Tortoise “TNT” / トータス『TNT』


Tortoise “TNT”

トータス 『TNT』
発売: 1998年3月10日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)
プロデュース: John McEntire (ジョン・マッケンタイア)

 シカゴのポストロック・バンド、トータスの3枚目のスタジオ・アルバムです。

 この作品が紹介される際には、プロ・ツールスを使用したハードディスク・レコーディング、およびポスト・プロダクション云々といった話が、必ずと言っていいほど取り上げられます。確かにポスト・プロダクションによる音楽の解体・再構築のプロセス、そして出来上がった音楽の革新性には驚くべきものがあります。

 しかし、そうした話は多くの批評家やライターの方が書きつくしていると思いますので、ここでは実際にどんな音が鳴っているか、どのあたりが聴きどころなのか、というポイントに絞って、本作『TNT』をご紹介します。

 アルバムの幕を上げる1曲目の「TNT」は、イントロからさりげなく音出しをするようなドラムが、徐々に複雑なリズムを刻み、ギターをはじめ、多種多様なサウンドが折り重なるように加わっていきます。最初はバラバラのように思われたそれぞれの音が、やがて絡み合い、一体の生き物のようにいきいきと躍動していきます。

 ヴァース-コーラスが循環するような明確な形式は持たないものの、何度も顔を出すギターのフレーズに、また別の楽器のフレーズがレイヤーのように重なり、実に多層的でイマジナティヴな1曲です。

 2曲目「Swung From The Gutters」は、アンビエントな音響のイントロから、徐々にリズムが加わり、躍動感が増していく展開。再生時間0:41あたりから、スイッチが切り替わり、バンドが走り出す感じがたまらなくクールです。

 3曲目「Ten-Day Interval」は、音数を絞ったミニマルなイントロから、音が増殖して広がっていくような1曲。ひとつひとつの音が、やがて音楽となり、その場を満たしていくような感覚があります。ヴィブラフォンなのか、マレット系の打楽器と思われるサウンドも、幻想的な雰囲気を生み出しています。

 5曲目「Ten-Day Interval」は、電子音とアナログ・シンセと思われるサウンドが絡み合い、不思議なグルーヴ感を生んでいく1曲。一般的なロックやポップスでは前景化されない音ばかり使われていますが、全ての音が心地よく、サウンド・プロダクションがとにかく良い。

 7曲目の「The Suspension Bridge At Iguazú Falls」は、アンサンブル的にもサウンド的にも、各楽器が溶け合うような、溶け合わないような、穏やかな雰囲気とわずかな違和感を持って進行していきます。再生時間1:00あたりから、風景が一変するようにアンビエントな音響へ。1曲を通しての変化とコントラストが大きく、次になにが起こるかわからない期待感が常にあります。

 11曲目「Jetty」は、ミニマル・テクノのようなイントロから、リズムやサウンドが満ち引きし、様々に表情を変えていく1曲。

 アルバム全体を通して、リラクシングな雰囲気が漂い、いきいきと躍動する自由な音楽が、とめどなく溢れてくる作品です。ロックやポップスが普通持っている明確なフォームは存在しませんが、難しい音楽ということはなく、自由に楽しめる音楽だと思います。

 さり気ない落書きがジャケットに採用されているのも示唆的。ポスト・プロダクション云々の小難しい話は脇に置いて、まずは気楽に音楽と向かい合ってくれということでしょうか。

 歌メロを追う、定型的なリズムに乗る、というような楽しみ方はできませんが、スリリングかつリラクシングな音楽の詰まったアルバムです。偏見なしに、自由な気持ちで聴いてみてください!