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Liz Phair “Whitechocolatespaceegg” / リズ・フェア『ホワイトチョコレートスペースエッグ』


Liz Phair “Whitechocolatespaceegg”

リズ・フェア 『ホワイトチョコレートスペースエッグ』
発売: 1998年8月11日
レーベル: Matador (マタドール)
プロデュース: Brad Wood (ブラッド・ウッド), Jason Chasko (ジェイソン・チャスコ), Scott Litt (スコット・リット)

 コネチカット州ニューヘイヴン生まれ、イリノイ州シカゴ育ちのシンガーソングライター、リズ・フェアの3rdアルバム。

 これまでの2作と同様、ニューヨークのインディペンデント・レーベル、マタドールからのリリースですが、本作を最後にメジャーのキャピトル(Capitol Records)へ移籍。本作がマタドールからリリースされる最後のアルバムとなります。

 プロデュースは、前2作に引き続きブラッド・ウッドも起用されていますが、楽曲によってジェイソン・チャスコとスコット・リットも担当する、分担制のような形になっています。

 シンプルでローファイ風の音像を持った1st、ポストロックすら感じさせるサウンドの幅の拡大があった2nd。そして、3rdアルバムとなる本作では、2ndで聴かれたポストロック性と実験性が後退し、古き良きアメリカン・ロックを感じさせる1枚となっています。

 個人的には2ndのポストロック的な意外性のあるサウンドは、シュリンプ・ボートの元メンバーでもあるブラッド・ウッドのプロデュースによるところが大きいのではないかと考えていますが、前述したとおり本作ではウッドも含めた3人のプロデューサーが迎えられており、よりスタンダードな音作りになったんじゃないかなと思います。

 アコースティック・ギターや、豊かな歪みのギターがアンサンブルの中心に据えられ、ゆるやかなグルーヴ感を持ったロックが展開。

 1曲目の「White Chocolate Space Egg」は、ジェイソン・チャスコのプロデュース。ゆったりとしたテンポに乗って、手数を絞ったリズム隊と、空間系のエフェクターのかかった浮遊感のあるギターが、グルーヴ感を生んでいきます。サビ部分では、ディストーション・ギターも加わり、カントリー要素とオルタナ要素が融合した1曲。

 2曲目の「Big Tall Man」も、引き続きジェイソン・チャスコのプロデュース。本作でチャスコがプロデュースを担当するのは、この2曲だけです。いきいきと躍動していく、ロックンロールの魅力が詰まった1曲。

 3曲目「Perfect World」は、R.E.M.のアルバムを手がけたことで知られるプロデューサー、スコット・リットによるプロデュース。この曲では、キーボードとヴァイオリンも弾いています。アコースティック・ギターのアルペジオと歌を中心にしながら、ヴァイオリンとキーボードが立体感をプラスしていくアンサンブル。

 4曲目「Johnny Feelgood」は、ブラッド・ウッドのプロデュース。イントロからシンセサイザーと思われる電子的なサウンドが使われていて、カントリーとオルタナティヴ・ロックが溶け合ったような、前作を彷彿とさせる1曲。多様な音が立体的に、賑やかにアンサンブルを構成していきます。ここから先は、ブラッド・ウッドとジェイソン・チャスコがほぼ半々の割合でプロデュースを担当。

 7曲目「Baby Got Going」は、ハーモニカによるブルージーな空気と、電子音と激しく歪んだギターによるオルタナティヴな空気が共存する1曲。プロデュースはスコット・リット。

 11曲目「Headache」は、打ち込みかシンセサイザーか、電子音を中心にアンサンブルが構成されていきます。息を吸い込んでから吐く音も使われ、ギターや鍵盤も綿密に組み上げられているようで、ポスト・プロダクションを強く感じる1曲。

 12曲目「Ride」は、馬が走るようなリズムを持った、疾走感のある1曲。ドラムとアコースティック・ギターが中心ですが、空間系のエフェクターを使ったエレキ・ギターがアクセントになり、カントリー風の音像に、オルタナティヴな空気をプラスしています。

