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Calexico “The Thread That Keeps Us” / キャレキシコ『ザ・スレッド・ザット・キープス・アス』


Calexico “The Thread That Keeps Us”

キャレキシコ 『ザ・スレッド・ザット・キープス・アス』
発売: 2018年1月26日
レーベル: ANTI- (アンタイ)
プロデュース: Craig Schumacher (クレイグ・シューマッハ)

 アリゾナ州ツーソン拠点のバンド、キャレキシコの9作目のスタジオ・アルバム。

 ちなみにカタカナ表記は「キャレキシコ」が一般的だと思うんですけど、iTunes StoreおよびApple Musicでは「キャレクシコ」という表記になっていました。

 元々は、ハウ・ゲルブ(Howe Gelb)が率いるオルタナ・カントリー・バンド、ジャイアント・サンド(Giant Sand)に参加していたジョーイ・バーンズ(Joey Burns)と、ジョン・コンバーティノ(John Convertino)によって結成されたキャレキシコ。

 メキシコに近いアリゾナ州拠点のバンドらしく、初期はテックスメックス(テキサス州でメキシコ系アメリカ人によって演奏されるルーツ・ミュージック)や、カントリー色の濃い音楽を特徴としていました。

 僕自身もキャレキシコにはそういうイメージを持っていたんですけど、通算9作目となる本作は、思いのほかルーツ色が薄く、2018年のインディーロック然とした、若々しい音を鳴らしています。

 ただ、もちろんルーツ臭が完全に消え去ったわけでは無くて、生楽器のオーガニックな響きと、電子音を取り入れたモダンなサウンド・プロダクションが融合。

 例えば1曲目の「End Of The World With You」では、いきいきとしたカントリー的な躍動感と、エレキギターのフィードバック、電子的な持続音が共存。カントリーのサウンドとグルーヴ感が根底にありながら、電子楽器の使用によって、オルタナティヴな香りもまとった1曲になっています。

 3曲目「Bridge To Nowhere」では、立体的なアンサンブルが展開。アコースティック楽器を主体にしながら、ロック的なダイナミズムを持ち合わせています。

 8曲目「Another Space」は、イントロからキーボードが大胆に導入され、ファンキーな演奏が繰り広げられる1曲。でも、ゴリゴリにグルーヴしていくような演奏とは少し異なり、ポリリズミックなアンサンブルが徐々に加速していく展開。ホーンも導入しているため、ジャズかフュージョンのようにも聞こえます。

 10曲目「Girl In The Forest」は、アコースティック・ギターとボーカルが中心に据えられたムーディーな1曲。

 アルバム全体をとおして、ルーツ・ミュージックを下敷きにしながら、電子音やエレキギター、ホーンを導入し、多彩なサウンドを作り上げています。

 通しで聴いてみると、実に多くのジャンルを参照していることが分かると思います。でも、八方美人な音楽にはならず、カントリーの軸がぶれないところが、このバンドの良さですね。

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Mothers “Render Another Ugly Method” / マザーズ『レンダー・アナザー・アグリー・メソッド』


Mothers “Render Another Ugly Method”

マザーズ 『レンダー・アナザー・アグリー・メソッド』
発売: 2018年9月7日
レーベル: ANTI- (アンタイ)
プロデューサー: John Congleton (ジョン・コングルトン)

 ジョージア州アセンズ出身のインディー・フォーク・バンド、マザーズの2ndアルバム。

 1stアルバム『When You Walk A Long Distance You Are Tired』は、アメリカ国内ではグランド・ジュリー(Grand Jury)、イギリスとヨーロッパではウィチタ(Wichita)からと、米英それぞれのインディーズ・レーベルよりリリース。

 本作は、エピタフ傘下の個性的なインディーズ・レーベル、アンタイからリリースされています。

 プロデューサーを務めるのは、セイント・ヴィンセント(St. Vincent)や、エクスプロージョンズ・イン・ザ・スカイ(Explosions In The Sky)などの仕事で知られるジョン・コングルトン。

 全体に靄がかかったようなソフトなサウンド・プロダクションで、ゆるやかな躍動感をともなったアンサンブルを展開。ジャンルとしては、フォークロックに分類されることもあるようですが、なんともサイケデリックな空気を持った1作です。

 各楽器の音作りもソフトだし、ボーカルもどこか物憂げ。これだけでも、サイケデリックな空気を漂わせているのですが、アンサンブルに揺らぎがあり、この揺らぎが立体感と躍動感、さらなるサイケデリアを生んでいます。

