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そもそもロックとは? ロックの歴史と特徴


目次
イントロダクション
起源
アメリカ大陸で生まれた音楽
特徴
他ジャンルを取りこむロック
多様なサブジャンル

イントロダクション

 当サイトでは、音楽をあまり聴かない方への、入門的な情報も提供したいと思っております。

 なので、このページでは「そもそもロックとは?」と題して、ロックの簡単な歴史をご紹介します。

 「USインディーロックの深い森」なんてサイト名を掲げていますから、ロックが誕生してから、USインディーロックと呼ばれる音楽まで、なるべく繋がりがわかるように意識して書きました。

 わかりやすさを重視したので、かなり大味な議論であることは、ご容赦ください。

起源

 ロックの前身と言えるジャンル、ロックンロールが生まれたのはアメリカ合衆国。だいたい1950年代ぐらいから、ひとつのジャンルとして、認識されるようになったと言われています。

 その後、1960年代半ばあたりから、ロックンロールではなく、単にロックと呼ばれる方が一般的になり、様々なサブジャンルが派生。現代に至ります。

 ロックンロール誕生のきっかけとなったのは、ヨーロッパからやってきた白人と、アフリカから連れてこられた黒人の音楽の融合。異なる文化が融合して生まれたというのが、重要なところです。
 
 なぜこのような融合が起こったのか。その理由は、アメリカ合衆国の成り立ちに関係します。ここから、アメリカの歴史を簡単にふり返ります。

 歴史に興味がない方は「ヨーロッパとアフリカが融合してできた音楽」ってところだけ抑えてもらって、次の小見出し(アメリカ大陸で生まれた音楽)まで、飛んでいただいて大丈夫です!

 アメリカ合衆国があるアメリカ大陸は、コロンブスによって1492年に「発見」されたことになっています。

 もともとアメリカ大陸には、多くの原住民が住んでいたにもかかわらず「新大陸」と称され、多くのヨーロッパ人が移民としてアメリカ大陸へ渡りました。

 のちにアメリカ合衆国が建国される北アメリカにも、イギリス人を中心に多数が移民。そして、南部では広大な土地をいかした農業が発展。ヨーロッパからの移民だけでは労働力が足りず、アフリカから奴隷を輸入するようになります。

 ヨーロッパからの白人移民と、アフリカからの黒人奴隷。両者の音楽がアメリカ大陸で混じり合い、ロックをはじめ多くの音楽が生まれたのです。

アメリカ大陸で生まれた音楽

 そんなわけで、ヨーロッパの白人とアフリカの黒人。両者の音楽が融合してロックが生まれたのですが、他にも多くの音楽がアメリカ大陸では生まれました。

 アメリカ合衆国が建国された北アメリカだけでなく、カリブ海諸島や南米もヨーロッパ各国によって植民地化。これらの地域にも、アフリカから奴隷が輸入されましたから、各地でロックの兄弟姉妹のような音楽が誕生したわけです。

 いくつか例を挙げていくと、アメリカ合衆国のジャズ、ブルース、ゴスペル、ブラジルのサンバ、ボサノヴァ、アルゼンチンのタンゴ、キューバのルンバなどなど。

 ロックが誕生したのは、前述のとおり1950年代。ブルースやカントリーなどが、さらに混じり合ってできた音楽だと言われています。

 いわば融合によって生まれた音楽が、さらに融合して生まれた音楽。生まれた時期的にも、アメリカ大陸の音楽の中で、末っ子に近い存在と言えます。

 後述しますが、ロックが数々のサブジャンルを生み出し、20世紀のポピュラー・ミュージックの主流となったのも、ジャンルとしての若さが関係していると、僕は考えています。

特徴

 では、ロックとは具体的にどんな音楽で、どのような特徴があるのか。

 ロックは「黒人のリズムと白人のメロディーが融合した音楽」だと、言われることもあります。

 アフリカのダイナミックな太鼓のリズム。ヨーロッパのメロディー志向のフォーク・ミュージック。両者の魅力を、併せ持った音楽だということです。

 「ロック」と聞くと、激しく歪んだエレキ・ギターのサウンドを想像する方も多いでしょう。エレキギターのダイナミックな音色をはじめとして、アグレッシヴなサウンドを持つところも、ロックの特徴のひとつ。

