音楽の聴き方入門 -音楽をあまり聴かない人のために-


目次
イントロダクション
音楽のどこを聴く?
サウンドの魅力
グルーヴ感
実際に聴いてみる

イントロダクション

 当サイトの目的は、USインディーロックの魅力を伝え、情報を提供すること。

 ただ、日本におけるUSインディーロックって、洋楽をそれなりに聴きこんでいる人が手を出す、マニアックな側面が少なからずあります。

 あまり音楽をマニアックに聴かない人にも、音楽の魅力を知ってもらいたいな。できればUSインディーロックの深い世界にも、足を踏み入れてもらいたいな。との思いから、入門的な内容の記事を執筆することにしました。

 この記事は、入門用記事のひとつめ。「音楽の聴き方」と題して、僕が考える聴き方のコツとか、ツボのようなものを書いたつもりです。

 いろいろなジャンルを聴く足がかりとなる、0を1にするような内容を目指して、執筆しました。

音楽のどこを聴く?

 突然ですが皆さんは、音楽のどこを聴いているでしょうか?

 いきなりそんなこと聞かれても困る。全体的に聴いてるから、どこもクソもない。というリアクションの方もいるでしょう。

 僕が伝えたいのは、音楽のどこに注目して聴くかによって、楽しみ方が広がるよ、ということなんです。

 音楽を作るのは、次の3要素だと言われます。リズム、メロディー、ハーモニー。

 音楽によっては、どこか一つの要素が強調されていたり、あるいはどれか一つの要素に注目して聴くことで、聴こえ方が変わってくることがあるんです。

 例えば、ゴスペラーズのようなコーラス・グループの楽曲は、ハモリが気持ちいいですよね。これはハーモニーが強調された音楽と言えます。

 また、テクノなどのダンス・ミュージックには、そもそも歌が入っていない、わかりやすいメロディーの無い楽曲が数多くあります。これはリズムが強調された音楽だということです。

 ヒットチャートの上位をしめる楽曲は、メロディー志向の音楽がほとんど。そのため多くの人が、普通はメロディーに耳を傾けて、音楽を聴いているんじゃないかと思います。

 もちろん、メロディーを中心にした聴き方が、間違っているわけじゃありませんよ。

 でも、メロディーありきで音楽を聴いていると、いわゆる歌メロとは違うヒップホップや、ボーカルの入らないジャズやテクノは「よくわからない難しい音楽」とも、なりかねません。

 また、歌の入ったロックやポップスを聴く場合にも、メロディーだけでなく、リズムの切り替えや、コード進行に注目することで、同じ楽曲なのに、それまでとは全く違って聴こえることがあります。

 パッと聴いて「よくわかんないから嫌い!」と拒絶するのではなく、どこか引っかかる部分を探し、自分の耳をチューニングする感覚で、音楽を聴いてみてください。

 きっと、少しずつ音楽の魅力が広がっていくはずです。

サウンドの魅力

 さて、ここまで取り上げてきたリズム、メロディー、ハーモニーの3要素。これらは、楽譜に書きあらわすことのできる情報です。音韻情報とも呼びます。

 しかし、音楽には五線譜というフォーマットに書くことが難しい情報もあります。それが音響情報。

 「音響情報」と、あらたまった言い方をすると、なんだか難しそうですが、簡単に言えばサウンド自体のこと。どのような音質、音色で鳴っているのか、ということです。

 例えばボーカルの声は、まさに音響情報。「エレカシの宮本さんの声が最高!」とか、「ももクロのあーりんの声が好き!」とか、そういう理由で特定の音楽が好きなことも、あるかと思います。

 3要素に並んで、サウンド自体も音楽の魅力のひとつということです。

 また、メロディー志向の音楽や、リズム志向の音楽があるように、音響を重視した音楽というものも存在します。

 ジャンルで言うと、ドローンメタルやエレクトロニカ、一部のポストロックなど。例えばドローンメタルでは、リズムやメロディーが存在せず、ただひたすらにギターの重厚な持続音が響きわたるアルバムがあります。

 こういう音楽も、心の準備ができていないと、まず楽しめないと思うんですよね。

 でも、僕自身もそうだったのですが、いろいろな音楽を聴いているうちに「この中音域が濃いギターの音かっこいいな」とか、「このシンセの柔らかな持続音きもちいい」とか、音響の気持ちよさや、自分好みのサウンドに気づくはず。

