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James White & The Blacks “Off White” / ジェームス・ホワイト・アンド・ザ・ブラックス『オフ・ホワイト』


James White & The Blacks “Off White”

ジェームス・ホワイト・アンド・ザ・ブラックス 『オフ・ホワイト』
発売: 1979年
レーベル: ZE Records (ZEレコード)
プロデュース: Bob Blank (ボブ・ブランク)

 ジェームス・ホワイト・アンド・ザ・ブラックスの1979年リリースの1stアルバム。

 1970年代後半にニューヨークで起こった、ノー・ウェーヴを代表するバンドのひとつ、ジェームス・チャンス・アンド・ザ・コントーションズ(James Chance & The Contortions)の変名バンドです。

 本作のリリース元でもあり、ノー・ウェーヴ周辺のバンドの作品を多数リリースしていたインディーズ・レーベル、ZEレコード。同レーベルの設立者の1人であるマイケル・ジルカ(Michael Zilkha)が、ノー・ウェーヴではなく、ディスコのアルバムの制作を、ジェームス・チャンスに提案。

 ジェームス・チャンスのマネージャーであり、当時の恋人だったアーニャ・フィリップス(Anya Phillips)が、変名を用いることを思いつき、すでにアルバム1枚をリリースしていたコントーションズ名義ではなく、ジェームス・チャンス・アンド・ザ・コントーションズ名義でのリリースとなりました。

 このような経緯で制作されたアルバムのため、当然ながらバンド名だけでなく、音楽性もコントーションズとは明らかに異なります。ただ、本作が純粋なディスコ・アルバムかというと、そうでもなく、コントーションズに通じる実験性を、多分に含んではいるのですが。

 1曲目「Contort Yourself (August Darnell Remix)」は、引き締まったリズムが刻まれる、タイトなディスコ・ソング。ディスコと呼ぶには、装飾や音数が少なく、シンプルですが、画一的なリズムと、動き回るベースラインは、コントーションズには無いダンス要素を持っています。

 リミックス担当としてクレジットされているオーガスト・ダーネル(August Darnell)は、キッド・クレオール(Kid Creole)というステージ・ネームでも知られ、当時はZEレコードのプロデューサーも務めていました。

 2曲目は「Contort Yourself」。タイトルから分かるとおり、1曲目の別バージョンです。1979年にリリースされたLP版、および1995年の初CD化された盤には収録されていませんでしたが、2004年にCDが再発される際に追加され、現在は各種サブスクリプション・サービスでも聴くことができます。

 タイトなリズムや全体のグルーヴ感など、もちろん楽曲の大枠は変わりませんが、1曲目のバージョンと比較すると、よりバンドの演奏が前面に出たバランスのミックスとなっています。

 3曲目「Stained Sheets」は、ミドルテンポの中をサックスやベースの音が漂い、電話の「リリリリーーン」という音も飛び道具的に挿入される、フリージャズ色の濃い1曲。

 4曲目「(Tropical) Heatwave」は、曲名のとおりトロピカルで軽快なリズムを持った、カラフルな1曲。ドラムは、細かいリズムから、叩きつけるようなパワフルなリズムまで多彩。実験性とポップさを併せ持っています。

 6曲目「White Savages」は、鋭く小刻みに刻まれるドラムのリズムと、野太いベース、アヴァンギャルドなサックスとギターが絡み合い、フリージャズとディスコが融合した1曲。

 7曲目「Off Black」は、多様な音が飛び交い、アヴァンギャルドな空気が充満したアンサンブル。ドラムは立体的にリズムを刻み、かろうじてディスコの要素が感じられます。

 9曲目「White Devil」では、グルーヴ感のあるリズム隊の上に、フリーなギターとサックスのフレーズが乗っかり、フリージャズの実験性と、ダンサブルなリズムが溶け合った演奏が展開していきます。

 前述のとおり、ノー・ウェーヴを代表するバンド、ジェームス・チャンス・アンド・ザ・コントーションズのメンバーが、ディスコを意識した音楽を作り上げた本作。

 より実験性の強いコントーションズ名義の楽曲と比べれば、確かにディスコの要素は感じられるものの、いわゆるディスコ・サウンドからは離れたアレンジとサウンドを持ったアルバムです。やや、ビートと楽曲構造のハッキリしたコントーションズ、と説明した方が適切でしょう。

 ダンス要素を求めて本作を手に取る方は、そんなにいらっしゃらないとは思いますが、やはりアヴァンギャルドなアレンジが前面に出た作品ですので、ディスコと思って聴くのには、注意が必要です。

