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Dwarves “Come Clean” / ドワーヴス『カム・クリーン』


Dwarves “Come Clean”

ドワーヴス 『カム・クリーン』
発売: 2000年3月7日
レーベル: Epitaph (エピタフ)
プロデュース: Eric Valentine (エリック・ヴァレンタイン)

 イリノイ州シカゴ出身のバンド、ドワーヴスの通算6枚目となるスタジオ・アルバム。パンクの名門レーベル、エピタフからのリリース。

 パンク系レーベルからのリリースということで、特に1曲目の「How It’s Done」では、爽やかなコーラスワークが響きわたり、メロコア色が濃いアルバムなのではと感じさせます。

 しかし、アルバム全体をとおして聴いてみると、彼ら得意のジャンク感とアングラ感は健在。やっぱり芯の部分は変わっていないのだなと、安心させてくれます。むしろ、前作『The Dwarves Are Young And Good Looking』の方が、メロコア色がストレートに出ていました。

 ジャンクなガレージ・バンドとしてスタートしたドワーヴス。アルバムごとに、徐々に音楽性の幅を広げるプロセスで、洗練性を優先したのが前作、そして本来彼らが持つアングラ性を、洗練されたサウンドに織り交ぜたのは本作、と言えるのではないかと思います。

 1曲目「How It’s Done」は、前述のとおりメロコア色の強い1曲。ドワーヴスらしからぬシングアロングしやすい流麗なメロディーと、縦に広がりのあるコーラスワークが展開。ボーカルの歌唱も伸びやかで、本当にドワーヴスなのかと不安になってくるぐらいです(笑)

 2曲目「River City」は、ギターもボーカルも勢いに任せて疾走していく、ドワーヴスらしい1曲。曲の後半には、女性のセクシーな声がサンプリングされていて、この手の遊び心も実にドワーヴスらしいです。

 3曲目「Over You」は、タイトに細かくリズムが刻まれる1曲。Aメロ部分とサビ部分では、リズムもメロディーも対称的。リズムもメロディーも淡々として控えめなAメロが、オープンで起伏の大きいサビを、よりいっそう際立たせています。

 5曲目「Come Where The Flavor Is」は、立体的でアンサンブル重視のロックン・ロール。ギターが前面に出たアレンジには、かっこいいと感じるフックが無数にあります。イントロで聞こえるヴォコーダーを用いや声、再生時間1:15あたりからのギターソロの裏返りそうな音色など、パワフルなロックに地下感を加えるアレンジが随所にあり、楽曲をカラフルに彩っています。

 6曲目「Deadly Eye」は、基本的には前のめりに突っ走る曲でありながら、随所に足がひっかかったように減速する部分があり、コントラストを生んでいます。

 7曲目「Better Be Women」は、メロコア色の濃い、爽やかな1曲。開放的なボーカルのメロディーに、パワーコードを繰り出すギター、タイトなリズム隊が、疾走感あふれる演奏を展開します。しかし、この曲でも2曲目「River City」に続いて、女性のセクシーな声がサンプリングされていて、ただ爽やかな楽曲では終わりません。

 8曲目「I Want You To Die」は、ファットに歪んだベースのイントロから始まり、感情が吹き出すように、凄まじいテンションでバンド全体が駆け抜けていく、1分弱の曲。

 10曲目「Accelerator」は、曲名のとおりアクセルを踏み込んでいくような、疾走感のある1曲。特にアームを用いているのか、ギターのギュイーンと揺らめく音程が、ますます疾走感を演出しています。

 前作に続いて、パンクの名門エピタフからリリースされた本作。音圧が高く、現代パンク的な音像は、前作と共通していますが、アレンジ面では前作よりもアングラ臭を感じる部分が増加しています。

 初期のジャンクな魅力と、現代的なパワフルな音像が合わさり、理想的なバランスで完成されたアルバムと言ってよいでしょう。

 





Dwarves “The Dwarves Are Young And Good Looking” / ドワーヴス『ドゥワーヴス・アー・ヤング&グッド・ルッキング』


Dwarves “The Dwarves Are Young And Good Looking”

ドワーヴス 『ドゥワーヴス・アー・ヤング&グッド・ルッキング』
発売: 1997年3月24日
レーベル: Epitaph (エピタフ), Recess (リセス), Theologian (シオロジアン)
プロデュース: Bradley Cook (ブラッドリー・クック), Eric Valentine (エリック・ヴァレンタイン)

