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Kinski “7 (Or 8)” / キンスキー『セブン (オア・エイト)』


Kinski “7 (Or 8)”

キンスキー 『セブン (オア・エイト)』
発売: 2015年6月2日
レーベル: Kill Rock Stars (キル・ロック・スターズ)
プロデュース: Phil Manley (フィル・マンリー)

 ワシントン州シアトル出身のバンド、キンスキーの通算8枚目のスタジオ・アルバム。

 アルバムのタイトルは、おそらく本作が7作目、あるいは8作目となるため、付けられたのでしょう。自主リリースだった1stアルバムを含めると8作目、除くと7作目ということではないかと思います。

 アルバムごとに音楽性を、少しずつ変化させるキンスキー。サブ・ポップに残した3枚のアルバムは、いずれもポストロック色の強い作品でしたが、キル・ロック・スターズへレーベルを移籍してリリースした前作『Cosy Moments』は、ボーカル入りの曲が増え、取っつきやすい歌モノの一面も持ったアルバムでした。

 キル・ロック・スターズ移籍後、2作目となる本作。キンスキー史上、最もハードなサウンド・プロダクションの1作となっています。

 収録される7曲中、ボーカルが入るのは、2曲目「Flight Risk」と、6曲目「Operation Negligee」のみ。その2曲に関しても、歌のメロディーが前景化されているわけではなく、バンドのアンサンブルに埋もれるようなバランスで、レコーディングされています。

 1曲目「Detroit Trickle Down」では、アームを使っているのか、エフェクターで音を動かしているのか、イントロから音程が上下に動くギターが用いられています。激しく歪んだギターを筆頭に、全ての楽器は生々しく、タイトに引き締まった音質でレコーディングされています。各楽器が組み合い、パワフルで一体感のある演奏が展開。唸りをあげるギターソロが、楽曲にラフな魅力を加えています。

 2曲目「Flight Risk」は、ざらついた歪みのギターを中心に、各楽器が複雑にもつれ合うアンサンブルの間を、ボーカルがすり抜けるようにメロディーを紡いでいく1曲。ボーカル入りではありますが、音量的にはギターの厚みのあるサウンドが、前面に出てくるバランスです。

 3曲目「I Fell Like A Fucking Flower」は、跳ねたリズムのドラムに、ギターが絡みつき、徐々に音数が増え、アンサンブルが厚みを増していく1曲。リズムやフレーズはシンプルで、ループ・ミュージックの要素も持った楽曲です。

 4曲目「Powder」では、各楽器が絡み合いながら進行していく、グルーヴ感に溢れた演奏が繰り広げられます。この曲でも、シンプルなリズムをひたすら繰り返しながら、徐々に変化があらわれるループ・ミュージック的な手法が垣間見えます。ワウのかかったギターも、楽曲をカラフルに彩るアクセント。

 5曲目「Drink Up And Be Somebody」は、溜め込んだエネルギーが暴発するように、前のめりに音が飛び出していく1曲。タイトかつパワフルなリズム隊に、激しく歪んだ複数のギターが絡みつき、一体感と疾走感があふれる演奏が繰り広げられます。

 6曲目「Operation Negligee」は、ボーカル入りの曲ですが、各楽器の音に埋もれるように、ボーカルが奥の方から聞こえてきます。それぞれ音作りの異なる複数のギターが用いられ、ギターを中心に厚みのあるアンサンブルが展開。

 7曲目「Bulletin Of The International String Figure Association」は、12分近くに及ぶ大曲。音数を極限まで絞ったミニマルな前半部から、再生時間2:32あたりでギターが入り、徐々に音と楽器が増え、丁寧に織物を作り上げるようなアンサンブルを展開します。ドラムが複雑にリズムを刻み、立体感も伴ったアレンジ。

 アルバム全体を通して、激しく歪んだギターを主軸にしたアンサンブルが展開。ハードな音像を持った1作です。

 過去2作は、ボーカル入りの曲を増やし、分かりやすいポップ・ミュージックの枠組みに寄り添った音楽へ移行するのかと思いきや、いい意味で予想を裏切ってくれました。

 歌モノはダメで、激しいやつ、実験的なやつの方が良い!と、言いたいわけではありません。ただ、キンスキーというバンドの魅力は、やはりその壮大なアンサンブルと実験精神にあると思うんですよね。

