥の方では気がつくと持続音が鳴っていて、アコギと溶け合い、暖かみのあるサウンドを形成しています。サウンドの組み合わせのバランスも、このバンドの魅力。

 『Millions Now Living Will Never Die』というアルバム・タイトルと、魚群のジャケットのデザインも、音楽の内容を示唆していて良いと思います。「ポストロック」や「音響派」と聞くと、頭でっかちで難しい音楽だと身構える方もいらっしゃるかもしれませんが、このアルバムは生き物がうごめくような躍動感と生命力に溢れた作品です。僕自身もそうでしたが、予備知識なしで聴いても、サウンド自体が面白く、楽しめる1枚ではないかと思います。

 僕は初めて聴いた時に、こんなにスリリングで素晴らしい音楽がこの世に存在するのか!と思いました。心からオススメしたい1枚です。