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Devendra Banhart “Niño Rojo” / デヴェンドラ・バンハート『ニーノ・ロッホ』


Devendra Banhart “Niño Rojo”

デヴェンドラ・バンハート 『ニーノ・ロッホ』
発売: 2004年9月13日
レーベル: Young God (ヤング・ゴッド)
プロデュース: Michael Gira (マイケル・ジラ)

 テキサス州ヒューストン生まれ、ベネズエラのカラカス育ちのシンガーソングライター、デヴェンドラ・バンハートの4thアルバム。

 ヤング・ゴッドからは3枚目のアルバムで、プロデューサーを務めるのは前作に引き続き、同レーベルの設立者でもあるマイケル・ジラ。アルバム・タイトルの「Niño Rojo」とは、直訳すると「Niño」は「男の子」、「Rojo」は「赤」。

 2004年4月にリリースされた前作『Rejoicing In The Hands』から、わずか5ヶ月の期間を空けてリリースされた本作。パーカッションのソア・ハリス(Thor Harris)、チェロのジュリア・ケント(Julia Kent)、ピアノのジョー・マクギンティー(Joe McGinty)など、多くのバンド・メンバーも前作と共通。

 音楽性も前作に近く、アコースティック・ギターと歌を主軸にしたフォーキーなサウンドの中に、ところどころ緩やかにサイケデリックなアレンジが挟まれます。穏やかなのに、どこかが壊れたような、牧歌的なのにアヴァンギャルドな空気も漂わせる音楽性は、アシッド・フォークやフリーク・フォークと呼ぶにふさわしいものです。

 1曲目の「Wake Up, Little Sparrow」は、ミズーリ州セントルイス出身のフォーク・シンガー、エラ・ジェンキンス(Ella Jenkins)のカバー。アコースティック・ギターのゆったりとした伴奏に乗せて、語尾を震わしながら、情緒たっぷりに歌い上げていきます。昔のフォーク・シンガーやブルース・シンガーを彷彿とさせる、歌の力を感じる演奏と歌唱。

 2曲目「Ay Mama」は、ギターが軽やかにリズムを刻み、ボーカルはロングトーン主体で余裕を持ってメロディーを紡いでいく、牧歌的な1曲。ですが、再生時間1:20過ぎあたりから、奥の方でトランペットが鳴り響き、さらに後半ではフルートらしき音も聞こえ、厚みとアクセントを加えます。

 4曲目「Little Yellow Spider」は、ギターとボーカルが絡み合い、一体となって前に転がっていく曲。ギター主体のアンサンブルですが、アレンジとサウンド共に立体的で、ゆるやかなグルーヴ感があります。2007年には、携帯電話のコマーシャルに使用されました。

 6曲目「At The Hop」は、サンフランシスコ出身のフォーク・バンド、ヴェティヴァー(Vetiver)のアンディー・キャビック(Andy Cabic)が書いた曲で、ボーカルとしてレコーディングにも参加。軽やかに踊るようなギターに乗せて、デヴェンドラ・バンハートとアンディーのボーカルが絡み合い、ゆるやかに躍動するアンサンブルが展開。

 7曲目「My Ships」は、もつれるようなギターの伴奏に、ヴィブラートを多用した呪術的なボーカルが合わさり、サイケデリックで、ほのかにアングラ臭も漂う1曲。

 8曲目「Noah」は、スローテンポに乗せて、カントリー色の濃いアンサンブルが展開する、田園風景が眼に浮かぶような、牧歌的な1曲。厚みのあるコーラスワークも、牧歌的な雰囲気をさらに盛り上げています。

 11曲目「Horseheadedfleshwizard」では、小刻みなリズムのギターが走り、ボーカルは長めの音符を使ったフレーズを重ねます。フレーズとハーモニーの両面で、サイケデリックな空気を持った曲。

 フォークやカントリーを基本としながら、意外性のあるフレーズやハーモニーを用い、さりげなく実験性やサイケデリアを漂わせるアルバムです。ただのフォークやカントリーとは呼びがたい違和感が、本作にはあります。