 1曲目の「BEAUTY ROUTINE」から、空間系エフェクターの深くかかったギターサウンドが、場に浸透するように広がり、アンニュイな女声ボーカルも相まって、心地よくもありながら、サイケデリック。前半はロングトーン主体で、音響を重視したアプローチですが、再生時間1:57あたりからドラムがビートを強めると、スイッチが入ったかのように躍動感が生まれます。

 2曲目「PINK」は、バウンドするような音色とリズムのギター、タイトなリズム隊が一体となって疾走する、コンパクトなロック。イントロからしばらくは各楽器とも、はみ出すようなフレーズが無く、塊となって疾走しますが、徐々に揺らぎと立体感が増していく展開。

 4曲目「BLAME KIT」は、各楽器のフレーズが、まとまるのか、バラバラになるのか、絶妙なバランスで躍動的なアンサンブルが展開する、ギターポップ調の1曲。音を詰め込みすぎず、スペースを活かすバランス感覚も秀逸。パッと聴いたサウンドと曲調はポップですが、ところどころアヴァンギャルな音色とフレーズが顔を出し、他のバンドを例に出すなら、ザ・シー・アンド・ケイク(The Sea and Cake)に近いです。

 5曲目「BAPTIST TRAUMA」では、ドラムがタメをたっぷりと取って、打ちつけるようにリズムを刻み、ギターとベースは一定の間を取りながらフレーズで隙間を埋めます。ボーカルはメロディー感の希薄な、ロングトーンを多用。ぶっきらぼうにも思えるアンサンブルと、アンビエントな空気を漂わせるボーカルが融合する、やや実験的な1曲。しかし、難しい音楽というわけではなく、躍動感あふれる演奏です。

 9曲目「MOTHER AND WIFE」は、イントロから電子的な持続音が鳴り響く、音響が前景化したアンビエントな曲。ボーカルもゆったりとメロディーを紡ぎ、神秘的な空気を演出。

 全体のサウンドは柔らかく聴きやすいのに、ところどころ意外性のあるアレンジと音色が散りばめられ、違和感と心地良さのバランスが絶妙。気がついたら底なしの沼に、引きこまれていくような感覚があります。

 いかにもアンタイらしく、実験性を持ちながら、ポップ・ミュージックとしても良質なアルバムです。

 2018年12月現在、SpotifyとAmazonでは配信されていますが、Apple MusicおよびiTunesでのデジタル配信は無いようです。

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The Drums “Abysmal Thoughts” / ザ・ドラムス『アビスマル・ソウツ』


The Drums “Abysmal Thoughts”

ザ・ドラムス 『アビスマル・ソウツ』
発売: 2017年6月16日
レーベル: ANTI- (アンタイ)
プロデュース: Jonathan Schenke (ジョナサン・シェンケ)

 ニューヨーク出身のインディーロック・バンド、ザ・ドラムスの4thアルバム。エピタフの姉妹レーベルであり、ジャンルを超えてオルタナティヴな作品を手がける、アンタイからのリリース。

 2008年に、ニューヨークのブルックリンで結成。2010年の1stアルバム『The Drums』リリース時は、4ピース・バンドだったザ・ドラムス。

 しかし、2010年にギターのアダム・ケスラー(Adam Kessler)、2012年にドラムのコナー・ハンウィック(Connor Hanwick)、2017年にはシンセサイザーのジェイコブ・グラハム(Jacob Graham)が脱退。

 そのため、本作リリース時のメンバーは、ジョナサン・ピアースのみ。部分的にグラハムが参加している楽曲もありますが、ほとんど彼のソロ・プロジェクトとなっています。

 サポート・メンバーも招いてはいますが、ピアース自身がギター、ベース、ドラム、シンセサイザー、各種パーカッションなど、多くの楽器を担当。

 ただ、多くの楽器を担っているからといって、1人が頭の中で作りあげた閉塞感や、箱庭感のあるアルバムかというと、そうでもありません。

 元々ゴリゴリのグルーヴよりも、軽やかな疾走感を特徴としていたザ・ドラムス。バンドでありながら、サウンド・プロダクションにも、アンサンブルにも宅録感があったので、1人になったところで、その魅力は損なわれないということなのでしょう。

 同時に、フロンロマンを務めるジョナサン・ピアースの影響が、大きな比率を占めていたバンドなのだな、とも思います。むしろ、1人になった本作の方がアンサンブルが有機的で、バンド感が強いのではないかとすら感じます。

 サウンド・プロダクションにおいても、80年代ニューウェーヴを彷彿とさせるシンセ・サウンドは、やや控えめ。よりソリッドな音像となっています。とはいえ、一般的な感覚から言えば、十分にソフトなサウンド。

