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Unsane “Total Destruction” / アンセイン『トータル・ディストラクション』


Unsane “Total Destruction”

アンセイン 『トータル・ディストラクション』
発売: 1994年1月18日
レーベル: Matador (マタドール)
プロデュース: Martin Bisi (マーティン・ビシ)

 1988年にニューヨークで結成されたバンド、アンセインの2ndアルバム。

 本作は1993年にドイツで、地元インディー・レーベルのシティ・スラング(City Slang)より発売。アメリカ国内では翌年の1994年に、ニューヨークの名門インディー・レーベル、マタドールからリリース。当時マタドールは、メジャーレーベルのアトランティック(Atlantic)とパートナーシップを結んでおり、先のドイツでのリリースも含め、アトランティックの販売システムを通しての発売でした。

 プロデューサーは、ソニック・ユースの『EVOL』なども手がけたマーティン・ビシが担当。

 ノイズ・ロックに括られることもあるアンセイン。本作も、ノイズ要素を含み、ヘヴィで立体的なサウンドで、アングラ感のあるロックが展開されるアルバムです。しかし、ダークでアングラな空気感を、ロック的ダイナミズムを持ったサウンド・プロダクションが中和し、アングラ性と大衆性を併せ持った作品に仕上がっています。

 むしろ、アングラ性がアクセントとして、アルバム全体の魅力を増しているとさえ感じさせるところが、このアルバムの魅力。ジャケットの血のついたキャデラックも、大衆性と実験性を併せ持つこのアルバムの音楽性をあらわしてるのではないかと思わせます。

 1曲目の「Body Bomb」は、ゆったりとしたテンポに乗せて、たたみかけるように迫り来るアンサンブルが展開される1曲。波打つようなリズム隊と、うねるようなギター、押しつぶされたようなサウンドの絶叫系のボーカルが絡み合うアンサンブルからは、アングラ感が溢れます。

 2曲目「Straight」は、絡み合いながら疾走していく、立体的なサウンドを持った1曲。

 3曲目「Black Book」は、硬質なサウンドのディストーション・ギターと、タイトなリズム隊が、回転するようにパワフルなアンサンブルを作り上げていきます。やや奥の方から聴こえるシャウト気味のボーカルとも相まって、グルーヴ感とアングラ感のあるロックが展開。

 4曲目「Trench」は、ゆったりとしたテンポに乗せて、引きずるようにギターが唸り、ドラムは叩きつけるようにリズムを刻みます。テンポを落とすことで、ヘヴィさが増していることを実感できる1曲。再生時間2:50あたりからのねじれたギターのフレーズも、アングラな空気をプラスしていて、ロックのヘヴィネスと実験性が共存していて、非常にかっこいい。

 5曲目「Dispatched」では、硬くジャンクな響きを持ったギターが、イントロから耳に残る1曲。回転するようなベースラインと、タイトなドラムが、パワフルにリズムを刻むなか、ギターは切れ味鋭いナイフのように、フレーズを繰り出していきます。

 8曲目「Road Trip」は、一体感と躍動感のあるアンサンブルが展開されるミドルテンポの1曲。随所のリズムのタメがあり、耳をつかむフックになっています。

 10曲目「Get Away」は、バウンドするようにバンドが躍動する、疾走感と立体感のある1曲。細かく的確にリズムを刻むドラムと、豪快に歪んだギター、ブチギレ気味のボーカルが絡み合う、アングラ感たっぷりのロックンロール。

 11曲目「S.O.S.」は、波打つようなリズムが、サイケデリックな雰囲気を醸し出す1曲。ギターの歪みは控えめで、リズムに合わせてアームを使っているのか、音程が揺れるところがあり、その部分がとても心地よいです。リズムと音程が、同じタイミングで揺れる感覚と言ったらいいでしょうか。

 アレンジやサウンド・プロダクションに、多分に実験的でアングラな要素を含んだアルバムであるのに、ロックのダイナミズムの方を強く感じるバランスで成り立っていて、非常のかっこいいアルバムです。ロックの躍動感やダイナミズムを演出するアクセントとして、激しく歪んだサウンドや、アヴァンギャルドなアレンジを用いているような、絶妙なバランス感覚。

 実験のための実験に陥るのではなく、ロックのヘヴィな魅力を増幅させるために、一般的にはノイズと思われるような要素を作品に落とし込んでいるところが、このアルバムの魅力と言って良いでしょう。

 





Sonic Youth “EVOL” / ソニック・ユース『EVOL』


Sonic Youth “EVOL”

ソニック・ユース 『EVOL』
発売: 1986年5月
レーベル: SST (エス・エス・ティー)
プロデュース: Martin Bisi (マーティン・ビシ)

 ニューヨーク出身のバンド、ソニック・ユースの3枚目のスタジオ・アルバム。

 ダークでアンダーグラウンドな空気が、充満したアルバムです。その空気を生み出しているのは、変則チューニングを駆使したギターを筆頭に、不協和音や奇妙なアレンジを用いて構成される、バンドのアンサンブル。

 ソニック・ユースの特異な点は挙げればキリがないですが、ひとつには音圧や速度に頼るのではなく、音響で攻撃性や緊張感を表現するところ。本作でも、その特徴が存分に発揮されています。

 テンポを上げて直線的に疾走するのでも、音圧と音量を上げたディストーション・ギターで押し流すのでもなく、音の響きと組み合わせで、なんとも言えぬ不安感や違和感を演出するのがソニック・ユースです。

 速度や音量に頼った攻撃性よりも、狂気を隠し持って、静かにリスナーに忍び寄るぶん、たちが悪いとも言えます。不協和音が美しいハーモニーに変わり、ノイズが快感になる…リスナーの音楽観まで変える可能性を持ったアルバムです。

 1曲目「Tom Violence」のイントロから早速、緩くチューニングされたような、独特の不安定なギターが、不穏な空気を演出します。たたみかけるように、ドタバタとリズムを刻み続けるドラムが、アンサンブルを引き締め、中盤以降はギターのノイズ合戦へ。

 6曲目の「Death To Our Friends」は、アルバムの中ではビートがはっきりしたロックな曲。しかし、コード進行にもヴォイシングにも、違和感しかないぐらいの奇妙でアングラなサウンドが展開されます。

 9曲目の「Madonna, Sean And Me」は、7分を超える曲で、ゆるやかにグルーヴする平和な部分と、ノイズまみれのカオスな部分のコントラストが鮮烈な1曲。この曲は「Expressway To Yr. Skull」と記載されることもあります。

 全ての曲に何かしらの違和感が含まれ、知性と狂気が共存したアルバムです。これはこのアルバムに限ったことではない、ソニック・ユースの特徴ですが、その違和感が耳に引っかかり、やがて魅力へと転化することがあります。

 誰にでも起こりうるかと問われれば断言はできませんが、少なくとも僕はソニック・ユースに出会って、確実に音楽の聴き方が変わりました。

 ノイズや実験音楽の要素も取り込みながら、あくまで4人編成のロックバンドとして、ロックの延長線上にクールで革新的な音楽を作り上げたことが、彼らの魅力です。本作『EVOL』も、そんな革新的な1枚。