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Pinback “Autumn Of The Seraphs” / ピンバック『オータム・オブ・ザ・セラフス』


Pinback “Autumn Of The Seraphs”

ピンバック 『オータム・オブ・ザ・セラフス』
発売: 2007年9月11日
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)

 カリフォルニア州サンディエゴ出身。ザック・スミス(Zach Smith)ことアーミステッド・バーウェル・スミス4世(Armistead Burwell Smith IV)と、ロブ・クロウ(Rob Crow)からなるバンド、ピンバックの4thアルバム。前作『Summer In Abaddon』に引き続き、シカゴの名門インディー・レーベル、タッチ・アンド・ゴーからのリリース。

 ザック・スミスはスリー・マイル・パイロット(Three Mile Pilot)、ロブ・クロウはヘビー・ベジタブル(Heavy Vegetable)やシンギー(Thingy)と、それぞれサンディエゴのシーンにおける重要バンドの中心的メンバーでもある2人。基本楽器はザックがベース、ロブがギターですが、共にソングライターとボーカルもこなし、複数の楽器を操るマルチ・インストゥルメンタリストでもあります。

 そんな才能豊かな2人が結成したピンバック。ポストロック的とも言えるモダンで意外性のあるアレンジと、流れるようなメロディー・センスが高次元で両立した音楽が、本作では奏でられます。

 1曲目の「From Nothing To Nowhere」は、タイトで疾走感のあるバンドのアンサンブルにぴったりと寄り添うように、ボーカルのメロディーが並走する1曲。各楽器の音作りは、原音をいかしたナチュラルなもの。激しいディストーションなどには頼らず、各楽器が絡み合うような有機的なアンサンブルによって、疾走感を演出しています。

 2曲目「Barnes」は、全ての楽器が一体となって同じ方向を目指す1曲目とはうって変わって、ボーカルも含め各楽器が複雑に絡み合い、立体的なアンサンブルを作り上げる1曲。バンド全体でゆったりと躍動するところと、やや走るところを切り替え、ゆるやかにグルーヴする演奏が繰り広げられます。

 3曲目「Good To Sea」は、高音域を使ったはずむようなギターのイントロに導かれ、タイトで軽快なアンサンブルが展開する 1曲。ボーカルの浮遊感のあるメロディー、優しい波のように揺れるリズム隊、前述したとおり楽しげにはずむギターが、有機的に組み合わさりながら、いきいきと躍動します。

 7曲目「Devil You Know」は、イントロのミュート奏法のギターの音も象徴的で、全体にタイトで、無駄を削ぎ落としたアンサンブルとサウンドを持った1曲。わずかに前のめりにリズムが進むバンドのアンサンブルに、覆いかぶさるようにボーカルがメロディーを紡いでいきます。再生時間1:16あたりからのギターのサウンドとフレーズと、そこに絡みつくようなピアノが醸し出すアヴァンギャルドな空気も、このバンドの魅力。

 10曲目「Bouquet」は、空間系エフェクターのかかったギターを中心に、隙間が多いながらも、ゆるやかな躍動感を持ったアンサンブルが展開される1曲。隙間を埋め、全体を多い尽くすように、コーラスワークは厚みがあり、凝っています。

 前作『Summer In Abaddon』から比較すると、アルバム全体を通して、やや実験性の増した1作と言えるでしょうか。前作の方がギターポップ色が濃く、今作の方がシリアスで、ややプログレ風味があります。

 ソフトで耳なじみの良いサウンド・プロダクションでありながら、随所に実験性を忍ばせ、時折アヴァンギャルドな風を吹かせるアレンジと、流れるように爽やかなメロディーとコーラスワークは、ザ・シー・アンド・ケイク(The Sea And Cake)に近いとも思います。

 ポップさの中に実験性が隠し味のごとく含まれた、ポップであり、同時に奥行きのある音楽が展開される1作です。

 





