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Mothers “Render Another Ugly Method” / マザーズ『レンダー・アナザー・アグリー・メソッド』


Mothers “Render Another Ugly Method”

マザーズ 『レンダー・アナザー・アグリー・メソッド』
発売: 2018年9月7日
レーベル: ANTI- (アンタイ)
プロデューサー: John Congleton (ジョン・コングルトン)

 ジョージア州アセンズ出身のインディー・フォーク・バンド、マザーズの2ndアルバム。

 1stアルバム『When You Walk A Long Distance You Are Tired』は、アメリカ国内ではグランド・ジュリー(Grand Jury)、イギリスとヨーロッパではウィチタ(Wichita)からと、米英それぞれのインディーズ・レーベルよりリリース。

 本作は、エピタフ傘下の個性的なインディーズ・レーベル、アンタイからリリースされています。

 プロデューサーを務めるのは、セイント・ヴィンセント(St. Vincent)や、エクスプロージョンズ・イン・ザ・スカイ(Explosions In The Sky)などの仕事で知られるジョン・コングルトン。

 全体に靄がかかったようなソフトなサウンド・プロダクションで、ゆるやかな躍動感をともなったアンサンブルを展開。ジャンルとしては、フォークロックに分類されることもあるようですが、なんともサイケデリックな空気を持った1作です。

 各楽器の音作りもソフトだし、ボーカルもどこか物憂げ。これだけでも、サイケデリックな空気を漂わせているのですが、アンサンブルに揺らぎがあり、この揺らぎが立体感と躍動感、さらなるサイケデリアを生んでいます。

 1曲目の「BEAUTY ROUTINE」から、空間系エフェクターの深くかかったギターサウンドが、場に浸透するように広がり、アンニュイな女声ボーカルも相まって、心地よくもありながら、サイケデリック。前半はロングトーン主体で、音響を重視したアプローチですが、再生時間1:57あたりからドラムがビートを強めると、スイッチが入ったかのように躍動感が生まれます。

 2曲目「PINK」は、バウンドするような音色とリズムのギター、タイトなリズム隊が一体となって疾走する、コンパクトなロック。イントロからしばらくは各楽器とも、はみ出すようなフレーズが無く、塊となって疾走しますが、徐々に揺らぎと立体感が増していく展開。

 4曲目「BLAME KIT」は、各楽器のフレーズが、まとまるのか、バラバラになるのか、絶妙なバランスで躍動的なアンサンブルが展開する、ギターポップ調の1曲。音を詰め込みすぎず、スペースを活かすバランス感覚も秀逸。パッと聴いたサウンドと曲調はポップですが、ところどころアヴァンギャルな音色とフレーズが顔を出し、他のバンドを例に出すなら、ザ・シー・アンド・ケイク(The Sea and Cake)に近いです。

 5曲目「BAPTIST TRAUMA」では、ドラムがタメをたっぷりと取って、打ちつけるようにリズムを刻み、ギターとベースは一定の間を取りながらフレーズで隙間を埋めます。ボーカルはメロディー感の希薄な、ロングトーンを多用。ぶっきらぼうにも思えるアンサンブルと、アンビエントな空気を漂わせるボーカルが融合する、やや実験的な1曲。しかし、難しい音楽というわけではなく、躍動感あふれる演奏です。

 9曲目「MOTHER AND WIFE」は、イントロから電子的な持続音が鳴り響く、音響が前景化したアンビエントな曲。ボーカルもゆったりとメロディーを紡ぎ、神秘的な空気を演出。

 全体のサウンドは柔らかく聴きやすいのに、ところどころ意外性のあるアレンジと音色が散りばめられ、違和感と心地良さのバランスが絶妙。気がついたら底なしの沼に、引きこまれていくような感覚があります。

 いかにもアンタイらしく、実験性を持ちながら、ポップ・ミュージックとしても良質なアルバムです。

 2018年12月現在、SpotifyとAmazonでは配信されていますが、Apple MusicおよびiTunesでのデジタル配信は無いようです。

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Two Gallants “The Bloom And The Blight” / トゥー・ギャランツ『ザ・ブルーム・アンド・ザ・ブライト』


