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Hop Along “Get Disowned” / ホップ・アロング『ゲット・ディスオウンド』


Hop Along “Get Disowned”

ホップ・アロング 『ゲット・ディスオウンド』
発売: 2012年5月5日
レーベル: Hot Green (ホット・グリーン), Saddle Creek (サドル・クリーク)
プロデュース: Joe Reinhart (ジョー・ラインハート)

 ペンシルベニア州フィラデルフィア出身のバンド、ホップ・アロングの2ndアルバム。

 2005年に自主制作にてリリースされた前作『Freshman Year』は、ホップ・アロング、クイーン・アンスレイス(Hop Along, Queen Ansleis)名義。当時はバンドではなく、フランシス・クインラン(Frances Quinlan)のソロ・プロジェクトでした。

 その後、ギターのジョー・ラインハート(Joe Reinhart)、ベースのタイラー・ロング(Tyler Long)、ドラムのマーク・クインラン(Mark Quinlan)を加え、バンド編成へ。名前をホップ・アロングへ変更しています。

 ホップ・アロング名義としては、本作が1作目のアルバム。2012年に、アメリカ国内ではホット・グリーン、イギリスとヨーロッパではビッグ・スケアリー・モンスターズ(Big Scary Monsters)から発売され、その後2016年にサドル・クリークより再発。

 レコーディング・エンジニアとミックスは、メンバーのジョー・ラインハートが務めています。

 アコースティック・ギターのフォーキーなサウンドと、激しく歪んだエレキ・ギターが共存。アンサンブルはドタバタしてパワフルかつ立体的。

 フォークやカントリーを彷彿とさせるオーガニックなサウンドと、オルタナティヴ・ロック的なダイナミズムと攻撃性が溶け合っているのが、ホップ・アロングの魅力です。

 しかもハードなギターのみが攻撃性を担っているわけではなく、アコースティック楽器も荒々しく躍動するところが、なんともかっこいいのです。

 ルーツ・ミュージックを参照しながら、現代的なアレンジを加えてアップデートする、このようなバンドの音を聴くと、あらためてアメリカという国の面白さを実感しますね。

 メイン・ボーカルを務めるフランシス・クインラン(Frances Quinlan)の、ファルセットを織り交ぜた、伸びやかな歌声も大きな魅力のひとつ。

 1曲目「Some Grace」は、アコースティック・ギターを主軸にしたフォーキーなサウンドでありながら、ギターは荒々しくコードをかき鳴らす、パワフルな1曲。再生時間1:57あたりからの声が折り重なっていくコーラスワークも、ただのルーツ・ミュージックの焼き直しにとどまらない、モダンな空気をもたらしています。

 2曲目「Tibetan Pop Stars」は、イントロから前のめりに音が飛び出していく、躍動感あふれる曲。パワフルでドタバタしたドラムが立体感を、厚みのあるディストーション・ギターが重厚感を演出。いきいきと躍動するアンサンブルを作り上げていきます。

 4曲目「No Good Al Joad」は、ジャカジャカと激しくコードを刻むアコースティック・ギターと、金切り声のように耳にうるさいエレキ・ギターやヴァイオリンなどが絡まる、アヴァンギャルドな1曲。ボーカルも高音がかすれながら、絞り出すように歌い、緊張感を生み出しています。

 5曲目「Kids On The Boardwalk」は、イントロからキッチリとリズムが刻まれ、軽やかな疾走感のある演奏。でも途中から、うねるようなエレキ・ギターが暴れ、オルタナティヴ・ロック的な攻撃性も持ち合わせています。

 6曲目「Laments」は、ギターと歌を中心にした静かな前半から、徐々に楽器と音数が増え、躍動感と立体感を増していく展開。静寂から轟音へと移行する予定調和的なアレンジではなく、各楽器が有機的に組み合う、グルーヴ感を重視した演奏。

 9曲目「Young And Happy!」は、轟音ギターが押し寄せるイントロから始まり、隙間なく音が詰め込まれた、厚みのあるアンサンブルが展開。バンドが塊になって転がるような一体感があります。

 アルバムのラスト10曲目は、表題曲でもある「Get Disowned」。各楽器とも毛羽立ったように、微妙に歪んだ音作り。四方八方から多様な音が飛んでくるアレンジは立体的で、同時にアヴァンギャルドな空気も生んでいます。ボーカルも声をやっと絞り出すようにエモーショナル。

