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Kinski “Down Below It’s Chaos” / キンスキー『ダウン・ビロウ・イッツ・ケイオス』


Kinski “Down Below It’s Chaos”

キンスキー 『ダウン・ビロウ・イッツ・ケイオス』
発売: 2007年8月21日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Randall Dunn (ランドール・ダン)

 ワシントン州シアトル出身のポストロック・バンド、キンスキーの通算6枚目のスタジオ・アルバム。地元シアトルの名門、サブ・ポップからのリリースで、同レーベルからは3作目となります。

 実験性とロックのダイナミズムが同居しているのが、キンスキーの音楽の特徴。本作でも、ノイジーに荒れ狂うギターや、音響的なアプローチを散りばめながら、同時に疾走感あふれる演奏や、丁寧に編み上げたアンサンブルが、無理なく共存しています。

 1曲目「Crybaby Blowout」は、ギターの整然としたフレーズに、タイトなドラム、ロングトーンで隙間を埋めるベースが重なるイントロからスタート。徐々に音数が増え、それに比例して疾走感も増していきます。

 2曲目「Passwords & Alcohol」は、空間を広く使ったドラムを中心に、立体的なアンサンブルが構成される1曲。穏やかな曲想ですが、パワフルで躍動的な演奏が繰り広げられます。このバンドには珍しく、ボーカル入り。

 3曲目「Dayroom At Narita Int’l」は、ミドルテンポに乗せて、ゆったりと歩みを進めるようなグルーヴ感を持った1曲。前曲に続いて、この曲もボーカル入りです。

 4曲目「Boy, Was I Mad!」は、アンサンブルに隙間が多く、曲想も寂しげな前半から、ざらついた歪みのギターと、ドンドンとパワフルに打ちつけるドラムが加わり、疾走感あふれる後半へと展開する1曲。

 5曲目「Argentina Turner」は、引きずるような、スローテンポに乗せて、ゆったりとした躍動感のあるアンサンブルが展開する1曲。空間系エフェクターを用いた、みずみずしいクリーントーンのギターと、毛羽立った歪みのギターが溶け合い、色彩豊かなサウンドを作り上げています。

 6曲目「Child Had To Catch A Train」は、複数のディストーション・ギターを中心にした、タイトに躍動するロック・チューン。キーボードの音色が、60年代から70年代のオールドロックを彷彿とさせ、アクセントになっています。

 7曲目「Plan, Steal, Drive」。前半にはビートが無く、ギターの音が増殖していくような、音響的なアレンジ。音の中を泳ぐような、心地よいサウンド・プロダクションが続きますが、再生時間5:23あたりでドラムが入ってくると、今度はバックビートの効いた、躍動的な演奏へと一変します。

 8曲目「Punching Goodbye Out Front」は、ハードロック的なギターのイントロから始まり、パンキッシュに疾走する演奏が繰り広げられます。ボーカルが入り、キンスキーには珍しい、コンパクトな歌モノのロックです。

 9曲目「Silent Biker Type」は、ギターの音と電子音が漂う、不穏な空気でスタート。当初は音響を前景化したエレクトロニカ的なアプローチですが、再生時間2:32あたりでドラムが入ってきてからは、徐々にロック的なグルーヴが生まれていきます。

 ボーカル入りの曲が、3曲収録されているのも示唆的ですが、キンスキーの作品の中でも、構造のはっきりした曲が多く、聴きやすい1作です。

 しかし、サイケデリック・ロックやクラウトロックの影響を感じさせる要素も残っており、構造をわかりやすく単純化した作品というわけではありません。彼らの持つ実験性とダイナミズムが、バランス良く表出した作品と言えるでしょう。





Pinback “Autumn Of The Seraphs” / ピンバック『オータム・オブ・ザ・セラフス』


Pinback “Autumn Of The Seraphs”

ピンバック 『オータム・オブ・ザ・セラフス』
発売: 2007年9月11日
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)