 イリノイ州シカゴ出身のバンド、ドワーヴスの5thアルバム。

 2ndアルバムから4thアルバムまでの3枚は、サブ・ポップからリリースしていたドワーヴス。5作目となる本作ではサブ・ポップを離れ、1997年3月にリセス・レコードから発売。その後、同年のうちにパンク系のレーベル、シオロジアンとエピタフからもリリース。

 レーベルの移籍が、音楽性にどの程度の影響を与えるか、という問いに対しては「場合による」としか答えられません。しかし、レーベルの変更という予備知識を抜きにしても、前作から比較して異なった部分があるのは事実です。

 ジャンクなサウンドを持ったガレージ・バンドとしてスタートしたドワーヴス。初期のアングラ臭の充満したサウンドと比較すると、サウンドは音圧が高くパワフルに、アンサンブルもタイトかつ多彩に洗練されています。

 1曲目の「Unrepentant」は、ゆったりとしたテンポで始まり、再生時間0:45あたりでの加速と同時に、音数も増え、コントラストがはっきりした展開。テンポと音数の鮮やかな切り替えによって、曲のダイナミズムを広げています。

 2曲目「We Must Have Blood」は、叩きつけるような躍動的なリズムに乗せて、歪んだギターとシャウト気味のボーカルが、マグマが噴出するようにフレーズを繰り出す1曲。

 3曲目「I Will Deny」は、ベースのメロディアスなイントロに導かれ、バンド全体が前のめりに疾走していきます。ボーカルはシングアロングが起こりそうなポップさで、メロコア色の濃い1曲。

 9曲目「One Time Only」は、サウンドもメロディーも、爽やかなポップ・パンクのような、疾走感に溢れた曲。

 12曲目「You Gotta Burn」は、アルバムの世界観とは異なる、ダンディーなボーカルと、糸を引くような余裕を持ったリズムが印象的なミドルテンポの1曲。しかし、激しく歪んだギターの音色と、フリーなフレーズからはアングラ臭も漂い、初期のドワーヴスらしさも感じられます。

 エピタフからのリリースという先入観を抜きにしても、メロコア色の濃い、疾走感あふれる曲が多いアルバムです。サウンド面でも、前作から比較しても音圧が高まり、現代的なパンクらしい音になったと言えるでしょう。

 個人的には初期の下品なサウンドの方が好みですが、一般的にはアレンジの面でもサウンドの面でも、洗練され、向上した1作です。

 





Dwarves “Sugarfix” / ドワーヴス『シュガーフィックス』


Dwarves “Sugarfix”

ドワーヴス 『シュガーフィックス』
発売: 1993年7月
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Bradley Cook (ブラッドリー・クック)

 イリノイ州シカゴ出身のバンド、ドワーヴスの4thアルバム。1993年にリリースされ、その後1999年に本作『Sugarfix』と、前作『Thank Heaven For Little Girls』を、1枚に収めたコンピレーション盤が発売。2018年8月現在、各種サブスクリプション・サービスでも、こちらのコンピ盤が配信されています。

 ちなみに1993年のリリース当初、ソニー(Sony Records)から日本盤が発売されており、『架空黙示録』という邦題が付けられ、バンド名のカタカナ表記は「ドゥウォウヴス」となっていました。さらに、各曲にも邦題が付けられ、例えば4曲目の「Lies」は「嘘まみれ」、7曲目の「Action Man」は「異次元の異端児」、10曲目の「Underworld」は「地下遊戯」などなど。

 最近では洋楽でも映画でも、すっかり減った邦題の文化。なんでそんなタイトル付けた!?というのも多く、大人が会議室で頭をひねって考えたのかと思うと、微笑ましくも思えます。

 音楽の内容へ話を移すと、前作から2年ぶりにリリースされた本作。レコーディング技術の進歩なのか、あるいはプロデューサーを務めたブラッドリー・クックの手腕によるものなのか、前作から比較すると、格段にサウンドの輪郭がクッキリとし、音圧も高まっています。

 結成当初は、ガレージ・ロック色の強い、シンプルで勢い重視の音楽を志向していたドワーヴス。アルバムを追うごとにアレンジの洗練度が増し、4作目となる本作では、より多彩なアンサンブルが展開されています。