 前述したとおり、本作の魅力はルーツとモダンの融合。アコースティック・ギターを用いることで、フォーキーな耳ざわりを獲得しつつ、オルタナティヴ・ロックの実験性と攻撃性を、多分に併せ持ったアルバムです。

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Alabama Shakes “Boys & Girls” / アラバマ・シェイクス『少年少女たち』


Alabama Shakes “Boys & Girls”

アラバマ・シェイクス 『少年少女たち』
発売: 2012年4月9日
レーベル: ATO (エー・ティー・オー)
プロデュース: Andrija Tokic (アンドリジャ・トーキック)

 アラバマ州アセンズで結成されたロック・バンド、アラバマ・シェイクスの1stアルバム。

 もともと農業が盛んで、アフリカ系の人々が多く連れてこられたアメリカ合衆国南部。彼らは奴隷として酷使されたわけですが、ジャズ、ブルース、ロックンロールなど、多くのアメリカ音楽を形作ることにも貢献しました。

 そんなアメリカ南部アラバマ州出身のアラバマ・シェイクス。本作は1stアルバムであり、メンバーの年齢も当時20代中盤ではありますが、ルーツ・ミュージックを取り込んだ、貫禄すら感じる音楽を奏でています。

 スマートにまとまったインディーロックとは一線を画す、古き良きロックンロールのグルーヴ感と雰囲気をまとったバンドと言えます。

 特に紅一点のボーカリスト、ブリタニー・ハワード(Brittany Howard)の声は艶っぽく、糸を引くようにソウルフル。このバンドの大きな魅力となっています。

 バンドのアンサンブルも音数を詰め込まず、スカスカとも思える部分もあるのに、それ以上に各楽器が絡み合うグルーヴ感が強く、いきいきと躍動しています。

 1曲目「Hold On」は、ゆっくりと歩みを進めるようなシンプルなリズムの上に、伸びやかなボーカルが乗り、徐々に音数が増え、躍動感が増していく展開。音数は絞り込まれているのに、たっぷりとしたタメの取り方と、お互いのリズムを噛み合うような各楽器のからみが絶妙で、スカスカ感はまったく感じません。

 3曲目「Hang Loose」は、パーカッシヴなピアノに、なめらかなギターのフレーズが絡まり、ゆるやかに疾走していく1曲。各楽器が絡み合い、躍動するグルーヴからは、古き良きロックンロールの香りが漂います。

 4曲目「Rise To The Sun」は、小気味よく刻まれるリズムと、オルガンの浮遊感のある音色が溶け合う、ややサイケデリックな空気を持った1曲。

 5曲目「You Ain’t Alone」は、タイトルからしてエモーショナルですが、ブリタニーの泣きのボーカルが冴えわたる1曲です。いにしえのブルース・シンガーが蘇ったかのように、パワフルで感情的なボーカリゼーション。

 アルバム表題曲の8曲目「Boys & Girls」では、スローテンポに乗せて、音数を絞ったミニマルなアンサンブルが展開。そのなかを、ボーカルのメロディーがゆるやかに漂います。

 11曲目「On Your Way」は、ゴスペルを連想させる壮大なイントロから始まり、荒々しくパワフルな演奏が繰り広げられる1曲。荒々しいと言っても、ハードロック的な音像というわけではなく、各楽器が自由に躍動し、バンド全体も生き物のようのいきいきとスウィングしているということ。アルバムのラストにふさわしく、パワーに満ちあふれています。

 前述のとおり、南部アラバマ出身らしく、ルーツ・ミュージック色の濃い音楽を展開。2000年以降のインディーフォークおよびオルタナ・カントリー勢には、現代的なサウンドやアレンジを取り込んだバンドも多いですが、アラバマ・シェイクスは良い意味で昔かたぎ。

 古き良きブルースやロックンロールが、変に脚色されることなく、現代に寄り添うこともなく、蘇ったかのような説得力があります。

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The Lumineers “The Lumineers” / ザ・ルミニアーズ『ザ・ルミニアーズ』


The Lumineers “The Lumineers”

ザ・ルミニアーズ 『ザ・ルミニアーズ』
発売: 2012年4月3日
レーベル: Dualtone (デュアルトーン)
プロデュース: Ryan Hadlock (ライアン・ハドロック)

