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TV On The Radio “Desperate Youth, Blood Thirsty Babes” / TV オン・ザ・レディオ『デスパレイト・ユース・ブラッドサースティー・ベイブス』


TV On The Radio “Desperate Youth, Blood Thirsty Babes”

TV オン・ザ・レディオ 『デスパレイト・ユース・ブラッドサースティー・ベイブス』
発売: 2004年3月9日
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)
プロデュース: Chris Moore (クリス・ムーア), Paul Mahajan (ポール・マハジャン)

 ニューヨーク・ブルックリンを拠点に活動するバンド、TV オン・ザ・レディオの1stアルバム。

 北米ではタッチ・アンド・ゴー、ヨーロッパでは4ADと、それぞれ英米の名門インディー・レーベルよりリリース。

 バンドが結成されたのは2001年。当時は、ボーカルを務めるトゥンデ・アデビンペ(Tunde Adebimpe)と、ギターやサンプラーなど複数の楽器を操るデイヴィッド・シーテック(David Sitek)からなる2人組。

 2002年には、このデュオ編成で『OK Calculator』を自主制作でリリースしています。2003年にはギターのカイプ・マローン(Kyp Malone)をメンバーに迎え、3人編成へ。2004年にリリースされた本作が、レーベルを通してリリースされる初アルバムとなります。

 前述の『OK Calculator』というアルバム・タイトル。ピンとくる方も多いと思いますが、90年代後半からのロックを牽引するバンド、レディオヘッド(Radiohead)のアルバム『OK Computer』を意識したタイトルです。

 しかし、音楽的には必ずしもレディオヘッドに近いわけではありません。レディオヘッドの音楽に近いというより、バンドのフォーマットで実現できる音楽の限界へと挑む、その姿勢を参考にしているのでしょう。

 トライバルなリズムや、電子的なサウンドなどをバンドのフォーマットに落としこみ、オリジナリティ溢れる音楽を作り上げています。

 個人的には、こういう手の届く範囲でクリエイティヴィティを爆発させたバンド・サウンドが大好きです。

 1曲目「The Wrong Way」ではイントロからサックスが用いられ、フリージャズのような雰囲気から始まります。野太くリズムを刻むベース、シンプルながらポリリズミックなドラムが加わり、グルーヴ感と実験性が共存する音楽が展開。多様なジャンルの要素を、バンドのフォーマットに落としこむセンスは、ブラック・ミュージック版のレディオヘッドと呼びたくもなります。

 2曲目「Staring At The Sun」は、幻想的なコーラスワークが印象的な、ハーモニーが前景化した1曲。ですが、厚みのあるハーモニーの奥からは、リズム隊の強靭なビートが響き、立体的なアンサンブルを構成していきます。

 3曲目「Dreams」では、イントロから心臓が鼓動を打つようにドラムがリズムを刻みます。手数は少ないものの効果的にグルーヴを下支えするリズムを構成。

 5曲目「Ambulance」は、バックでかすかに聞こえるフィールドレコーディングと思しきサウンド以外は、声のみで構成される1曲。立体的で凝ったアンサンブルが作り上げられますが、ベース部分を担う「ドゥンドゥンドゥン…」というフレーズなど、コミカルな雰囲気も併せ持っています。

 6曲目「Poppy」は、電子的なサウンドのリズム隊の上に、厚みのあるギターサウンドが重なる1曲。最初は淡々と刻まれていたビートが、徐々に立体的に発展。ギターの分厚いサウンドに、さらにリズム面での立体感が加わります。前曲に続き、再生時間2:30あたりからは声のみのアンサンブルが挟まれ、コントラストも演出しています。

 8曲目「Bomb Yourself」は、地を這うようなベースラインに、他の楽器が絡み合うようにアンサンブルが展開。断片的なフレーズのように聞こえていた各楽器が重なり、いつの間にかグルーヴ感にあふれた演奏へと発展しています。アヴァンギャルドなギターの音作りとフレーズも、アクセントとして楽曲を彩っています。

 9曲目「Wear You Out」では、イントロから鳴り響くトライバルなドラムのリズムに、ボーカルの流麗なメロディーが重なります。音数が少なく、ミニマルな前半から、サックスや電子音が加わり、多様な音が行き交うカラフルな後半へと展開。リズムとメロディーの両者が、じわじわとリスナーの耳をつかんでいく1曲です。