 例えば1曲目の「Anybody Out There」では、ギターのイントロから始まり、各楽器がタイトに絡み合い、アンサンブルを構成。勢いだけではなく、機能的に練り込まれたアレンジです。ボーカルのアクが強いのは相変わらずですが、エフェクト処理をなされているのか、コーラスのエフェクターを用いたような厚みと広がりのサウンドで、楽器の中に声が溶け込んでいます。

 2曲目「Evil Primeval」では、イントロにジャングルの中の鳥の鳴き声がサンプリングされ、新たなアプローチを感じさせます。その後は、シンプルなリズム隊の上に、クセのあるボーカルと、ワウを使ったジャンクなギターが乗り、アングラ臭を伴った演奏が展開。ちなみに邦題は「邪悪な烙印」。

 3曲目「Reputation」は、直線的なリズムに乗って、ノリが良く疾走感に溢れた演奏が繰り広げられる1曲。

 6曲目「New Orleans」は、前のめり刻まれるリズムを持った、疾走感のある1分弱の短い1曲。タイトなドラムと、厚みのある歪んだギターによるコード弾きが推進力となり、曲を前進させていきます。

 11曲目「Wish That I Was Dead」では、イントロに牧師の説教らしく声がサンプリングされています。ギターのコード・ストロークが波のように躍動し、ゆらぎのあるアンサンブルが展開。

 サブ・ポップでの1作目となる2ndアルバム『Blood Guts & Pussy』から比較すると、アレンジ面でも、サウンド・プロダクションの面でも、洗練されているのは間違いありません。

 ただテンポを速めたり、手数を増やすのではなく、異なったリズムやフレーズの組み合わせで、疾走感や盛り上がりを演出する手法は、確実に向上しています。

 ドワーヴスは本作を最後にサブ・ポップを離れ、次作『The Dwarves Are Young And Good Looking』から、パンク系のレーベル、シオロジアン・レコード(Theologian Records)、さらにパンクの名門エピタフ(Epitaph)へと移籍。さらなる音楽性の変化を遂げます。





Dwarves “Thank Heaven For Little Girls” / ドワーヴス『サンク・ヘヴン・フォー・リトル・ガールズ』


Dwarves “Thank Heaven For Little Girls”

ドワーヴス 『サンク・ヘヴン・フォー・リトル・ガールズ』
発売: 1991年11月1日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Mr. Colson (ミスター・コルソン)

 イリノイ州シカゴ出身のバンド、ドワーヴスの1991年にリリースされた3rdアルバム。1999年には、本作と次作『Sugarfix』を1枚に収めたコンピレーション盤が発売。2018年8月現在、各種サブスクリプション・サービスでも、1999年発のコンピ盤が配信されています。

 ざらついたサウンドと疾走感あふれるアレンジが前面に出た、ガレージ・ロック色の濃い前作『Blood Guts & Pussy』と比較すると、よりアレンジの幅が広がった本作。前作も、ただ直線的なリズムで走るだけではなく、随所にフックとなるアレンジが施されていましたが、本作ではさらに凝ったアレンジが増加しています。

 同時に、悪ノリとも言える、おどろおどろしいサウンドや歌詞は全く損なわれておらず、ノイズ・ロック的な一面を好む方にも、受け入れられるアルバムです。

 1曲目の「Satan」では、イントロにオルガンが用いられ、サウンド面でも広がりを見せています。しかし、ヴォーコーダーを用いたらしい、悪魔のうめき声のようなコーラスも入っており、アングラ臭も漂う1曲です。

 4曲目「Blood Brothers Revenge」は、細かくリズムが刻まれる、テンポの速い1曲ですが、スライド・ギターが楽曲に滑らかさをプラス。ハードコア一辺倒にはならず、ポップなテイストも感じられる曲に仕上がっています。

 5曲目「Blag The Ripper」は、硬質なベースと、激しく歪んだギター、立体的なドラムが絡み合い、アンサンブルが展開されます。スピード重視の疾走感よりも、コントラストとグルーヴ感を重視した曲。ムチで叩く音や、悲鳴のような声が、奥の方で鳴り響き、アングラ感もプラス。

