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The Jon Spencer Blues Explosion “Acme” / ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン『アクメ』


The Jon Spencer Blues Explosion “Acme”

ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン 『アクメ』
発売: 1998年10月20日
レーベル: Matador (マタドール)
プロデュース: Calvin Johnson (カルビン・ジョンソン), Steve Albini (スティーヴ・アルビニ), Suzanne Dyer (スザンヌ・ダイアー), Greg Talenfeld (グレッグ・タレンフェルド)

 元プッシー・ガロアのジョン・スペンサーを中心に結成されたバンド、ベースレスの3ピース・バンド、ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンの6枚目のスタジオ・アルバム。

 バンド名が示唆するとおり、ブルースをモダンな形で再解釈するこのバンド。ブルースを下敷きにして、ガレージ・ロック、パンク、ローファイなど、多様な音楽の要素が合わさり、コンパクトにまとめ上げるのが、このバンドの魅力であり特徴と言えます。

 6作目となる本作でも、ブルージーなフレーズが、ガレージ的なざらついた歪みのギター・サウンド、ファンクを彷彿とさせる粘っこいグルーヴ感、アングラ臭の漂うシャウトなどと溶け合い、ジョンスペ特有のロックが展開。

 初期の頃に聞かれた、プッシー・ガロアを彷彿とさせるジャンクな音色も健在ですが、楽曲はコンパクトに、グルーヴ感を持って、まとまっています。

 基本的には「進化」「洗練」とポジティヴに捉えるべき変化だと思いますが、プッシー・ガロア時代の愛すべき糞ロックといった音楽性を求める方には、「落ち着いてしまった」「つまらなくなった」と感じられるかもしれません。実を言うと、僕もそのクチです(笑)

 とはいえ、3人で作り上げる糸を引くようなグルーヴ感は健在…というより、ますます機能的で、気持ちよくなってきていて、音楽としてのクオリティが低いわけでは、決してありません。

 アルバム6枚目ともなれば、ある程度のマンネリ化や、落ち着きも仕方ないと思いますが、このバンドは本作に至っても、悪ふざけ感を持っていて、シリアスになりすぎないところが魅力。

 ミュージック・ビデオも制作された5曲目の「Talk About The Blues」を例に取ると、シンプルなアンサンブルの中に、ノイジーなギターと、ジャンクなボーカルが乗り、ロックが持つグルーヴ感と、アンダーグラウンドな空気が、程よくミックスされて充満しています。

 





The Jon Spencer Blues Explosion “Now I Got Worry” / ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン『ナウ・アイ・ガット・ウォーリー』


The Jon Spencer Blues Explosion “Now I Got Worry”

ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン 『ナウ・アイ・ガット・ウォーリー』
発売: 1996年10月15日
レーベル: Matador (マタドール)
プロデュース: Jim Waters (ジム・ウォーターズ)

 元プッシー・ガロアのジョン・スペンサーを中心に結成された、ギター2人とドラムからなるベースレスの3ピース・バンド、ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンの5枚目のスタジオ・アルバム。

 「ブルース・エクスプロージョン」というバンド名が象徴しているとおり、このバンドの特徴は、ブルースを下敷きにしながら、ジャンクなサウンドを合わせ、ブルースを再解釈しているところ。ガレージ、パンク、オルタナティヴ・ロックなどの皮をかぶったブルースと、言い換えてもいいでしょう。

 プッシー・ガロアにも繋がるジャンク要素を持ちながら、ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンが志向するのは、よりアンサンブルを重視した、グルーヴ感抜群の音楽。

 5作目となる本作でも、ブルージーなフレーズと、ガレージ・ロックを彷彿とさせる荒々しいギター、意外性のあるノイジーなアレンジが溶け合い、アングラ感と大衆性を併せ持った、ジョンスペ特有のブルースが展開されます。

 アルバムの幕開けとなる1曲目の「Skunk」は、金切り声のような、アングラ色の強いシャウトからスタート。その後はざらついたガレージ的な音像で、ラフな部分を残しつつグルーヴしていくアンサンブルが展開されます。

 4曲目の「Fuck Shit Up」は、ワシントン州オリンピア出身のインディー・ファンク・バンド、ダブ・ナルコティック・サウンド・システム(Dub Narcotic Sound System)のカバー。無駄を削ぎ落としたシンプルなリズムに乗せて、ラップ調のボーカルが披露されます。

 5曲目「2Kindsa Love」は、キレの良いギターリフと、タイトなドラムが、疾走感のある演奏を展開するジャンクなロック。

 13曲目「Eyeballin」は、各楽器が、不協和な響きを持ちながら、複雑に絡み合いアンサンブルを構成。前半はエキセントリックな雰囲気のまま進んでいきますが、再生時間1:37あたりからディスコ・ミュージックのようなグルーヴ感のある雰囲気へ一変。ジャンクなだけではなく、大衆性も兼ね備えたジョンスペらしい展開の1曲と言えます。

 ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンのキャリアの中で位置付けると、やや過渡期の作品と言うべきなのか、良く言えばバランスよくまとまった、悪く言えばどっちつかずの没個性的なアルバムだと思います。