 13曲目「What Makes You Happy」は、細かい音が降り注ぐイントロから始まり、立体的なアンサンブルが展開される1曲。再生時間0:45あたりからのコーラス部分で、一変するアレンジも、コントラストが鮮やか。

 前作よりも、ポストロック性、オルタナティヴ性は、やや控えめになり、ブルースやカントリーなどのルーツ・ミュージック色が濃くなったアルバムと言えますが、ただの焼き直しではなく、随所に現代的なアレンジが加えられ、古さは感じません。

 リズ・フェアの歌が中心にあるのは言うまでもありませんが、曲によってはオルタナ・カントリーと呼びたくなるサウンドを持っており、アレンジ面でも聴きどころの多いアルバムと言えます。

 





Liz Phair “Whip-Smart” / リズ・フェア『ウィップ・スマート』


Liz Phair “Whip-Smart”

リズ・フェア 『ウィップ・スマート』
発売: 1994年9月20日
レーベル: Matador (マタドール)
プロデュース: Brad Wood (ブラッド・ウッド)

 コネチカット州ニューヘイヴン生まれ、イリノイ州シカゴ育ちのシンガーソングライター、リズ・フェアの2ndアルバム。前作と同じく、ニューヨークのインディー・レーベル、マタドールからのリリースですが、前作の20万枚以上の大ヒットを受けて、本作はメジャーのアトランティック(Atlantic Records)がディストリビューションを担当。

 プロデュースは前作に引き続き、元シュリンプ・ボート(Shrimp Boat)のブラッド・ウッドが担当。

 ローファイ気味のざらついたサウンド・プロダクションと、無駄を削ぎ落としたアンサンブル。飾り気のない、むき出しの魅力があった前作『Exile In Guyville』と比較すると、凝ったサウンドも増え、洗練された印象の本作。

 1曲目「Chopsticks」は、ピアノの弾き語りを基本とした、穏やかなバラード。途中で挿入されるディストーション・ギターのロングトーンがアクセントになり、オルタナティヴな空気を演出。1曲目から、前作では聴かれなかったアプローチが垣間見えます。

 2曲目「Supernova」は、ワウの効いたギターを含め、各楽器が絡み合いながらグルーヴしていく、古き良きアメリカン・ロックを彷彿とさせる1曲。こちらも前作とは耳ざわりが異なる、カラフルなサウンド・プロダクションを持っています。

 3曲目「Support System」は、イントロからシンセサイザーの電子音と、クランチ気味の歯切れ良いギターが溶け合い、ゆるやかにグルーヴしていく1曲。

 6曲目「Nashville」は、空間系エフェクターの深くかかったギターがフィーチャーされた、サイケデリックな雰囲気を持った1曲。海のなかを漂うようなギター・サウンドと、金属的な響きのドラム、リズ・フェアのほどよくかすれた伸びやかなボーカルが溶け合います。

 10曲目はアルバム表題曲の「Whip-Smart」。表題曲だから、というわけでもないんでしょうが、個人的には本作のベスト・トラック。ドラッグ・シティかスリル・ジョッキーあたりの、シカゴのレーベルから出ていそうな質感の曲です。多種多様な音が組み合わせって、カラフルで立体的な、聴いていて楽しいアンサンブル。

 11曲目「Jealousy」は、ドラムが立体的に響き、トライバルな空気も漂う、躍動感あふれる1曲。10曲目の「Whip-Smart」に続いて、個人的に大好きな部類のサウンドとアンサンブルです。

 アレンジもサウンドもシンプルだった前作に比べて、アレンジの幅が広がり、サウンドも鮮やかになった今作。前述したとおり、前作から引き続き、ブラッド・ウッドがプロデュースを担当しています。後にザ・シー・アンド・ケイク(The Sea and Cake)を結成するサム・プレコップとエリック・クラリッジも在籍していた、シュリンプ・ボートのメンバーだったブラッド・ウッド。

 そんな予備情報から、プロデューサーとしての仕事でも、シカゴ音響派的なサウンドを期待してしまいましたが、前作『Exile In Guyville』は、ローファイ風の音作りで、いわゆる音響派の音作りとは異質なものでした。しかし、彼の本領発揮と言うべきなのか、本作ではポストロックを感じさせる多彩なサウンド・プロダクションが実現しています。