 キャリアを重ねてきて、このようなアグレッシヴな作品を作り上げる彼らが好きです。

 





Kinski “Cosy Moments” / キンスキー『コージー・モーメンツ』


Kinski “Cosy Moments”

キンスキー 『コージー・モーメンツ』
発売: 2013年4月2日
レーベル: Kill Rock Stars (キル・ロック・スターズ)
プロデュース: Randall Dunn (ランドール・ダン)

 ワシントン州シアトル出身のバンド、キンスキーの通算7枚目のスタジオ・アルバム。

 前作までに、地元シアトルの名門インディー・レーベル、サブ・ポップに3枚のアルバムを残していますが、本作ではキル・ロック・スターズへ移籍しています。

 レーベルを移籍したことが影響しているのかは分かりませんが、前作『Down Below It’s Chaos』と比較して、音楽性も変化を遂げた1作です。

 これまでのキンスキーの特徴は、轟音ギターや電子音を用いて、実験性とロックのダイナミズムが、融合したアンサンブルを作り上げるところ。本作にも、そうした要素は残っているのですが、多くの曲でボーカルが導入され、より歌モノに近い構造を持った楽曲が増加。前作でも、9曲中3曲にはボーカルが入り、本作に繋がる兆候はありました。

 もちろん、ただ歌が入ったからといって、以前のサウンド・プロダクションやアンサンブルが、全く変質しているわけではありません。しかし、歌のメロディーが入ることで、ヴァースとコーラスが循環する、分かりやすい進行の楽曲が増えたのは事実。

 1曲目の「Long Term Exit Strategy」では、ゆったりとしたテンポに乗せて、各種エフェクターのかかった、複数のギターを中心に、カラフルなサウンドでアンサンブルが編まれていきます。1曲目から早速ボーカル入りの楽曲で、バンドの一部に溶け込んで流れるように、メロディーを紡いでいきます。

 2曲目「Last Day On Earth」は、押しつぶされたような音色のギターが疾走する、パンキッシュな1曲。この曲にもボーカルが入り、バンド全体が前のめりに走り抜けていきます。

 3曲目「Skim Milf」は、多様な音が飛び交う、ノイジーで疾走感に溢れた1曲。前曲に続き、パンクな楽曲が続きます。

 4曲目「Riff DAD」では、ファットな音色のギターを中心に、バンド全体が塊となり、転がるようなアンサンブルが展開します。

 5曲目「Throw It Up」は、ざらついた歪みのギターが分厚い音の壁を作り、その上をボーカルが漂う1曲。シンプルなリズム隊と、厚みのあるギターサウンド、流れるようなメロディーからは、シューゲイザーの香りも漂います。

 6曲目「A Little Ticker Tape Never Hurt Anybody」は、シンプルなドラムから始まり、徐々に音数が増えて、ゆるやかなグルーヴ感を持った演奏が繰り広げられる1曲。シカゴ音響派を思わせる、インスト・ポストロックです。

 7曲目「Conflict Free Diamonds」は、キレの良いリズムを持った、タイトに疾走する1曲。アクセントが前のめりに置かれ、推進力を持った演奏。

 9曲目「We Think She’s A Nurse」では、トライバルなドラムのリズムに導かれ、様々なサウンドやフレーズが飛び交います。アンサンブルではなく、音響が前景化された1曲。

 前述したとおり、ボーカルの入ったコンパクトな構造の楽曲が増えましたが、6曲目「A Little Ticker Tape Never Hurt Anybody」や、9曲目「We Think She’s A Nurse」など、ポストロック全開の楽曲も含まれています。

 また、ボーカル入りの曲でも、サウンドやアレンジにはアヴァンギャルドな要素が散りばめられ、キンスキーらしさを残したまま、歌モノへの変換に成功した1作と言っても、良いかと思います。





