1, アメリカの特性


アメリカの特性

 アメリカ合衆国の具体的な歴史に入る前に、まずはアメリカの特徴、特に日本と異なっている点について、両者を比較しながら、検討していきたいと思います。

 ここで取り上げるのは以下の3点。歴史の短さ、広大な国土、そしてそこに暮らす多様な人々についてです。さらに人々の精神性を示すキーワードとして「フロンティア精神」についても取り上げたいと思います。

短い歴史

 最初に歴史の短さについて、日本の歴史と並行させながら、ざっとアメリカの歴史をおさらいします。

 コロンブスが、新大陸ことアメリカ大陸を「発見」したのは1492年。日本では応仁の乱が始まったのが1467年。1492年は室町時代の終盤にさしかかる頃です。

 イギリス人が、最初の恒久的な植民地「ジェームズタウン」を建設したのは1607年。場所は現在のヴァージニア州です。続いて、ピルグリム・ファーザーズと呼ばれる人々が、現在のマサチューセッツ州に植民したのが1620年です。日本では、関ヶ原の戦いが1600年、江戸幕府が開かれたのが1603年、大坂夏の陣で豊臣氏が滅んだのが1615年です。つまり、江戸時代が始まった時点では、現在のアメリカ合衆国につながる植民地は、まだ建設されていなかったということです。

 その後、植民・移民が加速度的に増加し、各地に都市が誕生し、アメリカ合衆国が国家として独立するのは、1783年(独立宣言は1776年)のことです。日本では江戸時代後期にあたる頃です。

 独立後もアメリカは発展と膨張を続け、20世紀以降は世界の超大国として君臨しています。つまり最初の植民から400年、国家成立から200年も経たないうちに、世界有数の大国になったということ。この短い期間で、いわば駆け足で人工的に作られた国が、アメリカ合衆国です。これは日本と比較しても、また世界のなかで見ても、非常に特異な国であると言えるでしょう。

広大な国土

 アメリカの国土の広さというのも、アメリカ文化を考える上で非常に重要です。アメリカの国土は日本の約25倍。しかし、人口はおよそ2倍。アメリカは日本よりも遥かに人口密度が低く、広大な土地に、都市と人々が散らばっているということです。

 成り立ちも文化も異なる個性的な都市が、アメリカには点在しています。そして、広大な土地によって、人々の移動が制限されるため、各都市はそれぞれの文化を育むことになります。

多様な人々

 前述したとおり、アメリカ合衆国は、移民によって作られた国です。最初はイギリスをはじめ、当時のヨーロッパの列強国が、それぞれ植民地を建設していきました。その後、南部では大規模な農場経営のために、アフリカの人々が奴隷として連れてこられ、同時にヨーロッパからの移民も増え続きます。もちろん、移民がやってくる遥か昔から、アメリカ大陸には先住民が暮らしていました。

 アメリカが国家として安定してくると、さらに移民が増加します。それまではイギリス系、フランス系、スペイン系、ドイツ系など、西ヨーロッパの人々が多数を占めていました。しかし、19世紀末以降になると、東欧や南欧、さらに日本や中国などアジアからの移民も増加します。

 こうして、文化も歴史的背景も異なる人々が、ひとつの国で同じ「アメリカ人」として生活していきます。人種の多様さが「メルティング・ポット」や「サラダ・ボウル」に例えられるぐらい、「多様性」がアメリカの特異な点であるのは、間違いありません。島国である日本とは、大きく異なると言っていいでしょう。

フロンティア精神

 最後に、アメリカ人が持つメンタリティの特徴として「フロンティア精神」という概念をご紹介します。

 前述したとおり、アメリカ合衆国は移民によって建国された国です。イギリスが最初に入植したのは、ヴァージニアやマサチューセッツなど、ヨーロッパから近い東海岸。それから、西に向かって開拓・膨張を続けていきます。

 この開拓の最前線を「フロンティア」と呼び、自分の力で新しい道を切り開いていく精神、やがてこれが「フロンティア精神」と呼ばれるようになります。1848年にアメリカの領土は、西海岸のカリフォルニアに達し、北米大陸においてのフロンティアは消滅します。

 しかし、1960年に当時のジョン・F・ケネディ大統領が、偏見や貧困などアメリカが抱える社会問題を「ニューフロンティア」という言葉であらわすなど、現在に到るまで「フロンティア」および「フロンティア精神」は、アメリカにおいて重要な概念となっています。

 1970年代後半から、全米各地にインディペンデント・レーベルが起こり、そのあと一斉に花開いていくUSインディーロックの文化。そこには、確実に「フロンティア精神」が関係しているはずだと思います。

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