 そして、前述したドローンメタルやエレクトロニカなどを、サウンドに圧倒される音楽として、楽しめるようになっていきます。(そもそも好みじゃない、楽しめない人もいるとは思います…)

 なにもムリして聴くジャンルを広げる必要はないし、ノイズやアンビエントみたいな音楽を、全ての人が好むとも思わないんですけど、ひとつの参考になれば幸いです。

グルーヴ感

 続いて、グルーヴ感について。似たような言葉で、主にジャズの世界で使う「スウィング感」というのもあります。

 言葉で説明するのは難しいんですが、これは演奏の一体感のようなもの。

 「一体感」と書くと、楽譜どおりにピッタリ演奏することのようですが、そうではありません。各楽器がお互いに絡み合い、バンドがひとつの生き物のように、躍動することを言います。

 バンド全体のリズムの立体感とでも、言ったらいいでしょうか。個別のメロディーやリズムではなく、演奏を主体に聴く感覚です。

 同じテンポで演奏をしているのに、徐々に加速するように感じたり、楽器同士のリズムが重なり合うことで、バンドにしか生み出せない躍動感が生まれるんです。

 僕がグルーヴと聞いて、まず思い浮かぶのはレッド・ツェッペリン(Led Zeppelin)。1968年から1980年まで活動した、イギリス出身のロックバンドで、ギター、ベース、ドラムが絶妙なタイミングで組みあいます。興味を持ったら、ぜひライブ盤を聴いてみてください。

 ジャズにも「スウィング感」という言葉があると書きましたが、ジャズはまさしく演奏が前景化した音楽と言えます。

 もちろん人や作品によって異なりますけど、ゴリゴリに躍動していく演奏が、なにより楽しい音楽だと思います。

実際に聴いてみる

 では最後に、実際に曲を例にして、聴取のポイントをご紹介しましょう。取り上げるのは、チャットモンチーの「シャングリラ」です。

 この曲を選んだ理由は、まぁ僕がチャットモンチー大好きというのが一番なんですけど、ここまで紹介してきた要素を多く含み、情報量の多い楽曲だからです。

 バンドの公式YouTube Channelに公開されているミュージック・ビデオを、下に貼りました。

 まずメロディーを聴いてみても、ポップで親しみやすい楽曲ですよね。ただ、イントロから歌が入ってくるところで、「あれ、一拍足りない?」と思うんじゃないでしょうか。

 サビの頭を1拍分短くして、リスナーに揺さぶりをかけるようなアレンジです。

 次にリズムに注目して聴いてみましょう。イントロから「ドン、ドン、ドン、ドン…」と、バスドラが響いていますので、そのままドラムに注目して聴いていくイメージで。

 さらにベース、ギターが重なってくるので、今度は各楽器のリズムがどのように重なるか、聴いてみてください。ドラムの軽やかなリズムに、ベースが絡みつくように合わさり、その上にギターが乗ってくる。立体感や躍動感が、感じられると思います。

 それとギターのサウンド。ほどよく歪んでいるのに、「ジャーン」とコードを弾いても、各弦がちゃんと分離して聴こえる、独特の浮遊感のある音です。

 再生時間0:55あたりからは、バンドのグルーヴ感に注目して聴いてみましょう。タイトなドラムに、低音域を動きまわるベース。かろやかなギターが絶妙に絡み合い、サビに向かって、加速していきます。

 再生時間1:50あたりからの間奏でも、抜群のアンサンブルが披露されます。ドラムの飛び跳ねるようなリズムに、ベースとギターが絡みつき、それぞれやっていることは別々なのに、一体感と躍動感に溢れた演奏です。

 1曲を集中して聴いてみると、なんだか音楽のいろんな面に気がつきませんか?

 この曲に限らず、自分の耳のチューニングを変えるだけで、音楽をより広く、より深く、楽しめるようになるはずです。

 少なくとも、僕はそうやって音楽の守備範囲を広げてきました。

 この記事が、皆さんの音楽の楽しみ方を広げる、ヒントやきっかけになれば幸いです。

 

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