Kinski “Down Below It’s Chaos” / キンスキー『ダウン・ビロウ・イッツ・ケイオス』


Kinski “Down Below It’s Chaos”

キンスキー 『ダウン・ビロウ・イッツ・ケイオス』
発売: 2007年8月21日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Randall Dunn (ランドール・ダン)

 ワシントン州シアトル出身のポストロック・バンド、キンスキーの通算6枚目のスタジオ・アルバム。地元シアトルの名門、サブ・ポップからのリリースで、同レーベルからは3作目となります。

 実験性とロックのダイナミズムが同居しているのが、キンスキーの音楽の特徴。本作でも、ノイジーに荒れ狂うギターや、音響的なアプローチを散りばめながら、同時に疾走感あふれる演奏や、丁寧に編み上げたアンサンブルが、無理なく共存しています。

 1曲目「Crybaby Blowout」は、ギターの整然としたフレーズに、タイトなドラム、ロングトーンで隙間を埋めるベースが重なるイントロからスタート。徐々に音数が増え、それに比例して疾走感も増していきます。

 2曲目「Passwords & Alcohol」は、空間を広く使ったドラムを中心に、立体的なアンサンブルが構成される1曲。穏やかな曲想ですが、パワフルで躍動的な演奏が繰り広げられます。このバンドには珍しく、ボーカル入り。

 3曲目「Dayroom At Narita Int’l」は、ミドルテンポに乗せて、ゆったりと歩みを進めるようなグルーヴ感を持った1曲。前曲に続いて、この曲もボーカル入りです。

 4曲目「Boy, Was I Mad!」は、アンサンブルに隙間が多く、曲想も寂しげな前半から、ざらついた歪みのギターと、ドンドンとパワフルに打ちつけるドラムが加わり、疾走感あふれる後半へと展開する1曲。

 5曲目「Argentina Turner」は、引きずるような、スローテンポに乗せて、ゆったりとした躍動感のあるアンサンブルが展開する1曲。空間系エフェクターを用いた、みずみずしいクリーントーンのギターと、毛羽立った歪みのギターが溶け合い、色彩豊かなサウンドを作り上げています。

 6曲目「Child Had To Catch A Train」は、複数のディストーション・ギターを中心にした、タイトに躍動するロック・チューン。キーボードの音色が、60年代から70年代のオールドロックを彷彿とさせ、アクセントになっています。

 7曲目「Plan, Steal, Drive」。前半にはビートが無く、ギターの音が増殖していくような、音響的なアレンジ。音の中を泳ぐような、心地よいサウンド・プロダクションが続きますが、再生時間5:23あたりでドラムが入ってくると、今度はバックビートの効いた、躍動的な演奏へと一変します。

 8曲目「Punching Goodbye Out Front」は、ハードロック的なギターのイントロから始まり、パンキッシュに疾走する演奏が繰り広げられます。ボーカルが入り、キンスキーには珍しい、コンパクトな歌モノのロックです。

 9曲目「Silent Biker Type」は、ギターの音と電子音が漂う、不穏な空気でスタート。当初は音響を前景化したエレクトロニカ的なアプローチですが、再生時間2:32あたりでドラムが入ってきてからは、徐々にロック的なグルーヴが生まれていきます。

 ボーカル入りの曲が、3曲収録されているのも示唆的ですが、キンスキーの作品の中でも、構造のはっきりした曲が多く、聴きやすい1作です。

 しかし、サイケデリック・ロックやクラウトロックの影響を感じさせる要素も残っており、構造をわかりやすく単純化した作品というわけではありません。彼らの持つ実験性とダイナミズムが、バランス良く表出した作品と言えるでしょう。





Kinski “Alpine Static” / キンスキー『アルペン・スタティック』


Kinski “Alpine Static”

キンスキー 『アルペン・スタティック』
発売: 2005年7月12日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Randall Dunn (ランドール・ダン)