 そのため、一部の人にとっては、受け入れがたい気持ち悪い音楽となるでしょう、しかし一部の人にとっては、最初は居心地が悪く感じていた音色やフレーズが、やがて音楽的なフックとなり、耳から離れなくなるでしょう。





Devendra Banhart “Rejoicing In The Hands” / デヴェンドラ・バンハート『リジョイシング・イン・ザ・ハンズ』


Devendra Banhart “Rejoicing In The Hands”

デヴェンドラ・バンハート 『リジョイシング・イン・ザ・ハンズ』
発売: 2004年4月24日
レーベル: Young God (ヤング・ゴッド)
プロデュース: Michael Gira (マイケル・ジラ)

 テキサス州ヒューストン生まれ、ベネズエラのカラカス育ちのシンガーソングライター、デヴェンドラ・バンハートの3rdアルバム。

 最初に、彼の生い立ちを振り返っておきましょう。1981年にテキサス州ヒューストンで、ベネズエラ人の母親とアメリカ人の父親の間に生まれます。2歳の時に両親が離婚。母親と共に、ベネズエラの首都カラカスへ移り、同地で少年時代を過ごします。

 デヴェンドラ・バンハートが14歳の時に、母親が再婚。それに伴い、母親と継父と共に、カリフォルニア州ロサンゼルスへ移住。1998年、デヴェンドラは17歳でサンフランシスコ芸術大学(San Francisco Art Institute)に入学するため、サンフランシスコへ引っ越し。しかし、2000年に退学し、今度はフランスのパリへ移住。

 同年の秋には、再びアメリカへ戻り、ロサンゼルスとサンフランシスコで、本格的な音楽活動を開始。やがて、スワンズ(Swans)のフロントマンで、ヤング・ゴッド・レコードのオーナーでもあるマイケル・ジラと出会い、同レーベルからのデビューへと繋がっていきます。

 本作は、2002年リリースの『Oh Me Oh My』に続き、ヤング・ゴッドからリリースされる2作目のアルバムであり、通算3作目のスタジオ・アルバム。

 ヒューストン、ベネズエラ、ロサンゼルス、サンフランシスコ、パリと、各地を転々としてきたデヴェンドラ・バンハート。彼が紡ぎ出す音楽は、フォークやカントリーを基調としながら、それだけにとどまらないサイケデリックな空気を振りまきます。

 おそらく彼自身は、自然に自分の中から沸きおこる音楽を鳴らしているだけなのでしょうが、その音楽は実に個性的。しかも、分かりやすくアヴァンギャルドなアレンジというわけではなく、一聴すると穏やかなフォークなのに、どこか違和感やアクを感じる演奏となっています。彼が各地で吸い込んできた音楽が、このように奥行きのある音楽性を育む一因となったのでしょう。

 1曲目「This Is The Way」の冒頭から、アコースティック・ギターと歌からなる、穏やかでフォーキーな音楽が流れ出します。伴奏はギター1本のみですが、随所でゆるやかな加速と減速があり、躍動感のある音楽が展開。

 2曲目「A Sight To Behold」は、穏やかな波のように上下しながら流れるギターに、長めの音符を多用したボーカルが重なる1曲。奥の方では、フィールド・レコーディングによるものと思われる音が流れ、途中から入ってくる壮大なストリングスも相まって、フォークを下敷きにしながら、立体的なサウンドが作り上げられます。

 3曲目「The Body Breaks」は、ギターもボーカルも高音域に軸を置いた、音数の少ない牧歌的な1曲。

 4曲目「Poughkeepsie」では、細かくリズムを刻むギターが楽曲を先導し、ヴィブラフォンとストリングスが幻想的な空気を加えています。穏やかなサウンドと雰囲気ながら、サイケデリックな空気も漂う1曲。

 7曲目「This Beard Is For Siobhán」は、アコースティック・ギターと歌のみの穏やかな空気でスタート。徐々にボーカルとギターが熱を帯び、再生時間1:58からのクライマックスへ。用いられている楽器は、ドラムやピアノなどアコースティック楽器のみですが、ダイナミズムの大きいパワフルな演奏が展開されます。

 9曲目「Tit Smoking In The Temple Of Artesan Mimicry」は、ギターのみのインスト曲。軽やかなイントロから始まり、加速しながら、疾走感を伴って走り抜けていきます。