 10曲目「You Could Be Love」。この曲はレコードおよびデジタル版のみに収録。ですが、ボーナス・トラック扱いにしておくには、もったいないぐらいの良曲です。適度に揺らぎのある、立体的なバンドのアンサンブル。徐々に躍動感を増していく展開。ブラック・ミュージックが持つ粘っこいグルーヴ感が、コンパクトなバンドのフォーマットに収められ、インディー・ロックとニューソウルの融合とでも言いたくなる1曲です。

 ちなみにデジタル版には、さらにボーナス・トラックとして11曲目に「Staring At The Sun」のデモ・バージョンを収録。

 デイヴィッド・シーテック以外は、アフリカにルーツを持つメンバーが集ったTVオン・ザ・レディオ。白人男性が多いUSインディーロック界において、それだけでも異彩を放つ存在です。(人口比率から考えて、当然な部分もありますが…)

 もちろん、ただアフリカ系アメリカ人がやっているバンドだという話題性だけでなく、音楽自体もブラック・ミュージックからの影響が、コンパクトにロック・バンドのフォーマットに落とし込まれていて個性的。

 本作でも、ヒップホップやジャズの要素が、あくまでギター、ベース、ドラムを中心としたバンドのかたちに収められ、ファンキーなグルーヴ感と、ロック的なダイナミズムが共存しています。

 もっとカジュアルに説明すると、肉体的な演奏と、音楽を組み立てるクールな知性が、両立しているとでも言ったらいいでしょうか。天然でゴリゴリにグルーブしている部分と、音楽オタクが巧みに組み上げた緻密さが、ともに音楽から溢れ出ています。

 先にレディオヘッドを引き合いに出しましたが、現代音楽やプログレッシヴ・ロックの要素を5人組のバンドの枠組みに落としこむレディオヘッドと同じく、TVオン・ザ・レディオも各種ブラック・ミュージックの要素を、バンド・フォーマットに落としこんでいる、とも言えるでしょう。

 「アート・ロック(art rock)」とも称される彼らの音楽。まさに「アート」の名に恥じない、知性と情熱を備えたバンドです。

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Pinback “Autumn Of The Seraphs” / ピンバック『オータム・オブ・ザ・セラフス』


Pinback “Autumn Of The Seraphs”

ピンバック 『オータム・オブ・ザ・セラフス』
発売: 2007年9月11日
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)

 カリフォルニア州サンディエゴ出身。ザック・スミス(Zach Smith)ことアーミステッド・バーウェル・スミス4世(Armistead Burwell Smith IV)と、ロブ・クロウ(Rob Crow)からなるバンド、ピンバックの4thアルバム。前作『Summer In Abaddon』に引き続き、シカゴの名門インディー・レーベル、タッチ・アンド・ゴーからのリリース。

 ザック・スミスはスリー・マイル・パイロット(Three Mile Pilot)、ロブ・クロウはヘビー・ベジタブル(Heavy Vegetable)やシンギー(Thingy)と、それぞれサンディエゴのシーンにおける重要バンドの中心的メンバーでもある2人。基本楽器はザックがベース、ロブがギターですが、共にソングライターとボーカルもこなし、複数の楽器を操るマルチ・インストゥルメンタリストでもあります。

 そんな才能豊かな2人が結成したピンバック。ポストロック的とも言えるモダンで意外性のあるアレンジと、流れるようなメロディー・センスが高次元で両立した音楽が、本作では奏でられます。

 1曲目の「From Nothing To Nowhere」は、タイトで疾走感のあるバンドのアンサンブルにぴったりと寄り添うように、ボーカルのメロディーが並走する1曲。各楽器の音作りは、原音をいかしたナチュラルなもの。激しいディストーションなどには頼らず、各楽器が絡み合うような有機的なアンサンブルによって、疾走感を演出しています。

 2曲目「Barnes」は、全ての楽器が一体となって同じ方向を目指す1曲目とはうって変わって、ボーカルも含め各楽器が複雑に絡み合い、立体的なアンサンブルを作り上げる1曲。バンド全体でゆったりと躍動するところと、やや走るところを切り替え、ゆるやかにグルーヴする演奏が繰り広げられます。

 3曲目「Good To Sea」は、高音域を使ったはずむようなギターのイントロに導かれ、タイトで軽快なアンサンブルが展開する 1曲。ボーカルの浮遊感のあるメロディー、優しい波のように揺れるリズム隊、前述したとおり楽しげにはずむギターが、有機的に組み合わさりながら、いきいきと躍動します。