 また、精神性も特徴のひとつとして、挙げておくべきでしょう。

 例えば1960年代、多くのロック・ミュージシャンがベトナム戦争にたいして、反戦の立場を表明。反戦運動において、多大な影響力を持ちました。

 なぜ、このような精神性を持つようになったのか。その理由を一言であらわせば、ロックは当初から「若者の音楽」であったためです。

 ロックンロールが誕生した1950年代。アフリカ音楽を起源に持つロックの強いビートは、いかがわしいものとされていました。エルヴィス・プレスリーの腰の動きが、卑猥だと言われたのもこの時期。

 大人は新しい価値観を否定するのに対し、若者はロックという新しい音楽に熱狂。世代間による音楽の違いが、生まれていったのです。

 この若者文化、カウンターカルチャーとしてのロックの特徴が、その後のパンク・ロックやオルタナティヴ・ロックへも、引き継がれていくことになります。

他ジャンルを取りこむロック

 ロックが特殊だったのは、他のジャンルを取り込みながら、次々とサブジャンルが誕生し、拡散していったところ。

 もちろん、他のジャンルにも多かれ少なかれそういう部分はありますが、ロックはそのスピードが格段に速かったんです。

 この柔軟性とスピード感が、ロックを20世紀におけるポピュラーミュージックの王にしたと言っても、過言ではないでしょう。

 なぜ、ロックは柔軟に他ジャンルをとりこみ、拡散していったのか。理由としては、先述したとおりアメリカ音楽のなかでも、かなり新しいジャンルであったこと。

 ロックの元となったジャンルとして、ブルースやリズム・アンド・ブルースが挙げられます。

 しかし、それらは既にアフリカとヨーロッパの融合した音楽であり、いわばロックは融合音楽がさらに融合してできた音楽だったのです。

 言い換えれば、他のジャンルよりも当初から折衷的であり、強度の弱いジャンルだということ。

 「強度が弱い」というとネガティヴな要素のようですが、逆に他ジャンルを取り込みやすい長所とも言えます。

 そして、結果としてロックは、この長所を存分に生かし、その影響力を拡大。20世紀のポピュラーミュージックの主流となったのです。

多様なサブジャンル

 そんなわけで、ロックンロールが単に「ロック」と呼ばれるようになった1960年代以降、「○○ロック」の名を持つサブジャンルが次々と誕生。

 代表的なものをご紹介しましょう。各ジャンルの紹介が目的ではないので、サラっと飛ばし気味に書きます!

 ロックというジャンルの多様性を、つかんでいただけたら。

 酩酊的なサウンドが特徴のサイケデリック・ロック。荒削りなサウンドが特徴のガレージロック。

 その名のとおりハードなサウンドを持ち、テクニカルなハードロック。

 妖艶な衣装とメイクのグラムロック。革新性を追求し、ときに難解なプログレッシヴ・ロック。

 カウンターカルチャーとしてのロックを復活させたパンク・ロック。

 「ロック」とは名がつかないものの、ヘヴィメタルやニューウェイヴといったジャンルも誕生。

 さらにはパンク・ロックから派生したハードコア・パンク、そこからさらに派生したポスト・ハードコアなど、ロックは無数に枝分かれしていきました。

 USインディーロックの魅力のひとつも、その多様性にあり、ここで挙げたジャンルの遺伝子を受け継いだ、様々な「ロック」が、今も鳴り響いているんです。

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「アルバム」というフォーマットの魅力


目次
イントロダクション
ひとつの作品としてのアルバム
コンセプト・アルバム
 ーThe Beatles 『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』
 ーDavid Bowie 『Ziggy Stardust』
 ーQueen 『A Night at the Opera』
 ーASIAN KUNG-FU GENERATION 『サーフ ブンガク カマクラ』
まとめ

イントロダクション

 音楽をコアに好きな人と、そうでもない人との温度差の違いのひとつに、アルバムの捉え方があります。

 「アルバムって曲が十数曲まとまってるだけじゃないの?」という方もいらっしゃるかもしれませんが、それだけじゃないんです。

 アルバムはひとつの作品であり、流れやコンセプトを意識すると、より深く楽しめるもの。

 この記事では、アルバム単位で音楽を聴く楽しさを、ご紹介します。

ひとつの作品としてのアルバム

 アルバムの魅力は、なんといっても作品としての情報量の多さ。

 単純にシングルよりも曲数が多いだけではなく、ジャケット、曲順、コンセプトなど、ひとつの作品として多角的に楽しめる内容になっているんです。

 もちろん、そんな思考を持たず「曲が貯まってきたからアルバムにしよう」って感じで、ただ曲数を揃えただけのアルバムを作るバンドやシンガーもいます。

 ただ、多くの人気バンド、特に歴史に名を残すようなバンドは、優れたアルバムを送り出していることも事実。

 有名バンドの名盤と呼ばれるアルバムは、アルバム単位で聴くべき作品であると言っていいでしょう。

 例えば10曲入りのアルバムがあるとして、1曲目がイントロ的な役割、2曲目がスピード感ある楽曲、3曲目から5曲目まではしっとりとしたミドル・テンポというように、流れや役割を意識して聴くと、1曲単位にはない奥行きが感じられるんです。