Pinback “Summer In Abaddon” / ピンバック『サマー・イン・アバドン』


Pinback “Summer In Abaddon”

ピンバック 『サマー・イン・アバドン』
発売: 2004年10月12日
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)

 カリフォルニア州サンディエゴ出身のバンド、ピンバックの3rdアルバム。前作までは、ニューヨークのインディー・レーベル、エース・フー(Ace Fu)からのリリースでしたが、本作からシカゴの名門タッチ・アンド・ゴーと契約。

 スリー・マイル・パイロット(Three Mile Pilot)での活動でも知られる、ベーシストのザック・スミス(Zach Smith)こと本名アーミステッド・バーウェル・スミス4世(Armistead Burwell Smith IV)と、ヘビー・ベジタブル(Heavy Vegetable)やシンギー(Thingy)など、ソロ名義も含め多くのバンドで活動してきたギタリストのロブ・クロウ(Rob Crow)。

 共にソングライターであり、ボーカルでもあり、複数の楽器をこなすマルチ・インストゥルメンタリストでもある2人が結成したバンドが、このピンバックです。バンド名の由来は、1974年公開のSF映画『ダーク・スター』(Dark Star)に登場する人物、ピンバック軍曹(Sergeant Pinback)から。

 前述のとおり、他のバンドでソングライターを務め、複数の楽器をこなす2人によって結成されたこのバンド。メロディーにあらわれた歌心もさることながら、アンサンブル全体にも歌心が溢れ、穏やかで、いきいきと躍動する音楽が詰まったアルバムに仕上がっています。

 また、このような説明だけでは、ギターポップのように親しみやすい音楽を想像することと思いますが、彼らの音楽は親しみやすくもあり、同時にポストロック的な意外性のあるアレンジが共存。非常に懐の深い、ポップな作品です。

 1曲目「Non-Photo Blue」は、ミュート奏法によるギターの粒の立ったサウンドが印象的。ギターを中心にしたアンサンブルの間を縫うように、穏やかなボーカルがメロディーを紡いでいきます。バンドのアンサンブルはカチッと正確であるのに、歌メロは自由に流れるようになめらか。このバランス感覚も、このバンドの特徴のひとつと言えるでしょう。

 2曲目「Sender」は、各楽器がゆるやかに絡み合う有機的なアンサンブルに、感情を抑えたボーカルがメロディーを重ねていく1曲。

 4曲目「Bloods On Fire」は、ヴィブラフォンのような音色とピアノを中心に、細かな音が組み合い、躍動感のあるアンサンブルを作り上げていきます。

 5曲目「Fortress」は、ボーカルも含め、各楽器が互いにリズムを食い合うように絡まり、ひとつの生命体のように躍動する1曲。全体のサウンドも、ボーカルの歌唱も穏やかですが、生命力に溢れた自然な躍動感があり、個人的には大好きな種類の曲です。

 9曲目「The Yellow Ones」は、イントロからピアノとドラムが、覆い被さり合うようなリズムで重なり、さらにボーカルも加わって、穏やかな波のように揺らぎのあるアンサンブルを作り上げます。再生時間1:31あたりから入ってくる、音がぶつかるようなピアノが、アヴァンギャルドな空気をプラス。

 10曲目「AFK」は、パワフルに打ちつけるようなドラムと、タイトにリズムを刻むギターを中心に、立体的でメリハリのきいたアンサンブルが展開。ところどころシャウト気味のボーカルが、楽曲にエモーショナルな空気をもたらしています。

 細かい音符とロングトーンの絶妙なバランスが、本作の特徴のひとつだと思います。各楽器が粒のような音を持ち寄り、有機的なアンサンブルを作り上げる一方で、その間を縫うような歌のメロディー、全体を優しく包み込むようなロングトーンが、並列することが少なくありません。

 優しく穏やかなサウンド・プロダクションに比例した、ゆるやかな躍動感と一体感を持ち合わせたアルバムです。