 ワシントン州シアトル出身のポストロック・バンド、キンスキーの5thアルバム。前作『Don’t Climb On And Take The Holy Water』は、ストレンジ・アトラクターズ・オーディオ・ハウス(Strange Attractors Audio House)というシアトルの小規模レーベルからのリリースでしたが、本作は3rdアルバムに続いて、再び名門サブ・ポップからリリースされています。

 ループ・ミュージック的なフレーズの反復、電子音と轟音ギターによる音響的なアプローチ、はたまた完全即興など、実験的なアプローチの目立つキンスキー。しかし、5作目となる本作では、グルーヴ感と疾走感に溢れた、ロックンロールが繰り広げられます。

 もちろん、いわゆる歌モノではなく、ボーカルのいないインスト・バンドであり、従来のポストロック的なアプローチも見られるのですが、ロックのスタンダードなダイナミズムと、ノリの良さを持ったアルバムとなっています。

 1曲目「Hot Stenographer」は、エフェクト処理されたギターと電子音による、音響的なイントロから始まるものの、再生時間1:02あたりから、タイトかつパワフルに疾走するロックンロールがスタート。

 2曲目「The Wives Of Artie Shaw」は、音数を絞ったミニマルなイントロから、各楽器が絡み合う、躍動的なアンサンブルが構成されていきます。

 3曲目「Hiding Drugs In The Temple (Part 2)」は、「ワン、ツー、スリー、フォー!」というカウントから始まる、疾走感抜群の1曲。マグマが噴出するかのような勢いと、前への推進力があります。ギターの音作りとコード感には、ソニック・ユースの面影もあり。

 4曲目「The Party Which You Know Will Be Heavy」は、各楽器のフレーズが有機的に組み合うイントロからスタート。バンド全体でタペストリーを作り上げるような、丁寧なアンサンブルから始まり、徐々にギターが過激なサウンドを足し、ロックのダイナミズムが増していきます。

 7曲目「The Snowy Parts Of Scandinavia」は、不穏な電子音と、ギターの断片的なフレーズが漂う前半から、轟音ギターのアグレッシヴなサウンドが押し寄せ、グルーヴ感あふれる後半へと展開する1曲。

 キンスキーとしては意外、と言うと語弊があるかもしれませんが、ストレートなロックが前面に押し出されたアルバムです。

 これまでの作品は、どちらかと言うとクラウトロックやサイケデリック・ロックの要素が色濃く出ていました。しかし本作では、ハードロック的なサウンドと構造に、ソニック・ユースを彷彿とさせる実験的なアプローチが溶け込み、ロックのエキサイトメントを多分に含んだ1作となっています。





Kinski “Airs Above Your Station” / キンスキー『エアーズ・アバーヴ・ユア・ステイション』


Kinski “Airs Above Your Station”

キンスキー 『エアーズ・アバーヴ・ユア・ステイション』
発売: 2003年1月21日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Kip Beelman (キップ・ビールマン)

 ワシントン州シアトル出身のポストロック・バンド、キンスキーの3rdアルバム。本作から、地元シアトルの名門レーベル、サブ・ポップと契約。同レーベルからリリースされる、1作目のアルバムとなります。

 彼らのこれまでのリリースを振り返ると、まず自主制作にて1stアルバム『SpaceLaunch For Frenchie』をリリース。2ndアルバム『Be Gentle With The Warm Turtle』を、同じく自主リリースしたのち、パシフィコ・レコーディングス(Pacifico Recordings)という小規模なレーベルから再発。

 前述のとおり、本作はサブ・ポップからリリースされており、本格的なレーベルを通してリリースされる、キンスキー初のアルバムです。

 ジャンルとしては、ポストロックに括られることの多いキンスキー。しかし「ポストロック」と一口に言っても、バンドによって音楽性と方法論は、大きく異なります。その多様性が、ポストロックに括られる音楽の面白さでもあるのですが。

 話の見通しを良くするために、音響とアンサンブルに分けて、本作の音楽を紐解いていきましょう。

 まずは、音響面について。本作では、シンセサイザーによるエレクトロニカ的な電子音と、圧倒的な量感で迫り来る轟音ギターを用いて、音響を重視したアプローチがたびたび見受けられます。しかし、同時に楽器の生々しさを前面に出した、臨場感を持ったサウンド・プロダクションも共存。

