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Alabama Shakes “Sound & Color” / アラバマ・シェイクス『サウンド&カラー』


Alabama Shakes “Sound & Color”

アラバマ・シェイクス 『サウンド&カラー』
発売: 2015年4月21日
レーベル: ATO (エー・ティー・オー)
プロデュース: Blake Mills (ブレイク・ミルズ)

 アラバマ州アセンズで結成されたロック・バンド、アラバマ・シェイクスの2ndアルバム。

 アメリカ国内ではATO、カナダではメープルミュージック(MapleMusic)、イギリスではラフ・トレード(Rough Trade)と、各地の名門インディーズ・レーベルよりリリース。

 デビュー・アルバムとなる前作『Boys & Girls』で、新人バンドとは思えぬ貫禄と色気を持った、ルーツ・ロックを鳴らしたアラバマ・シェイクス。

 3年ぶりのアルバムとなる本作は、古き良きブルースやロックンロールの香りも漂わせつつ、より現代的で多彩なアレンジを含んでいます。ルーツ色の点では、前作の方が濃いので、前作の方が好みという方もいるでしょう。

 しかし、ルーツ色は薄くなってはいますが、バンドが一体となった躍動感は健在。ボーカルのブリタニー・ハワード(Brittany Howard)以外は白人ではありますが、ブラック・ミュージックらしい糸を引くようなグルーヴ感があります。

 1曲目の「Sound & Color」は、ヴィブラフォンの柔らかな響きがフィーチャーされた、スローテンポの穏やかな1曲。ヴィブラフォンの音色が、ジャズのようにも、音響系ポストロックのようにも聴こえます。長めの音符を多用した、ゆったりとしたアンサンブルの上に、ファルセットを駆使したソウルフルなボーカルが、メロディーを紡いでいきます。

 2曲目「Don’t Wanna Fight」では、ギターの軽快なフレーズから始まり、タイトなアンサンブルが展開。遊びが少なくコンパクトな演奏なのですが、随所にリズムのフックがあり、ファンクに通ずるグルーヴ感を持ち合わせています。

 4曲目「Future People」は、各楽器のフレーズが絡み合うように、有機的なアンサンブルを構成する1曲。アンサンブルと溶け合うように、裏声を多用したボーカルが、流麗なメロディーを紡いでいきます。

 5曲目「Gimme All Your Love」は、歪んだギターを中心にしたハードな音像と、音数を絞ったミニマルなアンサンブルが、重なりながら進行する、コントラストの鮮明な1曲。

 9曲目「Shoegaze」は、タイトルからシューゲイザーを想像しましたが、シューゲイジングな曲ではありません。ギターの伸びやかなフレーズと、オルガンの浮遊感のあるサウンドが印象的な、サザン・ロック色の濃い1曲。

 12曲目「Over My Head」では、空間系のエフェクターで揺れるギターサウンドと、ささやくようなボーカルが中心になった、隙間の多いアンサンブルが展開。徐々に楽器が増え、立体感が増していきますが、いずれにしても音数が少なめ。一音ずつを大切にした、揺らぎのある演奏が繰り広げられます。

 前作同様、ブルースやロックンロールなど、ルーツ・ミュージックからの影響は感じられるのですが、本作はより多彩なアプローチを採用したアルバムになっています。

 ロックよりもソウル色が濃くなり、サウンド・プロダクションやアレンジには、オルタナティヴ・ロックやポストロックのように聞こえる部分もあります。

 しかし、各楽器が有機的に絡み合うアンサンブルは健在。ブリタニー・ハワード(Brittany Howard)の表現力ゆたかなボーカルも相まって、バンドの魅力の核となる部分は変わっていません。

 あえて1stアルバムと比較するなら、ブルース色の濃い1st、ソウル色の濃い2ndと言ったところ。前述のとおり、いずれのアルバムもグルーヴ感に溢れた良作です。

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Alabama Shakes “Boys & Girls” / アラバマ・シェイクス『少年少女たち』


Alabama Shakes “Boys & Girls”

