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Two Gallants “What The Toll Tells” / トゥー・ギャランツ『ホワット・ザ・トール・テルズ』


Two Gallants “What The Toll Tells”

トゥー・ギャランツ 『ホワット・ザ・トール・テルズ』
発売: 2006年2月13日(イギリス), 2006年2月21日(アメリカ)
レーベル: Saddle Creek (サドル・クリーク)
プロデュース: Scott Solter (スコット・ソルター)

 カリフォルニア州サンフランシスコ出身の2ピース・バンド、トゥー・ギャランツの2ndアルバム。バンド名の由来は、アイルランドの小説家・ジェイムズ・ジョイス(James Joyce)の短編小説集『ダブリン市民』(Dubliners)に収録の小説タイトルから。

 「フォーク・デュオ」というと、ゆずやコブクロを想像する方も、いらっしゃるでしょう。トゥー・ギャランツも、アコースティック・ギターを主軸にした2人組であり、フォーク・デュオと呼んでも差し支えありません。しかし、ギターに合わせて、爽やかにハモるグループを想像すると、見事に予想を裏切られます。

 しばしば「パンクとブルースを注入したフォーク・ロック」と形容されるぐらい、パワフルで躍動感に溢れた演奏を展開するのが、トゥー・ギャランツの特徴。本作も、サウンドの面では、アコギやハーモニカを用いて、フォーク的でありながら、ロックが持つ高揚感とダイナミズムを、多分に含んだ音楽を繰り広げています。

 1曲目の「Las Cruces Jail」は、木枯らしが吹きぬける中を、ブルージーなギターと笛が鳴り響くイントロから始まります。その後、ボーカルが入ってきて、バンドによる演奏が始まるのですが、アコースティック楽器を主軸にしながらも、ドタバタと躍動するアンサンブルと、かすれながらもパワフルにシャウトするボーカルに、圧倒されることでしょう。

 2曲目「Steady Rollin’」は、ギターのアルペジオを中心にした、牧歌的なサウンドを持った1曲。穏やかな雰囲気ながら、ボーカルはパワフルで、ドラムは立体的。リズムが伸縮するように躍動します。

 4曲目「Long Summer Day」では、各楽器とも飛び跳ねるように躍動し、立体的でいきいきとしたアンサンブルが展開。フォーキーなサウンドと、パンクの攻撃性、ブルースの土臭さが溶け合った、カラフルな1曲です。

 5曲目「The Prodigal Son」は、ギターとドラムを中心に、全ての楽器がリズムを噛み合い、ゆるやかなグルーヴ感を持った演奏が展開する1曲。

 6曲目「Threnody」は、9分を超えるスローテンポのバラード。前半はボーカルとギターが、丁寧に音を紡いでいき、再生時間1:45あたりからドラムが入ってくると、アンサンブルが立体的に広がっていきます。

 7曲目「16th St. Dozens」は、本作には珍しく、激しく歪んだギター・サウンドが用いられた1曲。アコースティック楽器のみでも十分パワフルで、ダイナミズムの大きいトゥー・ギャランツですが、この曲ではノイジーでジャンクなギターの歪みが、サウンドにさらなる厚みをもたらしています。

 8曲目「Age Of Assassins」では、みずみずしい音色のギターと、立体的なドラムが、飛び跳ねるように躍動していきます。テンポを随所で切り替え、サウンドとリズムの両面でコントラストの鮮やかな1曲。

 9曲目「Waves Of Grain」では、いつにも増して、ボーカルがエモーショナル。ドラムが叩きつけるようにリズムを刻み、ギターはその間を埋めるように音を紡いでいきます。リズムが次土と変化し、色彩豊かな展開を見せる1曲。

 オーガニックな楽器の響きを使いながら、パンクやハードロックにも負けないダイナミズムを実現しているアルバムです。

 アコースティック・ギターとドラムがアンサンブルの中心ですが、エレキを用いたロックバンドにも負けない、パワフルなサウンドと躍動感を持っています。また、適度にざらついたボーカルの声にも、ブルースとパンクを合わせた魅力があります。

 トゥー・ギャランツが結成されたサンフランシスコというと、同じくフォークを基調とした2人組・ドードース(The Dodos)の出身地でもありますが、サンフランシスコにはフォークをダイナミックに響かせる土壌があるのでしょうか?

