Khruangbin “Con Todo El Mundo” / クルアンビン『コン・トード・エル・ムンド』


Khruangbin “Con Todo El Mundo”

クルアンビン 『コン・トード・エル・ムンド』
発売: 2018年1月26日
レーベル: Dead Oceans (デッド・オーシャンズ)
プロデューサー: Steve Christensen (スティーヴ・クリステンセン)

 テキサス州ヒューストン出身の3ピース・バンド、クルアンビンの2ndアルバム。

 メンバーは、アフリカ系アメリカ人のドラマー、ドナルド”DJ”ジョンソン(Donald “DJ” Johnson)、ギタリストのマーク・スピアー(Mark Speer)、そして紅一点のベーシスト、ローラ・リー(Laura Lee)。

 メンバー構成からして多様性を感じさせますけど、彼らの音楽はそれ以上に個性的。

 ジョンソンとスピアーは教会のゴスペル・バンドで出会い、スピアーとリーが友人となるきっかけになったのは、共にアフガニスタンの音楽を愛好していたこと。

 また、1960年代のタイ・ファンクからも影響を受けており、バンド名の「Khruangbin」とは、タイ語で「空飛ぶエンジン(flying engine)」の意味。

 イギリス出身のミュージシャンでありプロデューサー、ボノボ(Bonobo)に見出され、同氏が監修するコンピレーション・アルバム『Late Night Tales』に楽曲が収録。

 同コンピ・シリーズをリリースするレーベル、Night Time Storiesより、1stアルバム『The Universe Smiles Upon You』をリリースしています。

 クルアンビンの奏でる音楽は、オーガニックなサウンドを持ち、リラクシングでありながら、ゆるやかな躍動感も共存。

 前述のとおり、多様な音楽要素が内包され、エキゾチックな空気と、ゆるゆるのグルーヴ感を併せ持った演奏を展開します。

 僕はタイのファンクにも、アフガニスタンの音楽にも詳しくないので、理論的なことは語れませんが、ギターの音の動き方は、あきらかに一般的なロックとは異質。

 多様な音楽要素を取りこんだ、メロディーとリズムの構造以上に僕が魅力的だと思うのは、このバンドが持つ独特のグルーヴ感。

 世界中のさまざまな音楽が、3ピースのコンパクトなアンサンブルの中におさめられ、揺らぎのある緩やかなグルーヴが、通奏低音のようにアルバムを支配しています。

 1曲目の「Cómo Me Quieres」は、音数の少ない隙間の多いアンサンブルながら、ファンクに通ずる糸を引くようなグルーヴ感が徐々に増加。「ファンクに通ずる」と書いたのは、いわゆるファンク・ミュージックと全く同じではないからです。ゆるやかに躍動するアンサンブルの中で、ギターは滑らかにすべっていくように、フレーズを紡いでいきます。

 2曲目「Lady And Man」は、立体的かつ軽やかに揺れるアンサンブルと、ところどころで挟まれる民俗音楽的なチャントが印象的な1曲。

 3曲目「Maria También」では、ギターがはずむようなフレーズで、イントロからバンドを先導。ベースとドラムもタイトにリズムを刻み、躍動感に溢れたアンサンブルが展開。

 7曲目「Evan Finds The Third Room」は、本作のなかで最もファンク色の濃い1曲。加速感のあるタイトなアンサンブルが展開します。ただ、めちゃくちゃファンキーなディスコ調の演奏というわけではなくて、このバンド特有の緩さがあり、落ちついて聴ける演奏。

 10曲目「Friday Morning」は、スローテンポで始まりながら、随所でテンポを切り替え、メロウなパートと躍動的なパートのコントラストが鮮やか。テンポを切り替えると言っても、わかりやすく静と動を演出するというわけではなく、リズムが伸縮するように、自然な変化。

 アルバム全体をとおして、ゴリゴリにグルーヴするわけではないのですが、確かな実体感をともなった演奏が展開します。一聴すると緩やかなのですが、音楽の根底にはバンドの躍動感が感じられるのです。

 様々な音楽を取り込み、ファンクやサイケデリックな要素もあり、ゆるやかなのに確固としたグルーヴが存在する。絶妙なバランスを持った1作です。

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