アラバマ・シェイクス 『少年少女たち』
発売: 2012年4月9日
レーベル: ATO (エー・ティー・オー)
プロデュース: Andrija Tokic (アンドリジャ・トーキック)

 アラバマ州アセンズで結成されたロック・バンド、アラバマ・シェイクスの1stアルバム。

 もともと農業が盛んで、アフリカ系の人々が多く連れてこられたアメリカ合衆国南部。彼らは奴隷として酷使されたわけですが、ジャズ、ブルース、ロックンロールなど、多くのアメリカ音楽を形作ることにも貢献しました。

 そんなアメリカ南部アラバマ州出身のアラバマ・シェイクス。本作は1stアルバムであり、メンバーの年齢も当時20代中盤ではありますが、ルーツ・ミュージックを取り込んだ、貫禄すら感じる音楽を奏でています。

 スマートにまとまったインディーロックとは一線を画す、古き良きロックンロールのグルーヴ感と雰囲気をまとったバンドと言えます。

 特に紅一点のボーカリスト、ブリタニー・ハワード(Brittany Howard)の声は艶っぽく、糸を引くようにソウルフル。このバンドの大きな魅力となっています。

 バンドのアンサンブルも音数を詰め込まず、スカスカとも思える部分もあるのに、それ以上に各楽器が絡み合うグルーヴ感が強く、いきいきと躍動しています。

 1曲目「Hold On」は、ゆっくりと歩みを進めるようなシンプルなリズムの上に、伸びやかなボーカルが乗り、徐々に音数が増え、躍動感が増していく展開。音数は絞り込まれているのに、たっぷりとしたタメの取り方と、お互いのリズムを噛み合うような各楽器のからみが絶妙で、スカスカ感はまったく感じません。

 3曲目「Hang Loose」は、パーカッシヴなピアノに、なめらかなギターのフレーズが絡まり、ゆるやかに疾走していく1曲。各楽器が絡み合い、躍動するグルーヴからは、古き良きロックンロールの香りが漂います。

 4曲目「Rise To The Sun」は、小気味よく刻まれるリズムと、オルガンの浮遊感のある音色が溶け合う、ややサイケデリックな空気を持った1曲。

 5曲目「You Ain’t Alone」は、タイトルからしてエモーショナルですが、ブリタニーの泣きのボーカルが冴えわたる1曲です。いにしえのブルース・シンガーが蘇ったかのように、パワフルで感情的なボーカリゼーション。

 アルバム表題曲の8曲目「Boys & Girls」では、スローテンポに乗せて、音数を絞ったミニマルなアンサンブルが展開。そのなかを、ボーカルのメロディーがゆるやかに漂います。

 11曲目「On Your Way」は、ゴスペルを連想させる壮大なイントロから始まり、荒々しくパワフルな演奏が繰り広げられる1曲。荒々しいと言っても、ハードロック的な音像というわけではなく、各楽器が自由に躍動し、バンド全体も生き物のようのいきいきとスウィングしているということ。アルバムのラストにふさわしく、パワーに満ちあふれています。

 前述のとおり、南部アラバマ出身らしく、ルーツ・ミュージック色の濃い音楽を展開。2000年以降のインディーフォークおよびオルタナ・カントリー勢には、現代的なサウンドやアレンジを取り込んだバンドも多いですが、アラバマ・シェイクスは良い意味で昔かたぎ。

 古き良きブルースやロックンロールが、変に脚色されることなく、現代に寄り添うこともなく、蘇ったかのような説得力があります。

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Two Gallants “We Are Undone” / トゥー・ギャランツ『ウィー・アー・アンダン』


Two Gallants “We Are Undone”

トゥー・ギャランツ 『ウィー・アー・アンダン』
発売: 2015年2月2日
レーベル: ATO (エー・ティー・オー)
プロデュース: Karl Derfler (カール・ダーフラー)

 カリフォルニア州サンフランシスコ出身の2ピース・バンド、トゥー・ギャランツの通算5枚目のスタジオ・アルバム。前作に引き続き、ニューヨーク拠点のインディー・レーベル、ATOからのリリース。