 続いて、アンサンブルについて。本作を聴いていて気がつくのは、ループ・ミュージュク的な繰り返しが多用されていること。しかし、ミニマリズムに振り切ったアルバムというわけではなく、繰り返しの中から、ロック的なリフのダイナミズムや、グルーヴ感が生まれていきます。

 ロック的なダイナミズムやグルーヴを、ループする演奏の中に落とし込み、前景化。ロックの持つエッセンスが、一般的なロック・ミュージック以上に、凝縮したかたちで提示されていきます。ロックのフレーズや音色を用いながら、全く違う方法論で、違う音楽を作り上げている本作は、ポストロックと呼んでしかるべきでしょう。

 アルバムの始まりを告げる、1曲目の「Steve’s Basement」は、ぼんやりとした音の壁のような電子音で始まります。徐々に音数が増えて、厚みを増していくサウンド。この時点では、ビートもコード進行も無く、音響を前景化するアプローチです。

 再生時間3:03あたりからギターが入ってくると、今度はタペストリーのように音楽が編まれていきます。そして、再生時間5:23あたりからベースとドラムが入ってくると、各楽器が絡み合い、波打つように躍動する演奏が、繰り広げられます。1曲の中で音響的なアプローチから、アンサンブル重視のアレンジへと飛躍し、このバンドの魅力が、たっぷりと詰め込まれた曲です。

 2曲目「Semaphore」では、トレモロによって一定間隔で響くギターに、飛び道具的な高音や、タイトなドラムが重なっていきます。ミニマルなギターの音に耳を傾けていると、そのギターの音が変化し始め、再生時間2:15あたりから、轟音ギターがなだれ込んできます。ミニマルな前半と、ダイナミックな後半のコントラストが鮮やかな1曲。

 3曲目「Rhode Island Freakout」は、電子ノイズ的なイントロから始まり、荒々しくパワフルなアンサンブルが展開する1曲。ドラムのビートがはっきりと刻まれる部分は、ロック的なノリの良さを存分に持っています。ギターの音作りも、いい意味で下品で、ソニック・ユース(Sonic Youth)を彷彿とさせます。

 4曲目の「Schedule For Using Pillows & Beanbags」は、11分を超える大曲。音数を絞り、丁寧にアンサンブルが編まれていく前半から、荒々しく轟音が押し寄せる後半へと展開していきます。

 5曲目「I Think I Blew It」は、電子音とエフェクターの深くかかったギターが用いられ、音響を重視した、エレクトロニカ的なサウンドを持った1曲。

 6曲目「Your Lights Are (Out Or) Burning Badly」は、電子音の響く不気味な前半から、ギターが加わり穏やかな中盤、爆音アンサンブルの後半へと展開していく、壮大な1曲。

 7曲目「Waves Of Second Guessing」は、音が増殖していくような、ミニマルでサイケデリックな前半から、後半では打って変わって、疾走感あふれる演奏が繰り広げられます。

 ラストの8曲目「I Think I Blew It (Again)」は、多様な音によるロングトーンが幾重にも連なり、壮大な音の壁を作り上がる1曲。とにかく音の響きが心地よく、穏やかな音が広がっていきます。

 音数を絞ったミニマルなアレンジから、轟音のクライマックスへ。繰り返しを多用したループ・ミュージック的な演奏から、複雑怪奇なアンサンブルへ。そのような、振れ幅の大きいダイナミックな展開を、無理なく実現しているのが本作です。

 静寂から轟音へ、という展開は、もはやポストロックのひとつの型になっており、陳腐な展開になりかねない危険性もはらんでいます。しかし、キンスキーはそこにループ・ミュージックの要素を持ち込み、音量だけでなく、アンサンブルの面でもコントラストを演出しているところが、特徴と言えるでしょう。

 ループ・ミュージックをはじめ、クラウトロックやハードロック、サイケデリック・ロックまでを消化し、ポストロック的な手法で仕上げたキンスキーの手腕は、本当に見事!