Pinback “Summer In Abaddon” / ピンバック『サマー・イン・アバドン』


Pinback “Summer In Abaddon”

ピンバック 『サマー・イン・アバドン』
発売: 2004年10月12日
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)

 カリフォルニア州サンディエゴ出身のバンド、ピンバックの3rdアルバム。前作までは、ニューヨークのインディー・レーベル、エース・フー(Ace Fu)からのリリースでしたが、本作からシカゴの名門タッチ・アンド・ゴーと契約。

 スリー・マイル・パイロット(Three Mile Pilot)での活動でも知られる、ベーシストのザック・スミス(Zach Smith)こと本名アーミステッド・バーウェル・スミス4世(Armistead Burwell Smith IV)と、ヘビー・ベジタブル(Heavy Vegetable)やシンギー(Thingy)など、ソロ名義も含め多くのバンドで活動してきたギタリストのロブ・クロウ(Rob Crow)。

 共にソングライターであり、ボーカルでもあり、複数の楽器をこなすマルチ・インストゥルメンタリストでもある2人が結成したバンドが、このピンバックです。バンド名の由来は、1974年公開のSF映画『ダーク・スター』(Dark Star)に登場する人物、ピンバック軍曹(Sergeant Pinback)から。

 前述のとおり、他のバンドでソングライターを務め、複数の楽器をこなす2人によって結成されたこのバンド。メロディーにあらわれた歌心もさることながら、アンサンブル全体にも歌心が溢れ、穏やかで、いきいきと躍動する音楽が詰まったアルバムに仕上がっています。

 また、このような説明だけでは、ギターポップのように親しみやすい音楽を想像することと思いますが、彼らの音楽は親しみやすくもあり、同時にポストロック的な意外性のあるアレンジが共存。非常に懐の深い、ポップな作品です。

 1曲目「Non-Photo Blue」は、ミュート奏法によるギターの粒の立ったサウンドが印象的。ギターを中心にしたアンサンブルの間を縫うように、穏やかなボーカルがメロディーを紡いでいきます。バンドのアンサンブルはカチッと正確であるのに、歌メロは自由に流れるようになめらか。このバランス感覚も、このバンドの特徴のひとつと言えるでしょう。

 2曲目「Sender」は、各楽器がゆるやかに絡み合う有機的なアンサンブルに、感情を抑えたボーカルがメロディーを重ねていく1曲。

 4曲目「Bloods On Fire」は、ヴィブラフォンのような音色とピアノを中心に、細かな音が組み合い、躍動感のあるアンサンブルを作り上げていきます。

 5曲目「Fortress」は、ボーカルも含め、各楽器が互いにリズムを食い合うように絡まり、ひとつの生命体のように躍動する1曲。全体のサウンドも、ボーカルの歌唱も穏やかですが、生命力に溢れた自然な躍動感があり、個人的には大好きな種類の曲です。

 9曲目「The Yellow Ones」は、イントロからピアノとドラムが、覆い被さり合うようなリズムで重なり、さらにボーカルも加わって、穏やかな波のように揺らぎのあるアンサンブルを作り上げます。再生時間1:31あたりから入ってくる、音がぶつかるようなピアノが、アヴァンギャルドな空気をプラス。

 10曲目「AFK」は、パワフルに打ちつけるようなドラムと、タイトにリズムを刻むギターを中心に、立体的でメリハリのきいたアンサンブルが展開。ところどころシャウト気味のボーカルが、楽曲にエモーショナルな空気をもたらしています。

 細かい音符とロングトーンの絶妙なバランスが、本作の特徴のひとつだと思います。各楽器が粒のような音を持ち寄り、有機的なアンサンブルを作り上げる一方で、その間を縫うような歌のメロディー、全体を優しく包み込むようなロングトーンが、並列することが少なくありません。

 優しく穏やかなサウンド・プロダクションに比例した、ゆるやかな躍動感と一体感を持ち合わせたアルバムです。