 いずれにしても純粋なディスコ的音楽ではありませんが、グルーヴィーなリズムと、アヴァンギャルドなフレーズが溶け合う、スリリングな音楽です。

 





James Chance & The Contortions “Buy” / ジェームス・チャンス・アンド・ザ・コントーションズ『バイ』


James Chance & The Contortions “Buy”

ジェームス・チャンス・アンド・ザ・コントーションズ 『バイ』
発売: 1979年
レーベル: ZE Records (ZEレコード)
プロデュース: James White (ジェームス・ホワイト)

  ブライアン・イーノ(Brian Eno)がプロデュースを担当し、ノー・ウェーヴを世界に知らしめたコンピレーション『No New York』。同作にも参加し、ノー・ウェーヴを代表するバンドのひとつと目される、ジェームス・チャンス・アンド・ザ・コントーションズの1stアルバムです。

 ニューヨーク・パンクの実験性をさらに推し進めた、ノー・ウェーヴ(No Wave)のムーヴメント。しかし、コントーションズを率いるジェームス・チャンスは、実はニューヨークではなく、ウィスコンシン州ミルウォーキーの出身。

 ミルウォーキーで生まれ育った彼は、高校を卒業すると、ウィスコンシン音楽院(Wisconsin Conservatory of Music)に入学。そこでバンドに参加し、ストゥージズ(the Stooges)やヴェルヴェット・アンダーグラウンド(The Velvet Underground)のカバーを経験します。1975年に同校を退学し、ニューヨークへ。同地のフリー・ジャズとノー・ウェーヴの両シーンで、精力的に活動を開始します。

 バンドの中心メンバーといえば、ギターとボーカルを担当しているのが定番。しかし、ジェームス・チャンスは、サックスとキーボード、ボーカルを兼任しています。

 サックス奏者であることが、まず示唆的ですが、本作ではジャズとロックが融合し、ニューヨークのアンダーグラウンド文化らしい、実験的なサウンドが展開されています。

 1曲目「Design To Kill」から、フリージャズの影響が顕著な、サックスとギターの意外性に飛んだフレーズが飛び交います。しかし、リズム隊にはファンクを思わせるタイトさとグルーヴ感あり。やや演劇じみたボーカルは、浮かび上がるような自由なフレーズを繰り出し、多様な音楽ジャンルがごった煮になった1曲です。

 しかし、このアルバム全体の言えることですが、実験的で敷居の高い音楽かというと、決してそうではなく、ポップさも兼ね備えた音楽が繰り広げられます。

 2曲目「My Infatuation」は、トライバルで立体的なドラムと、チューニングが狂っているんじゃないかとさえ思うギター、おもちゃのようなサックスの音が重なり、アヴァンギャルドな1曲。実験性は非常に高いのですが、多様な音が飛び交い、カラフルなサウンドを持っていて、騒がしくもポップな楽曲です。

 3曲目「I Don’t Want To Be Happy」は、これまたチューニングに違和感を覚えるぐらい、自由なフレーズが飛び交う1曲。めちゃくちゃなことをやっているようで、全ての楽器がいつの間にか溶け合い、アンサンブルが浮かび上がってくるから不思議です。

 4曲目「Anesthetic」は、音数が絞られ、メロウな雰囲気も漂う、ジャズ色の濃い1曲。ですが、当時のフリージャズとも異なる、ジャンクな響きを持ったアレンジです。

 5曲目「Contort Yourself」は、リズム隊がタイトにリズムを刻む、疾走感に溢れた1曲。

 6曲目「Throw Me Away」は、音が重なっていくのか、バラバラにほどけるのか、バランスが絶妙で、スリリングな演奏が繰り広げられる1曲。

 9曲目は「Bedroom Athlete」。イントロでは、壊れたバネのように楽器の音が揺れ、アヴァンギャルドな空気が充満していますが、ボーカルが入る頃には、タイトに絞り込まれたアンサンブルが展開していきます。

 ノー・ウェーヴというと、このバンドに限らず、奇をてらい過ぎる一面がありますが、決して「実験のための実験」に陥っているわけではなく、今聴いても十分に刺激的です。いや、折衷的でよくできた音楽が増えた今だからこそ、刺激的に響くと言ってもいいでしょう。

 コントーションズの音楽性をざっくりと説明すれば、フリージャズとロックの融合ということになりますが、フリージャズの先進性、パンクやロックの攻撃性、ファンクのグルーヴ感などが雑多に混じり合った、面白い音楽です。

 ちなみに本作で、プロデューサーとしてクレジットされているジェームス・ホワイトとは、ジェームス・チャンスの別名です。彼の本名は、ジェームス・ジークフリード(James Siegfried)。