 カリフォルニア州サンディエゴ出身。ザック・スミス(Zach Smith)ことアーミステッド・バーウェル・スミス4世(Armistead Burwell Smith IV)と、ロブ・クロウ(Rob Crow)からなるバンド、ピンバックの4thアルバム。前作『Summer In Abaddon』に引き続き、シカゴの名門インディー・レーベル、タッチ・アンド・ゴーからのリリース。

 ザック・スミスはスリー・マイル・パイロット(Three Mile Pilot)、ロブ・クロウはヘビー・ベジタブル(Heavy Vegetable)やシンギー(Thingy)と、それぞれサンディエゴのシーンにおける重要バンドの中心的メンバーでもある2人。基本楽器はザックがベース、ロブがギターですが、共にソングライターとボーカルもこなし、複数の楽器を操るマルチ・インストゥルメンタリストでもあります。

 そんな才能豊かな2人が結成したピンバック。ポストロック的とも言えるモダンで意外性のあるアレンジと、流れるようなメロディー・センスが高次元で両立した音楽が、本作では奏でられます。

 1曲目の「From Nothing To Nowhere」は、タイトで疾走感のあるバンドのアンサンブルにぴったりと寄り添うように、ボーカルのメロディーが並走する1曲。各楽器の音作りは、原音をいかしたナチュラルなもの。激しいディストーションなどには頼らず、各楽器が絡み合うような有機的なアンサンブルによって、疾走感を演出しています。

 2曲目「Barnes」は、全ての楽器が一体となって同じ方向を目指す1曲目とはうって変わって、ボーカルも含め各楽器が複雑に絡み合い、立体的なアンサンブルを作り上げる1曲。バンド全体でゆったりと躍動するところと、やや走るところを切り替え、ゆるやかにグルーヴする演奏が繰り広げられます。

 3曲目「Good To Sea」は、高音域を使ったはずむようなギターのイントロに導かれ、タイトで軽快なアンサンブルが展開する 1曲。ボーカルの浮遊感のあるメロディー、優しい波のように揺れるリズム隊、前述したとおり楽しげにはずむギターが、有機的に組み合わさりながら、いきいきと躍動します。

 7曲目「Devil You Know」は、イントロのミュート奏法のギターの音も象徴的で、全体にタイトで、無駄を削ぎ落としたアンサンブルとサウンドを持った1曲。わずかに前のめりにリズムが進むバンドのアンサンブルに、覆いかぶさるようにボーカルがメロディーを紡いでいきます。再生時間1:16あたりからのギターのサウンドとフレーズと、そこに絡みつくようなピアノが醸し出すアヴァンギャルドな空気も、このバンドの魅力。

 10曲目「Bouquet」は、空間系エフェクターのかかったギターを中心に、隙間が多いながらも、ゆるやかな躍動感を持ったアンサンブルが展開される1曲。隙間を埋め、全体を多い尽くすように、コーラスワークは厚みがあり、凝っています。

 前作『Summer In Abaddon』から比較すると、アルバム全体を通して、やや実験性の増した1作と言えるでしょうか。前作の方がギターポップ色が濃く、今作の方がシリアスで、ややプログレ風味があります。

 ソフトで耳なじみの良いサウンド・プロダクションでありながら、随所に実験性を忍ばせ、時折アヴァンギャルドな風を吹かせるアレンジと、流れるように爽やかなメロディーとコーラスワークは、ザ・シー・アンド・ケイク(The Sea And Cake)に近いとも思います。

 ポップさの中に実験性が隠し味のごとく含まれた、ポップであり、同時に奥行きのある音楽が展開される1作です。

 





Sleeping People “Growing” / スリーピング・ピープル『グローイング』


Sleeping People “Growing”

スリーピング・ピープル 『グローイング』
発売: 2007年10月9日
レーベル: Temporary Residence (テンポラリー・レジデンス)

 カリフォルニア州サンディエゴ出身のマスロック・バンド、スリーピング・ピープルの2ndアルバム。

 前作『Sleeping People』リリース後、ギターのジョイリー・コンセプション(Joileah Concepcion)がバンドを脱退。代わりに、彼女の友人でもあり、後にダーティー・プロジェクターズに参加することになるアンバー・コフマン(Amber Coffman)が加入。