 コロラド州デンバーを拠点に活動するフォーク・ロック・バンド、ザ・ルミニアーズの1stアルバム。

 バンドの始まりは2002年。共にニュージャージー州ラムジー出身のウェスリー・シュルツ(Wesley Schultz)と、ジェレマイア・フレイツ(Jeremiah Fraites)が、共に音楽を作り始めます。

 きっかけとなったのは、ウェスリー・シュルツの親友であり、ジェレマイア・フレイツの兄であるジョシュ・フレイツ(Josh Fraites)の死。

 オーバードーズによって、19歳の若さで亡くなったジョシュ。その悲しみと喪失感を紛らわし、共有するため、2人は一緒に音楽に向かったのでした。

 2005年にはニューヨークへ引っ越し、ザ・ルミニアーズ名義での活動を開始。成功を夢見て、小さなクラブなどでライブ活動を続けます。

 しかし、競争の激しいニューヨークの音楽シーンと、あまりにも高い物価に耐えかね、2009年にコロラド州デンバーへと拠点を移動。同地で出会ったのが、クラシック音楽の教育を受け、音楽教師を目指していたチェリストのネイラ・ペカレック(Neyla Pekarek)です。

 彼女をメンバーへ迎え、3ピース編成となったザ・ルミニアーズ。音楽性の幅を広げ、それと比例して、着実に人気と評価も拡大。2012年にリリースされた1stアルバムが、本作『The Lumineers』です。

 メジャーレーベルからのオファーもある中、テネシー州ナッシュヴィルを拠点にする、フォーク系を得意とするインディーズ・レーベル、デュアルトーンからのリリース。

 メジャーレーベルを断り、小さなインディーレーベルを選ぶところにも気概が感じられますが、音楽も流行に左右されない強度を持ったバンドと言えます。

 ちなみにチャート成績もインディーズの枠を越えた好調ぶりで、アルバムとEPの売り上げをランキングにした「ビルボード200 (Billboard 200)」では、初登場45位、最高2位を記録。イギリスのチャートでも最高8位。

 リリースから4年の2016年4月までに、アメリカ国内で170万枚、イギリスで40万枚を売り上げています。

 彼らが奏でるのは、アコースティック楽器を主軸にした、フォーキーかつ躍動感あふれる音楽。フォークやアメリカーナを得意とするレーベル、デュアルトーンからリリースされているのも納得の地に足の着いたサウンドを鳴らしています。

 しかし、ただフォークやカントリーを焼き直すだけでなく、ロックにも通ずるダイナミックなアンサンブルや、ネイラ・ペカレックの奏でるチェロのサウンドなどが共存。カラフルで現代的な一面も持ち合わせています。

 1曲目「Flowers In Your Hair」は、アルバムのスタートにふさわしく、軽やかにバウンドするように駆け抜けていきます。アコースティック楽器で構成されたアンサンブルによって、ブルーグラスの香りも漂いますが、チェロの暖かく厚みのあるサウンドが、室内楽のような雰囲気もプラス。

 2曲目「Classy Girls」の前半は、ガヤガヤした街の音がサンプリングされ、その音をバックに、音数を絞った牧歌的な演奏が展開。ストリングスやドラムなどが段階的に加わり、徐々に加速しスリリングな演奏へ。

 3曲目「Submarines」では、ピアノが的確にリズムをキープし、ドラムが立体感をプラス。ピアノのまわりに他の楽器が絡みつくように、躍動感のあるアンサンブルが展開します。

 5曲目「Ho Hey」は、アコースティック・ギターと歌を中心にした、シンプルなアンサンブルに「Ho! Hey!」というかけ声が重なり、立体感と躍動感を増すアクセントとなっています。

 7曲目「Stubborn Love」は、流れるようなギターのコード・ストロークと、伸びやかなチェロ、ドンドンと鼓動のように響くドラムが重なり、バンドが一体の生き物のように、有機的に躍動。いきいきとした躍動感と疾走感を持った1曲。

 8曲目「Big Parade」は、ハンド・クラップとコーラスワークが中心になったイントロから始まる、歌のメロディーが前景化した1曲。流麗なメロディーを引き立て、加速させるように、徐々に楽器と音数が増え、疾走感を増していきます。

