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The Jesus Lizard “Down” / ジーザス・リザード『ダウン』


The Jesus Lizard “Down”

ジーザス・リザード 『ダウン』
発売: 1994年8月26日
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)
プロデュース: Steve Albini (スティーヴ・アルビニ)

 テキサス州オースティン出身のバンド、ジーザス・リザードの4枚目のスタジオ・アルバム。本作を最後に、ジーザス・リザードはTouch And Goを離れ、メジャーのキャピトル・レコード(Capitol Records)へ移籍します。

 同時に、1stアルバムから本作までレコーディング・エンジニアを務めてきた、スティーヴ・アルビニとの関係も終了。本作がアルビニ録音による、ジーザス・リザード最後のアルバムでもあります。

 メジャーに移籍してからの作品も悪くはないのですが、やはり彼らの魅力はTouch And Goからリリースされた作品の方に、より色濃く出ていると思います。本作『Down』も、無駄を削ぎ落とした生々しいサウンドと、タイトで変態的なアンサンブルが、存分に堪能できる名盤です。

 ジャンクで下品なサウンドやアレンジが散りばめられるところも、彼らの魅力のひとつですが、本作では各楽器のサウンドはソリッドな響きを優先し、代わりに技巧をこらしたアンサンブルを前景化している印象を受けます。

 1曲目の「Fly On The Wall」から、全ての楽器がドライで、生々しい音像をともなって響きます。ミドル・テンポにのせて、各楽器が尾を引くようにタメをたっぷりとった演奏を展開する1曲。

 2曲目の「Mistletoe」は、各楽器が絡み合い、足がもつれつつも駆け抜けていくような、複雑なアンサンブル。サウンドも立体的で、音が四方八方から飛んできます。加速しそうで、させてくれない絶妙のバランス。再生時間1:12あたりからの金属的なサウンドのギターも、良いアクセントになっています。

 5曲目「The Associate」は、はずむように叩きつけるドラムのフェード・インから、曲がスタート。トライバルな雰囲気を醸し出すドラム、硬質なサウンドのベース、ジグザグに音を移動するようなギターと、無国籍でジャンル不明なアンサンブルを編み上げていきます。ジャズからの影響も感じさせる1曲。

 7曲目の「Low Rider」は、メトロノームのように正確でタイトなドラムと、空気まで揺らすようなベースのビブラート。その上にギターがのる、ほぼインストの曲。

 9曲目の「American BB」は、歯車がキッカリかみ合った機械のように緻密なアンサンブル。でありながら、随所に意図的にラフな要素が散りばめられ、さながら壊れかけの機械のような1曲。ジャンクな雰囲気と、緻密なアンサンブルが共存するジーザス・リザードらしい曲と言えます。2分20秒弱しかない曲ですが、非常に濃密。

 前述したように、Touch And Goでの、そしてアルビニがプロデュースする最後の作品です。各楽器の音質は、ここまで4作の中でも最も飾り気が少なく、全体のサウンド・プロダクションも殺伐とした雰囲気すら感じるほどにタイト。

 そんな贅肉を極限まで絞り込むようなストイックなサウンドで、複雑怪奇なアンサンブルが展開される本作は、間違いなく名盤。これも前述しましたが、Capitolに移籍してからの2枚のアルバムも悪くはないですが、本当に魅力が半減…いや、それ以下です。…と、自分で書いてから聴き直してみましたが、Capitolの2枚も意外と良いかも(笑)

 ジーザス・リザードを聴くなら、Touch And Go在籍時の作品を選ぶようにしましょう!

 





The Offspring “Smash” / オフスプリング『スマッシュ』


The Offspring “Smash”

オフスプリング 『スマッシュ』
発売: 1994年4月8日
レーベル: Epitaph (エピタフ)
プロデュース: Thom Wilson (トム・ウィルソン)

 カリフォルニア州ガーデングローブ出身のパンク・ロックバンド、オフスプリングの3rdアルバム。1994年にロサンゼルスの名門インディペンデント・レーベル、エピタフからリリースされ、現在までに世界中で1400万枚以上を売り上げているモンスター・アルバムです。次作の『Ixnay On The Hombre』から、オフスプリングはメジャー・レーベルのコロンビアへ移籍します。

 僕はある時期まで、こうしたパンク的、メロコア的な音楽を聴いてこなかったのですが、そんな自分の価値観を壊すきっかけとなった1枚が、本作『Smash』です。一度聴いたらすぐにシング・アロングできるぐらいポップなメロディーや、疾走感のある演奏、すべての楽器がパワフルなサウンド・プロダクションなど、フックしかないぐらいのわかりやすい音楽が詰まった1作です。

