Lightning Bolt “Fantasy Empire”
ライトニング・ボルト 『ファンタジー・エンパイア』
発売: 2015年3月18日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)
プロデュース: Keith Souza (キース・ソウザ), Seth Manchester (セス・マンチェスター)
ロードアイランド州プロヴィデンス出身の2ピース・バンド、ライトニング・ボルトのおよそ5年半ぶりとなる6thアルバム。
1stアルバム『Lightning Bolt』から、前作『Earthly Delights』までは、彼らの地元プロヴィデンスを拠点にする、ノイズやエクスペリメンタル系に強いレーベル、ロード(Load)からのリリースでしたが、本作からシカゴの名門スリル・ジョッキーへ移籍。
また、これまでの作品は2トラックのDATを用いるなど、シンプルな方法でレコーディングされてきましたが、本作では初の本格的なスタジオ・レコーディングを実施。サウンドの輪郭がハッキリとして、一般的な意味では音質は向上したと言っていいでしょう。しかし、今までの塊感のある音質の方が好き、という方も少なからずいるのではないかと思います。
収録される楽曲群も、これまでのアルバムの中で最もカラフルと言って良いほど、各曲が異なった色彩を放っています。恐ろしいまでのテンションで、カオティックに疾走するのが、このバンドの特徴と言えますが、本作ではサウンド・プロダクションの鮮明化と比例して、アンサンブルとメロディーが前景化。サウンドとアンサンブルが渾然一体となったこれまでの作品に対し、より楽曲の構造が前に出てきた作品と言えます。
そのため、今までのライトニング・ボルトはノイズが強すぎて苦手という方にも聴きやすい、入門にも最適な1枚。同時に、とにかくノイジーに暴れまわるライトニング・ボルトが好き!という方には、サウンドも楽曲もキレイにまとまりすぎて物足りない、と感じられるかもしれません。いずれにしても、一般的なロック・バンドと比べれば、十分ノイジーでカオティックなことには違いありません。
1曲目の「The Metal East」から、エンジン全開。ビートの強い、躍動感あふれる演奏が展開します。ボーカルのメロディーは、これまでのアルバムの音質と比較すると、格段に聴き取りやすいです。
2曲目「Over The River And Through The Woods」は、ベースのフレーズと、前のめりのドラムのリズムが絡み合い、疾走していく1曲。
4曲目「King Of My World」は、うねるような音質のベースが、地を這うようなフレーズを弾き、ドラムはシンプルかつタイトにリズムを刻む、アンサンブル志向の1曲。ボーカルもメロディアスで、各楽器の音も分離して聞こえ、塊感のあるノイズ・ロックが苦手な人にも、聴きやすいサウンドを持った曲です。
5曲目「Mythmaster」は、パワフルに立体的にリズムを刻むドラムに、電子ノイズのような音色のベースが絡む1曲。リズムとサウンドが不可分に一体となり、個人的には大好きなサウンド。
6曲目「Runaway Train」は、ベースとドラムが共に、回転するようなリズムを繰り出す、躍動感と一体感のある1曲。ロック的なグルーヴ感を、多分に持っています。
7曲目「Leave The Lantern Lit」は、高音域を多用し、不安定に滑っていく音程が、サイケデリックな空気を醸し出す1曲。
8曲目「Dream Genie」は、従来のライトニング・ボルトらしく、野太く下品に歪んだベースと、パワフルに大地を揺るがすようなドラムが、絡み合いながら、演奏を繰り広げる1曲。
9曲目の「Snow White (& The 7 Dwarves Fans)」は、11分を超える大曲。ですが、じわじわとシフトと表情を変えながら進み、ハッキリとしたAメロからサビへの進行があるわけではありませんが、聴き入ってしまいます。
これまでのライトニング・ボルトのアルバムの中で、最も曲の構造がハッキリとしたアルバムです。その理由は、前述したとおりレーベルの移籍と、それに伴うレコーディング環境の変化が、大きく影響しているのでしょう。
スリル・ジョッキーというと、トータス(Tortoise)をはじめシカゴのポストロックの総本山という一面もあります。本作も、これまでのライトニング・ボルトのノイズ色が薄まり、演奏の複雑性が前に出て、マスロックやポストロック色の濃くなった1作とも言えます。
ハイテンションで突き進む、これまでのライトニング・ボルトも大好きですが、本作も間口が広く、完成度の高い1作です。