 しかし、2007年初頭にジョイリー(本作では結婚して性が変わったのか、Joileah Maddockと表記)が復帰。入れ替わるように、コフマンはダーティー・プロジェクターズに参加するため、スリーピング・ピープルを脱退。ニューヨークへ引っ越しています。結果として、本作では一部の曲のレコーディングにはコフマンも参加。

 前作は、わかりやすいスピード感や複雑さよりも、丁寧に組み上げられたバンドのアンサンブルが前面に出たアルバムでした。2作目となる本作でも、前作のアプローチを踏襲し、さらに音楽性とアンサンブルが深化した作品と言えます。

 マスロックは、直訳すれば「数学ロック」ということになりますが、本作でも全て計算し尽くされたかのような、複雑かつ正確なアンサンブルが展開されていきます。

 1曲目「Centipede’s Dream」では、冒頭から2本のギターが絡み合うようにフレーズを紡ぎだし、リズム隊も加わってアンサンブルを構成。フレーズの音の動きと、ツイン・ギターの重なり方には意外性があり、摩訶不思議な空気を作り出していきます。

 2曲目「James Spader」には、アンバー・コフマンが参加。歪んだギター・サウンドを中心に据えて、複数のギターとリズム隊が噛み合いながら、躍動感のあるアンサンブルを展開していきます。

 3曲目「Yellow Guy / Pink Eye」では、シンプルなギターのフレーズに、小刻みに鋭くリズムを刻むドラムが重なり、スピード感の溢れる演奏が展開。

 4曲目「Mouth Breeder」は、イントロから2本のギターがチクタクと機械仕掛けのようなフレーズを紡ぎ、ベースとドラムもタイトにリズムを刻み、各楽器が緻密に組み合い、アンサンブルを構成。テンポは抑えめで、各フレーズも特別に難しくはなく、むしろシンプルな部類に入りますが、徐々に複雑さとスピード感を増していきます。

 5曲目「 …Out Dream」も、4曲目の引き続き、ギターが音階練習のようなシンプルなフレーズを弾き、徐々に複雑さを増していく1曲。各楽器が正確にリズムを刻み、編み上げていくアンサンブルは、まさに数学的。

 6曲目「Three Things」は、音質とアンサンブルの両面で、前2曲に比べるとアグレッシヴで、ロックのダイナミズムが際立った1曲。ねじれるようなギターのフレーズに、各楽器が絡みつくように、演奏が展開されます。

 8曲目「Underland」は、ドラムがフィーチャーされていて、ここまでのアルバムの流れの中では、毛色の違う1曲。

 10曲目「People Staying Awake」は、各楽器とも硬質な音作りで、ロック的なグルーヴ感と躍動感を持った1曲。ミドルテンポの曲で、ゆったりとしたテンポが、音質とアンサンブルの重みをますます際立てせています。後半から、はっきりとメロディーを歌うボーカルが入ってくるところも、インストが基本の本作においては、意外性を演出。

 マスロックらしい正確性と複雑性に、ロックが持つダイナミズムが表現された、クオリティの高い1作。複雑さや実験性を過度に強調することなく、多彩なアンサンブルが繰り広げられます。

 真面目に、誠実に作られたマスロックという印象で、個人的には安心して人にオススメできるアルバムです。

 





Woods “At Rear House” / ウッズ『アット・リア・ハウス』


Woods “At Rear House”

ウッズ 『アット・リア・ハウス』
発売: 2007年1月16日
レーベル: Woodsist (ウッドシスト)

 ニューヨーク市ブルックリンで2005年に結成されたフォーク・ロック・バンド、ウッズの2ndアルバム。メンバーのジェレミー・アール(Jeremy Earl)が設立したレーベル、ウッドシストからのリリース。