 7曲目「Devil You Know」は、イントロのミュート奏法のギターの音も象徴的で、全体にタイトで、無駄を削ぎ落としたアンサンブルとサウンドを持った1曲。わずかに前のめりにリズムが進むバンドのアンサンブルに、覆いかぶさるようにボーカルがメロディーを紡いでいきます。再生時間1:16あたりからのギターのサウンドとフレーズと、そこに絡みつくようなピアノが醸し出すアヴァンギャルドな空気も、このバンドの魅力。

 10曲目「Bouquet」は、空間系エフェクターのかかったギターを中心に、隙間が多いながらも、ゆるやかな躍動感を持ったアンサンブルが展開される1曲。隙間を埋め、全体を多い尽くすように、コーラスワークは厚みがあり、凝っています。

 前作『Summer In Abaddon』から比較すると、アルバム全体を通して、やや実験性の増した1作と言えるでしょうか。前作の方がギターポップ色が濃く、今作の方がシリアスで、ややプログレ風味があります。

 ソフトで耳なじみの良いサウンド・プロダクションでありながら、随所に実験性を忍ばせ、時折アヴァンギャルドな風を吹かせるアレンジと、流れるように爽やかなメロディーとコーラスワークは、ザ・シー・アンド・ケイク(The Sea And Cake)に近いとも思います。

 ポップさの中に実験性が隠し味のごとく含まれた、ポップであり、同時に奥行きのある音楽が展開される1作です。

 





Pinback “Summer In Abaddon” / ピンバック『サマー・イン・アバドン』


Pinback “Summer In Abaddon”

ピンバック 『サマー・イン・アバドン』
発売: 2004年10月12日
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)

 カリフォルニア州サンディエゴ出身のバンド、ピンバックの3rdアルバム。前作までは、ニューヨークのインディー・レーベル、エース・フー(Ace Fu)からのリリースでしたが、本作からシカゴの名門タッチ・アンド・ゴーと契約。

 スリー・マイル・パイロット(Three Mile Pilot)での活動でも知られる、ベーシストのザック・スミス(Zach Smith)こと本名アーミステッド・バーウェル・スミス4世(Armistead Burwell Smith IV)と、ヘビー・ベジタブル(Heavy Vegetable)やシンギー(Thingy)など、ソロ名義も含め多くのバンドで活動してきたギタリストのロブ・クロウ(Rob Crow)。

 共にソングライターであり、ボーカルでもあり、複数の楽器をこなすマルチ・インストゥルメンタリストでもある2人が結成したバンドが、このピンバックです。バンド名の由来は、1974年公開のSF映画『ダーク・スター』(Dark Star)に登場する人物、ピンバック軍曹(Sergeant Pinback)から。

 前述のとおり、他のバンドでソングライターを務め、複数の楽器をこなす2人によって結成されたこのバンド。メロディーにあらわれた歌心もさることながら、アンサンブル全体にも歌心が溢れ、穏やかで、いきいきと躍動する音楽が詰まったアルバムに仕上がっています。

 また、このような説明だけでは、ギターポップのように親しみやすい音楽を想像することと思いますが、彼らの音楽は親しみやすくもあり、同時にポストロック的な意外性のあるアレンジが共存。非常に懐の深い、ポップな作品です。

 1曲目「Non-Photo Blue」は、ミュート奏法によるギターの粒の立ったサウンドが印象的。ギターを中心にしたアンサンブルの間を縫うように、穏やかなボーカルがメロディーを紡いでいきます。バンドのアンサンブルはカチッと正確であるのに、歌メロは自由に流れるようになめらか。このバランス感覚も、このバンドの特徴のひとつと言えるでしょう。

 2曲目「Sender」は、各楽器がゆるやかに絡み合う有機的なアンサンブルに、感情を抑えたボーカルがメロディーを重ねていく1曲。

 4曲目「Bloods On Fire」は、ヴィブラフォンのような音色とピアノを中心に、細かな音が組み合い、躍動感のあるアンサンブルを作り上げていきます。

 5曲目「Fortress」は、ボーカルも含め、各楽器が互いにリズムを食い合うように絡まり、ひとつの生命体のように躍動する1曲。全体のサウンドも、ボーカルの歌唱も穏やかですが、生命力に溢れた自然な躍動感があり、個人的には大好きな種類の曲です。

 9曲目「The Yellow Ones」は、イントロからピアノとドラムが、覆い被さり合うようなリズムで重なり、さらにボーカルも加わって、穏やかな波のように揺らぎのあるアンサンブルを作り上げます。再生時間1:31あたりから入ってくる、音がぶつかるようなピアノが、アヴァンギャルドな空気をプラス。