 しかし、決してクオリティが低いアルバムというわけではなく、タイトでグルーヴ感の溢れるアンサンブルと、アヴァギャルドなアレンジが、バランスよく融合された1作だということです。

 





The Jon Spencer Blues Explosion “Orange” / ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン『オレンジ』


The Jon Spencer Blues Explosion “Orange”

ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン 『オレンジ』
発売: 1994年10月14日
レーベル: Matador (マタドール)
プロデュース: Jim Waters (ジム・ウォーターズ)

 元プッシー・ガロアのジョン・スペンサーを中心に、1991年に結成された、ギター2人とドラムからなるベースレスの3ピース・バンド、ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンの4thアルバム。

 ブルースを下敷きにしながらジャンクなギターが随所で鳴り響き、プッシー・ガロアの残り香をわずかに感じる前作『Extra Width』と比較すると、サウンドもアンサンブルもソリッドになったのが本作『Orange』。

 ブルースやガレージ・ロックを基本に、前述したとおりベースレスの3ピースによる、躍動感あふれるアンサンブルが展開されていきます。ジャンク成分は後退し、アンサンブルが前景化したアルバムと言えます。

 1曲目「Bellbottoms」は、3ピースのタイトなアンサンブルに、ストリングスが重なり、楽曲に立体感を加えています。ストリングスは、壮大でオーケストラルな雰囲気も漂わせていますが、アングラ感のあるコーラスワークをバランスを取り、ジャンクな空気も共存。

 2曲目「Ditch」は、2本のギターが絡みあうように躍動し、ドラムは手数は少ないながら、フックを随所に作りながらリズムを刻んでいく、グルーヴ感抜群の1曲。

 7曲目「Orange」は、物憂げなボーカルと、緩やかに躍動するアンサンブルが溶け合う、ミドル・テンポの1曲。ブルージーな空気を持ちながら、この曲でもストリングスが効果的に用いられ、奥行きのある楽曲に仕上がっています。

 10曲目「Blues X Man」は、ゆったりとしたリズムに乗せて、立体的なアンサンブルが展開される1曲。基本的なリズムとコード進行は循環ですが、音の縦への重ね方が、楽曲を立体感をもたらしています。

 プッシー・ガロア以来のジャンクな魅力も持ちつつ、よりソリッドなサウンド・プロダクションとアンサンブルを持ったアルバム。グルーヴ感は本当に素晴らしく、いつの間にか、耳が音楽にとらわれてしまうような感覚に陥ります。

 1994年に発売された当初は13曲収録でしたが、2010年に再発された際にはCD2枚組で合計34曲収録となっています。このデラックス版は、現在ではデジタル配信でも聴けます。

 





The Jon Spencer Blues Explosion “Extra Width” / ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン『エクストラ・ウィドゥズ』


The Jon Spencer Blues Explosion “Extra Width”

ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン 『エクストラ・ウィドゥズ』
発売: 1993年5月24日
レーベル: Matador (マタドール)

 ニューヨークを拠点に活動していたジャンク・ロックバンド、プッシー・ガロア。プッシー・ガロア解散後、メンバーだったジョン・スペンサーを中心に、1991年に結成されたバンド、ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンの3rdアルバム。

 ニューヨークに居を構える名門インディペンデント・レーベル、マタドールからのリリース。

 「ジャンク・ロック」や「ノイズ・ロック」なんてジャンル名で呼ばれていたプッシー・ガロア。その表現どおり、ノイジーでアヴァンギャルドな要素を多分に含んだバンドでした。

 そんなプッシー・ガロアを通過したジョン・スペンサーが結成したこのバンド。「ブルース・エクスプロージョン」という名前が象徴的ですが、ブルースを下敷きにしながら、ガレージ的なざらついたギター・サウンドと、エモーショナルな歌が、まさに爆発するように暴れまわります。

 多種多様なジャンクな音を詰め込んだ、ゴミ箱をひっくり返したようなプッシー・ガロアに対して、ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンは、曲の構造がよりはっきりしており、コンパクトにまとまっています。

 言い換えれば、ジャンクなサウンドを随所に含みつつも、構造がはっきりしている分、ポップになっているということ。

 1曲目の「Afro」を例に取れば、イントロから循環するコード進行に沿って、各楽器が絡み合うような有機的なアンサンブルが展開され、ロック的なグルーヴを多分に持った、普通にかっこいい曲です。しかし、再生時間1:54あたりから、唸りをあげるようなノイジーなギターが登場し、一気にプッシー・ガロアを彷彿とさせるアヴァンギャルドな雰囲気へ。

 5曲目の「Soul Typecast」も、シンプルかつタイトなドラムに、エモーショナルなボーカルと、フリーな雰囲気のギターとキーボードが乗り、アンサンブルが構成。ギターとキーボードが徐々にシフトを上げていき、ブルージーな空気と、ジャンクな空気が、絶妙にミックスされていきます。

 アルバム全体をとおして、ジャンクな要素も持ちつつ、構造はコンパクトに保たれていることで、音楽の裾野が広く、よりキャッチーになっていると言えるでしょう。

 ちなみにオリジナル盤は11曲収録ですが、2010年にCD2枚組で出たデラックス版は合計46曲収録、現在は、この46曲のバージョンもデジタル配信されています。