Two Gallants “The Bloom And The Blight”

トゥー・ギャランツ 『ザ・ブルーム・アンド・ザ・ブライト』
発売: 2012年9月4日
レーベル: ATO (エー・ティー・オー)
プロデュース: John Congleton (ジョン・コングルトン)

 カリフォルニア州サンフランシスコ出身の2ピース・バンド、トゥー・ギャランツの前作から5年ぶりとなる4thアルバム。

 前作『Two Gallants』を2007年にリリースしたのち、バンドは2008年から2012年まで活動休止。この間、アダム・スティーヴンス(Adam Stephens)はソロ・アルバムを制作、タイソン・ヴォーゲル(Tyson Vogel)はディボーショナルズ(Devotionals)というバンドを結成してアルバムを制作するなど、メンバーはそれぞれ音楽活動を重ねていました。

 そして、前述のとおり5年の月日を経て、レーベルをサドル・クリークからATOへと移籍し、リリースされたのが本作『The Bloom And The Blight』。

 トゥー・ギャランツの魅力を端的に表すなら、ブルースやフォークなどルーツ・ミュージックを下敷きにしながら、パンキッシュな攻撃性を持ち合わせているところ。アコースティック楽器を主軸にした、フォーキーなサウンドを持ちながら、ロックやパンクに負けないダイナミズムを持っています。

 前作『Two Gallants』では、ややダイナミックなサウンドは抑えめに、アンサンブルを重視した音楽を志向していましたが、5年ぶりのアルバムとなる本作では、再び尖ったサウンドが戻ってきています。

 1曲目の「Halcyon Days」は、メロウなギターのイントロから始まりますが、再生時間0:26あたりから、早速ダイナミックな音の波が押し寄せます。感情を絞り出すようなボーカリゼーションは、パンキッシュともブルージーとも呼びたくなるもの。タメをたっぷりと取ったミドルテンポに乗せて、立体的なアンサンブルが展開します。

 2曲目「Song Of Songs」は、ギターの流れるようなフレーズと、メロウなボーカルから始まり、フルバンドになると激しいサウンドへと一変します。リズムが伸縮するように躍動する1曲。

 3曲目「My Love Won’t Wait」は、大地を踏みしめるような雄大なリズムと、ざらついた歪みのギターが重なる、ミドルテンポの1曲。

 4曲目「Broken Eyes」は、アコースティック・ギターとハーモニカ、パーカッション、歌のみで構成された、オーガニックな響きを持った1曲。牧歌的で親しみやすい雰囲気と、歌の魅力が、前面に出ています。

 6曲目「Decay」の前半は、アコースティック・ギターとボーカル、ストリングスが、ヴェールのような音の壁を作り上げていきます。再生時間2:17あたりでドラムが加わると、立体感も伴い、穏やかながらパワフルな音像へ。荘厳な雰囲気と、ダイナミズムを併せ持ったアレンジ。

 9曲目「Cradle Pyre」は、チクタクチクタクと、各楽器が有機的に噛み合い、一体感と躍動感のあるアンサンブルが展開する1曲。疾走感の溢れるビートや、ゆったりとタメを作ったリズムが、次々と入れ替わり、色彩豊か。

 以前は、アコースティック・ギターを用いたフォーキーなサウンドでありながら、ハードロックにも劣らないダイナミズムを持っていたのが特徴だったのですが、本作ではエレキ・ギターが多用され、よりオルタナティヴ・ロックやガレージ・ロックに近い音像となっています。

 しかし、歌のメロディーやギターのフレーズには、ブルースやカントリーの要素が、以前と変わらず色濃くにじみ、ルーツ・ミュージックと現代性が融合した音楽となっています。4曲目「Broken Eyes」や、10曲目「Sunday Souvenirs」のように、アコースティック楽器が、主軸に据えられた楽曲も健在です。

 僕はトゥー・ギャランツが大好きなのですが、こういう音楽を聴くと、アメリカという国の懐の深さを感じますね。豊かなルーツ・ミュージックの文化と、巨大な社会システムが融合した、力強さに溢れています。

 2018年10月現在、AmazonとSpotifyでは配信されていますが、Appleでは未配信です。