 10曲目「AFK」は、パワフルに打ちつけるようなドラムと、タイトにリズムを刻むギターを中心に、立体的でメリハリのきいたアンサンブルが展開。ところどころシャウト気味のボーカルが、楽曲にエモーショナルな空気をもたらしています。

 細かい音符とロングトーンの絶妙なバランスが、本作の特徴のひとつだと思います。各楽器が粒のような音を持ち寄り、有機的なアンサンブルを作り上げる一方で、その間を縫うような歌のメロディー、全体を優しく包み込むようなロングトーンが、並列することが少なくありません。

 優しく穏やかなサウンド・プロダクションに比例した、ゆるやかな躍動感と一体感を持ち合わせたアルバムです。

 





Polvo “Shapes” / ポルヴォ『シェイプス』


Polvo “Shapes”

ポルヴォ 『シェイプス』
発売: 1997年9月23日
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)
プロデュース: Bob Weston (ボブ・ウェストン)

 ノースカロライナ州チャペルヒル出身のバンド、ポルヴォの4thアルバム。前作に引き続き、シカゴの名門レーベル、タッチ・アンド・ゴーからのリリースで、レコーディング・エンジニアはボブ・ウェストンが担当。

 前作リリース後に、ドラムのエディー・ワトキンス(Eddie Watkins)が友好的に脱退。本作では、新ドラマーにブライアン・ウォルズビー(Brian Walsby)を迎えています。

 また、ドラマーの交代以外にも、ギターのデイヴ・ブリラースキー(Dave Brylawski)が大学院に進学するためニューヨークへ引っ越し。フロントマンのアッシュ・ボウイ(Ash Bowie)は、ボストンを拠点に活動するバンド、ヘリウム(Helium)に参加するために同地に引っ越すなど、バンドは不安定に。本作を1997年に完成させたのち、友好的に解散します。

 そんなわけで、今作は解散前最後のアルバムということになります。(2008年には再結成を果たすのですが)

 ジャンクなサウンドとアレンジを散りばめながら、東洋的なフレーズやロングトーンをアクセントに織り混ぜるのが、ポルヴォの音楽の特徴。4作目となる本作でも、アングラな香りと、エスニックな香りを漂わせながら、ポップさも失わない絶妙なバランスのアンサンブルが展開されます。

 特にギターの音作りは特徴的で、ジャンクで下品に歪んだサウンドや、弦が緩んだような奇妙なサウンドも使用されますが、歌モノとしてのポップさと共存。アヴァンギャルドであるのと同時に、穏やかでポップな音楽としても成立しています。

 1曲目「Enemy Insects」は、鳥のさえずりや川の音が聞こえる、フィールド・レコーディングからスタート。その後に、潰れたように下品に歪んだギターが入り、穏やかなボーカルを中心に、緩やかなアンサンブルが展開されます。基本的には歌を中心に据えた、穏やかな1曲ですが、随所にギターによる激しく歪んだサウンドや、調子のハズれた高音フレーズが差し込まれ、アヴァンギャルドな空気も多分に含まれています。

 2曲目「The Fighting Kites」は、シタールらしき音と、太鼓の音が響く、民族音楽色の濃い1曲。奥の方でも、東洋的なドローンが、全体を包むように鳴っています。

 3曲目「Rock Post Rock」は、民族音楽色の強い2曲目からシームレスに繋がり、ビートが加わりカントリーと民族音楽の折衷のようなイントロから幕を開けます。その後は、ギターが前面に出た、ざらついたローファイなサウンドで、躍動感のあるロックが展開。

 4曲目「The Golden Ladder」は、シタールらしき音とドラム、コーラスワークが重なり、インド音楽のような聴感の1曲。ドラムのリズムには、ロック的なダイナミズムがあり、他ジャンルのコピーで終わらないところがポルヴォらしいところ。

 7曲目「Twenty White Tents」は、スローテンポに乗せて、音数を絞った各楽器が、有機的に絡み合うようにアンサンブルが展開する、メロウな1曲。囁くようなボーカルの歌唱も、楽曲の陰のある雰囲気を演出します。

 8曲目「Everything In Flames!」は、イントロからエフェクト処理された奇妙な音、激しく歪んだギターの音が飛び交う、ジャンクなロック・チューン。全体のサウンド・プロダクションは、かなりアヴァンギャルドであると言えますが、ドタバタしつつ多様な音が飛び交い、カラフルでポップに仕上げっています。

