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Shipping News “Save Everything” / シッピング・ニュース『セイヴ・エヴリシング』


Shipping News “Save Everything”

シッピング・ニュース 『セイヴ・エヴリシング』
発売: 1997年9月23日
レーベル: Quarterstick (クォータースティック)
プロデュース: Bob Weston (Robert Weston) (ボブ・ウェストン)

 ケンタッキー州ルイヴィル出身のバンド、ロダン(Rodan)の元メンバー、ジェイソン・ノーブル(Jason Noble)とジェフ・ミューラー(Jeff Mueller)を中心に結成されたシッピング・ニュースの1stアルバム。

 音楽性としては、ロダンの延長線上にあると言っていい、ポストロックあるいはポスト・ハードコアと呼べるもの。硬質なサウンドによって、ムダを削ぎ落とした、タイトなアンサンブルが展開されるアルバムです。

 レコーディング・エンジニアをボブ・ウェストンが務めており、アルビニ直系の生々しく、臨場感あふれるサウンド・プロダクションも魅力です。

 1曲目「Books On Trains」は、ベースとドラムの小気味よいリズムに、ルーズなギターと、ダークな空気を持ったボーカルが乗る1曲。前述したとおり、各楽器の音が生々しく響き、非常に繊細かつパワフルな音でレコーディングされています。

 2曲目は「Steerage」は、回転するような小刻みなドラムに、ベースとギターが絡みつくように合わさる、機能的でタイトなアンサンブルが展開される1曲。

 3曲目「The Photoelectric Effect」は、ギター、ベース、ドラムが絡み合う、一体感と躍動感あふれる1曲。様子を見るようなイントロから始まり、再生時間0:26あたりから緩やかに躍動するところ、再生時間0:40からのやや加速するところなど、バンドが生き物のように有機的にアンサンブルを作り上げていきます。

 4曲目「All By Electricity」は、スローテンポに乗せて、各楽器が穏やかに絡み合う1曲。

 5曲目「At A Venture」には、ジェイソン・ノーブルも参加していたバンド、レイチェルズ(Rachel’s)のレイチェル・グライムス(Rachel Grimes)がボーカルで参加。タイトで立体的なリズム隊の上に、時空が歪むようなスライド・ギターが乗り、揺らめく世界を演出します。音響系ポストロックのような複雑なリズムと、音響系ポストロックのような浮遊感のあるサウンドが共生した1曲です。

 6曲目「A True Lover’s Knot」は、ギターを中心に、各楽器がタペストリーのように編み込まれるアンサンブルが展開される1曲。緩やかなグルーヴ感もあり、イマジナティヴな音世界が表出されます。

 シッピング・ニュースとしては1枚目のアルバムですが、すでにキャリアのあるメンバーが集ったバンドであり、とてもクオリティの高い音楽を作り上げています。ロダンと比較すると、音数を絞り、サウンドもアンサンブルもよりタイトになっていると言えます。

 





Calexico “Carried To Dust” / キャレキシコ『キャリード・トゥ・ダスト』


Calexico “Carried To Dust”

キャレキシコ 『キャリード・トゥ・ダスト』
発売: 2008年9月9日
レーベル: Quarterstick (クォータースティック)
プロデュース: Craig Schumacher (クレイグ・シューマッハ)

 アリゾナ州ツーソンを拠点に活動するバンド、キャレキシコの6枚目のスタジオ・アルバムです。

 生楽器を用い、フォークやカントリーなどのルーツ・ミュージックを多分に感じさせるサウンド・プロダクション。ですが、アンサンブルにはルーツの焼き直しには留まらない、モダンな要素も併せ持ったアルバムです。

 5曲目の「Writer’s Minor Holiday」は、音数がギチギチに詰め込まれているわけではないですが、各楽器が有機的に絡み合い、緩やかにグルーヴしていく1曲。アコースティック・ギターの音が中心に据えられていますが、コーラス・ワークや随所に挟まれるエレキ・ギターのフレーズが、カントリー色を薄め、モダンな雰囲気をプラスしています。

 6曲目の「Man Made Lake」は、生楽器を中心としていますが、イントロでのエフェクト処理など、実験的な要素もあります。各楽器が絡み合う一体感のあるアンサンブルが展開されます。再生時間1:06あたりからの鉄琴のような音がアクセント。

 7曲目「Inspiracion」は、民謡のような、民族音楽のような雰囲気の1曲。しかし、ところどころノイズ的な音やファニーな音を散りばめ、バランスを取るところが彼ららしい。