 ただ、かつての僕は音楽をまともに聴く前から、その「わかりやすさ」を毛嫌いしていた部分がありました。しかし、あるときこのアルバムを聴いた時に、何にやられたかというと、デクスター・ホーランド(Dexter Holland)の声です。演奏もパワフルだし、メロディーも親しみやすいのですが、それ以上に彼の声自体が、耳に残って離れなくなりました。

 「声も楽器だ」という言い回しがありますけど、まさにデクスターの声は、バンドのサウンドの中核を担っていると思います。

 イントロダクション的な役割の1曲目「Time To Relax」に続いて、実質1曲目の「Nitro (Youth Energy)」。イントロから、これぞ90年代パンク!という疾走感あふれる演奏が展開されるんですが、デクスターの伸びやかで、倍音を豊かに含んだような、暖かみのある声が、本当に好きです。

 また、アルバムを通して聴くと、思ったよりも直線的なスピード重視の曲が続くわけではなく、バンドのアンサンブルにも随所に聴きどころがあります。

 今回は自分語りが多くなっていますが、旅行でロサンゼルスを訪れたとき、このアルバムを聴きながら散歩をしてみました。カリフォルニアはとても太陽が高く、大きいのですが、そんな風景と彼らの音楽が見事にマッチして、なるほどこういう場所ではこういう音楽が生まれるのか!と、ひとりで勝手に腑に落ちた思い出があります。

 





Rodan “Rusty” / ロダン『ラスティ』


Rodan “Rusty”

ロダン 『ラスティ』
発売: 1994年4月4日
レーベル: Quarterstick (クォータースティック)
プロデュース: Jake Lowenstein (ジェイク・ローウェンスタイン)

 ケンタッキー州ルイヴィルで1992年に結成されたロダンが残した、唯一のアルバムが本作「Rusty」です。スリント(Slint)と並んで、ルイヴィルを代表するバンドであり、その後のマスロック、ポストロック勢へ大きな影響を与えたバンドでもあります。シカゴの名門Touch And Goの姉妹レーベル、Quarterstickより発売。

 轟音と静寂を行き来し、複雑なリズムが絡み合うアンサンブルは、まさにマスロックのひとつの源流と言えます。シャウトとスポークン・ワード、クリーントーンとディストーション、といった対比的なサウンドがせめぎ合うところも、本作の聴きどころ。音圧の高いパワフルなサウンドではなく、当時の雰囲気を感じさせる、感情を抑えたような音像も特徴です。

 2曲目の「Shiner」以外は、すべて6分を超える長尺な曲が収録されていますが、単純に静と動が循環するだけではなく、スリルと緊張感を持って、次々と展開するため、途中でだれることもありません。

 1曲目の「Bible Silver Corner」は、ゆったりとしたテンポで、各楽器が探り合うように、徐々に音楽が躍動を始める1曲。不穏な空気が充満し、緊張感を伴ったまま曲は進行していき、どこかで暴発するのかと思いきや、そのまま終わります。

 しかし、2曲目の「Shiner」で、1曲目の重たいリズムと雰囲気を吹き飛ばすように、イントロから初期衝動の表出のようなギターとボーカルが鳴り響きます。アルバムを通しての緩急のつけ方も秀逸。

 3曲目「The Everyday World Of Bodies」は、12分近くに及ぶ大曲。硬質な歪みのギターと、手数は少ないのに複雑なドラム。感情の暴発のようなボーカル。ポストロックとハードコアの要素を、共に色濃く持った1曲。叫ぶようなボーカルと、ぶつぶつと囁くようなスポークン・ワードのコントラストも鮮烈。溜め込んだ憂鬱と、爆発する不満が、共に音楽として昇華されたような曲です。

 4曲目「Jungle Jim」は、静寂と轟音を行き来するコントラストが鮮やかな1曲。ぶつぶつと独り言のような声と、絞り出すようなシャウトを使い分ける、ボーカリゼーションの幅も広いです。

 6曲目「Tooth Fairy Retribution Manifesto」は、つぶれたような激しく歪んだギターと、クリーントーンがアンサンブルを形成し、共存する1曲。

 ポストロックの古典的名盤のひとつと言えます。今、聴いても十分に刺激的で、クオリティの高い1枚。サウンド面では、現代的な音圧高めでレンジの広いサウンドに比べると、ややパワー不足な印象を持たれる方もいるかもしれません。

 でも、独特のざらついた音色のディストーション・ギターなど、この時代ならではの耳ざわりがあって、僕はこのような音質も好きです。