 そのように感じるほど、両者ともフォークを下敷きに、ロック的なダイナミズムに溢れた音楽を鳴らしています。

 日本には似ているバンドがありませんし、ドードースと並んで、心からオススメしたいバンドのひとつです。

 





The Faint “Media” / ザ・フェイント『メディア』


The Faint “Media”

ザ・フェイント 『メディア』
発売: 1998年3月24日
レーベル: Saddle Creek (サドル・クリーク)
プロデュース: A.J. Mogis (A.J.モギス(モジス, モーギス))

 ネブラスカ州オマハ出身のバンド、ザ・フェイントの1stアルバム。このバンドは、1995年にノーマン・ベイラー(Norman Bailer)という名前で結成され、最初期のごく短い期間ではありますが、ブライト・アイズのコナー・オバーストが参加していました。

 2ndアルバム以降は、シンセをフィーチャーし、ダンス・パンク色が濃くなっていくザ・フェイント。1stアルバムである本作『Media』にもシンセサイザーは使用されており、ダンス・パンクやポストパンク・リバイバルの雰囲気もわずかに持っているものの、ディストーション・ギターが前面に出たソリッドなサウンドを響かせています。

 ドラムも立体感のあるドラムらしい音色。この作品以降は、ドラムも打ち込み的な無機質なビートを用いることが増加します。3rdアルバムの『Danse Macabre』と比較すると、サウンド・プロダクションの違いがよくわかると思います。本作にダンス・パンク色は、ほぼ感じられないと言ってもいいぐらいです。

 本作『Media』で聴かれるのは、1980年代のポスト・パンクやニュー・ウェーヴに影響を受けたポスト・ハードコア、といったバランスのサウンド。スピード重視のハードコアではなく、キーボードも用いて、立体的なアンサンブルを構築したアルバムです。

 2曲目「Some Incrininating Photographs」は、ドラムとギターが立体的に絡み合い、シンセも効果的にアンサンブルに参加する、ミドル・テンポの1曲。ギターとドラムが、特に臨場感あふれる生々しい音で響きます。

 5曲目「Repertoire Of Uncommon Depth」は、ノイジーなギター、硬質でハリのあるベース、手数を絞ったドラムが、イントロから複雑なアンサンブルを構成。全体的に生々しく、切れ味鋭いサウンド・プロダクションです。ギターの音とフレーズからは、アヴァンギャルドな空気も漂う1曲。インディーズらしい質感のかっこよさ。

 前述したとおり、ザ・フェイントはこの作品以降はシンセが多用され、ダンス色を強めていきますが、本作はソリッドで生々しい音像を持った1枚です。

 アンサンブルも、実験的な要素もありながら、ロック的なかっこよさも備えています。リアルな音像と相まって、非常にかっこいい1枚。

 一般的には3rdアルバム『Danse Macabre』の方が、その後のダンス・パンク系バンドへの影響も含めて、代表作と目されることが多いですが、個人的にはこの1stの方が好きです。

 





The Faint “Danse Macabre” / ザ・フェイント『ダンセ・マカブレ』


The Faint “Danse Macabre”

ザ・フェイント 『ダンセ・マカブレ』
発売: 2001年8月21日
レーベル: Saddle Creek (サドル・クリーク)
プロデュース: Mike Mogis (マイク・モギス (モジス, モーギス))

 ネブラスカ州オマハ出身のバンド、ザ・フェイントの3rdアルバムです。

 小気味いいビートに、シンセの音色が載る、ダンス・パンクかくあるべし!というサウンドを持った作品。しかし、ボーカルのメロディーと声には、ダークな雰囲気も含んでおり、1980年代のポスト・パンクやニュー・ウェーヴの香りもします。

 パーティー感のあるサウンドながら、若干のアングラ臭も漂い、ポップさとダークさのバランスが抜群。また、曲によってシンセの音色を効果的に使い分けているため、バラエティに富んだカラフルな印象を与えるアルバムです。

 1曲目の「Agenda Suicide」から、タイトなドラムのビートに、やや憂鬱な響きを持ったギターが重なり、ピコピコ系のシンセがさらに上に載る、そのバランス感覚が絶妙です。感情を抑えたように歌うボーカルも、全体の雰囲気を引き締めています。

 2曲目の「Glass Danse」は、イントロからシンセが激しくうねる1曲。シンセのサウンド的には、ダンサブルなパーティー・チューンといった趣ですが、淡々とリズムを刻むドラム、エフェクト処理されざらついた音質のボーカルと合わさり、単純に突き抜けるだけの曲にはなっていません。

 8曲目の「Violent」は、無機質なビートと、ダークな音色のシンセが溶け合う1曲。途中から入る高音ピコピコ系のシンセが彩りを加えるものの、物憂げなボーカルを筆頭に、アンダーグラウンドな雰囲気が漂います。

 しかし、アングラ一辺倒ではなく、ドラムのビートや、前述した高音のシンセによって、耳馴染みは良く仕上がっています。再生時間3:13あたりからのアヴァンギャルドな展開も、この曲の空気には合っているともいます。

 アルバム全体を通して、現在のダンス・パンクやポストパンク・リバイバルにつながるサウンドを持ちながら、ダークな雰囲気も色濃く持った1枚です。

 冒頭にも書きましたが、ダークになりすぎず、楽観的にもなりすぎない、バランス感覚が秀逸。

 