 2018年6月現在、5人編成で活動するウッズですが、元々はジェレミー・アールとクリスチャン・デロエック(Christian DeRoeck)の2ピースから始まったバンドであり、本作リリース時も2人体制です。

 アルバムのタイトルにある「Rear House」とは、後にウッズに正式加入するドラマー、ジャービス・タベニエール(Jarvis Taveniere)が設立した、ブルックリンにあるスタジオの名称。『At Rear House』というタイトルのとおり、本作はこのスタジオでレコーディングされています。

 アコースティック・ギターを中心にしたフォーキーなサウンドを基本にしながら、やや濁りのある音像と、ファルセットを多用したコーラスワークからは、サイケデリックな空気が漂う本作。また、チープでローファイ風のサウンドも、このアルバムの特徴です。

 「フリーク・フォーク」に、カテゴライズされることの多いウッズ。フリーク・フォークとは、サイケデリック・フォークのサブジャンル、あるいは同意語とされるジャンルですが、このアルバムもまさにフリークフォークと呼びたくなる1作です。

 前述したとおり、アコースティック・ギターを中心に据えた、フォークやカントリーに近いサウンドを持った本作ですが、やや奥まったローファイ色のある音質のボーカル、どこか濁りのあるギター、ドラッギーなコーラスワークなど、サイケデリックな要素が満載。

 しかし、わかりやすく不協和音やエフェクターを用いるのではなく、隠し味のように、ほのかにサイケデリックな香りを振りまくところが、このアルバムの魅力となっています。言い換えれば、フォークに近い音像を持ちながら、違和感を忍び込ませ、その違和感が楽曲の奥行きとフックになり、魅力を増しているということ。

 1曲目の「Don’t Pass On Me」から、ドラムとギターによるミニマルかつ立体的なアンサンブルに、裏声を用いたドラッギーなコーラスワークが重なり、サイケデリックな音像を作りあげます。

 2曲目「Hunover」は、流れるように音を紡ぎ出すアコースティック・ギターと、耳元で歌っているかのような音の近いボーカルが絡み合う1曲。ギターはみずみずしく、弾むような音色ですが、ボーカルは前述したとおり、不自然なほど音が近く、濁りの揺らぎのある音質。ローファイな空気を演出します。

 3曲目「Keep It On」は、なにかの儀式で使われるような、酩酊的でトライバルな空気の充満した1曲。高音を用いたコーラスワークが、ますますサイケデリック感を増加させます。

 5曲目「Woods Children, Pt. 2」は、トライバルなドラムと、サンプリングされた声が重なる、アヴァンギャルドな1曲。

 8曲目「Walk The Dogs」は、ローファイでざらついたサウンド・プロダクションと、独り言のようにブツブツと歌う低音域のボーカルからは、アングラ臭が充満。フォーク色は薄く、かなり実験性の強い1曲と言えます。

 9曲目「Love Song For Pigeons」は、不安定な音程のギターのフレーズと、やはり不安定に揺れるボーカルのロングトーン、トライバルなドラムが溶け合う、サイケデリックな1曲。

 10曲目「Bone Tapper」は、先2曲と比較すると、歌のメロディーが前面に出ており、コーラスワークもギターポップを思わせるほどに爽やか。穏やかでポップな耳ざわりの曲ですが、やや揺らぎのあるボーカルからは、ほのかにサイケデリックな空気が漂います。

 11曲目「Picking Up The Pieces」は、音数を絞ったミニマルなアンサンブルと、鼻歌の延長線上のような、やや不安定なボーカルが合わさり、奇妙な世界観を演出。音は少なく、各楽器のサウンドもシンプルですが、不穏でアヴァンギャルドな空気に溢れています。

 アコースティック・ギターを中心に、各楽器ともサウンドはチープかつシンプルですが、完成された音楽からは、アヴァンギャルドでサイケデリックな空気が漂うアルバム。サウンドではなく、音の組み合わせや揺らぎで、そうした実験的な世界観を作り上げています。

 





Japancakes “Loveless” / ジャパンケイクス『ラヴレス』


Japancakes “Loveless”