 いずれにしても、メンバーが1人になったからといって、音楽性が大きく変わることもなく、これまでのザ・ドラムスらしさを多分に含んだ1作です。

 1曲目「Mirror」は、音数が少なくスペースの多いアンサンブルの中で、ボーカルが際立つ1曲。各楽器のフレーズもシンプルですが、0:50あたりから入る調子ハズレに聞こえるベース音が、耳に引っかかるフックになっています。

 2曲目「I’ll Fight For Your Life」では、イントロから増殖するようなシンセのフレーズにギターが重なり、レイヤー状に厚みを増すアンサンブルが展開。ドラムのリズムは気持ちいいぐらいにシンプルで、軽やかな疾走感を生んでいます。

 3曲目「Blood Under My Belt」は、コーラスワークも含め、立体的なアンサンブルの1曲。

 4曲目「Heart Basel」は、イントロから徐々に楽器と音数が増えていき、四方八方から音が飛び交う、にぎやかなアンサンブルへと発展。この曲も、各楽器とも音を詰め込みすぎず、スペースを保ちつつ、ゆるやかにバウンドするような躍動感あふれる演奏となっています。

 8曲目「Are U Fucked?」は、リバーブの効いたギターと、まわりで鳴る各種パーカッションの音色が耳に残る、浮遊感のある1曲。全体のサウンド・プロダクションが柔らかく、各楽器のフレーズと音作りには意外性があり、ほのかにサイケデリックな空気が漂います。

 10曲目「Rich Kids」は、奇妙なサウンドのイントロから始まり、タイトに絞り込まれた、疾走感のある演奏が展開。その後もファニーなサウンドとフレーズが随所で顔を出し、ノリの良さと、アヴァンギャルドな空気が共存した1曲です。

 アルバム表題曲であり、ラスト12曲目の「Abysmal Thoughts」は、各楽器のフレーズがリズムをずらしながら折り重なる、立体的なアンサンブルが魅力の1曲。

 前述したとおり、アルバム全体をとおして過度に音を詰めこまず、スペースに余裕のあるアンサンブルが展開される1作です。

 サウンド・プロダクションもソフトで、どちらかというとローファイ寄り。ですが、アンサンブルの隙間と、柔らかなサウンドが揺らぎを際立たせ、ゆるやかな躍動感をともなった音楽を作り上げていきます。

 前述したとおり、ジョナサン・ピアースが多くの部分を作り上げた本作。すべてが彼の思いどおりにコントロールされたため、コンパクトでありながら、躍動感をともなった演奏を、実現できたのではないかと思います。

 圧倒的な音圧やグルーヴ感で押すわけではないのに、いつの間にか体が動き出す、音楽的フックをいくつも持ったアルバムです。

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Rafiq Bhatia “Breaking English” / ラフィーク・バーティア『ブレイキング・イングリッシュ』


Rafiq Bhatia “Breaking English”

ラフィーク・バーティア (ラフィク・バーティア) 『ブレイキング・イングリッシュ』
発売: 2018年4月6日
レーベル: ANTI- (アンタイ)

 実験的な音楽を展開するバンド、サン・ラックス(Son Lux)のメンバーである、ラフィーク・バーティアの2ndアルバム。エピタフの姉妹レーベルでもある、アンタイからのリリース。

 東アフリカとインドにルーツを持ち、1987年にノースカロライナ州ヒッコリーで生まれ、同州ローリーで育ったラフィーク・バーティア。移民が作り上げた国アメリカでは、複雑なルーツを持つことは珍しいことではありません。

 バーティアの音楽の興味は、祖父が朗読するジナン(Ginans)と呼ばれるイスラム教イスマーイール派の詩と、ラジオで聴くギャングスタ・ラップから始まり、高校生になるとギターを始めています。

 前述のとおり、サン・ラックスのメンバーとしても活動しているラフィーク・バーティア。本人名義のアルバムとしては、2012年リリースの『Yes It Will』以来6年ぶりの作品となります。

 一聴すると、まずどのジャンルにカテゴライズすべきか迷ってしまいます。もちろん、ジャンル分けが音楽の聴き方を決めるわけではないのですが、それほど本作の間口が広く、オリジナリティに溢れているということ。

 リリース以来、各所でポジティヴな評価を得ている本作ですが、ジャズ系のメディアにも、ロック系のメディアにも取り上げられているところも、良い意味での掴みにくさを示唆しています。

 このアルバムの魅力を一言で表すなら、作曲と即興がシームレスに共存しているところ。つまり、あらかじめ決められ、丁寧に作り上げられた「作曲」の要素と、その場のインスピレーションによる、いきいきとした「即興」の要素が、対立することなく両立しているということです。

 いわゆる歌モノのように、わかりやすい構造を持った楽曲群ではありませんが、かといって音響系のポストロックやエレクトロニカのように、完全に音の響きのみを重視した音楽というわけでもありません。