 10曲目「El Rocío」は、12分を超える大曲。歌の無いインストゥルメンタルで、音数を絞ったサウンド・スケープが展開される、ポストロック色の濃い1曲です。

 ポルヴォの音楽性には、しばしば東洋風味があると言及されますが、本作はここまでの4作の中で、最も東洋的な要素、民族音楽的なアプローチが、色濃く出た作品と言えます。

 カントリーに、電子音や激しく歪んだギター、実験的なアレンジを合わせたものを、オルタナ・カントリーと呼びますが、本作も東洋の音楽に、ローファイなサウンドを合わせ、コンパクトなロック・ソングに仕上げていて、オルタナ民族音楽とでも呼びたくなる音楽を展開しています。

 前述したとおり、本作を最後にポルヴォは解散。2008年に再結成し、2009年に12年ぶりとなる5thアルバムをリリースしています。





Polvo “Exploded Drawing” / ポルヴォ『エクスプローデッド・ドローイング』


Polvo “Exploded Drawing”

ポルヴォ 『エクスプローデッド・ドローイング』
発売: 1996年4月30日
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)
プロデュース: Bob Weston (ボブ・ウェストン)

 ノースカロライナ州チャペルヒル出身のバンド、ポルヴォの3rdアルバム。前作までは、彼らの地元チャペルヒルのレーベル、マージからのリリースでしたが、今作からはシカゴのタッチ・アンド・ゴーへ移籍。レコーディング・エンジニアは、前作に引き続きボブ・ウェストンが担当しています。

 ノイズ・ロック・バンドと言われることも多いポルヴォ。前作までの2枚のアルバムも、奇妙なサウンドや複雑なアレンジを、アンサンブルに溶け込ませ、アヴァンギャルドかつポップな音楽を、作り上げていました。

 3作目となる本作でも、これまでに引き続き、アンサンブルを重視した、アヴァンギャルドなロックが展開。前作までとの差異を挙げると、サウンド・プロダクションの面で、ローファイ要素を持っていたこれまでと比較して、サウンドがソリッドに、より輪郭がくっきりしています。

 1曲目「Fast Canoe」は、イントロからギターが奇妙なフレーズを繰り返し、立体感のあるアンサンブルが展開されます。特にドラムの音は生々しいサウンドでレコーディングされており、全体としても空間の広がりが感じられる音作りになっています。

 2曲目「Bridesmaid Blues」は、弦がゆるくチューニングされたようなギターが、足がもつれながら走っていくような、疾走感あふれる1曲。不安定なギターの音程と、タイトなアサンサンブルが、アンバランスなようで、不可分に溶け合い、違和感がありません。

 3曲目「Feather Of Forgiveness」も、ギターの音色とフレーズが印象的。まるで、壊れた機械か何かのような、鋭くジャンクなサウンドを響かせます。アームを使っているのか、ところどころで聞こえる揺らめく音程も、単なる飛び道具ではなく、効果的に楽曲の深みを増しています。

 4曲目「Passive Attack」は、リズムもサウンドも、民族音楽を感じせるインタールード的な役割の1曲。アメリカーナではなく、民族音楽です。無国籍性を感じるところも、このバンドの魅力。

 7曲目「Street Knowledge」は、シタールらしき音色のイントロから、下品に歪んだギターが唸る、ジャンクなアンサンブルが展開。ノイジーなサウンドと、エスニックな雰囲気が溶け合い、独特のサイケデリアを醸し出します。

 8曲目「High-Wire Moves」は、イントロから激しく歪んだギターが煽動的に響き、前のめりに疾走するガレージ・ロック。ですが、再生時間0:35あたりからテンポを落とし、今度はロングトーンをいかしたアレンジへ。その後もテンポを切り替え、1曲の中でのコントラストが鮮烈。

 13曲目「The Purple Bear」は、かすれた歪みのギターと、うねるような奇妙な音色のギターが絡み合う1曲。

 ギターの音作りを筆頭に、耳につく奇妙なサウンドが随所に用いられていますが、アンサンブルにはメリハリと躍動感があり、一般的なロックが持っているダイナミックなかっこよさも、十分に感じられるアルバムです。

 ポルヴォは、アヴァンギャルドな要素と、わかりやすくかっこいい要素の組み合わせ方が、本当に秀逸。ボブ・ウェストンによるレコーディングも、バンドのサウンドを生々しく閉じ込めていると思います。