Caroline Rose “Loner”
キャロライン・ローズ 『ローナー』
発売: 2018年2月23日
レーベル: New West (ニュー・ウエスト)
プロデュース: Paul Butler (ポール・バトラー)
ニューヨーク州ロングアイランド生まれ、同州センター・モリシェズ育ちのシンガーソングライター、キャロライン・ローズの3rdアルバム。
3作目のアルバムとなりますが、2012年の1stアルバム『America Religious』は、自主リリース。2014年の2ndアルバム『I Will Not Be Afraid』も、リトル・ハイ・レコード(Little Hi! Records)という、彼女の2ndアルバムのみをリリースしているレーベルからの発売。
初期2作は、共にジャー・クーンズ(Jer Coons)がプロデューサーを務め、フォーク、カントリー、ロカビリーなど、アメリカのルーツ・ミュージックに根ざした音楽を志向していました。
しかし、慣習的なジャンルの限定に不満を感じたローズは、2ndアルバム後に、新たな音楽性を追求し始めます。3年の月日をかけて、作曲とレコーディングを続け、初めて本格的なレーベルとなるニュー・ウエストと契約し、リリースされたのが本作『Loner』。
アメリカーナやオルタナ・カントリーを扱う、名門レーベルとして知られるニュー・ウエストからのリリースではありますが、一聴するとルーツ・ミュージック色は薄く、シンセサイザーとエレキ・ギターが用いられ、ポストパンク色の濃い音楽が展開されています。
しかし、聴き込んでいくと、奥底にはフォークやロカビリーの要素も感じられ、ルーツ・ミュージックと現代的なロックとポップスが、絶妙にブレンドされた音楽であることが分かります。
1曲目「More Of The Same」は、清潔感のある柔らかなシンセサイザーのサウンドからスタート。シンセが前面に出たアレンジですが、いわゆるポストパンク的な躍動感を重視したアレンジではなく、歌と溶け合いながら、ゆったりとグルーヴ感を生んでいくアレンジ。
2曲目「Cry!」は、倍音たっぷりにうねるシンセのイントロに導かれ、シンプルで整然としたアンサンブルが展開。テンポも基本的なリズム構造も変わらず進行するものの、ギターが加わるなど徐々に音数が増え、ゆるやかにバンド全体がシフトを上げていきます。ボーカルの歌唱もバンドに比例して、ところどころかすれたり、シャウト気味になったりと、表現力豊か。
3曲目「Money」は、古き良きロックンロールを彷彿とさせる1曲。イントロからはテンションを抑えて進み、再生時間0:30あたりでリズムが浮き上がるに立体的に一変するアレンジは、コントラストが鮮やか。
4曲目「Jeannie Becomes A Mom」では、高音域を用いたシンセの音色が、清潔感を持って爽やかに響きます。縦の揃ったタイトな演奏が続きますが、シンセの音が多層的に重なり、サウンドがカラフル。
5曲目「Getting To Me」には、ストリングスが導入され、ベースもコントラバスを使用。シンセの電子的なサウンドと、ストリングスのサウンドが溶け合い、室内楽の香りが漂いつつ、現代的ポップスの香りもする、ジャンル特定のしがたい音楽が鳴らされています。
6曲目「To Die Today」は、トレモロのかかったギターとヴィブラフォンが、音数を絞った演奏で、緊張感を演出。さらに、シンセが電子的な持続音で全体を包み込み、神秘的な雰囲気を作り出します。
7曲目「Soul No. 5」は、タイトにリズムが刻まれる、小気味いいグルーブ感のある1曲。
8曲目「Smile! AKA Schizodrift Jam 1 AKA Bikini Intro」は、曲名のとおり次曲「Bikini」のイントロとなるトラック。50秒ほどの短い曲ですが、イントロからドラムが立体的に鳴り響き、多様な音が飛び交い、賑やかでカラフル。
9曲目「Bikini」は、厚みのあるシンセによるイントロに続き、ギター、ベース、ドラムが躍動感あふれる演奏を繰り広げる1曲。シンセの音色がポストパンク臭を漂わせますが、ギターがリズムを主導し、パワフルなロック的アンサンブルが展開されています。
10曲目「Talk」は、シンセを中心とした、細かくパーツを組み上げるようなアンサンブルに、ささやき系のボーカルが重なり、幻想的な雰囲気の1曲。シンセが絶妙にチープな音色を響かせ、ただの清潔感しかないポップスにはならない、オルタナティヴな耳ざわりを楽曲に加えています。
11曲目「Animal」は、イントロから縦の揃った、タイトなアンサンブルが展開されます。どこでテンションの切り替えがあるのかと、ワクワクしながら聴いていると、再生時間1:14あたりから、ボーカルがロングトーンを用い、バンドもリズムがばらけた奥行きのある演奏へ。
前述のとおり、キャロライン・ローズの音楽的ルーツにはフォークやカントリーが間違いなくあるのに、本作ではシンセが多用され、一聴すると現代的なポップスのような仕上がりになっています。
しかし、随所にカントリーやロックンロールを感じる、アレンジとフレーズが散りばめられ、アメリカ音楽の豊かさを再認識できるアルバムです。
カントリーを基調に、オルタナティヴ・ロック的な激しいギターや、実験的なアレンジを用いた音楽を「オルタナ・カントリー」と呼ぶことがあります。本作も、ルーツ・ミュージックと現代ロックの融合という点では、オルタナ・カントリーと共通しているのですが、その方法論は大きく異なります。
カントリーをオルタナティヴ・ロックで、アップデートしようという意図はおそらく無く、ごく自然なかたちで、シンセをフィーチャーした現代ポップス的サウンドの中に、カントリーやロカビリーを自然に溶け込ませています。
過去2作では、よりルーツ・ミュージックに近い音楽を鳴らしていたキャロライン・ローズ。そのようなジャンルの限定に、限界を感じた彼女にとって、本作の方がより素に近い音楽であり、触れてきた音楽を放出した結果なのでしょう。