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The Faint “Danse Macabre” / ザ・フェイント『ダンセ・マカブレ』


The Faint “Danse Macabre”

ザ・フェイント 『ダンセ・マカブレ』
発売: 2001年8月21日
レーベル: Saddle Creek (サドル・クリーク)
プロデュース: Mike Mogis (マイク・モギス (モジス, モーギス))

 ネブラスカ州オマハ出身のバンド、ザ・フェイントの3rdアルバムです。

 小気味いいビートに、シンセの音色が載る、ダンス・パンクかくあるべし!というサウンドを持った作品。しかし、ボーカルのメロディーと声には、ダークな雰囲気も含んでおり、1980年代のポスト・パンクやニュー・ウェーヴの香りもします。

 パーティー感のあるサウンドながら、若干のアングラ臭も漂い、ポップさとダークさのバランスが抜群。また、曲によってシンセの音色を効果的に使い分けているため、バラエティに富んだカラフルな印象を与えるアルバムです。

 1曲目の「Agenda Suicide」から、タイトなドラムのビートに、やや憂鬱な響きを持ったギターが重なり、ピコピコ系のシンセがさらに上に載る、そのバランス感覚が絶妙です。感情を抑えたように歌うボーカルも、全体の雰囲気を引き締めています。

 2曲目の「Glass Danse」は、イントロからシンセが激しくうねる1曲。シンセのサウンド的には、ダンサブルなパーティー・チューンといった趣ですが、淡々とリズムを刻むドラム、エフェクト処理されざらついた音質のボーカルと合わさり、単純に突き抜けるだけの曲にはなっていません。

 8曲目の「Violent」は、無機質なビートと、ダークな音色のシンセが溶け合う1曲。途中から入る高音ピコピコ系のシンセが彩りを加えるものの、物憂げなボーカルを筆頭に、アンダーグラウンドな雰囲気が漂います。

 しかし、アングラ一辺倒ではなく、ドラムのビートや、前述した高音のシンセによって、耳馴染みは良く仕上がっています。再生時間3:13あたりからのアヴァンギャルドな展開も、この曲の空気には合っているともいます。

 アルバム全体を通して、現在のダンス・パンクやポストパンク・リバイバルにつながるサウンドを持ちながら、ダークな雰囲気も色濃く持った1枚です。

 冒頭にも書きましたが、ダークになりすぎず、楽観的にもなりすぎない、バランス感覚が秀逸。

 





Cursive “The Ugly Organ” / カーシヴ『ジ・アグリー・オルガン』


Cursive “The Ugly Organ”

カーシヴ 『ジ・アグリー・オルガン』
発売: 2003年3月4日
レーベル: Saddle Creek (サドル・クリーク)
プロデュース: Mike Mogis (マイク・モギス (モジス, モーギス))

 現在のネブラスカ州オマハのインディーズ・シーンの源流的な人物、ティム・カッシャー(ケイシャー)(Tim Kasher)が率いるバンドの4枚目アルバム。

 エモーションが爆発するボーカルと、直線的に突っ走るだけではないアレンジとサウンドが融合した1枚。疾走感があり、エモーショナルでありつつも、ストリングスやオルガンの使用など、それだけにとどまらない音楽的なレンジの広さがあるアルバムです。

 2曲目の「Some Red Handed Sleight Of Hand」では、イントロからバンドが波のように上下しながら躍動します。バンドだけでも十分に疾走感とグルーヴがあるのに、ストリングスがさらなる厚みをプラス。歌が入ってきてからも、緊張感を煽るように迫るストリングス、不安を醸し出すようなフリーなキーボードなど、様々なサウンドが塊となって押し寄せます。

 しかし、音楽の中心はあくまでエモーショナルなボーカル。そのボーカルを、さらに後押しすよるように分厚いアンサンブルが形成されています。2分弱しかないのに、情報量が多くスケールの大きい1曲です。

 4曲目「The Recluse」は、クリーントーンのギターとバイオリンが絡み合うメローな1曲。再生時間1分過ぎからの間奏の、音数を絞り、弾きすぎないエレキ・ギターも良い。

 6曲目「Butcher The Song」。立体的に響きわたるドラムと、フレーズにもハーモニーにも、不協和な響きを持つギターによるイントロ。その後はバイオリンも入り、ポストロックやマスロックを思わせる違和感たっぷりのアンサンブルを聞かせます。個人的に、かなりお気に入りの曲。こういう違和感を魅力に転化させるような曲が好きです。

 9曲目の「Harold Weathervein」は、スリルと緊張感を演出するストリングスのフレーズと、フィールド・レコーディングされた音源、感情を抑えた陰鬱なボーカル、バンドの演奏が、レイヤー上に重なり、溶け合っていく1曲。再生時間0:50あたりからの壮大でドラマチックな展開が、めちゃくちゃかっこいいです。

 エモーショナルなボーカルを中心にした歌ものでありながら、ストリングスが大活躍、バンドのアンサンブルにはメタルやプログレ、エモ、ポストロック、カントリーやフォークの要素まで感じられる、多彩なアルバム。

 こんなバンドが大都市ではない街で、インディペンデント・レーベルと共に活動しているというのがまた、USインディーズの奥深さです。

 





Bright Eyes “Cassadaga” / ブライト・アイズ『カッサダーガ』


Bright Eyes “Cassadaga”

ブライト・アイズ 『カッサダーガ』
発売: 2007年4月10日
レーベル: Saddle Creek (サドル・クリーク)
プロデュース: Mike Mogis (マイク・モギス (モジス, モーギス))