The Good Life “Album Of The Year” / ザ・グッド・ライフ『アルバム・オブ・ザ・イヤー』


The Good Life “Album Of The Year”

ザ・グッド・ライフ 『アルバム・オブ・ザ・イヤー』
発売: 2004年8月10日
レーベル: Saddle Creek (サドル・クリーク)
プロデュース: Mike Mogis (マイク・モギス (モジス, モーギス))

 カーシヴ(Cursive)などの活動でも知られる、ティム・カッシャー(ケイシャー)が率いるバンドの3枚目のアルバム。

 ラウドなサウンドと、エモーショナルなボーカルが全面に出たカーシヴとは異質の、アコースティック・ギターを中心とした、穏やかで暖かいサウンドを持ったバンドです。

 1曲目「Album Of The Year」は、アコースティック・ギターとメロディーが、穏やかな空気と共にみずみずしく流れ出る1曲。感情を抑えつつ、奥には熱いエモーションを予感させるボーカルが、淡々とメロディーを紡いでいきますが、再生時間2:23あたりからドラムとパーカッションがトライバルなリズムを刻み始めると、途端に立体的な雰囲気に。

 3曲目「Under A Honeymoon」は、ゆったりとしたテンポの、牧歌的な空気が漂う1曲。ですが、再生時間1:02あたりからの開放的でグルーヴィーな展開、ストリングスの導入など、徐々に心地よくテンションを上げていきます。

 7曲目の「October Leaves」は、イントロから、空間を満たすようなふくよかなベースと、スペーシーなギターが漂う、音響が前景化した1曲。そこから少しずつ音数が増え、ビート感とバンドの躍動感も比例して増していきます。

 8曲目「Lovers Need Lawyers」は、電子的なキーボードのサウンドと、ソリッドで立体的なドラム。アルバムの中では、音像のはっきりした、ロック色の濃い1曲。

 アコースティック・ギターを中心に、カントリーやフォークを感じさせる耳ざわりでありながら、適度にオルタナ性も忍ばせる1曲。予定調和的に、安易に轟音ギターや実験的アプローチを用いない、バランス感覚に優れたアルバムだと思います。

 





Cursive “The Ugly Organ” / カーシヴ『ジ・アグリー・オルガン』


Cursive “The Ugly Organ”

カーシヴ 『ジ・アグリー・オルガン』
発売: 2003年3月4日
レーベル: Saddle Creek (サドル・クリーク)
プロデュース: Mike Mogis (マイク・モギス (モジス, モーギス))

 現在のネブラスカ州オマハのインディーズ・シーンの源流的な人物、ティム・カッシャー(ケイシャー)(Tim Kasher)が率いるバンドの4枚目アルバム。

 エモーションが爆発するボーカルと、直線的に突っ走るだけではないアレンジとサウンドが融合した1枚。疾走感があり、エモーショナルでありつつも、ストリングスやオルガンの使用など、それだけにとどまらない音楽的なレンジの広さがあるアルバムです。

 2曲目の「Some Red Handed Sleight Of Hand」では、イントロからバンドが波のように上下しながら躍動します。バンドだけでも十分に疾走感とグルーヴがあるのに、ストリングスがさらなる厚みをプラス。歌が入ってきてからも、緊張感を煽るように迫るストリングス、不安を醸し出すようなフリーなキーボードなど、様々なサウンドが塊となって押し寄せます。

 しかし、音楽の中心はあくまでエモーショナルなボーカル。そのボーカルを、さらに後押しすよるように分厚いアンサンブルが形成されています。2分弱しかないのに、情報量が多くスケールの大きい1曲です。

 4曲目「The Recluse」は、クリーントーンのギターとバイオリンが絡み合うメローな1曲。再生時間1分過ぎからの間奏の、音数を絞り、弾きすぎないエレキ・ギターも良い。

 6曲目「Butcher The Song」。立体的に響きわたるドラムと、フレーズにもハーモニーにも、不協和な響きを持つギターによるイントロ。その後はバイオリンも入り、ポストロックやマスロックを思わせる違和感たっぷりのアンサンブルを聞かせます。個人的に、かなりお気に入りの曲。こういう違和感を魅力に転化させるような曲が好きです。

 9曲目の「Harold Weathervein」は、スリルと緊張感を演出するストリングスのフレーズと、フィールド・レコーディングされた音源、感情を抑えた陰鬱なボーカル、バンドの演奏が、レイヤー上に重なり、溶け合っていく1曲。再生時間0:50あたりからの壮大でドラマチックな展開が、めちゃくちゃかっこいいです。

 エモーショナルなボーカルを中心にした歌ものでありながら、ストリングスが大活躍、バンドのアンサンブルにはメタルやプログレ、エモ、ポストロック、カントリーやフォークの要素まで感じられる、多彩なアルバム。

 こんなバンドが大都市ではない街で、インディペンデント・レーベルと共に活動しているというのがまた、USインディーズの奥深さです。