The Lumineers “The Lumineers” / ザ・ルミニアーズ『ザ・ルミニアーズ』


The Lumineers “The Lumineers”

ザ・ルミニアーズ 『ザ・ルミニアーズ』
発売: 2012年4月3日
レーベル: Dualtone (デュアルトーン)
プロデュース: Ryan Hadlock (ライアン・ハドロック)

 コロラド州デンバーを拠点に活動するフォーク・ロック・バンド、ザ・ルミニアーズの1stアルバム。

 バンドの始まりは2002年。共にニュージャージー州ラムジー出身のウェスリー・シュルツ(Wesley Schultz)と、ジェレマイア・フレイツ(Jeremiah Fraites)が、共に音楽を作り始めます。

 きっかけとなったのは、ウェスリー・シュルツの親友であり、ジェレマイア・フレイツの兄であるジョシュ・フレイツ(Josh Fraites)の死。

 オーバードーズによって、19歳の若さで亡くなったジョシュ。その悲しみと喪失感を紛らわし、共有するため、2人は一緒に音楽に向かったのでした。

 2005年にはニューヨークへ引っ越し、ザ・ルミニアーズ名義での活動を開始。成功を夢見て、小さなクラブなどでライブ活動を続けます。

 しかし、競争の激しいニューヨークの音楽シーンと、あまりにも高い物価に耐えかね、2009年にコロラド州デンバーへと拠点を移動。同地で出会ったのが、クラシック音楽の教育を受け、音楽教師を目指していたチェリストのネイラ・ペカレック(Neyla Pekarek)です。

 彼女をメンバーへ迎え、3ピース編成となったザ・ルミニアーズ。音楽性の幅を広げ、それと比例して、着実に人気と評価も拡大。2012年にリリースされた1stアルバムが、本作『The Lumineers』です。

 メジャーレーベルからのオファーもある中、テネシー州ナッシュヴィルを拠点にする、フォーク系を得意とするインディーズ・レーベル、デュアルトーンからのリリース。

 メジャーレーベルを断り、小さなインディーレーベルを選ぶところにも気概が感じられますが、音楽も流行に左右されない強度を持ったバンドと言えます。

 ちなみにチャート成績もインディーズの枠を越えた好調ぶりで、アルバムとEPの売り上げをランキングにした「ビルボード200 (Billboard 200)」では、初登場45位、最高2位を記録。イギリスのチャートでも最高8位。

 リリースから4年の2016年4月までに、アメリカ国内で170万枚、イギリスで40万枚を売り上げています。

 彼らが奏でるのは、アコースティック楽器を主軸にした、フォーキーかつ躍動感あふれる音楽。フォークやアメリカーナを得意とするレーベル、デュアルトーンからリリースされているのも納得の地に足の着いたサウンドを鳴らしています。

 しかし、ただフォークやカントリーを焼き直すだけでなく、ロックにも通ずるダイナミックなアンサンブルや、ネイラ・ペカレックの奏でるチェロのサウンドなどが共存。カラフルで現代的な一面も持ち合わせています。

 1曲目「Flowers In Your Hair」は、アルバムのスタートにふさわしく、軽やかにバウンドするように駆け抜けていきます。アコースティック楽器で構成されたアンサンブルによって、ブルーグラスの香りも漂いますが、チェロの暖かく厚みのあるサウンドが、室内楽のような雰囲気もプラス。

 2曲目「Classy Girls」の前半は、ガヤガヤした街の音がサンプリングされ、その音をバックに、音数を絞った牧歌的な演奏が展開。ストリングスやドラムなどが段階的に加わり、徐々に加速しスリリングな演奏へ。

 3曲目「Submarines」では、ピアノが的確にリズムをキープし、ドラムが立体感をプラス。ピアノのまわりに他の楽器が絡みつくように、躍動感のあるアンサンブルが展開します。

 5曲目「Ho Hey」は、アコースティック・ギターと歌を中心にした、シンプルなアンサンブルに「Ho! Hey!」というかけ声が重なり、立体感と躍動感を増すアクセントとなっています。

 7曲目「Stubborn Love」は、流れるようなギターのコード・ストロークと、伸びやかなチェロ、ドンドンと鼓動のように響くドラムが重なり、バンドが一体の生き物のように、有機的に躍動。いきいきとした躍動感と疾走感を持った1曲。

 8曲目「Big Parade」は、ハンド・クラップとコーラスワークが中心になったイントロから始まる、歌のメロディーが前景化した1曲。流麗なメロディーを引き立て、加速させるように、徐々に楽器と音数が増え、疾走感を増していきます。

 11曲目「Morning Song」は、ゆったりとしたテンポに乗せて、タメをたっぷりと取ったアンサンブルが繰り広げられる1曲。アルバムのラストを締めくくる曲にふさわしく、楽器の出し入れのコントラストがわかりやすく、壮大なアレンジの1曲。

 全編を通してアコースティック・ギターを主軸に据えたフォーキーなサウンド・プロダクション。なのですが、ドラムがドタドタとパワフルにリズムを叩く場面が多く、ロック的なダイナミズムも持ち合わせたアルバムです。

 前述したとおり、ネイラ・ペカレックによるチェロの伸びやかなロングトーンも、アンサンブルを包みこむように、音楽的な広がりを加えています。

 フォークやカントリーなど、ルーツ・ミュージックを下敷きにしながら、アンサンブルは立体的かつダイナミック。オルタナティヴ・ロック以降の自由な発想が感じられる、インディーフォークらしい1作です。

ディスクレビュー一覧へ移動