 8曲目「House Of Valparaiso」は、アコースティック・ギターとドラムが中心の、楽器の数が絞られた1曲ですが、手数が少ないながらも立体的にリズムを刻むドラムが、楽曲全体にも奥行きを与えています。

 12曲目「Fractured Air (Tornado Watch)」は、アコースティック・ギターがフィーチャーされ、一聴するとフォーキーな耳ざわりの曲ですが、エレキ・ギターのカッティングや全体のやや複雑なアンサンブルが、フォーク色を薄めカラフルな印象をプラス。再生時間2:05あたりからの展開など、ポストロックを感じさせる現代的な空気も共存しています。

 フォーク、カントリー、民族音楽など多種多様なルーツ・ミュージックを感じさせながら、モダンな空気も併せ持ったアルバムです。

 一聴するとフォークやカントリーを彷彿とさせる楽曲群ですが、ちょっとしたサウンドやアレンジを足すことで、全体のルーツくささを抑え、モダンな雰囲気に仕上がっていると思います。

 ウィルコ(Wilco)等のいわゆるオルタナ・カントリーよりも、一聴するとルーツ色の濃いサウンドですが、ちょっとした音やアレンジのエッセンスでオルタナ感を演出しており、こちらのバランス感覚も好きです。

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Rodan “Rusty” / ロダン『ラスティ』


Rodan “Rusty”

ロダン 『ラスティ』
発売: 1994年4月4日
レーベル: Quarterstick (クォータースティック)
プロデュース: Jake Lowenstein (ジェイク・ローウェンスタイン)

 ケンタッキー州ルイヴィルで1992年に結成されたロダンが残した、唯一のアルバムが本作「Rusty」です。スリント(Slint)と並んで、ルイヴィルを代表するバンドであり、その後のマスロック、ポストロック勢へ大きな影響を与えたバンドでもあります。シカゴの名門Touch And Goの姉妹レーベル、Quarterstickより発売。

 轟音と静寂を行き来し、複雑なリズムが絡み合うアンサンブルは、まさにマスロックのひとつの源流と言えます。シャウトとスポークン・ワード、クリーントーンとディストーション、といった対比的なサウンドがせめぎ合うところも、本作の聴きどころ。音圧の高いパワフルなサウンドではなく、当時の雰囲気を感じさせる、感情を抑えたような音像も特徴です。

 2曲目の「Shiner」以外は、すべて6分を超える長尺な曲が収録されていますが、単純に静と動が循環するだけではなく、スリルと緊張感を持って、次々と展開するため、途中でだれることもありません。

 1曲目の「Bible Silver Corner」は、ゆったりとしたテンポで、各楽器が探り合うように、徐々に音楽が躍動を始める1曲。不穏な空気が充満し、緊張感を伴ったまま曲は進行していき、どこかで暴発するのかと思いきや、そのまま終わります。

 しかし、2曲目の「Shiner」で、1曲目の重たいリズムと雰囲気を吹き飛ばすように、イントロから初期衝動の表出のようなギターとボーカルが鳴り響きます。アルバムを通しての緩急のつけ方も秀逸。

 3曲目「The Everyday World Of Bodies」は、12分近くに及ぶ大曲。硬質な歪みのギターと、手数は少ないのに複雑なドラム。感情の暴発のようなボーカル。ポストロックとハードコアの要素を、共に色濃く持った1曲。叫ぶようなボーカルと、ぶつぶつと囁くようなスポークン・ワードのコントラストも鮮烈。溜め込んだ憂鬱と、爆発する不満が、共に音楽として昇華されたような曲です。

 4曲目「Jungle Jim」は、静寂と轟音を行き来するコントラストが鮮やかな1曲。ぶつぶつと独り言のような声と、絞り出すようなシャウトを使い分ける、ボーカリゼーションの幅も広いです。

 6曲目「Tooth Fairy Retribution Manifesto」は、つぶれたような激しく歪んだギターと、クリーントーンがアンサンブルを形成し、共存する1曲。

 ポストロックの古典的名盤のひとつと言えます。今、聴いても十分に刺激的で、クオリティの高い1枚。サウンド面では、現代的な音圧高めでレンジの広いサウンドに比べると、ややパワー不足な印象を持たれる方もいるかもしれません。

 でも、独特のざらついた音色のディストーション・ギターなど、この時代ならではの耳ざわりがあって、僕はこのような音質も好きです。