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Woods “Bend Beyond” / ウッズ『ベンド・ビヨンド』


Woods “Bend Beyond”

ウッズ 『ベンド・ビヨンド』
発売: 2012年9月18日
レーベル: Woodsist (ウッドシスト)

 ニューヨーク市ブルックリンを拠点に活動するフォーク・ロック・バンド、ウッズの通算7枚目のスタジオ・アルバム。

 「フリーク・フォーク」あるいは「ローファイ・フォーク」なんて呼ばれることもあるウッズ。ジャンルで音楽を聴くわけじゃないので、細かいジャンル分けはどうでもいいのですが、フリークにしろローファイにしろ、彼らの音楽性をある程度は表していると思います。

 アコースティック・ギターを主軸にしたカントリー風のサウンドとメロディーを持ちながら、リスナーにわずかな違和感を抱かせるサウンドやアレンジを忍び込ませるところ。僕がウッズの音楽に感じる魅力は、そこです。

 7作目のアルバムとなる本作でも、初期の作品に比べれば、ローファイ感は後退していますが、歌とアコギが中心に据えられたアンサンブルの随所に、奇妙な音が織り交ぜられ、アヴァンギャルドな香りも漂わせています。

 1曲目「Bend Beyond」は、ゆったりとしたテンポの穏やかな曲調ですが、揺らぎのあるギターとコーラスワークからは、サイケデリックな空気が溢れ、このアルバムを象徴するような1曲。

 2曲目「Cali In A Cup」は、高音ボーカルとアコースティック・ギターを中心にした、牧歌的なカントリー風の1曲。ですが、やや歪んだエレキ・ギターとハーモニカが多層的に重なり、オルタナティヴな要素を加えています。

 5曲目「Cascade」は、多種多様な音が飛び交う、カラフルな1曲。ドタバタした立体的なドラムを中心に、肉体的なアンサンブルが展開される躍動感のある曲ですが、風が吹き抜けるような音、エフェクトのかかったエレキ・ギターらしき音など、キュートかつ奇妙な音が、楽曲をカラフルに彩っていきます。

 6曲目「Back To The Stone」は、やや濁りのあるコード・ストロークに、浮遊感のあるコーラスワーク、立体的でパワフルなリズム隊が、絡み合うように有機的なアンサンブルを組み上げていく1曲。きっちりタイトではなく、隙のあるアンサンブルが、逆に躍動感と生命力を感じさせます。

 8曲目「Wind Was The Wine」は、エフェクターの深くかかったギターとオルガンが、サイケデリックな音像を生み出す1曲。音響的にはポストロックすら感じさせますが、メロディーとコーラスワークは流麗で爽やか。サイケ色よりも、むしろポップ色の方が濃いバランスの1曲になっています。

 9曲目「Lily」は、みずみずしく、はじけるようなアコースティック・ギターの音色と、エフェクト処理もなされているのか、独特のドラッギーな音質で録音されたコーラスワークが共存する、サイケ・ロック。中期ビートルズを思わせるサウンドと雰囲気。

 12曲目「Something Surreal」は、機械の歯車がきっちりと噛み合い動き出すように、各楽器が絡み合い、アンサンブルを構成する1曲。立体的で有機的なバンド・アンサンブルと、ファルセットを多用した浮遊感のあるコーラスワークが、厚みのあるサウンドを作り上げます。

 耳ざわりの良いポップさと、違和感がありつつも音楽のフックとなるアヴァンギャルドさ。そのふたつが、絶妙のバランスでブレンドされたアルバムです。

 音楽的には、フォークやカントリーが下敷きになっており、その上に奇妙な音やアレンジが、しつこくない程度にふりかけられています。

 「オルタナ・カントリー」や「ローファイ・フォーク」にカテゴライズされるような、ふたつの要素が結びついた音楽を実行する場合、バランス感覚がとても重要ですが、ウッズは一貫して秀逸なバランスを持ったアルバムを作り続けていると思います。

 





Kevin Morby “Still Life” / ケヴィン・モービー『スティル・ライフ』


Kevin Morby “Still Life”

ケヴィン・モービー 『スティル・ライフ』
発売: 2014年10月14日
レーベル: Woodsist (ウッドシスト)
プロデュース: Rob Barbato (ロブ・バルバート)

 インディー・フォークバンド、ウッズへの参加や、ザ・ベイビーズでの活動でも知られる、ケヴィン・モービーの2作目のソロ・アルバム。前作『Harlem River』に引き続き、ウッズのジェレミー・アールが設立したレーベル、ウッドシストからのリリース。

