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Minus The Bear “Infinity Overhead” / マイナス・ザ・ベアー『インフィニティ・オーバーヘッド』


Minus The Bear “Infinity Overhead”

マイナス・ザ・ベアー 『インフィニティ・オーバーヘッド』
発売: 2012年8月28日
レーベル: Dangerbird (デンジャーバード)
プロデュース: Matt Bayles (マット・ベイルズ)

 ワシントン州シアトル出身のバンド、マイナス・ザ・ベアーの5枚目のスタジオ・アルバム。前作はグラミー受賞歴もあるジョー・チッカレリがプロデュースを担当していましたが、今作ではBotchやMastodonでの仕事で知られるマット・ベイルズが担当。

 硬質な歪みのギター、アコースティック・ギター、立体的なドラム、電子音など、異なるサウンドが有機的に組み上げられ、タイトなアンサンブルが構成される1枚。多種多様な音を使っているにも関わらず、地に足が着いたかたちで、適材適所に音が配置されています。

 マス・ロック的なテクニカルで緻密なアンサンブル、ダンス・パンク的なエレクトロニックなサウンドが、バランスよく溶け合っています。彼らのアルバムは毎回そうなのですが、複雑なアンサンブルを、さらっとポップに聴かせてしますセンスは本当に見事。

 1曲目の「Steel And Blood」では、ギター、ベース、ドラムの各サウンドが、ソリッドで硬質。そのサウンドを用いて、タイトなアンサンブルが展開されていきます。耳に引っかかるギターのフレーズ、随所にタメを作って加速感を演出するアンサンブルなど、音楽のフックがいくつも散りばめられた1曲です。

 2曲目「Lies And Eyes」は、イントロから、残響音までレコーディングされたようなドラムがパワフルに響きわたり、立体的なアンサンブルが構成される1曲。

 5曲目「Listing」は、イントロでは4つ打ちのバスドラと、それに呼応するようにリズムを刻み続けるアコースティック・ギターのシンプルな構成。そこから徐々に楽器が増え、アンサンブルが多層的になり、広がっていく1曲。

 8曲目「Zeros」は、シンセサイザーの電子音らしいサウンドがアクセントになった1曲。ハードに歪んだギターも使用され、ロックなサウンドとアンサンブルを持った曲ですが、シンセの柔らかな音色が、全体のサウンド・プロダクションを華やかに彩っています。

 9曲目「Lonely Gun」は、ワウのかかったギターが絡み合いながらうねる1曲。シンセサイザーも重なり、サイケデリックな空気も振りまきながら、タイトなロックを展開します。

 アルバム全体を通して、激しく歪んだディストーション・ギターから、電子音然としたシンセサイザーまで、様々な音が用いられていますが、無理やり感は全くなく、全ての音が効果的に組み合わさりアンサンブルを構成しています。サウンドをまとめ上げるセンスは抜群。

 ボーカルのメロディーは、盛り上がりがわかりやすい、いわゆる「エモい」要素が濃いのですが、このメロディーラインもサウンドと絶妙に溶け合っています。ボーカルがある程度、前景化されながら、アンサンブルとサウンドにもこだわりの感じられる1作です。

 





Minus The Bear “Omni” / マイナス・ザ・ベアー『オムニ』


Minus The Bear “Omni”

マイナス・ザ・ベアー 『オムニ』
発売: 2010年5月4日
レーベル: Dangerbird (デンジャーバード)
プロデュース: Joe Chiccarelli (ジョー・チッカレリ)

 ワシントン州シアトル出身のバンド、マイナス・ザ・ベアーの4thアルバムです。プロデュースは、ザ・ストロークスやホワイト・ストライプスを手がけ、グラミー賞受賞歴もあるジョー・チッカレリ。

 ソリッドな楽器の響きと、電子的なサウンドが溶け合い、アンサンブルを構成する1枚。アンサンブルは非常に緻密で、サウンド・プロダクションもロック然とした硬質な耳ざわりですが、随所に効果的に差し込まれる電子音が、アルバムをよりカラフルな印象に仕上げています。

 音楽的にも、マス・ロック的なテクニカルで複雑なアンサンブル、実験的なアレンジが随所の顔を出しますが、すべて的確にコントロールされ、コンパクトな楽曲にまとまっています。

 1曲目の「My Time」では、サンプリングされたドラムの音が、バウンドするように響くイントロに続いて、立体的で緻密なアンサンブルが展開されます。電子音のファニーな響きが、楽曲全体を柔らかくポップな印象にしています。

 2曲目「Summer Angel」は、イントロから叩きつけるようにバンド全体が迫ってきます。ギターのフレーズが、威圧感を中和するように響き、バランスを取っています。

 4曲目「Hold Me Down」は、淡々と8ビートを刻むギターとベースに、他のギターやドラム、電子音が重なり、多層的なアンサンブルを形成していく1曲。

 6曲目「The Thief」は、電子的なビートと、エフェクトの深くかかったギターが、80年代のディスコ・サウンドを彷彿とさせる立体的なアンサンブルを繰り広げます。この曲もエフェクトの使い方、電子音と生楽器のバランスが秀逸。

 7曲目の「Into The Mirror」は、繊細なシンセサイザーの音色と、ナチュラルなギター、タイトなドラムが溶け合う1曲。5分ほどの曲ですが、展開が多彩で情報量が非常に多く感じます。

 電子音と生楽器のサウンドを適材適所で使い分け、ゴテゴテにならず楽曲ごとに見事にまとまっています。このあたりのサウンド・プロダクションのセンスが、非常に優れたアルバムだと思いました。

 前述したとおり、マス・ロックやプログレを彷彿とさせる緻密で複雑なアンサンブルが展開される部分もあり、技術的なレベルの高さも窺えます。しかし、それが敷居の高さや、独りよがりの演奏至上主義には陥っておらず、あくまで5分におさまるポップ・ソングとしても成立させるセンスも、秀逸だと思います。