 アルバム表題曲でもある10曲目の「Rejoicing In The Hands」には、イングランド出身のシンガーソングライター、ヴァシュティ・バニヤン(Vashti Bunyan)がボーカルで参加。デヴェンドラ・バンハートと共に、幻想的で厚みのあるコーラスワークを聴かせます。バックの演奏も音数を絞りながらも、各楽器が絡み合い、有機的なアンサンブルを構成。本作のベスト・トラックと言って良いでしょう。

 11曲目「Fall」は、立体的に響くアンサンブルが魅力の、躍動感のある1曲。アコースティック楽器を用いながら、どこか奇妙な響きを持っています。特にイントロから聞こえるベースらしき音が、耳にからみつき、アンサンブルにおいても主要な役割を演じています。

 12曲目「Todos los Dolores」は、軽やかにスキップするような、歯切れの良いリズムが心地よい1曲。歌詞は全てスペイン語。スタジオでリラックスしてギターを爪弾いているような、音楽を楽しむ空気が充満しています。

 より洗練され、凝ったアレンジとサウンド・プロダクションを持った近年の作品も魅力的ですが、「アシッド・フォーク」や「フリーク・フォーク」と呼ばれたこの時期の演奏も、デヴェンドラ・バンハートという音楽家の素の部分が伝わるようで、今聴いても新鮮に響きます。

 前述したとおり、フォークを下敷きにしながら、カラフルで国籍不明な音楽が展開されるのが、このアルバムの魅力です。





Woods “Bend Beyond” / ウッズ『ベンド・ビヨンド』


Woods “Bend Beyond”

ウッズ 『ベンド・ビヨンド』
発売: 2012年9月18日
レーベル: Woodsist (ウッドシスト)

 ニューヨーク市ブルックリンを拠点に活動するフォーク・ロック・バンド、ウッズの通算7枚目のスタジオ・アルバム。

 「フリーク・フォーク」あるいは「ローファイ・フォーク」なんて呼ばれることもあるウッズ。ジャンルで音楽を聴くわけじゃないので、細かいジャンル分けはどうでもいいのですが、フリークにしろローファイにしろ、彼らの音楽性をある程度は表していると思います。

 アコースティック・ギターを主軸にしたカントリー風のサウンドとメロディーを持ちながら、リスナーにわずかな違和感を抱かせるサウンドやアレンジを忍び込ませるところ。僕がウッズの音楽に感じる魅力は、そこです。

 7作目のアルバムとなる本作でも、初期の作品に比べれば、ローファイ感は後退していますが、歌とアコギが中心に据えられたアンサンブルの随所に、奇妙な音が織り交ぜられ、アヴァンギャルドな香りも漂わせています。

 1曲目「Bend Beyond」は、ゆったりとしたテンポの穏やかな曲調ですが、揺らぎのあるギターとコーラスワークからは、サイケデリックな空気が溢れ、このアルバムを象徴するような1曲。

 2曲目「Cali In A Cup」は、高音ボーカルとアコースティック・ギターを中心にした、牧歌的なカントリー風の1曲。ですが、やや歪んだエレキ・ギターとハーモニカが多層的に重なり、オルタナティヴな要素を加えています。

 5曲目「Cascade」は、多種多様な音が飛び交う、カラフルな1曲。ドタバタした立体的なドラムを中心に、肉体的なアンサンブルが展開される躍動感のある曲ですが、風が吹き抜けるような音、エフェクトのかかったエレキ・ギターらしき音など、キュートかつ奇妙な音が、楽曲をカラフルに彩っていきます。

 6曲目「Back To The Stone」は、やや濁りのあるコード・ストロークに、浮遊感のあるコーラスワーク、立体的でパワフルなリズム隊が、絡み合うように有機的なアンサンブルを組み上げていく1曲。きっちりタイトではなく、隙のあるアンサンブルが、逆に躍動感と生命力を感じさせます。

 8曲目「Wind Was The Wine」は、エフェクターの深くかかったギターとオルガンが、サイケデリックな音像を生み出す1曲。音響的にはポストロックすら感じさせますが、メロディーとコーラスワークは流麗で爽やか。サイケ色よりも、むしろポップ色の方が濃いバランスの1曲になっています。