 11曲目「Morning Song」は、ゆったりとしたテンポに乗せて、タメをたっぷりと取ったアンサンブルが繰り広げられる1曲。アルバムのラストを締めくくる曲にふさわしく、楽器の出し入れのコントラストがわかりやすく、壮大なアレンジの1曲。

 全編を通してアコースティック・ギターを主軸に据えたフォーキーなサウンド・プロダクション。なのですが、ドラムがドタドタとパワフルにリズムを叩く場面が多く、ロック的なダイナミズムも持ち合わせたアルバムです。

 前述したとおり、ネイラ・ペカレックによるチェロの伸びやかなロングトーンも、アンサンブルを包みこむように、音楽的な広がりを加えています。

 フォークやカントリーなど、ルーツ・ミュージックを下敷きにしながら、アンサンブルは立体的かつダイナミック。オルタナティヴ・ロック以降の自由な発想が感じられる、インディーフォークらしい1作です。

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Two Gallants “The Bloom And The Blight” / トゥー・ギャランツ『ザ・ブルーム・アンド・ザ・ブライト』


Two Gallants “The Bloom And The Blight”

トゥー・ギャランツ 『ザ・ブルーム・アンド・ザ・ブライト』
発売: 2012年9月4日
レーベル: ATO (エー・ティー・オー)
プロデュース: John Congleton (ジョン・コングルトン)

 カリフォルニア州サンフランシスコ出身の2ピース・バンド、トゥー・ギャランツの前作から5年ぶりとなる4thアルバム。

 前作『Two Gallants』を2007年にリリースしたのち、バンドは2008年から2012年まで活動休止。この間、アダム・スティーヴンス(Adam Stephens)はソロ・アルバムを制作、タイソン・ヴォーゲル(Tyson Vogel)はディボーショナルズ(Devotionals)というバンドを結成してアルバムを制作するなど、メンバーはそれぞれ音楽活動を重ねていました。

 そして、前述のとおり5年の月日を経て、レーベルをサドル・クリークからATOへと移籍し、リリースされたのが本作『The Bloom And The Blight』。

 トゥー・ギャランツの魅力を端的に表すなら、ブルースやフォークなどルーツ・ミュージックを下敷きにしながら、パンキッシュな攻撃性を持ち合わせているところ。アコースティック楽器を主軸にした、フォーキーなサウンドを持ちながら、ロックやパンクに負けないダイナミズムを持っています。

 前作『Two Gallants』では、ややダイナミックなサウンドは抑えめに、アンサンブルを重視した音楽を志向していましたが、5年ぶりのアルバムとなる本作では、再び尖ったサウンドが戻ってきています。

 1曲目の「Halcyon Days」は、メロウなギターのイントロから始まりますが、再生時間0:26あたりから、早速ダイナミックな音の波が押し寄せます。感情を絞り出すようなボーカリゼーションは、パンキッシュともブルージーとも呼びたくなるもの。タメをたっぷりと取ったミドルテンポに乗せて、立体的なアンサンブルが展開します。

 2曲目「Song Of Songs」は、ギターの流れるようなフレーズと、メロウなボーカルから始まり、フルバンドになると激しいサウンドへと一変します。リズムが伸縮するように躍動する1曲。

 3曲目「My Love Won’t Wait」は、大地を踏みしめるような雄大なリズムと、ざらついた歪みのギターが重なる、ミドルテンポの1曲。

 4曲目「Broken Eyes」は、アコースティック・ギターとハーモニカ、パーカッション、歌のみで構成された、オーガニックな響きを持った1曲。牧歌的で親しみやすい雰囲気と、歌の魅力が、前面に出ています。

 6曲目「Decay」の前半は、アコースティック・ギターとボーカル、ストリングスが、ヴェールのような音の壁を作り上げていきます。再生時間2:17あたりでドラムが加わると、立体感も伴い、穏やかながらパワフルな音像へ。荘厳な雰囲気と、ダイナミズムを併せ持ったアレンジ。

 9曲目「Cradle Pyre」は、チクタクチクタクと、各楽器が有機的に噛み合い、一体感と躍動感のあるアンサンブルが展開する1曲。疾走感の溢れるビートや、ゆったりとタメを作ったリズムが、次々と入れ替わり、色彩豊か。

