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Bikini Kill “Reject All American” / ビキニ・キル『リジェクト・オール・アメリカン』


Bikini Kill “Reject All American”

ビキニ・キル 『リジェクト・オール・アメリカン』
発売: 1996年4月5日
レーベル: Kill Rock Stars (キル・ロック・スターズ)
プロデュース: John Goodmanson (ジョン・グッドマンソン)

 ワシントン州オリンピアで結成された、女性3人、男性1人の4人組パンク・ロック・バンド、ビキニ・キルの2ndアルバム。

 思わず「初期衝動」という言葉を使いたくなってしまうほど、荒々しく、感情むき出しの魅力に溢れた1stアルバム『Pussy Whipped』。そんな前作と比較すると、サウンドの面でも、アンサンブルの面でも、洗練された2作目と言えます。

 「洗練」と書くと、音がおとなしくなったという印象を与えるかもしれませんが、疾走感と激しさは変わらずに持っています。カセット一発録りのようなラフな音質と演奏の前作と比べると、サウンドはよりダイナミックに、演奏はよりタイトになった、ということ。

 1曲目「Statement Of Vindication」は、タイトに疾走感あふれる演奏が展開される1曲。サウンドは歪んだギターを中心に、前作のアグレッシヴさを引き継いでいます。しかし、演奏力が向上したぶん、良くも悪くも前作の方が荒々しく、そちらの方を好む方がいてもおかしくないとは思います。

 2曲目「Capri Pants」は、イントロのラフなギターと、叩きつけるようなドラムに導かれ、疾走感の溢れる演奏が繰り広げられます。

 5曲目「False Start」は、ギターの歪みは控えめに、各楽器が有機的に組み合っていく、アンサンブル志向の強い1曲。ややアンニュイなボーカルも、前作には無かった奥行きを与えています。

 6曲目「R.I.P.」は、ミドル・テンポに乗せて、ドラムを中心に立体的なアンサンブルが構成される1曲。回転するようなドラムと、そのドラムに絡みつくようなベースとギターのフレーズが、一体感と躍動感を生んでいきます。

 11曲目「Reject All American」は、鋭く歪んだギターが、アジテートするように曲を引っ張っていきます。テンポが特に速いわけではありませんが、ドライブ感のあるギターが疾走感を演出。

 サウンドは前作よりも輪郭がはっきりとしていて、高音と低音のレンジも広く、パワフル。演奏もタイトにまとまり、確実に前作からテクニックの向上がわかります。

 演奏面もサウンド・プロダクションも、基本的には前作より向上していると言って良いアルバムですが、荒削りな前作の方が好き、という方もいらっしゃると思います。

 本作がリリースされた翌年の1997年に、ビキニ・キルは解散。本作が2ndアルバムにして、ラスト・アルバムとなってしまいました。

 





Bikini Kill “Pussy Whipped” / ビキニ・キル『プッシー・ホイップド』


Bikini Kill “Pussy Whipped”

ビキニ・キル 『プッシー・ホイップド』
発売: 1993年10月26日
レーベル: Kill Rock Stars (キル・ロック・スターズ)
プロデュース: Stuart Hallerman (スチュアート・ハラーマン)

 1990年にワシントン州オリンピアで結成された、女性3人、男性1人からなる、4人組のパンク・ロック・バンド、ビキニ・キルの1stアルバム。

 レーベルを通してリリースされるアルバムとしては1作目ですが、本作の前にはカセットで『Revolution Girl Style Now』という作品をセルフ・リリース。また、6曲入りのEP『Bikini Kill』と、イギリス出身のパンク・バンド、ハギー・ベア(Huggy Bear)とのスプリット・アルバム『Yeah Yeah Yeah Yeah』もリリースしており、この2枚は『The C.D. Version Of The First Two Records』として、1994年にCD化されています。

