Rodan “Rusty”
ロダン 『ラスティ』
発売: 1994年4月4日
レーベル: Quarterstick (クォータースティック)
プロデュース: Jake Lowenstein (ジェイク・ローウェンスタイン)
ケンタッキー州ルイヴィルで1992年に結成されたロダンが残した、唯一のアルバムが本作「Rusty」です。スリント(Slint)と並んで、ルイヴィルを代表するバンドであり、その後のマスロック、ポストロック勢へ大きな影響を与えたバンドでもあります。シカゴの名門Touch And Goの姉妹レーベル、Quarterstickより発売。
轟音と静寂を行き来し、複雑なリズムが絡み合うアンサンブルは、まさにマスロックのひとつの源流と言えます。シャウトとスポークン・ワード、クリーントーンとディストーション、といった対比的なサウンドがせめぎ合うところも、本作の聴きどころ。音圧の高いパワフルなサウンドではなく、当時の雰囲気を感じさせる、感情を抑えたような音像も特徴です。
2曲目の「Shiner」以外は、すべて6分を超える長尺な曲が収録されていますが、単純に静と動が循環するだけではなく、スリルと緊張感を持って、次々と展開するため、途中でだれることもありません。
1曲目の「Bible Silver Corner」は、ゆったりとしたテンポで、各楽器が探り合うように、徐々に音楽が躍動を始める1曲。不穏な空気が充満し、緊張感を伴ったまま曲は進行していき、どこかで暴発するのかと思いきや、そのまま終わります。
しかし、2曲目の「Shiner」で、1曲目の重たいリズムと雰囲気を吹き飛ばすように、イントロから初期衝動の表出のようなギターとボーカルが鳴り響きます。アルバムを通しての緩急のつけ方も秀逸。
3曲目「The Everyday World Of Bodies」は、12分近くに及ぶ大曲。硬質な歪みのギターと、手数は少ないのに複雑なドラム。感情の暴発のようなボーカル。ポストロックとハードコアの要素を、共に色濃く持った1曲。叫ぶようなボーカルと、ぶつぶつと囁くようなスポークン・ワードのコントラストも鮮烈。溜め込んだ憂鬱と、爆発する不満が、共に音楽として昇華されたような曲です。
4曲目「Jungle Jim」は、静寂と轟音を行き来するコントラストが鮮やかな1曲。ぶつぶつと独り言のような声と、絞り出すようなシャウトを使い分ける、ボーカリゼーションの幅も広いです。
6曲目「Tooth Fairy Retribution Manifesto」は、つぶれたような激しく歪んだギターと、クリーントーンがアンサンブルを形成し、共存する1曲。
ポストロックの古典的名盤のひとつと言えます。今、聴いても十分に刺激的で、クオリティの高い1枚。サウンド面では、現代的な音圧高めでレンジの広いサウンドに比べると、ややパワー不足な印象を持たれる方もいるかもしれません。
でも、独特のざらついた音色のディストーション・ギターなど、この時代ならではの耳ざわりがあって、僕はこのような音質も好きです。