 10曲目「Three Seconds」は、各楽器が一体感を持って疾走する、テンポが速く、コンパクトにまとまったパンク・チューン。「カチカチ」という時限爆弾のカウント音のようなイントロから、ラストまで1分ほど。イントロとラストのサウンドにも、このバンドらしい遊び心があります。

 11曲目「Fuck Around」は、厚みのある歪むのギターと、メロディアスなボーカルが前面に出た、ポップでメロコア色の濃い1曲。ノリの良いリズムと、爽やかなコーラスワークからは、カントリーの香りも漂います。

 パンクを下敷きにしながら、曲によってはハードコア色が濃く、曲によってはメロコア色が濃く、といった具合に多彩な曲が収録された1作。

 疾走感の点では、前作の方が上回りますが、楽曲とアレンジの多彩は、本作の方が確実に上回っています。このバンド得意の悪趣味なサウンドやアレンジも散りばめられ、良い点は失わずに、音楽性の幅を広げたと言えるでしょう。





Dwarves “Blood Guts & Pussy” / ドワーヴス『ブラッド・ガッツ・アンド・プッシー』


Dwarves “Blood Guts & Pussy”

ドワーヴス 『ブラッド・ガッツ・アンド・プッシー』
発売: 1990年1月1日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Jack Endino (ジャック・エンディーノ (エンディノ))

 イリノイ州シカゴで結成されたバンド、ドワーヴスの2ndアルバム。1986年の前作『Horror Stories』は、ロサンゼルス拠点のボンプ・レコード(Bomp! Records)傘下のレーベル、ヴォックス・レコード(Voxx Records)からのリリースでしたが、本作からシアトルの名門サブ・ポップへ移籍しています。グランジ・ブームの真っ只中で、多くのバンドを手がけたジャック・エンディーノが、エンジニアを担当。

 ジャンルとしてはガレージ・ロックやハードコア・パンクに分類されるドワーヴス。とにかく勢い重視の演奏と、下品なサウンド・プロダクションが彼らの魅力です。本作も12曲収録ながら、収録時間は13分台という、文字通り勢いで突っ走るアルバム。ガレージ風のシンプルなロックを基本に、時に楽曲のなかで加速しながら走り抜けていきます。

 収録時間がとても短く、全てのトラックが1分程度。しかし、めちゃくちゃにテンポが速いというわけでも、直線的にリズムを刻み続けるわけでもなく、思いのほかアレンジが練り込まれ、コンパクトにまとまったロックンロールが、一貫して鳴らされています。

 ガレージ・ロック的な、ざらついた音像と疾走感を持ち、ボーカルのクセのある歌い方からは、アングラ感が漂います。アルバム全体を通して、ワルノリで押し切るようなところもあるのですが、前述のとおり単純に突っ走るだけでなく、アレンジが凝っていて、意外と真面目なのかな?と感じるところもあり。

 1曲目「Back Seat Of My Car」は、ギターのイントロを皮切りに、リズムが前のめりに走っていく、疾走感あふれる1曲。曲のラストには、車が衝突する音が入り、このバンドらしい遊び心も感じられます。

 2曲目「Detention Girl」は、イントロから前のめりに走っていきますが、再生時間0:37あたりのベースをスイッチにしてテンポを落とし、その後は段階的に再加速。緩急によって加速感を演出する1曲。

 5曲目「Skin Poppin’ Slut」は、毛羽立ったサウンドのギターを中心に、全ての楽器が塊となって転がるような、一体感と疾走感のあるアンサンブルが展開される1曲。

 6曲目「Fuck You Up And Get High」では、シンプルなリフと、シャウト気味のボーカルが、勢いに任せて走り抜けていきます。わずか40秒の曲ですが、演奏時間の短さ以上に、疾走感に溢れ、短い体感の1曲。

 11曲目「Astro Boy」では、ギターは激しく歪み、各弦の分離感のないだんご状のサウンド。リズム隊とも一丸となり、転がるように駆け抜ける演奏が展開されます。

 音も下品なら、ジャケットも下品。しかし、リズムやテンポの切り替えが随所にあり、思ったよりも演奏は練りこまれています。

 とはいえアングラ臭が充満しているのも事実で、音圧の高いハイファイなサウンドのマスロックやハードロックとは、一線を画する耳ざわり。ガレージで鳴らされた音をそのまま閉じ込めたかのような、生々しく歪んだ音で、塊感のあるアンサンブルを展開していく1作です。