 それと、CDやデジタル配信が生まれる以前の、レコード時代のアルバムを聴く際の注意。レコードはA面とB面があり、A面の再生が終わると、レコードを裏返してB面を再生します。

 すなわち、A面とB面の間には自ずとインターバルが生まれるわけで、当時の作品はこの切り替え時間を、考慮した構成になっているんです。

 なので、A面の最後の曲でやや落ちつき、B面の最初の曲がリード・トラック。というような構成のアルバムが少なくありません。

 もともとはレコードで発売されていた70年代の名盤でも、CDやストリーミングをとおして聴くならば、A面とB面の切れ目は存在しません。

 そのため、アルバムによっては繋がりに違和感があるかもしれませんが、そんな時にはレコードのA面とB面を思い出してみてください。

 面の切れ目を意識することで、アルバムをより深く楽しむヒントとなるかもしれません。

コンセプト・アルバム

 アルバム作品の魅力を伝える、わかりやすい例として、「コンセプト・アルバム」を挙げておきましょう。

 「コンセプト・アルバム」あるいは「トータル・アルバム」とは、その名のとおり、確固としたコンセプトを持ったアルバムのこと。

 …と言っだだけでは、ほとんど説明になっていませんから、具体的に何枚かのアルバムをご紹介します。

The Beatles 『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』
 まずはビートルズの『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』。

 

 この作品は、1967年にリリースされたビートルズの8thアルバム。「世界初のコンセプト・アルバム」とも呼ばれ、ロックを代表する名盤の1枚と言っても、過言ではありません。

 内容は、アルバム・タイトルにもなっている「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」という架空のバンドのライブを収めたというもの。

 そのため、1曲目のイントロにはガヤガヤした客の声も収録され、ラストはアンコールの「A Day In The Life」で、締め括られます。

 もちろんライブ録音ではなく、スタジオ録音。前述の客席の声など、趣向を凝らした演出にも、驚かざるをえません。

 デジタル録音のない1967年に、どうしてこんなアルバムを作ることができたんだろう。

David Bowie 『Ziggy Stardust』
 2枚目に紹介するのは、デヴィッド・ボウイの『ジギー・スターダスト』。

 1972年にリリースされた5thアルバムで、正式タイトルは『The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars』と、かなり長め。

 

 資源の枯渇によって、5年後に迫る人類の滅亡。そこに救世主を名乗るジギーが、バックバンドのスパイダーズ・フロム・マーズを引き連れ、異星から舞い降りる、というストーリー。

 あと5年で世界が終わることに、絶望した人々が描かれる「Five Years」から始まり、ジギーがスーパースターとして成功、そして没落し、ラストは「Rock’N’Roll Suicide」(邦題:ロックン・ロールの自殺者)で締められる、物語性の高いアルバムです。

 実にコンセプト・アルバムらしい、コンセプト・アルバム。

Queen 『A Night at the Opera』
 3枚目は、クイーンの『A Night at the Opera』。『オペラ座の夜』という邦題がついています。

 

 1975年にリリースされた、クイーンの4thアルバム。ジャケットをプログラムに見たて、アルバム・タイトルのとおり、オペラを再現するかのような、壮大なロックを展開しています。

 ラストに収録されるのは、イギリス国歌の「God Save the Queen」。これはオペラや劇場で、終演時にその国の国歌を演奏することに由来しています。

 彼らの代表曲「Bohemian Rhapsody」(ボヘミアン・ラプソディ)も収録。

ASIAN KUNG-FU GENERATION 『サーフ ブンガク カマクラ』
 最後に邦楽のアルバムも、1枚ご紹介しておきましょう。

 2008年にリリースされた、ASIAN KUNG-FU GENERATION(アジアン・カンフー・ジェネレーション)の5thアルバム『サーフ ブンガク カマクラ』です。

 