 1990年代にオリンピアで起こったライオット・ガール(Riot grrrl)と呼ばれるムーヴメント。歌詞にはフェミニズム思想を持ち、音楽的にはハードコア・パンクからの影響が色濃い、このムーヴメントの中心的なバンドのひとつがビキニ・キルです。

 また、本作をリリースしたキル・ロック・スターズも、ライオット・ガールを牽引したレーベルとして、知られています。

 エモーションを爆発させたようなロック・ミュージックを形容するときに、「初期衝動」という言葉が用いられることがあります。どんな場面で使われる言葉なのか簡単に説明すると、テクニックや構造よりも感情を優先し、とにかく音楽がしたい!という思いを、そのまま音にしているかのような演奏を、「初期衝動で突っ走る」と表現します。

 ビキニ・キル1作目のアルバムとなる本作『Pussy Whipped』は、まさに初期衝動がそのままパッケージされたかのような1作と言えます。男性優位主義の社会に対しての怒りや苛立ちが、荒々しいサウンドに乗せて、閉じ込められた作品です。

 音楽的には、ハードコア・パンクのスピード感と、ガレージ・ロックの荒削りなサウンドからの影響が強く、ラフでパワフルな演奏が展開されています。

 1曲目の「Blood One」は、激しく歪んだベースとギターに、やや軽めの「パスっ」といった感じにレコーディングされたドラム。荒々しいサウンドとアンサンブルに、エモーションが暴発したようなボーカルが乗る、疾走感あふれる1曲。

 4曲目「Speed Heart」は、ややテンポを落とし、ボーカルも感情を押し殺したように抑え目。相対的に、ギターのジャンクな歪みが前面に出ています。しかし、再生時間0:43あたりから一気に加速し、そのまま暴走するように最後まで駆け抜けます。

 5曲目「Li’l Red」は、イントロから、耳をつんざくようにうるさいギターが、うねるようにフレーズを弾き、ボーカルもギターに絡みつくように、疾走していきます。

 7曲目「Sugar」は、低音域を強調したドラムがパワフルに鳴り響き、その上にギターとベースが乗り、厚みのあるサウンドを生み出していきます。リズムの荒々しさ、ドタバタ感がリスナーをアジテートする1曲。

 8曲目「Star Bellied Boy」は、全体的に押しつぶされたようなサウンドを持った1曲。シャウトと押さえ気味の歌唱を織り交ぜたボーカルが、緊張感を演出します。言葉で説明すると陳腐になりますが、本当にボーカルはブチギレ気味で、恐ろしいほどエモーショナル。

 9曲目「Hamster Baby」は、イントロのフィードバックに導かれ、テンションの高い、荒々しい演奏が展開される1曲。高音シャウトを駆使したボーカルも、耳にうるさく、楽曲にさらなる攻撃性をプラスしています。

 10曲目「Rebel Girl」は、印象的なドラムのリズムから始まり、ギターとベースの厚みのあるサウンドが後を追います。ボーカルのメロディーとコーラスワークからは、アンセム感が漂う名曲。このアルバムのベスト・トラックであり、ライオット・ガールを象徴する1曲です。サビのコーラスをはじめ、当時の空気感と、彼女たちのエモーションが充満していて、とにかくかっこいいので、是非とも聴いて欲しい!

 ちなみに、同じワシントン州出身のニルヴァーナ(Nirvana)とビキニ・キルのメンバーは、80年代から交流があり、ドラムのトビ・ヴェイル(Tobi Vail)とカート・コバーン、ボーカルのキャスリーン・ハンナ(Kathleen Hanna)とデイヴ・グロールは、付き合っていたことがあります。

 トビは、当時ティーン・スピリット(Teen Spirit)というデオドラントを使用。ハンナが、トビとカートを揶揄するため、カートの部屋の壁にスプレーで「Kurt smells teen spirit」(カートはティーン・スピリットの香りがする)と落書きをしたことが、ニルヴァーナの名曲「Smells Like Teen Spirit」のタイトルの由来となりました。