Dent May “Across The Multiverse” / デント・メイ『アクロス・ザ・マルチヴァース』


Dent May “Across The Multiverse”

デント・メイ 『アクロス・ザ・マルチヴァース』
発売: 2017年8月18日
レーベル: Carpark (カーパーク)

 ミシシッピ州ジャクソン出身のシンガーソングライター、デント・メイの4枚目のアルバム。前作まではPaw Tracksからのリリースでしたが、今作は親レーベルのCarparkからのリリース。

 ピコピコ系の電子音が効果的に用いられた、シンセ・ポップ風味のインディーロックが響きます。カラフルな印象のサウンドながら、僅かにひねくれたアレンジがフックになった1作。

 電子音と楽器の音のバランスが絶妙で、お互いに邪魔をせず、異物感なく溶け合い、ポップなテクスチャーを作り上げています。高度なポップ・センスを感じるアルバム。

 2曲目の「Picture On A Screen」は、イントロから奇妙でポップな空気が充満。非常にカラフルでポップなサウンド・プロダクションであるのに、随所に耳に引っかかる変な音が入っていて、それが音楽のフックになっています。

 6曲目「90210」。ピアノの音と、シンセらしくファニーな音が重なるイントロ。シンセサイザーを除けば、アコースティック・ギターも入っていて、ボーカルもメローな1曲。ですが、随所に顔を出す奇妙なサウンドがかわいらしく、楽曲に彩りを加えています。

 再生時間2:03あたりからのギターソロの音作り、それに続いて2:16あたりから始まるシンセのソロの音色が、共におもちゃのようなキュートで奇妙なサウンドで、これもカラフルな印象を強めています。曲の後半にはストリングスも導入されて、展開が多くカラフルでポップな1曲。

 10曲目の「I’m Gonna Live Forever Until I’m Dead」は、不安定なとぼけた雰囲気のギターが耳に残る1曲。緩やかにグルーヴするアンサンブルも心地よく、ヴォコーダーによる声がアクセントになっています。

 ポップで、カラフルで、楽しいアルバムです。実験的と呼ぶにはポップ過ぎる、しかし僅かに違和感を生む音やアレンジが散りばめられていて、ポップ・センスの高さを感じさせる1枚。

 シンセ・ポップと呼ぶほどには、シンセサイザーが前景化されている印象はなく、効果的にシンセがアクセントを加えているアレンジです。

 ストリングスの使い方も絶妙。クラシカルな雰囲気や、壮大さを出さずに、曲に奥行きをプラスしていると思います。