 音響を前景化した面もありながら、ジャズの即興性と躍動感、そして設計図を元に組み立てられたかのような整然さが、奇跡的なバランスで成り立っています。

 例えば4曲目の「Before Our Eyes」では、立体的でトライバルなビートに、ヴァイオリンの躍動的なフレーズが重なり、グルーヴ感に溢れたアンサンブルへと発展。それぞれのリズムとフレーズには、即興性を感じさせるフリーな雰囲気がありながら、楽曲の展開はまるで映画のワンシーンにあてられたサウンドトラックのように滑らかです。

 また、ポストロック的なレコーディング後の編集を感じさせるのも、本作の特徴。アルバム表題曲の6曲目「Breaking English」では、ギターのフレーズ、断片的なドラムのリズム、エフェクトのかかったボーカルなどが折り重なるように音楽を構成していきます。

 アルバムのラストを飾る9曲目「A Love That’s True」は、アコースティック・ギターのオーガニックな音色と、エフェクトを駆使したサウンドが溶け合い、強弱を変えながら押し寄せる風のような、パワフルかつコントラストの鮮やかな音楽を作り上げています。

 即興と作曲、電子音と生楽器、生演奏とポスト・プロダクション。相反すると思われるふたつの要素を融合し、新たな音楽を作り上げていく、スリリングなアルバムと言えます。

 真の意味でオルタナティヴな作品をリリースし続けるレーベル、アンタイ(ANTI-)からのリリースだというのも、個人的には妙に納得してしまうクオリティ。

 思わず体が動き出す躍動感と、ヘッドホンで集中して聴くべき世界観を持ち合わせた名作です。

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Wilco “Star Wars” / ウィルコ『スター・ウォーズ』


Wilco “Star Wars”

ウィルコ 『スター・ウォーズ』
発売: 2015年7月16日
レーベル: ANTI- (アンタイ), dBpm

 イリノイ州シカゴを拠点に活動するバンド、ウィルコの9枚目のスタジオ・アルバムです。彼ら自身が設立したレーベルdBpmと、エピタフの姉妹レーベルANTI-より発売。

 オルタナ・カントリーを代表するバンド、ウィルコ。本作『Star Wars』は、随所にディストーション・ギターが響きわたる、オルタナ色の濃い1枚です。しかし、カントリーへのリスペクト溢れる、緩やかなグルーヴ感や、親しみやすいメロディーも健在。このバランス感覚が抜群で、さすがウィルコ!と思わせる1枚です。

 1曲目の「EKG」は、複数のノイジーなエレキ・ギターが絡み合い、実験的な空気から始まります。1分あまりの長さで、ボーカル無しのイントロダクション的な曲ですが、めちゃくちゃかっこいいです、これ。

 2曲目「More…」は、アコースティック・ギターのゆったりしたコード・ストロークに、エレキ・ギターが絡み合うようなイントロ。カントリーとオルタナ性が溶け合った、ウィルコらしい1曲。

 3曲目「Random Name Generator」は、野太く歪んだギターに、パワフルなドラム。ギターのフレーズはカントリーの香りを振りまき、全体のアンサンブルには古き良きロックンロールの香り立つ1曲。しかし、ルーツくさくなり過ぎず、現代的でオルタナティヴな雰囲気にまとめるのが、彼らの魅力。再生時間2:13あたりからのアレンジなど、オルタナティヴなアレンジがアクセント。

 4曲目「The Joke Explained」。こちらもカントリーな雰囲気と、オルタナティヴな空気が共存する1曲。ギターの音色とフレーズが、実験的な雰囲気をプラスし、全体の立体的なアンサンブルも鮮やか。

 9曲目の「Cold Slope」は、複数のギターが絡み合う、ジャンクな耳ざわりのイントロから、タイトなアンサンブルが始まる1曲。テンポ抑え目、ボーカルも感情を排したような淡々とした歌い方。だけど、再生時間0:36からのエレキ・ギターの登場とコードの響きなど、ほのかに違和感があるところがウィルコらしい。再生時間1:00あたりからは、ギターが増え、緩やかにオルタナティヴな雰囲気へ。

 カントリーを下敷きに、激しく歪んだギターや、実験的なアレンジが融合した1枚です。オルタナ・カントリーというと、折衷的な音楽であるかのようなイメージもありますが、ウィルコの音楽はカントリー、オルタナティヴ、どちらの要素も地に足が着いていて、両面において理解度の高さをうかがわせます。

 相反すると思われるふたつのジャンルを、違和感や借り物感なくまとめあげるセンスは、やっぱり抜群!