 アルバムのタイトルとジャケットは、カリフォルニア州ハリウッド出身で、現在はニューヨークを拠点に活動する芸術家、メイナード・モンロー(Maynard Monrow)の『Still Life with the Rejects from the Land of Misfit Toys』という作品から採用されています。

 ケヴィン・モービー名義での1stアルバムとなった前作は、生楽器を主軸にしたフォークやカントリーを思わせるサウンド・プロダクションを持ちつつ、リズムの切り替えや、アンサンブルの構成に、現代的なアプローチも共存したアルバムでした。

 2作目となる本作では、ビートのはっきりしたロック感の強い曲が増え、アンサンブルも疾走感を増しています。

 1曲目「The Jester, The Tramp & The Acrobat」では、ドラムが低音部を効果的に用いながら、タイトにリズムを刻み、ギターとオルガンが、立体的に音を重ねていきます。ケヴィン・モービーがかつて在籍した、ウッズのサイケデリックな音像を彷彿とさせる1曲。

 2曲目「The Ballad Of Arlo Jones」は、イントロから民族音楽的なコーラスワークが印象的な、疾走感の溢れるロック・チューン。再生時間0:26あたりからの単音弾きのギターも効果的に、楽曲に推進力をプラス。各楽器の音作りはシンプルで、音圧が特別高いわけでも、激しく歪んでいるわけでもないのに、アンサンブルの組み立てによって疾走感やスピード感を生み出すお手本のような曲。

 3曲目「Motors Running」は、ややしゃがれた物憂げなボーカルと、軽やかに疾走するギターが溶け合う、ローファイなギターポップ。再生時間1:00あたりでのリズムの切り替え、1:23あたりから聞こえるオルガンの外し気味のとぼけたフレーズなど、ちょっとしたアレンジで楽曲をカラフルに彩っていきます。

 5曲目「Drowning」は、海の中に沈んだように弾むリズム隊と、空間系エフェクターのかかったギター、呪術的なボーカルが、サイケデリックな空気を作り出す1曲。全体的にエコーがかかったような音像は、ダブを思わせます。

 7曲目「Parade」は、ピアノとリズム隊を中心にしたコンパクトな編成の前半から、ホーン・セクションが導入され、立体的なサウンドへと展開する1曲。

 本サイト上では、ジャンルのカテゴリーを「インディー・フォーク」に分類してありますが、フォークにはとどまらない幅広い音楽が展開されるアルバムです。

 前作から比較しても、ソング・ライティング、アンサンブル、サウンド・プロダクションと全ての面で、着実に表現の幅を広げています。

 穏やかな歌とメロディーが中心にありながら、楽曲によってカントリー風であったり、ギターポップ風であったり、ダブ的なサウンドを持っていたりと、多彩な色合いを見せるアルバムですが、やりすぎず統一感を持って、ひとつの作品としてまとまっています。

 





Kevin Morby “Harlem River” / ケヴィン・モービー『ハーレム・リヴァー』


Kevin Morby “Harlem River”

ケヴィン・モービー 『ハーレム・リヴァー』
発売: 2013年11月26日
レーベル: Woodsist (ウッドシスト)
プロデュース: Rob Barbato (ロブ・バルバート)

 テキサス州ラボック生まれ、カンザスシティ育ちのミュージシャン、ケヴィン・モービーの1stアルバム。

 カンザス州オーバーランド・パークにある、ブルー・ヴァレー・ノースウェスト高校を17歳で中退し、ニューヨークにやってくるケヴィン・モービー。

 しばらくは、カフェや配達の仕事で生計を立てますが、2009年にブルックリンを拠点に活動するフォークロック・バンド、ウッズにベーシストとして加入。

 同時期に、ルームメイトとして知り合ったヴィヴィアン・ガールズ(Vivian Girls)のキャシー・ラモーンと共に結成した、ザ・ベイビーズ(The Babies)での活動も開始。こちらでは、ギター・ボーカルを務めています。

 2013年にはウッズを脱退し、ニューヨークからロサンゼルスへ引っ越し。同年にリリースされた初のソロ・アルバムが、本作『Harlem River』です。

 レーベルは、ウッズのジェレミー・アールが設立したウッドシストから。プロデュースは、ザ・ベイビーズの2ndアルバムを手がけたロブ・バルバート。ドラムは、ザ・ベイビーズのメンバー、ジャスティン・サリヴァン(Justin Sullivan)が務めるなど、これまでの人脈をいかしたラインナップとなっています。