 9曲目「Lily」は、みずみずしく、はじけるようなアコースティック・ギターの音色と、エフェクト処理もなされているのか、独特のドラッギーな音質で録音されたコーラスワークが共存する、サイケ・ロック。中期ビートルズを思わせるサウンドと雰囲気。

 12曲目「Something Surreal」は、機械の歯車がきっちりと噛み合い動き出すように、各楽器が絡み合い、アンサンブルを構成する1曲。立体的で有機的なバンド・アンサンブルと、ファルセットを多用した浮遊感のあるコーラスワークが、厚みのあるサウンドを作り上げます。

 耳ざわりの良いポップさと、違和感がありつつも音楽のフックとなるアヴァンギャルドさ。そのふたつが、絶妙のバランスでブレンドされたアルバムです。

 音楽的には、フォークやカントリーが下敷きになっており、その上に奇妙な音やアレンジが、しつこくない程度にふりかけられています。

 「オルタナ・カントリー」や「ローファイ・フォーク」にカテゴライズされるような、ふたつの要素が結びついた音楽を実行する場合、バランス感覚がとても重要ですが、ウッズは一貫して秀逸なバランスを持ったアルバムを作り続けていると思います。

 





Woods “Sun And Shade” / ウッズ『サン・アンド・シェイド』


Woods “Sun And Shade”

ウッズ 『サン・アンド・シェイド』
発売: 2011年6月14日
レーベル: Woodsist (ウッドシスト)

 ニューヨーク市ブルックリンで結成されたフォーク・ロック・バンド、ウッズの6thアルバム。前作『At Echo Lake』から引き続き、ジェレミー・アール(Jeremy Earl)、ジャービス・タベニエール(Jarvis Taveniere)、ケヴィン・モービー(Kevin Morby)からなる3人編成。

 また、サポート・メンバーとして、ザ・スカイグリーン・レパーズ(The Skygreen Leopards)のグレン・ドナルドソン(Glenn Donaldson)も、レコーディングに参加。ベース、ギター、パーカッションなど複数の楽器をこなし、多彩な才能を披露しています。

 5作目となる前作『At Echo Lake』まで、ローファイな音作りで、アコースティック・ギターを主軸にした、どこかサイケデリックな空気が漂う音楽を作り続けてきたウッズ。そのため、フリーク・フォークの文脈で語れることもしばしばあります。

 6作目となる本作では、ローファイなサウンド・プロダクションは引き継ぎつつ、サポート・メンバーを加え音数が増えたことにより、厚みを増したアンサンブルが展開。アンサンブルにも隙の多かったこれまでの作風とは異なり、各楽器の音作りの幅が広がり、躍動感と色彩も増したアルバムに仕上げっています。

 1曲目「Pushing Onlys」は、馬車がゆるやかに進むような躍動感のあるバンド・アンサンブルと、ファルセットを用いた牧歌的なボーカルが溶け合う1曲。これまでのウッズと同様、カントリーとローファイの要素を併せ持ちながら、よりアンサンブルが前景化したバランスになっています。

 2曲目「Any Other Day」は、みずみずしいサウンドのギターと、爽やかなコーラスワークが重なる、ギターポップ色の濃い1曲。

 4曲目「Out Of The Eye」では、ベースとドラムがゆるやかなグルーヴ感を生んでいきます。ギターもタイトに音を重ね、シンプルで音数も少ないながら、有機的なアンサンブルが展開される1曲。

 7曲目「Sol Y Sombra」は、9分を超える大曲で、この曲も音数は少ないながら、次々と風景が移り変わっていくような、イマジナティヴな演奏が繰り広げられます。

 前述したとおりメンバーが増え、今までよりもアンサンブルを重視するようになった結果、ローファイとサイケデリックの要素は薄まり、代わりにカントリー色の強まったアルバムであると言えます。