 「藤沢ルーザー」「江ノ島エスカー」「由比ヶ浜カイト」など、収録曲にはすべて、江ノ島電鉄の駅名が含まれています。

 一貫したストーリーがあるわけではありませんが、江ノ電の沿線風景が目に浮かぶような統一感があり、まるで短編小説集のようなアルバム。

まとめ

 以上、僕なりに「アルバム」の魅力を記述してきました。

 今やCDよりも、サブスクリプションによるストリーミングが主流ですし、楽曲単位の視聴が増えていくのかもしれません。

 でも「アルバム」という作品が持つ魅力、アルバム単位で聴くことで広がる音楽の楽しみが、必ずあります。

 この記事で、少しでもアルバムの魅力をお伝えすることができたなら幸いです。

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音楽の聴き方入門 -音楽をあまり聴かない人のために-


目次
イントロダクション
音楽のどこを聴く?
サウンドの魅力
グルーヴ感
実際に聴いてみる

イントロダクション

 当サイトの目的は、USインディーロックの魅力を伝え、情報を提供すること。

 ただ、日本におけるUSインディーロックって、洋楽をそれなりに聴きこんでいる人が手を出す、マニアックな側面が少なからずあります。

 あまり音楽をマニアックに聴かない人にも、音楽の魅力を知ってもらいたいな。できればUSインディーロックの深い世界にも、足を踏み入れてもらいたいな。との思いから、入門的な内容の記事を執筆することにしました。

 この記事は、入門用記事のひとつめ。「音楽の聴き方」と題して、僕が考える聴き方のコツとか、ツボのようなものを書いたつもりです。

 いろいろなジャンルを聴く足がかりとなる、0を1にするような内容を目指して、執筆しました。

音楽のどこを聴く?

 突然ですが皆さんは、音楽のどこを聴いているでしょうか?

 いきなりそんなこと聞かれても困る。全体的に聴いてるから、どこもクソもない。というリアクションの方もいるでしょう。

 僕が伝えたいのは、音楽のどこに注目して聴くかによって、楽しみ方が広がるよ、ということなんです。

 音楽を作るのは、次の3要素だと言われます。リズム、メロディー、ハーモニー。

 音楽によっては、どこか一つの要素が強調されていたり、あるいはどれか一つの要素に注目して聴くことで、聴こえ方が変わってくることがあるんです。

 例えば、ゴスペラーズのようなコーラス・グループの楽曲は、ハモリが気持ちいいですよね。これはハーモニーが強調された音楽と言えます。

 また、テクノなどのダンス・ミュージックには、そもそも歌が入っていない、わかりやすいメロディーの無い楽曲が数多くあります。これはリズムが強調された音楽だということです。

 ヒットチャートの上位をしめる楽曲は、メロディー志向の音楽がほとんど。そのため多くの人が、普通はメロディーに耳を傾けて、音楽を聴いているんじゃないかと思います。

 もちろん、メロディーを中心にした聴き方が、間違っているわけじゃありませんよ。

 でも、メロディーありきで音楽を聴いていると、いわゆる歌メロとは違うヒップホップや、ボーカルの入らないジャズやテクノは「よくわからない難しい音楽」とも、なりかねません。

 また、歌の入ったロックやポップスを聴く場合にも、メロディーだけでなく、リズムの切り替えや、コード進行に注目することで、同じ楽曲なのに、それまでとは全く違って聴こえることがあります。

 パッと聴いて「よくわかんないから嫌い!」と拒絶するのではなく、どこか引っかかる部分を探し、自分の耳をチューニングする感覚で、音楽を聴いてみてください。

 きっと、少しずつ音楽の魅力が広がっていくはずです。

サウンドの魅力

 さて、ここまで取り上げてきたリズム、メロディー、ハーモニーの3要素。これらは、楽譜に書きあらわすことのできる情報です。音韻情報とも呼びます。

 しかし、音楽には五線譜というフォーマットに書くことが難しい情報もあります。それが音響情報。

 「音響情報」と、あらたまった言い方をすると、なんだか難しそうですが、簡単に言えばサウンド自体のこと。どのような音質、音色で鳴っているのか、ということです。

 例えばボーカルの声は、まさに音響情報。「エレカシの宮本さんの声が最高!」とか、「ももクロのあーりんの声が好き!」とか、そういう理由で特定の音楽が好きなことも、あるかと思います。

 3要素に並んで、サウンド自体も音楽の魅力のひとつということです。

 また、メロディー志向の音楽や、リズム志向の音楽があるように、音響を重視した音楽というものも存在します。

 ジャンルで言うと、ドローンメタルやエレクトロニカ、一部のポストロックなど。例えばドローンメタルでは、リズムやメロディーが存在せず、ただひたすらにギターの重厚な持続音が響きわたるアルバムがあります。