 シンガーソングライターのコナー・オバーストを中心に結成された、ネブラスカ州オマハ出身のバンド、ブライト・アイズの7枚目のアルバムです。

 タイトルの「カッサダーガ」とは、フロリダ州内にある非法人地域の地名。スピリチュアリズムの支持者が多く暮らし、「Psychic Capital of the World(世界の超能力者の首都)」とも呼ばれるらしい。

 ブライト・アイズというと、ボブ・ディランやニール・ヤングが引き合いに出されることもあるように、歌を中心に据えたフォーキーなサウンドを持つバンド、というイメージが一般的です。

 同時に、懐古主義には陥らず、現代的なセンスも併せ持ったバンド。本作でも、フォークやカントリーなどのルーツ・ミュージックを下敷きにしながら、様々な楽器を導入し、カラフルで躍動感あふれるサウンドを響かせています。

 1曲目の「Clairaudients (Kill Or Be Killed)」は、イントロからスポークン・ワードと、ぶつ切りになった音の断片や持続音が空間を埋めつくす、アヴァンギャルドな音像。およそカントリーからは遠い、実験音楽のようなサウンドが続きますが、再生時間2分を過ぎたところで、アコースティック・ギターとボーカルが入ってくると、明確なフォームを持った音楽が進行していきます。

 しかし、奥の方では電子的な持続音や、様々な楽器の音が鳴っており、音響派のような雰囲気も漂います。徐々に楽器の種類が増え、種々のサウンドが多層的に重なる、壮大な展開。再生時間4:13あたりからは、カントリー系のオーガニックな音で作りあげるオーケストラとでもいった聴感。

 2曲目「Four Winds」では、イントロからバイオリンが大活躍。ギターやオルガンやマンドリンらしき音も聞こえ、サウンドもアンサンブルも、色彩豊かでゴージャス。

 4曲目「Hot Knives」は、ざらついた質感のギターに、エフェクト処理されたボーカル、立体的でパワフルなドラム、アンサンブルを包みこむストリングス。それら全てが有機的にアンサンブルを編み上げる躍動感あふれる1曲。カントリーを下敷きに、オルタナティヴ色の濃いアレンジとサウンドです。

 11曲目の「Coat Check Dream Song」は、ドラムとパーカッションが、立体的にリズムを組み上げるポリリズミックな1曲。トータスのジョン・マッケンタイアが、パーカッションで参加しています。ドラムとパーカッション以外の楽器も、有機的に絡み合ってグルーヴしていて、本当にすばらしいアンサンブル。個人的に大好きな曲です。

 ナチュラルな生楽器のサウンドと、オルタナ的なジャンクな耳ざわり、エレクトロニカ的な音響が、バランス良く融合したアルバムだと思います。懐古主義や過去のジャンルの焼き直しではなく、わざとらしく実験性を見せつけるでもない、絶妙のバランス。

 ルーツ・ミュージックの地に足がついた魅力と、アメリカらしい革新性と実験性が、ポップなかたちで結実した名盤です!

 





Bright Eyes “I’m Wide Awake, It’s Morning” / ブライト・アイズ『アイム・ワイド・アウェイク・イッツ・モーニング』


Bright Eyes “I’m Wide Awake, It’s Morning”

ブライト・アイズ 『アイム・ワイド・アウェイク・イッツ・モーニング』
発売: 2005年1月25日
レーベル: Saddle Creek (サドル・クリーク)
プロデュース: Mike Mogis (マイク・モギス (モジス, モーギス))

 シンガーソングライターのコナー・オバーストを中心に結成された、ネブラスカ州オマハ出身のバンド、ブライト・アイズの2005年にリリースされたアルバム。本作『I’m Wide Awake, It’s Morning』と、『Digital Ash In A Digital Urn』は同日に2枚同時リリースされました。

 アコースティック・ギターを主軸に、フォークやカントリーを感じさせるサウンド。しかし、アレンジやサウンドにはインディーロックの香りも漂い、回顧主義なだけではない、現代的な雰囲気も持ち合わせたアルバムです。

 アルバム・タイトルのとおり、朝になって、自分も含め自然や動物たちが活動を始めるような、いきいきとした躍動感に溢れた作品。ボーカルの若さと渋さのバランスが絶妙な、わずかに枯れたエモーショナルな歌唱も良いです。

 1曲目「At The Bottom Of Everything」は、1分ほどのスポークン・ワード…というよりセリフに続いて、アコースティック・ギターがシャカシャカとカッティングを始め、曲がスタート。セリフに続いてからのスタートのためか、楽器の音もボーカルの声とメロディーも、非常に音楽的にいきいきと響きます。

 2曲目の「We Are Nowhere And It’s Now」は、朝の散歩のように、穏やかな1曲。優しく絞り出すようなボーカリゼーションと、緩やかにグルーヴするバンドの相性も抜群。ホーンの導入や、再生時間2:10あたりからのギターのサウンドなど、音楽の幅の広さも感じさせます。随所に挟まれるギターのフレーズがアクセント。

 7曲目「Another Travelin’ Song」は、ノリノリにグルーヴしながら駆け抜けていく、カントリー調の1曲。リズムを下支えするベースのリズムも、気持ちよく響きます。ロック的なノリではなく、カントリー・ウェスタン風のノリ。ギターのフレーズもカントリー色が濃いのに、全体はカントリーくさくなり過ぎないのは、サウンド・プロダクションとボーカルの影響かなと思います。

 アルバムをとおして、生楽器のオーガニックなサウンドを用いた、フォーキーなサウンドが響きます。ブライト・アイズのアルバムのなかでも、カントリー色の濃い1枚。

 他のアルバムには、もっと楽器の音色やアレンジに、オルタナティヴな要素が強く出ているものもありますが、本作はオーガニックなサウンドを重視し、結果として歌が前景化された1作になっているんじゃないかと思います。