 前作まではローファイ・サイケデリック・フォークとでも呼びたくなる音楽が展開されていましたが、本作はローファイ・オルタナ・カントリーとでも言うべき音楽へと変質。

 単純に進化とも退化とも言い難いですが、個人的には前作までのローファイ感の強い音楽性の方が好みです。メンバーを少しずつ増やし、2018年6月現在は5人編成となっているウッズ。前作で新メンバーを加え、それに伴って音楽性も拡大していく、過渡期の作品とも言えるでしょう。

 





Woods “At Echo Lake” / ウッズ『アット・エコー・レイク』


Woods “At Echo Lake”

ウッズ 『アット・エコー・レイク』
発売: 2010年5月4日
レーベル: Woodsist (ウッドシスト)

 ニューヨーク市ブルックリンで結成されたフォーク・ロック・バンド、ウッズの5thアルバム。

 前作『Songs Of Shame』は、ジェレミー・アール(Jeremy Earl)と、ジャービス・タベニエール(Jarvis Taveniere)による2人編成によるレコーディング。

 2009年からツアーのサポートとして、ベースのケヴィン・モービー(Kevin Morby)が加入していますが、本作のクレジットには記載されていないので、レコーディングには参加していないようです。(確認できなかったので、謝っていたら申し訳ございません。)

 また、一部の曲では、マット・ヴァレンタイン(Matt Valentine)が、ハーモニカとボーカル(クレジットでは「Voice」と表記)でサポート参加。

 元々2ピース・バンドとしてスタートしたウッズ。2013年からはメンバーが少しずつ増え、2018年6月現在は5人編成となっていますが、2010年リリースの本作のレコーディングでは、前述のとおり2人プラス1人のサポート・メンバーという編成。

 これまでのアルバムでは、ローファイ風味のチープなサウンドに乗せて、ゆるやかにサイケデリックな音楽を響かせてきたウッズ。5枚目のスタジオ・アルバムとなる本作『At Echo Lake』でも、その路線を踏襲し、カラフルでサイケデリックな緩いフォークが、ローファイなサウンドで繰り広げられます。

 とにかく音を悪くしとけばいいんだろ、といった感のある手段と目的が逆になったジャンルとしてのローファイは、個人的にあまり好きにはなれないのですが、ウッズの音楽は、チープな音質で録音すること、隙のある演奏をすることによって、サイケデリックな空気を演出していることが分かります。

 1曲目「Blood Dries Darker」では、飾り気のないシンプルな音を持った各楽器が絡み合い、ゆるやかなグルーヴを生んでいきます。輪郭のくっきりとしたサウンドで録音してしまうと、ただしょぼいだけの音楽になってしまいますが、やや奥まった音質のボーカル、弦が緩んだように揺れるチープなギターの音、手数を絞ったアタックの弱いドラムが重なり、サイケデリックな空気を演出しています。

 2曲目「Pick Up」は、ゆったりとしたテンポに乗せて、エフェクト処理されたドラム、淡々とコード・ストロークを続けるギター、高音域を使ったボーカルが絡み合い、牧歌的かつサイケデリックな空気を持った1曲。

 5曲目「From The Horn」は、複数のギターがフィーチャーされ、フォーク色の薄いサウンド・プロダクションを持った1曲。アンサンブルのしっかりした、躍動感のある曲ですが、単音弾きのギターが絡み合うパートでは、サイケデリックな空気が充満し、このバンドらしさも多分に持っています。

 6曲目「Death Rattles」は、一定のリズムをぶっきらぼうに刻むスネアと、歌声を駆使したコーラスワーク、ややざらついた音色のエレキ・ギターが、チープですが幻想的な空気を作り出す1曲。

 11曲目「Til The Sun Rips」は、どこか不安定で酩酊的なコーラスワークと、チャラチャラと鈴のような音を出すパーカッションが、サイケデリックな空気を演出する1曲。

 アルバム全体を通して、アコースティック・ギターがアンサンブルの中心に据えられ、フォーキーなサウンドが多分に含まれていますが、前述したとおりローファイな音色を狙ったレコーディングによって、音楽性は厚みを増しています。

 「シンプルでミニマルなフォーク・デュオ」のような音楽にとどまらず、サイケデリックでアヴァンギャルドな空気も持ち合わせているのは、間違いなくこのローファイな音作りのおかげです。