Phosphorescent “Muchacho” / フォスフォレッセント『ムチャチョ』


Phosphorescent “Muchacho”

フォスフォレッセント 『ムチャチョ』
発売: 2013年3月19日
レーベル: Dead Oceans (デッド・オーシャンズ)
プロデュース: Phil Joly (フィル・ジョリー)

 アラバマ州ハンツビル出身のシンガーソングライター、マシュー・フック(Matthew Houck)のソロ・プロジェクト、フォスフォレッセントの6thアルバム。

 前作『Here’s To Taking It Easy』から約3年ぶり、デッド・オーシャンズと契約後4作目となるアルバムです。アルバム・タイトルの「Muchacho」とは、スペイン語で「少年」(boy)を意味する単語。

 これまでのフォスフォレッセントの作風は、フォークやカントリーを下敷きにしながら、オルタナティヴ・ロックや音響系ポストロックを感じさせるアレンジを、さりげなく織り交ぜたもの。

 しかし、前作から3年ぶりとなる本作では、生楽器の響きを活かした、これまでのフォーキーなサウンドとは打って変わって、電子的なサウンドが前面に出たアルバムとなっています。一体、前作からの3年間に何があったのか、と思うほどの変化です。

 もちろん彼の持ち味であるルーツ・ミュージックの要素も含まれてはいるのですが、音楽を作り上げる方法論、全体のサウンド・プロダクションは、明らかにモード・チェンジ。フォスフォレッセント史上、最もオルタナ色の濃い1作です。

 1曲目「Sun, Arise! (An Invocation, An Introduction)」は、いかにも電子音らしい電子音による伴奏と、厚みのあるコーラスワークが溶け合う1曲。テクノ的なサウンドと、温かみのある人の声が合わさり、独特のオーケストラルなポップが展開されています。

 2曲目「Song For Zula」でも、1曲目に続いて電子音が主軸に据えられ、バウンドするビートに乗せて、流麗なフレーズが重なっていきます。

 3曲目「Ride On / Right On」は、エフェクターの深くかかったエレキ・ギターと、肉体的なビートが用いられた、躍動感のある1曲。

 5曲目「A Charm/ A Blade」は、教会音楽を思わせる壮大なコーラスワークと、ホーン・セクションを大体的に導入したサウンドが融合する、スケールの大きなポップ・ソング。

 6曲目「Muchacho’s Tune」は、ギターとピアノ、シンセサイザーなどの粒立った音が、水がにじむように広がっていく、ソフトな音像を持った1曲。各楽器の音が、無作為に広がっていくようで、一体感のあるアンサンブルが構成されています。

 8曲目「The Quotidian Beasts」は、アコースティック・ギターのストロークと、ヴァイオリンのフレーズが重なる、オーガニックな響きを持った、牧歌的な1曲。

 10曲目「Sun’s Arising (A Koan, An Exit)」では、ロングトーンを活かした、神秘的なコーラスワークが響き渡ります。伴奏は、風になびいて草木がなびくように、ナチュラルな躍動感に溢れたもの。

 前述のとおり、これまでのフォーキーな音色を持った作風から比較すると、サウンドの質感が大きく異なる1作です。積極的に電子音が導入され、オルタナティヴな要素が増しています。

 一方で、ただ単にエレクトロニカやオルタナティヴ・ロック色を増しただけでなく、ホーン・セクションやペダル・スティール・ギターが効果的に用いられ、スケールの大きなポップスとしての一面も持っています。

 また、本作は「Muchacho De Lujo」(ムチャチョ・デ・ルホ)と名づけられた、2枚組のデラックス・エディションもリリースされています。2枚目のディスクには、ライブ音源が12曲収録。現在は各種サブスクリプション・サービスでも、こちらのエディションを聴くことができます。