 トゥー・ギャランツの音楽性をざっくりと説明するならば、フォークやブルースなどのルーツ・ミュージックを、パンクやオルタナティヴ・ロックと融合し、現代性を持たせた、ということになるでしょう。しかし、一口にそうは言っても、アルバムごとに質は変化しています。

 1stアルバム『The Throes』から、3rdアルバム『Two Gallants』までは、アコースティック楽器を中心に据えたフォーキーなサウンドで、ロック的なグルーヴ感やダイナミズムを実現した作風となっていました。

 その後、4年間の活動休止期間を挟み、レーベルもサドル・クリークからATOへと移籍してリリースされた前作『The Bloom And The Blight』は、エレキ・ギターを多用し、ルーツ・ミュージックを下敷きにしたオルタナティヴ・ロック、とでも呼ぶべき質を持っています。

 3年ぶりにリリースされる本作『We Are Undone』でも、前作の音楽性を引き継ぎ、ブルースやフォークを思わせる要素が、エレキ・ギターを用いたオルタナティヴ・ロック的なサウンド・プロダクションとアレンジに融合。ルーツ・ミュージックを現代的に解釈した音楽が、展開しています。

 1曲目「We Are Undone」は、粘っこいギターのフレーズと、ほどよく枯れたボーカルが、ブルージーな香りを振りまく1曲。しかし、倍音たっぷりの歪んだギター、立体的でパワフルなドラムの音作りは現代的。ルーツと現代性が融合した、トゥー・ギャランツらしいサウンドが、早速鳴らされています。

 2曲目「Incidental」は、エフェクターを多用した、厚みのあるギター・サウンドが主軸になった、疾走感あふれるブルース・ロック。再生時間1:29あたりからのギターソロは、糸を引くようなフレーズを、ジャンクな音作りがさらに際立たせています。

 3曲目「Fools Like Us」は、ギターとドラムが切れ味鋭くリズムを刻んでいく、タイトなアンサンブルが展開する1曲。

 4曲目「Invitation To A Funeral」は、ピアノがフィーチャーされ、「葬儀への招待」という曲名のとおり、メロウで寂しげな1曲。しかし、ドラムはパワフルかつ立体的に響き、躍動感も併せ持った楽曲です。

 5曲目「Some Trouble」は、滑らかに振り下ろすようなドラムのイントロから始まり、そのドラムに絡みつくように、ブルージーで引きずるようなギター・プレイが繰り広げられます。音符が糸を引くような、粘っこいグルーヴ感を持った、ミドルテンポの1曲。

 6曲目「My Man Go」は、全体的にリヴァーブがかかったような、反響音たっぷりのサウンド・プロダクション。ゆったりとしたリズムに乗せて、前述の空間を感じるサウンドと共に、メロディーが紡がれていきます。

 8曲目「Heartbreakdown」は、イントロからパーカッションが立体的なサウンドでレコーディングされ、飛び道具的なサウンドと、透明感のあるサウンドが溶け合った、アヴァンギャルドかつポップな1曲。実験性とポップさのバランスが絶妙で、個人的に大好きな曲です。

 10曲目「The Strange Is Gone」は、音数を絞ったシンプルなピアノと、コーラスワークが前面に出たバラード。楽器の数は多くないものの、アンサンブルには躍動感があります。

 ギターやボーカルのフレーズには、ブルースやフォークの要素が強いのですが、音作りとアレンジには、オリタナティヴ・ロックや音響系ポストロック的な色が濃く出たアルバムです。

 単純化して言うならば、ルーツ・ミュージックのパーツを、現代的な手法で再構築したインディー・ロック。アメリカが持つルーツ・ミュージックの歴史と、実験精神が溶け合っているようでもあり、実にアメリカらしい1作であるとも思います。

 





Two Gallants “The Bloom And The Blight” / トゥー・ギャランツ『ザ・ブルーム・アンド・ザ・ブライト』


Two Gallants “The Bloom And The Blight”

