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Chicago Underground Duo “Boca Negra” / シカゴ・アンダーグラウンド・デュオ『ボカ・ネグラ』


Chicago Underground Duo “Boca Negra”

シカゴ・アンダーグラウンド・デュオ 『ボカ・ネグラ』
発売: 2010年1月26日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)
プロデュース: Matthew Lux (マシュー・ラックス)

 コルネットのロブ・マズレク(Rob Mazurek)と、ドラムとパーカッションのチャド・テイラー(Chad Taylor)によるジャズ・デュオ、シカゴ・アンダーグラウンド・デュオの5thアルバム。

 レコーディング・エンジニアとミックスは、ブラジル出身のフェルナンド・サンチェス(Fernando Sanches)、プロデュースは、アイソトープ217(Isotope 217°)でロブ・マズレクと活動を共にしていたこともあるマシュー・ラックスが担当。

 デビュー以来、シカゴ音響派の総本山とも言える、スリル・ジョッキーからリリースを続けるシカゴ・アンダーグラウンド・デュオ。彼らの音楽性は、ジャズ的なフレーズや即興性を用いながら、ポストロック的な手法で再構築していくところが特徴です。

 「ポストロック的な手法」と一言で言い切ってしまうと、なんの説明にもなっていないので補足すると、ジャズのフレーズやサウンドを、後から切り貼りするように編集し、ジャズであってジャズではない、新しい音楽を作り上げているということ。

 1曲目の「Green Ants」は、回転するようになめらかなトランペットのフレーズから始まり、手数の多いパワフルなドラムが加わり、フリーな演奏が展開。ポスト・プロダクションによる大胆なアレンジは感じられず、人力によるフリージャズ色の濃い1曲。

 2曲目「Left Hand Of Darkness」は、1曲目とは打って変わって、イントロから電子的な奇妙なサウンドが用いられ、アヴァンギャルドかつアンビエントな空気を持った1曲。

 5曲目「Confliction」は、不協和なピアノと、高音で切り裂くようなコルネットが重なる前半から、グルーヴィーなアンサンブルが繰り広げられる後半へと展開。アヴァンギャルドで現代音楽的な耳ざわりの前半に対して、ノリノリで躍動していく後半と、コントラストが鮮やか。

 6曲目「Hermeto」は、清潔感のあるピアノと電子音を主軸に構成される、エレクトロニカのようなサウンド・プロダクションの1曲。奥の方から、小さな音量で時折聞こえてくるコルネットのフレーズが、わずかにジャズの香りを漂わせます。

 7曲目「Spy On The Floor」は、地を這うように低音域を動きまわるベース、立体的にリズムを刻むドラムの上で、コルネットがメロディーを紡ぎ出していく、躍動感に溢れたアンサンブルが繰り広げられます。ヴィブラフォンの音色も、夜に鳴り響くジャズを印象づけています。音響的なアプローチの多い、このバンドの楽曲群にあって、ジャズ的なスウィング感とダイナミズムを持った1曲。

 8曲目「Laughing With The Sun」は、アヴァンギャルドな音色のギターとパーカッションが、コルネットのフレーズと絡み合うような、反発し合うようなバランスで重なる1曲。

 ジャズ的な即興性やスウィング感が、柔らかな電子音と溶け合い、ジャズとも、エレクトロニカとも、音響系ポストロックとも言えるサウンドを生み出すアルバムです。

 これまでの作品を俯瞰しても、このデュオの魅力であり特異な点は、ジャズとポストロック的アプローチを巧みに融合させる、バランス感覚だと言えるでしょう。本作もジャズとポストロックの融合した、実にシカゴ・アンダーグラウンド・デュオらしいアルバムです。