 サイケデリックなフォーク・バンドのウッズと、パンク・バンドのザ・ベイビーズ。音楽性は大きく異なりますが、サウンド・プロダクションの面では、共にローファイなサウンドを持っており、共通しています。しかし、ケヴィン・モービー名義での1作目となる本作では、ローファイ的なテクスチャーではなく、よりスタンダードな音質でレコーディングされています。

 キャシー・ラモーンと共にフロントマンを務めていたザ・ベイビーズは、各楽器の音作りはシンプル、全体のサウンド・プロダクションもチープでローファイ風に仕上げ、メロディーとドタバタしたアンサンブルの魅力を前景化していましたが、本作では音質面でのローファイ要素がほぼ無くなり、一般的な意味では音質が向上。音響とメロディーが、より前面に出てくる作品になっています。

 生楽器のオーガニックな音を中心に据えたアンサンブルは、ウッズに繋がる部分もありますが、サイケデリックな世界観を作り上げるウッズとは異なり、音響系のポストロックのように、音のテクスチャーや緩やかなに躍動しながら広がっていく演奏に、より重きが置かれています。

 1曲目「Miles, Miles, Miles」は、伸縮するようにリズムが切り替わり、ゆるやかな躍動感が生まれる1曲。曲調とサウンド・プロダクションは、カントリーを思わせますが、曲中のリズムの切り替えが、軽快でモダンな空気を演出しています。

 アルバム表題曲の3曲目「Harlem River」では、ブルージーな歌唱とギターのフレーズを中心に、チクタクと動く機械のように、有機的なアンサンブルが展開。9分を超える曲ですが、バンドが生き物のように躍動し、ざらついたサウンドで弾かれるギターソロや、手数は少ないながら立体感を与えるドラムなど、聴きどころが多く、スケールの大きな1曲です。

 8曲目「The Dead They Don’t Come Back」は、カントリーの香りを醸し出すスライド・ギター、ゆったりとストロークを続けるアコースティック・ギター、穏やかで牧歌的なボーカルが絡み合う1曲。

 カントリーを下敷きにしながら、音響を前景化したアプローチや、インストのポストロックのように緩やかに展開しているアンサンブルなど、現代的なアレンジが随所に施されています。

 「オルタナ・カントリー」と呼ぶほどには、わざとらしくオルタナティヴでも、カントリー臭くもなく、コンパクトにまとまったインディー・フォークといった趣の1作。

 





The Babies “Our House On The Hill” / ザ・ベイビーズ『アワー・ハウス・オン・ザ・ヒル』


The Babies “Our House On The Hill”

ザ・ベイビーズ 『アワー・ハウス・オン・ザ・ヒル』
発売: 2012年11月13日
レーベル: Woodsist (ウッドシスト)
プロデュース: Rob Barbato (ロブ・バルバート)

 フォーク・ロック・バンド、ウッズのベーシストとしても知られるケヴィン・モービー(Kevin Morby)と、ガールズ・パンク・バンド、ヴィヴィアン・ガールズ(Vivian Girls)のギター・ボーカルとしても知られるキャシー・ラモーン(Cassie Ramone)。

 そんな2人が中心となって結成されたバンド、ザ・ベイビーズの2ndアルバム。前作『The Babies』は、カリフォルニア州のレーベル、Shrimperからのリリースでしたが、本作はウッズのメンバーが設立したレーベル、 Woodsistからのリリース。

 ローファイ風味のロックが展開された1stアルバムの『The Babies』から比較すると、アンサンブルはややタイトに、またコーラスワークとギターの使い方は、時にギターポップを彷彿とさせるほど、ポップでカラフルになっています。

 ただし、ギターのサウンドは、アンプ直結で作り上げていると思われる、チャラチャラとしたシンプルで飾り気のない音作り。音色ではなく、アンサンブルと曲調によって、楽曲ごとに異なるカラーを生み出しています。

 本作では4人のメンバーに加えて、ティム・プレスリー(Tim Presley)がギターとオルガンで数曲に参加。6曲目「Mean」にはサックス、12曲目「Wandering」にはチェロが加わっています。また、プロデューサーを務めたロブ・バルバートも、一部の曲でオルガンを弾いており、人数と楽器の数の面でも、前作より増加。音数が増えたことも、アルバムの多彩さの一助になっていると言えるでしょう。

