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Treepeople “Actual Re-Enactment” / トゥリーピープル『アクチュアル・リイナクトメント』


Treepeople “Actual Re-Enactment”

トゥリーピープル 『アクチュアル・リイナクトメント』
発売: 1994年4月13日
レーベル: C/Z (シー・ズィー)
プロデュース: John Goodmanson (ジョン・グッドマンソン)

 アイダホ州ボイシ出身のロックバンド、トゥリーピープルの3rdアルバムであり、最後のアルバム。

 前作『Just Kidding』から、ビルト・トゥ・スピル(Built To Spill)での活動に専念するため、ギターのダグ・マーシュ(Doug Martsch)が脱退。さらに、ベースのトニー・リード(Tony Reed)も脱退し、前作からはメンバー2名が交代。結局、本作『Actual Re-Enactment』を最後のアルバムとし、トゥリーピープルは解散してしまいます。

 「ビルト・トゥ・スピルのダグ・マーシュが在籍していた」という文脈で、語られることも多いトゥリーピープル。しかし、前述のとおり、ダグ・マーシュは既に脱退し、本作には参加していません。

 シアトルに拠点を置くレーベルのC/Zから、1994年のリリースということで、グランジの影響も感じられる、ハードでざらついた音像。しかし、例えばメジャー・デビュー以降のニルヴァーナの音質と比べると、トゥリーピープルには程よくテープが伸びたようなローファイ感があり、グランジ真っ只中のサウンドというわけではありません。

 スコット・シュマルジョン(Scott Schmaljohn)による、今でなら「エモ」と呼ばれそうな、伸びやかでメロディアスなボーカルも、気だるさや苛立ちを吐き出すようなシャウトを特徴とするグランジとは、一線を画していると言って良いでしょう。

 シアトル出身ではなく、ロッキー山脈がそびえる内陸のアイダホ州出身であるという距離感が、シアトルのシーンから若干の距離を置き、時代に迎合しすぎない音楽を育むことになったのかもしれません。

 アルバムの幕を開ける1曲目の「Wha’d I Mean To Think You Said」は、チープな音質のドラムが、ゆったりとリズムを刻み、スタート。その後2本のギターが絡み合いながら、堰を切ったように疾走感のあるアンサンブルが展開されます。この、さりげない始まり方と、ややローファイとジャンク風味のあるサウンドが、非メジャー的で実に魅力的に響きます。

 2曲目「Feed Me」は、太く歪んだサウンドで、うねるようなフレーズを応酬し合う2本のギターに、シャウト気味のボーカルが重なる、エモコア色のある1曲。

 3曲目「Slept Through Mine」は、各楽器が組み合って、一体感のあるバンド・アンサンブルを作り上げる1曲。アームを使用しているのか、エフェクターで変化させているのか、音程が歪むように動くギターが、アヴァンギャルドな雰囲気をプラス。

 4曲目「Heinz Von Foerster」は、ギターが軽快に弾むようなフレーズを繰り出していく、ギター・ポップ色の濃い1曲。しかし、ギター・ポップと呼ぶには、やや下品でチープなギターの音色がまた魅力です。

 6曲目「Liver Vs. Heart」は、感情が吹き出したかのようなギターを中心に、前のめりに突っ走る1曲。

 9曲目「Low」は、アコースティック・ギターとクリーントーンのエレキ・ギターが用いられた、ミドル・テンポのメロウな1曲。リズム隊も含めて、各楽器が分離して聞こえる、立体感のあるアンサンブルが展開されます。

 11曲目「Too Long」は、小刻みに回転するようなリズムが耳を掴む、各楽器がガッチリと組み合い、躍動的なアンサンブルが繰り広げられる1曲。ボーカルはみずみずしく伸びやかで、メロディーを際立たせ、楽曲をカラフルに彩っています。

 グランジ、オルタナ、ローファイを絶妙にブレンドしたサウンドが鳴り響く本作。アルバムを通して聴くと、特にギターの活躍が耳を引きます。

 音作りは歪み一辺倒というわけではなく、同じ歪みにしてもジャンクで下品なサウンドから、中音域の豊かな伸びやかなサウンドまで、実に多彩。フレーズも、バンドの推進力となるべく、グイグイと引っ張っていくものが多く、ボーカルよりも前に出てくることすらあります。

 アンサンブル全体もコンパクトにまとまり、これがラスト・アルバムであるというのが、残念な完成度です。





Treepeople “Just Kidding” / トゥリーピープル『ジャスト・キディング』


Treepeople “Just Kidding”

トゥリーピープル 『ジャスト・キディング』
発売: 1993年3月15日
レーベル: C/Z (シー・ズィー)
プロデュース: John Goodmanson (ジョン・グッドマンソン)

 アイダホ州ボイシ出身のロックバンド、トゥリーピープル2枚目のスタジオ・アルバム。

 1stアルバムを、1991年発売の『Guilt Regret Embarrassment』として、2枚目のアルバムと書きましたが、1989年には『No Mouth Pipetting』というカセット・テープ、1992年には新録音源と1990年リリースのミニ・アルバムを併せたコンピレーション盤『Something Vicious For Tomorrow / Time Whore』をリリースしています。

