James Chance & The Contortions “Buy” / ジェームス・チャンス・アンド・ザ・コントーションズ『バイ』


James Chance & The Contortions “Buy”

ジェームス・チャンス・アンド・ザ・コントーションズ 『バイ』
発売: 1979年
レーベル: ZE Records (ZEレコード)
プロデュース: James White (ジェームス・ホワイト)

  ブライアン・イーノ(Brian Eno)がプロデュースを担当し、ノー・ウェーヴを世界に知らしめたコンピレーション『No New York』。同作にも参加し、ノー・ウェーヴを代表するバンドのひとつと目される、ジェームス・チャンス・アンド・ザ・コントーションズの1stアルバムです。

 ニューヨーク・パンクの実験性をさらに推し進めた、ノー・ウェーヴ(No Wave)のムーヴメント。しかし、コントーションズを率いるジェームス・チャンスは、実はニューヨークではなく、ウィスコンシン州ミルウォーキーの出身。

 ミルウォーキーで生まれ育った彼は、高校を卒業すると、ウィスコンシン音楽院(Wisconsin Conservatory of Music)に入学。そこでバンドに参加し、ストゥージズ(the Stooges)やヴェルヴェット・アンダーグラウンド(The Velvet Underground)のカバーを経験します。1975年に同校を退学し、ニューヨークへ。同地のフリー・ジャズとノー・ウェーヴの両シーンで、精力的に活動を開始します。

 バンドの中心メンバーといえば、ギターとボーカルを担当しているのが定番。しかし、ジェームス・チャンスは、サックスとキーボード、ボーカルを兼任しています。

 サックス奏者であることが、まず示唆的ですが、本作ではジャズとロックが融合し、ニューヨークのアンダーグラウンド文化らしい、実験的なサウンドが展開されています。

 1曲目「Design To Kill」から、フリージャズの影響が顕著な、サックスとギターの意外性に飛んだフレーズが飛び交います。しかし、リズム隊にはファンクを思わせるタイトさとグルーヴ感あり。やや演劇じみたボーカルは、浮かび上がるような自由なフレーズを繰り出し、多様な音楽ジャンルがごった煮になった1曲です。

 しかし、このアルバム全体の言えることですが、実験的で敷居の高い音楽かというと、決してそうではなく、ポップさも兼ね備えた音楽が繰り広げられます。

 2曲目「My Infatuation」は、トライバルで立体的なドラムと、チューニングが狂っているんじゃないかとさえ思うギター、おもちゃのようなサックスの音が重なり、アヴァンギャルドな1曲。実験性は非常に高いのですが、多様な音が飛び交い、カラフルなサウンドを持っていて、騒がしくもポップな楽曲です。

 3曲目「I Don’t Want To Be Happy」は、これまたチューニングに違和感を覚えるぐらい、自由なフレーズが飛び交う1曲。めちゃくちゃなことをやっているようで、全ての楽器がいつの間にか溶け合い、アンサンブルが浮かび上がってくるから不思議です。

 4曲目「Anesthetic」は、音数が絞られ、メロウな雰囲気も漂う、ジャズ色の濃い1曲。ですが、当時のフリージャズとも異なる、ジャンクな響きを持ったアレンジです。

 5曲目「Contort Yourself」は、リズム隊がタイトにリズムを刻む、疾走感に溢れた1曲。

 6曲目「Throw Me Away」は、音が重なっていくのか、バラバラにほどけるのか、バランスが絶妙で、スリリングな演奏が繰り広げられる1曲。

 9曲目は「Bedroom Athlete」。イントロでは、壊れたバネのように楽器の音が揺れ、アヴァンギャルドな空気が充満していますが、ボーカルが入る頃には、タイトに絞り込まれたアンサンブルが展開していきます。

 ノー・ウェーヴというと、このバンドに限らず、奇をてらい過ぎる一面がありますが、決して「実験のための実験」に陥っているわけではなく、今聴いても十分に刺激的です。いや、折衷的でよくできた音楽が増えた今だからこそ、刺激的に響くと言ってもいいでしょう。

 コントーションズの音楽性をざっくりと説明すれば、フリージャズとロックの融合ということになりますが、フリージャズの先進性、パンクやロックの攻撃性、ファンクのグルーヴ感などが雑多に混じり合った、面白い音楽です。

 ちなみに本作で、プロデューサーとしてクレジットされているジェームス・ホワイトとは、ジェームス・チャンスの別名です。彼の本名は、ジェームス・ジークフリード(James Siegfried)。