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Adam Stephens “We Live On Cliffs” / アダム・スティーヴンス『ウィー・リヴ・オン・クリフス』


Adam Stephens “We Live On Cliffs”

アダム・スティーヴンス 『ウィー・リヴ・オン・クリフス』
発売: 2010年9月28日
レーベル: Saddle Creek (サドル・クリーク)
プロデュース: Joe Chiccarelli (ジョー・チッカレリ)

 カリフォルニア州サンフランシスコ出身の2ピース・バンド、トゥー・ギャランツのメンバーである、アダム・スティーヴンス初のソロ・アルバム。正式には、「アダム・ハワース・スティーヴンス」(Adam Haworth Stephens)名義でリリースされています。

 プロデュースを担当するのは、プロデューサーおよびエンジニアとして1970年代から活動し、グラミー受賞暦もあるジョー・チッカレリ。大御所からインディー系まで、多くの仕事をこなしてきたチッカレリですが、USインディー文脈の仕事だと、ストロークス(The Strokes)やザ・シンズ(The Shins)、ホワイト・ストライプス(The White Stripes)あたりが有名。

 2002年に結成されたトゥー・ギャランツは、フォークやブルースなどのルーツ・ミュージックを下敷きに、ロック的な躍動感や、オルタナやポストロックを思わせるアレンジを合わせた音楽を展開するバンド。本作は、トゥー・ギャランツが2008年から2012年にかけて、活動休止していた期間に制作されたアルバムです。

 2ピース・バンドのメンバーのソロ作ということで、もちろんメインのバンドであるトゥー・ギャランツと共通する要素を、多分に持っています。すなわち、ルーツ・ミュージックを、現代的に解釈した作風だということ。

 しかし、トゥー・ギャランツと全く同じというわけでは、もちろんありません。フォークやブルースを基調に、パンクの攻撃性やロックのグルーヴ感を合わせたトゥー・ギャランツと比較すると、本作はよりカントリー色の濃い、穏やかな音楽となっています。

 1曲目「Praises In Your Name」では、クリーン・トーンを主体としたサウンドで、徐々に躍動感が増していくアンサンブルが展開します。再生時間1:07あたりからは、立体的に音が飛び交い、カラフルでグルーヴ感抜群の演奏。

 2曲目「Second Mind」は、各楽器が絡み合うように、ゆるやかなグルーヴ感が育まれていく1曲。柔らかなオルガンの音がアクセントになり、全体のサウンド・プロダクションを、ソフトにまとめています。

 3曲目「With Vengeance Come」では、ギターのアルペジオとボーカルのみから始まり、ピアノも加わって、音の粒が有機的にアンサンブルを組み上げていきます。

 7曲目「Elderwoods」は、静かなギターのフレーズから始まるものの、その後はざらついた歪みのギターが入り、穏やかなパートと、ハードなパートを行き来する1曲。

 9曲目「Everyday I Fall」は、イントロからヴィブラフォンらしき音が響き渡り、空気に浸透していくように、穏やかなサウンドを持っています。アンサンブルは、アコースティック・ギターを主軸に、カントリー色の濃い、いきいきとしたグルーヴ感を伴ったもの。

 オーバー・プロデュースにならず、シンプルなサウンドとアレンジを持ったアルバム。ですが、歌のメロディーのみが前景化されているわけではなく、ゆるやかに躍動するアンサンブルも心地よい1作です。

 また、楽器の種類と用いるサウンドは、それほど多いわけではないのに、カラフルで鮮やかなイメージの作品に仕上がっています。適材適所で、効果的に楽器を使い、シンプルながら音作りにもこだわっているのが、この多彩さの理由でしょう。

 フォークやカントリーの香りを漂わせながら、ギターポップのように爽やかな、耳なじみの良さがあります。

 バンドマンのソロ作は、そのメンバーがどのような音楽性を、バンドに持ち込んでいるのかが垣間見えるところも、面白いですね。

 





Minus The Bear “Omni” / マイナス・ザ・ベアー『オムニ』


Minus The Bear “Omni”

マイナス・ザ・ベアー 『オムニ』
発売: 2010年5月4日
レーベル: Dangerbird (デンジャーバード)
プロデュース: Joe Chiccarelli (ジョー・チッカレリ)

 ワシントン州シアトル出身のバンド、マイナス・ザ・ベアーの4thアルバムです。プロデュースは、ザ・ストロークスやホワイト・ストライプスを手がけ、グラミー賞受賞歴もあるジョー・チッカレリ。

 ソリッドな楽器の響きと、電子的なサウンドが溶け合い、アンサンブルを構成する1枚。アンサンブルは非常に緻密で、サウンド・プロダクションもロック然とした硬質な耳ざわりですが、随所に効果的に差し込まれる電子音が、アルバムをよりカラフルな印象に仕上げています。

 音楽的にも、マス・ロック的なテクニカルで複雑なアンサンブル、実験的なアレンジが随所の顔を出しますが、すべて的確にコントロールされ、コンパクトな楽曲にまとまっています。

 1曲目の「My Time」では、サンプリングされたドラムの音が、バウンドするように響くイントロに続いて、立体的で緻密なアンサンブルが展開されます。電子音のファニーな響きが、楽曲全体を柔らかくポップな印象にしています。

 2曲目「Summer Angel」は、イントロから叩きつけるようにバンド全体が迫ってきます。ギターのフレーズが、威圧感を中和するように響き、バランスを取っています。

 4曲目「Hold Me Down」は、淡々と8ビートを刻むギターとベースに、他のギターやドラム、電子音が重なり、多層的なアンサンブルを形成していく1曲。

 6曲目「The Thief」は、電子的なビートと、エフェクトの深くかかったギターが、80年代のディスコ・サウンドを彷彿とさせる立体的なアンサンブルを繰り広げます。この曲もエフェクトの使い方、電子音と生楽器のバランスが秀逸。

 7曲目の「Into The Mirror」は、繊細なシンセサイザーの音色と、ナチュラルなギター、タイトなドラムが溶け合う1曲。5分ほどの曲ですが、展開が多彩で情報量が非常に多く感じます。

 電子音と生楽器のサウンドを適材適所で使い分け、ゴテゴテにならず楽曲ごとに見事にまとまっています。このあたりのサウンド・プロダクションのセンスが、非常に優れたアルバムだと思いました。

 前述したとおり、マス・ロックやプログレを彷彿とさせる緻密で複雑なアンサンブルが展開される部分もあり、技術的なレベルの高さも窺えます。しかし、それが敷居の高さや、独りよがりの演奏至上主義には陥っておらず、あくまで5分におさまるポップ・ソングとしても成立させるセンスも、秀逸だと思います。