Sunn O))) “Black One” / サン『ブラック・ワン』


Sunn O))) “Black One”

サン 『ブラック・ワン』
発売: 2005年10月17日
レーベル: Southern Lord (サザンロード)

 ワシントン州シアトル出身のステファン・オマリー(Stephen O’Malley)と、グレッグ・アンダーソン(Greg Anderson)による、ギタリスト2名からなるドローン・メタル・バンド、サンの5枚目のスタジオ・アルバム。

 前作、前々作と多彩なゲスト・ミュージシャンを迎えていたサン。本作にも、カリフォルニア州アルハンブラ出身のブラック・メタル・バンド、ザスター(Xasthur)のマレフィック(Scott “Malefic” Conner)。ブラック・メタルのソロ・プロジェクト、リヴァイアサン(レヴィアタン,Leviathan)で活動するWrest(本名Jef Whitehead)。オーストラリア出身のエクスペリメンタル系ミュージシャン、オーレン・アンバーチ(Oren Ambarchi)などが参加しています。

 前々作から『White1』『White2』と続いて、『White3』とはならずに『Black One』と題された本作。タイトルの違いだけではなく、サウンドと表現方法についても、明らかな差異が認識できます。

 過去2作が、共に長尺の曲が並び3曲収録だったのに対して、本作は7曲収録。楽曲の長さが必ずしも音楽性に関係するわけではありませんが、ストイックにヘヴィな音響を追求した過去2作と比較すると、本作は構造のつかみやすい楽曲が並び、はるかに一般的な意味での「音楽」らしくなっています。

 とはいえ、一般的なロックやポップスからは、遠く離れた音楽であるのも事実ですから、全くこの種の音楽への免疫が無い方はご注意を。重々しく沈み込むような轟音ギターや、音響面を徹底的に煮詰めたようなギターリフなど、音の響きに重きを置きつつ、ロックの魅力の一部が凝縮され、断片的に楽曲に溶け込んだアルバムです。

 1曲目「Sin Nanna」には、前述のオーレン・アンバーチが、ボーカル、ギター、ドラム、シンバルなどで参加。シンバルはクレジットには「bowed cymbals」と記載されており、シンバルを弓で弾くボウイング奏法をおこなっているようです。無作為にも聞こえるドラムが奥の方で鳴り響き、多様なサウンドの持続音が重なり合い、不穏な空気を演出します。

 2曲目「It Took The Night To Believe」は、複数のギターが折り重なり、分厚い音の壁を作り上げる1曲。中盤から入る不気味なボーカルは、前述のWrestによるもの。ドラムなどのリズム楽器は入っていないものの、ギターは非常にゆったりとしたテンポの中で、いわゆるリフらしいフレーズを弾いており、楽曲の構造をつかみやすいです。ビートが無く、テンポも非常に遅いため、サウンドの重々しさがますます際立ち、ハードロックやヘヴィメタルが持つ重いサウンドが、極限まで凝縮され、抽出されたかのように響きます。

 3曲目の「Cursed Realms (Of The Winterdemons)」は、ノルウェー出身のブラック・メタル・バンド、イモータル(Immortal)のカバー。ですが、原曲がわからないほどに、テンポが遅く、沈み込むような重いサウンドになっています。色に例えると間違いなく黒なのですが、グレーから漆黒まで濃淡があり、ただ適当にノイズを出しているのではなく、理想とする音楽をストイックに追求しているのが分かります。

 6曲目「Cry For The Weeper」の前半は、轟音ギターではなく、電子音らしきサウンド(もしかしたらエフェクターをかけたギターかもしれません)が鳴り響く、アンビエントな音像。その後はギターも入り、高音域をプラス。このアルバムの中ではリフ感が薄く、音響が前景化された1曲と言えます。

 過去2作が、分厚いギター・サウンドが全てを覆いつくす曲であったり、ノイズ的なサウンドがミニマルに鳴り響く曲などが収められていたのに対して、本作ではギターのリフがはっきりとしていたり、ドローンの中にも音の動きがあったりと、楽曲の構造がつかみやすい曲が収録され、サンのアルバムの中でも特に聴きやすい1作ではないかと思います。

 サンの最高傑作に挙げられることもある本作。このバンドや、ドローン・メタルへの入門盤としても、おすすめできる1枚です。