 3曲目「Mess Me Around」は、2本のギターが絡み合うように疾走していく、コンパクトにまとまったロック・チューン。ケヴィンのクールでややざらついたボーカルからは、ガレージの香りも漂いますが、ギターの音作りは極めてシンプルなクリーン・トーン。若干のアングラ感を持ちながらも、ギターポップのように聴きやすいサウンド・プロダクションとなっています。

 キャシーがメイン・ボーカルを取る5曲目「Baby」は、彼女のアンニュイな声質も相まって、ローファイ風味のドリームポップといった様相の1曲。

 アルバムの最後を飾る12曲目の「Wandering」では、アコースティック・ギターとチェロがフィーチャーされ、ローファイな音質ながら、牧歌的なカントリーと、チェンバー・ミュージックの雰囲気も併せ持つ1曲となっています。

 2018年6月現在、解散は発表していないものの、本作以降にリリースも無く、活動停止状態にあるザ・ベイビーズ。フロントを務めるケヴィン・モービーとキャシー・ラモーンは、それぞれソロで活動しており、両名ともバンドのフロントに立てる優れたミュージシャンです。そんな2人の溶け合う個性が感じられるのも、このアルバムの魅力のひとつ。

 





Woods “Sun And Shade” / ウッズ『サン・アンド・シェイド』


Woods “Sun And Shade”

ウッズ 『サン・アンド・シェイド』
発売: 2011年6月14日
レーベル: Woodsist (ウッドシスト)

 ニューヨーク市ブルックリンで結成されたフォーク・ロック・バンド、ウッズの6thアルバム。前作『At Echo Lake』から引き続き、ジェレミー・アール(Jeremy Earl)、ジャービス・タベニエール(Jarvis Taveniere)、ケヴィン・モービー(Kevin Morby)からなる3人編成。

 また、サポート・メンバーとして、ザ・スカイグリーン・レパーズ(The Skygreen Leopards)のグレン・ドナルドソン(Glenn Donaldson)も、レコーディングに参加。ベース、ギター、パーカッションなど複数の楽器をこなし、多彩な才能を披露しています。

 5作目となる前作『At Echo Lake』まで、ローファイな音作りで、アコースティック・ギターを主軸にした、どこかサイケデリックな空気が漂う音楽を作り続けてきたウッズ。そのため、フリーク・フォークの文脈で語れることもしばしばあります。

 6作目となる本作では、ローファイなサウンド・プロダクションは引き継ぎつつ、サポート・メンバーを加え音数が増えたことにより、厚みを増したアンサンブルが展開。アンサンブルにも隙の多かったこれまでの作風とは異なり、各楽器の音作りの幅が広がり、躍動感と色彩も増したアルバムに仕上げっています。

 1曲目「Pushing Onlys」は、馬車がゆるやかに進むような躍動感のあるバンド・アンサンブルと、ファルセットを用いた牧歌的なボーカルが溶け合う1曲。これまでのウッズと同様、カントリーとローファイの要素を併せ持ちながら、よりアンサンブルが前景化したバランスになっています。

 2曲目「Any Other Day」は、みずみずしいサウンドのギターと、爽やかなコーラスワークが重なる、ギターポップ色の濃い1曲。

 4曲目「Out Of The Eye」では、ベースとドラムがゆるやかなグルーヴ感を生んでいきます。ギターもタイトに音を重ね、シンプルで音数も少ないながら、有機的なアンサンブルが展開される1曲。

 7曲目「Sol Y Sombra」は、9分を超える大曲で、この曲も音数は少ないながら、次々と風景が移り変わっていくような、イマジナティヴな演奏が繰り広げられます。

 前述したとおりメンバーが増え、今までよりもアンサンブルを重視するようになった結果、ローファイとサイケデリックの要素は薄まり、代わりにカントリー色の強まったアルバムであると言えます。

 前作まではローファイ・サイケデリック・フォークとでも呼びたくなる音楽が展開されていましたが、本作はローファイ・オルタナ・カントリーとでも言うべき音楽へと変質。

 単純に進化とも退化とも言い難いですが、個人的には前作までのローファイ感の強い音楽性の方が好みです。メンバーを少しずつ増やし、2018年6月現在は5人編成となっているウッズ。前作で新メンバーを加え、それに伴って音楽性も拡大していく、過渡期の作品とも言えるでしょう。