 以前は、アコースティック・ギターを用いたフォーキーなサウンドでありながら、ハードロックにも劣らないダイナミズムを持っていたのが特徴だったのですが、本作ではエレキ・ギターが多用され、よりオルタナティヴ・ロックやガレージ・ロックに近い音像となっています。

 しかし、歌のメロディーやギターのフレーズには、ブルースやカントリーの要素が、以前と変わらず色濃くにじみ、ルーツ・ミュージックと現代性が融合した音楽となっています。4曲目「Broken Eyes」や、10曲目「Sunday Souvenirs」のように、アコースティック楽器が、主軸に据えられた楽曲も健在です。

 僕はトゥー・ギャランツが大好きなのですが、こういう音楽を聴くと、アメリカという国の懐の深さを感じますね。豊かなルーツ・ミュージックの文化と、巨大な社会システムが融合した、力強さに溢れています。

 2018年10月現在、AmazonとSpotifyでは配信されていますが、Appleでは未配信です。





Lightning Bolt “Oblivion Hunter” / ライトニング・ボルト『オブリヴィオン・ハンター』


Lightning Bolt “Oblivion Hunter”

ライトニング・ボルト 『オブリヴィオン・ハンター』
発売: 2012年9月25日
レーベル: Load (ロード)

 ロードアイランド州プロヴィデンス出身の2ピース・バンド、ライトニング・ボルトの2012年リリースのEP作品。

 2009年の5thアルバム『Earthly Delights』と、2015年の6thアルバム『Fantasy Empire』のちょうど間ぐらいにリリースされた1作です。EP扱いになっていますが、7曲収録で時間は約38分と、アルバムに近いボリュームを持った作品となっています。

 これまでの5作のアルバムと同じく、彼らの地元プロヴィデンスのレーベル、ロードからの発売。しかし、2015年リリースのアルバム『Fantasy Empire』からは、シカゴの名門インディペンデント・レーベル、スリル・ジョッキーに移籍。なおかつ、5thアルバムと6thアルバムの間は、約5年半も空いているので、両者の音楽性の変遷を確認する上で、重要な作品と言えます。

 メンバーは、ドラムとベースの2名。その特異な編成から繰り出される、凄まじいテンションのアンサンブルが、ライトニング・ボルトの特徴ですが、初のEP作品となる本作でも、彼らの特徴は存分に閉じ込められています。

 すなわち、手数が多く叩きつけるようなドラムと、ギターのような音域までカバーする動きまくるベース。とてもギターレスの2ピース・バンドとは思えぬ、音数が煩雑なまでに多いアンサンブルが展開されます。

 なぜ、アルバムではなく、EP扱いになったのか、その経緯は分かりませんが、多彩な曲が収録され、カラフルなアルバム作品と比較すると、単色で共通の疾走感に貫かれたのが本作、という印象を受けます。

 1曲目の「King Kandy」から、潰れたような音質のドラムとベースが押し寄せ、テンション高いボーカルが全体を煽る、彼ら得意の演奏が展開。

 2曲目の「Baron Wasteland」では、さらにシフトを上げ、脳みそを揺らすような、怒涛のアンサンブルが繰り広げられます。

 ややメロディアスな3曲目「Oblivion Balloon」、音が四方八方から飛び交うジャンクな4曲目「Fly Fucker Fly」と続き、5曲目の「The Soft Spoken Spectre」が、アルバムの中で毛色の違う1曲。

 1分ちょっとの短い曲ですが、アコースティック・ギターのような音色が用いられ、ベンチャーズ(The Ventures)を思わせる、サーフ・ミュージックのような雰囲気を持っています。

 6曲目「Salamander」と、7曲目「World Wobbly Wide」では、前半の楽曲群にも増して、疾走感とカオティックな演奏が繰り広げられます。

 前述のとおり、7曲収録のEP作品ですが、5曲目の「The Soft Spoken Spectre」を除くと、同じぐらいのテンションで突っ走る1作です。アルバムよりも、演奏のコンセプトを一点に絞り、凝縮されているため、こちらも勢いのままに聴くことができます。

 ただ、個人的には箸休めのような、5曲目「The Soft Spoken Spectre」が一番好き。僕がベンチャーズ好きだということもありますが、ライトニング・ボルトの遊び心が感じられる、かわいい1曲です。