トゥー・ギャランツ 『ザ・ブルーム・アンド・ザ・ブライト』
発売: 2012年9月4日
レーベル: ATO (エー・ティー・オー)
プロデュース: John Congleton (ジョン・コングルトン)

 カリフォルニア州サンフランシスコ出身の2ピース・バンド、トゥー・ギャランツの前作から5年ぶりとなる4thアルバム。

 前作『Two Gallants』を2007年にリリースしたのち、バンドは2008年から2012年まで活動休止。この間、アダム・スティーヴンス(Adam Stephens)はソロ・アルバムを制作、タイソン・ヴォーゲル(Tyson Vogel)はディボーショナルズ(Devotionals)というバンドを結成してアルバムを制作するなど、メンバーはそれぞれ音楽活動を重ねていました。

 そして、前述のとおり5年の月日を経て、レーベルをサドル・クリークからATOへと移籍し、リリースされたのが本作『The Bloom And The Blight』。

 トゥー・ギャランツの魅力を端的に表すなら、ブルースやフォークなどルーツ・ミュージックを下敷きにしながら、パンキッシュな攻撃性を持ち合わせているところ。アコースティック楽器を主軸にした、フォーキーなサウンドを持ちながら、ロックやパンクに負けないダイナミズムを持っています。

 前作『Two Gallants』では、ややダイナミックなサウンドは抑えめに、アンサンブルを重視した音楽を志向していましたが、5年ぶりのアルバムとなる本作では、再び尖ったサウンドが戻ってきています。

 1曲目の「Halcyon Days」は、メロウなギターのイントロから始まりますが、再生時間0:26あたりから、早速ダイナミックな音の波が押し寄せます。感情を絞り出すようなボーカリゼーションは、パンキッシュともブルージーとも呼びたくなるもの。タメをたっぷりと取ったミドルテンポに乗せて、立体的なアンサンブルが展開します。

 2曲目「Song Of Songs」は、ギターの流れるようなフレーズと、メロウなボーカルから始まり、フルバンドになると激しいサウンドへと一変します。リズムが伸縮するように躍動する1曲。

 3曲目「My Love Won’t Wait」は、大地を踏みしめるような雄大なリズムと、ざらついた歪みのギターが重なる、ミドルテンポの1曲。

 4曲目「Broken Eyes」は、アコースティック・ギターとハーモニカ、パーカッション、歌のみで構成された、オーガニックな響きを持った1曲。牧歌的で親しみやすい雰囲気と、歌の魅力が、前面に出ています。

 6曲目「Decay」の前半は、アコースティック・ギターとボーカル、ストリングスが、ヴェールのような音の壁を作り上げていきます。再生時間2:17あたりでドラムが加わると、立体感も伴い、穏やかながらパワフルな音像へ。荘厳な雰囲気と、ダイナミズムを併せ持ったアレンジ。

 9曲目「Cradle Pyre」は、チクタクチクタクと、各楽器が有機的に噛み合い、一体感と躍動感のあるアンサンブルが展開する1曲。疾走感の溢れるビートや、ゆったりとタメを作ったリズムが、次々と入れ替わり、色彩豊か。

 以前は、アコースティック・ギターを用いたフォーキーなサウンドでありながら、ハードロックにも劣らないダイナミズムを持っていたのが特徴だったのですが、本作ではエレキ・ギターが多用され、よりオルタナティヴ・ロックやガレージ・ロックに近い音像となっています。

 しかし、歌のメロディーやギターのフレーズには、ブルースやカントリーの要素が、以前と変わらず色濃くにじみ、ルーツ・ミュージックと現代性が融合した音楽となっています。4曲目「Broken Eyes」や、10曲目「Sunday Souvenirs」のように、アコースティック楽器が、主軸に据えられた楽曲も健在です。

 僕はトゥー・ギャランツが大好きなのですが、こういう音楽を聴くと、アメリカという国の懐の深さを感じますね。豊かなルーツ・ミュージックの文化と、巨大な社会システムが融合した、力強さに溢れています。

 2018年10月現在、AmazonとSpotifyでは配信されていますが、Appleでは未配信です。