 ビルト・トゥ・スピル(Built To Spill)での活動でも知られる、ダグ・マーシュ(Doug Martsch)も在籍していたこのバンド。泣きのメロディーと、爽やかなコーラスワークが前面に出たビルト・トゥ・スピルと比較すると、トゥリーピープルの方が、よりオルタナティヴ・ロック寄りのハードな音像を持っています。

 ダグ・マーシュ以外のメンバーはかぶっていないので、単純な比較はできませんが、この二つのバンドには共通点もあり、本作でも流麗なメロディーと、ギターを中心にした立体的で厚みのあるアンサンブルが展開。

 1曲目の「Today」では、うなりを上げるようなギターのフレーズと、エモーショナルで音の動きの多いボーカルのメロディー・ラインが、絡み合って進行。ギターがボーカルに負けず劣らず、歌心を持っているところが、このバンドの魅力のひとつです。

 4曲目「Ballard Bitter」は、小刻みに、前のめりにリズムが刻まれる1曲。特にテンポが速いわけではありませんが、叩きつけるようなリズムが、フックとなってリスナーの耳を掴み、疾走感が生まれています。

 5曲目「Clouds And Faces」は、やや下品に歪んだギターがグイグイと曲を引っ張る、疾走感のある1曲。ねじれのあるフレーズも良いです。

 6曲目「Fishbasket」も、テンポが速く、疾走感の溢れる1曲。タイトなリズムで、音符が前のめりにギッシリ詰まっています。

 9曲目「Neil’s Down」は、ギターが高音域を用いたノイジーなフレーズを繰り出し、ボーカルもパンク色の濃いパワフルな歌唱で応える、躍動的な1曲。

 アイダホ出身のバンドではありますが、シアトルのC/Zからのリリース、グランジ旋風吹き荒れる1990年代前半の作品ということで、オルタナティヴ・ロックおよびグランジの香りが漂います。実際、多かれ少なかれ、シアトルを中心に広がっていった、オルタナおよびグランジ・ブームの影響も受けているのでしょう。

 ほどよくジャンクで、メジャー的に作りこまれていないギターの音色に、メロディアスなボーカルが重なり、若者の心を揺さぶる要素は十分。話をジャンル名に矮小化するのは良くありませんが、このあたりのサウンド・プロダクションとアレンジも、まさにオルタナ的です。





Bikini Kill “Reject All American” / ビキニ・キル『リジェクト・オール・アメリカン』


Bikini Kill “Reject All American”

ビキニ・キル 『リジェクト・オール・アメリカン』
発売: 1996年4月5日
レーベル: Kill Rock Stars (キル・ロック・スターズ)
プロデュース: John Goodmanson (ジョン・グッドマンソン)

 ワシントン州オリンピアで結成された、女性3人、男性1人の4人組パンク・ロック・バンド、ビキニ・キルの2ndアルバム。

 思わず「初期衝動」という言葉を使いたくなってしまうほど、荒々しく、感情むき出しの魅力に溢れた1stアルバム『Pussy Whipped』。そんな前作と比較すると、サウンドの面でも、アンサンブルの面でも、洗練された2作目と言えます。

 「洗練」と書くと、音がおとなしくなったという印象を与えるかもしれませんが、疾走感と激しさは変わらずに持っています。カセット一発録りのようなラフな音質と演奏の前作と比べると、サウンドはよりダイナミックに、演奏はよりタイトになった、ということ。

 1曲目「Statement Of Vindication」は、タイトに疾走感あふれる演奏が展開される1曲。サウンドは歪んだギターを中心に、前作のアグレッシヴさを引き継いでいます。しかし、演奏力が向上したぶん、良くも悪くも前作の方が荒々しく、そちらの方を好む方がいてもおかしくないとは思います。

 2曲目「Capri Pants」は、イントロのラフなギターと、叩きつけるようなドラムに導かれ、疾走感の溢れる演奏が繰り広げられます。

 5曲目「False Start」は、ギターの歪みは控えめに、各楽器が有機的に組み合っていく、アンサンブル志向の強い1曲。ややアンニュイなボーカルも、前作には無かった奥行きを与えています。

 6曲目「R.I.P.」は、ミドル・テンポに乗せて、ドラムを中心に立体的なアンサンブルが構成される1曲。回転するようなドラムと、そのドラムに絡みつくようなベースとギターのフレーズが、一体感と躍動感を生んでいきます。

 11曲目「Reject All American」は、鋭く歪んだギターが、アジテートするように曲を引っ張っていきます。テンポが特に速いわけではありませんが、ドライブ感のあるギターが疾走感を演出。

 サウンドは前作よりも輪郭がはっきりとしていて、高音と低音のレンジも広く、パワフル。演奏もタイトにまとまり、確実に前作からテクニックの向上がわかります。

 演奏面もサウンド・プロダクションも、基本的には前作より向上していると言って良いアルバムですが、荒削りな前作の方が好き、という方もいらっしゃると思います。

 本作がリリースされた翌年の1997年に、ビキニ・キルは解散。本作が2ndアルバムにして、ラスト・アルバムとなってしまいました。