 どちらが優れた作品か、というより、どちらを自分は好むのか、という問題ですが、個人的には無駄を削ぎ落とし、歌の魅力がダイレクトに伝わる前作の方が、アルバムとしては好み。

 とはいえ、アルバム表題曲の「Whip-Smart」を筆頭に、サウンドだけを抜き出せば、本作の方が好きです。ただ、リズ・フェアは歌が主軸の人だと思うので、歌の魅力が前面に出ているのは前作かなと。

 正直、リズ・フェアは1st以外ほとんど聴いたことなかったんですけど、この2ndに関してはポストロックを感じる部分もあって、ものすごく良くて驚きました。

 





Liz Phair “Exile In Guyville” / リズ・フェア『エグザイル・イン・ガイヴィル』


Liz Phair “Exile In Guyville”

リズ・フェア 『エグザイル・イン・ガイヴィル』
発売: 1993年6月22日
レーベル: Matador (マタドール)
プロデュース: Brad Wood (ブラッド・ウッド)

 コネチカット州ニューヘイヴン生まれ、イリノイ州シカゴ育ちのシンガーソングライター、リズ・フェアのデビュー・アルバム。

 1990年にオハイオ州にあるオーバリン大学を卒業した後、サンフランシスコで音楽活動を開始。その後、地元シカゴに戻り、 ガーリー・サウンド(Girly Sound)名義で、何本かのデモテープを自主リリース。デモテープがきっかけとなり、ニューヨークの名門インディー・レーベル、マタドールと契約してリリースされたのが本作『Exile In Guyville』です。

 大学卒業後から本格的に音楽活動を始めたこともあり、本作をリリースする1993年の時点で、リズ・フェアは26歳。10代でデビューすることも珍しくないインディーズ・シーンにおいて、やや遅いデビューと言えます。

 プロデューサーを担当するのは、ザ・シー・アンド・ケイク(The Sea And Cake)の前進となったバンド、シュリンプ・ボート(Shrimp Boat)ドラマーでもあった、ブラッド・ウッド。プロデュースだけでなく、ベース、ドラム、オルガンなどでミュージシャンとしてもレコーディングに参加しています。

 アルバムのタイトルにある「Guyville」とは一般的な辞書には載っていないので、「guy」と「ville」を合わせた造語でしょう。全体としては「男の国の亡命者」といった意味でしょうか。

 アルバムのタイトルも象徴的ですが、赤裸々な歌詞も本作の大きな魅力。1曲目の「6’1″」は、歌詞にも「six-feet-one」と出てきますが、身長を表しているようです。「5フィート1インチ(約158cm)の代わりに、6フィート1インチ(約185cm)で、立ち尽くしてる」と歌われていますが、男性に対して、性別で私をナメるな、というメッセージのように感じられます。サウンドとアレンジも、飾り気のないシンプルなもので、良い意味でのインディー感、オルタナティヴ感が充満しています。

 アルバム全体をとおして、ハードな轟音ギターが出てくるわけではなく、むしろローファイ感のあるサウンド・プロダクションを持った作品です。しかし、オーバー・プロデュースでない、むき出しのサウンドが、彼女の言葉とクールでややざらついた声とマッチしていて、歌の魅力がよりダイレクトに伝わるのではないでしょうか。

 また、音数を絞り、無駄を削ぎ落としながら、ゆるやかに躍動するバンド・アンサンブルも魅力的。ほのかにアメリカのルーツ・ミュージックの香りが漂い、アルバムに奥行きを与えています。

 マタドールから3枚のアルバムをリリースした後、メジャー・レーベルのキャピトル(Capitol)に移籍するリズ・フェア。メジャーが無条件にダメとは思いませんが、やっぱり個人的にはこの1stアルバムが好き。

 自分の好みもありますが、1stアルバムらしい虚飾のない魅力があって、彼女の作品の中で、最も歌の強度を感じます。ちなみに1994年の春までに20万枚以上を売り上げ、インディーズとしては異例の大ヒットとなったアルバムでもあります。