 こういう音楽も、心の準備ができていないと、まず楽しめないと思うんですよね。

 でも、僕自身もそうだったのですが、いろいろな音楽を聴いているうちに「この中音域が濃いギターの音かっこいいな」とか、「このシンセの柔らかな持続音きもちいい」とか、音響の気持ちよさや、自分好みのサウンドに気づくはず。

 そして、前述したドローンメタルやエレクトロニカなどを、サウンドに圧倒される音楽として、楽しめるようになっていきます。(そもそも好みじゃない、楽しめない人もいるとは思います…)

 なにもムリして聴くジャンルを広げる必要はないし、ノイズやアンビエントみたいな音楽を、全ての人が好むとも思わないんですけど、ひとつの参考になれば幸いです。

グルーヴ感

 続いて、グルーヴ感について。似たような言葉で、主にジャズの世界で使う「スウィング感」というのもあります。

 言葉で説明するのは難しいんですが、これは演奏の一体感のようなもの。

 「一体感」と書くと、楽譜どおりにピッタリ演奏することのようですが、そうではありません。各楽器がお互いに絡み合い、バンドがひとつの生き物のように、躍動することを言います。

 バンド全体のリズムの立体感とでも、言ったらいいでしょうか。個別のメロディーやリズムではなく、演奏を主体に聴く感覚です。

 同じテンポで演奏をしているのに、徐々に加速するように感じたり、楽器同士のリズムが重なり合うことで、バンドにしか生み出せない躍動感が生まれるんです。

 僕がグルーヴと聞いて、まず思い浮かぶのはレッド・ツェッペリン(Led Zeppelin)。1968年から1980年まで活動した、イギリス出身のロックバンドで、ギター、ベース、ドラムが絶妙なタイミングで組みあいます。興味を持ったら、ぜひライブ盤を聴いてみてください。

 ジャズにも「スウィング感」という言葉があると書きましたが、ジャズはまさしく演奏が前景化した音楽と言えます。

 もちろん人や作品によって異なりますけど、ゴリゴリに躍動していく演奏が、なにより楽しい音楽だと思います。

実際に聴いてみる

 では最後に、実際に曲を例にして、聴取のポイントをご紹介しましょう。取り上げるのは、チャットモンチーの「シャングリラ」です。

 この曲を選んだ理由は、まぁ僕がチャットモンチー大好きというのが一番なんですけど、ここまで紹介してきた要素を多く含み、情報量の多い楽曲だからです。

 バンドの公式YouTube Channelに公開されているミュージック・ビデオを、下に貼りました。

 まずメロディーを聴いてみても、ポップで親しみやすい楽曲ですよね。ただ、イントロから歌が入ってくるところで、「あれ、一拍足りない?」と思うんじゃないでしょうか。

 サビの頭を1拍分短くして、リスナーに揺さぶりをかけるようなアレンジです。

 次にリズムに注目して聴いてみましょう。イントロから「ドン、ドン、ドン、ドン…」と、バスドラが響いていますので、そのままドラムに注目して聴いていくイメージで。

 さらにベース、ギターが重なってくるので、今度は各楽器のリズムがどのように重なるか、聴いてみてください。ドラムの軽やかなリズムに、ベースが絡みつくように合わさり、その上にギターが乗ってくる。立体感や躍動感が、感じられると思います。

 それとギターのサウンド。ほどよく歪んでいるのに、「ジャーン」とコードを弾いても、各弦がちゃんと分離して聴こえる、独特の浮遊感のある音です。

 再生時間0:55あたりからは、バンドのグルーヴ感に注目して聴いてみましょう。タイトなドラムに、低音域を動きまわるベース。かろやかなギターが絶妙に絡み合い、サビに向かって、加速していきます。

 再生時間1:50あたりからの間奏でも、抜群のアンサンブルが披露されます。ドラムの飛び跳ねるようなリズムに、ベースとギターが絡みつき、それぞれやっていることは別々なのに、一体感と躍動感に溢れた演奏です。

 1曲を集中して聴いてみると、なんだか音楽のいろんな面に気がつきませんか?

 この曲に限らず、自分の耳のチューニングを変えるだけで、音楽をより広く、より深く、楽しめるようになるはずです。

 少なくとも、僕はそうやって音楽の守備範囲を広げてきました。

 この記事が、皆さんの音楽の楽しみ方を広げる、ヒントやきっかけになれば幸いです。

 

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