Kevin Morby “Harlem River” / ケヴィン・モービー『ハーレム・リヴァー』


Kevin Morby “Harlem River”

ケヴィン・モービー 『ハーレム・リヴァー』
発売: 2013年11月26日
レーベル: Woodsist (ウッドシスト)
プロデュース: Rob Barbato (ロブ・バルバート)

 テキサス州ラボック生まれ、カンザスシティ育ちのミュージシャン、ケヴィン・モービーの1stアルバム。

 カンザス州オーバーランド・パークにある、ブルー・ヴァレー・ノースウェスト高校を17歳で中退し、ニューヨークにやってくるケヴィン・モービー。

 しばらくは、カフェや配達の仕事で生計を立てますが、2009年にブルックリンを拠点に活動するフォークロック・バンド、ウッズにベーシストとして加入。

 同時期に、ルームメイトとして知り合ったヴィヴィアン・ガールズ(Vivian Girls)のキャシー・ラモーンと共に結成した、ザ・ベイビーズ(The Babies)での活動も開始。こちらでは、ギター・ボーカルを務めています。

 2013年にはウッズを脱退し、ニューヨークからロサンゼルスへ引っ越し。同年にリリースされた初のソロ・アルバムが、本作『Harlem River』です。

 レーベルは、ウッズのジェレミー・アールが設立したウッドシストから。プロデュースは、ザ・ベイビーズの2ndアルバムを手がけたロブ・バルバート。ドラムは、ザ・ベイビーズのメンバー、ジャスティン・サリヴァン(Justin Sullivan)が務めるなど、これまでの人脈をいかしたラインナップとなっています。

 サイケデリックなフォーク・バンドのウッズと、パンク・バンドのザ・ベイビーズ。音楽性は大きく異なりますが、サウンド・プロダクションの面では、共にローファイなサウンドを持っており、共通しています。しかし、ケヴィン・モービー名義での1作目となる本作では、ローファイ的なテクスチャーではなく、よりスタンダードな音質でレコーディングされています。

 キャシー・ラモーンと共にフロントマンを務めていたザ・ベイビーズは、各楽器の音作りはシンプル、全体のサウンド・プロダクションもチープでローファイ風に仕上げ、メロディーとドタバタしたアンサンブルの魅力を前景化していましたが、本作では音質面でのローファイ要素がほぼ無くなり、一般的な意味では音質が向上。音響とメロディーが、より前面に出てくる作品になっています。

 生楽器のオーガニックな音を中心に据えたアンサンブルは、ウッズに繋がる部分もありますが、サイケデリックな世界観を作り上げるウッズとは異なり、音響系のポストロックのように、音のテクスチャーや緩やかなに躍動しながら広がっていく演奏に、より重きが置かれています。

 1曲目「Miles, Miles, Miles」は、伸縮するようにリズムが切り替わり、ゆるやかな躍動感が生まれる1曲。曲調とサウンド・プロダクションは、カントリーを思わせますが、曲中のリズムの切り替えが、軽快でモダンな空気を演出しています。

 アルバム表題曲の3曲目「Harlem River」では、ブルージーな歌唱とギターのフレーズを中心に、チクタクと動く機械のように、有機的なアンサンブルが展開。9分を超える曲ですが、バンドが生き物のように躍動し、ざらついたサウンドで弾かれるギターソロや、手数は少ないながら立体感を与えるドラムなど、聴きどころが多く、スケールの大きな1曲です。

 8曲目「The Dead They Don’t Come Back」は、カントリーの香りを醸し出すスライド・ギター、ゆったりとストロークを続けるアコースティック・ギター、穏やかで牧歌的なボーカルが絡み合う1曲。

 カントリーを下敷きにしながら、音響を前景化したアプローチや、インストのポストロックのように緩やかに展開しているアンサンブルなど、現代的なアレンジが随所に施されています。

 「オルタナ・カントリー」と呼ぶほどには、わざとらしくオルタナティヴでも、カントリー臭くもなく、コンパクトにまとまったインディー・フォークといった趣の1作。