ジャパンケイクス 『ラヴレス』
発売: 2007年11月13日
レーベル: Darla (ダーラ)

 ジョージア州アセンズ出身のインスト・ポストロック・バンド、ジャパンケイクスが、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン(My Bloody Valentine)の『Loveless』を1枚丸ごとカバーした、異色のアルバム。

 1991年に発売されたオリジナル版の『Loveless』は、シューゲイザーを代表する、というよりシューゲイザーというジャンルの源流とも言える名盤です。

 『Loveless』という、もはや至るところで語り尽くされた作品の魅力を、僕なりの言葉で簡単にまとめると、リズム、メロディー、ハーモニーが渾然一体となった音の洪水が押し寄せ、そこに身を委ねることで、新しい音楽の快楽と聴取方法を生み出した、と言えるのではないかと思います。

 また、おびただしい数のエフェクターを使用した分厚いギター・サウンドも、『Loveless』の大きな魅力のひとつと言えるでしょう。

 そんな名盤を、オリジナルの曲順どおりに、丸ごとカバーした本作。前述したとおり、ジャパンケイクスはボーカルを含まないインスト・バンドであり、さらにメンバーには、ペダル・スティール・ギター担当のジョン・ネフ(John Neff)と、チェロ担当のヘザー・マッキントッシュ(Heather MacIntosh)が在籍しており、分厚いギター・サウンドによる圧倒的な量感を誇るマイブラのオリジナル版とは、かなり異なるサウンド・プロダクションを持った1作になっています。

 その差異を一言で表すなら、音の洪水が押し寄せるオリジナル版に対し、さざ波のように心地よく流れていくジャパンケイクス版、といったところ。メロディー、リズム、ハーモニーが、不可分に心地よく躍動するところは、共通しています。

 アルバムの幕開けとなる1曲目の「Only Shallow」は、オリジナルではエフェクターの深くかかった、幾重にもオーバーダビングされたギターを中心に、まさに音の壁と言うべきサウンドを作り上げていましたが、ジャパンケイクスは緩やかに流れるようなアンサンブルで、この曲をカバー。

 オリジナルでは、ギターとリズム隊と浮遊感のあるボーカルが、塊となって迫ってきますが、本作では各楽器が絡み合うような有機的な一体感があります。メロディーを追う、リズムに乗る、といった音楽の一要素を取り出した聴取方法ではなく、音楽に身を任せ、その一部となるような心地よさを持っている点では、共通しています。

 2曲目「Loomer」も、音が輪郭と形状を失うぐらいに、エフェクトの効いたサウンドが空間を埋め尽くすようなオリジナルに対して、本作では各楽器の輪郭がよりはっきりしており、アンサンブルが前景化するアレンジですが、原曲の持つ浮遊感は、サウンドもアプローチ方法も異なるのに、再現されています。

 5曲目「When You Sleep」は、オリジナル版はビートのはっきりした、疾走感と浮遊感の同居する曲でしたが、本作ではチェロと柔らかな電子音がフィーチャーされ、幻想的なアレンジが施されています。原曲でも、コーラスワークが、幻想的でサイケデリックな空気を多分に持っていましたが、幻想的な部分を抜き出したようなアレンジです。

 チェロとペダル・スティール・ギター奏者がメンバーに在籍しているところも象徴的ですが、ビートや音響よりも、ロングトーンを効果的に用いて、緩やかなアンサンブルを展開するところが特徴のバンドです。

 シューゲイザーの名盤を、エフェクト過多のシューゲイジングな方法論ではなく、ゆるやかな躍動感と浮遊感を際立たせ、再現していて、オリジナル版が持つ魅力を、別の角度から照らしている1作と言えるのではないかな、と思います。

 サウンド・プロダクションは大きく異なるのですが、曲の繋ぎの部分のちょっとしたアレンジも外さずになぞっていて、マイブラおよび『Loveless』に対するリスペクトを、ひしひしと感じられる作品でもあります。