5, ロックの誕生と歴史


 このページでは「ロックンロール」と呼ばれる音楽が生まれ、やがて単に「ロック」という名称で定着していく歴史を、1950年代からざっと振り返りたいと思います。

ロックンロールの誕生

 ロックンロールは、黒人音楽であるリズム&ブルースと、白人音楽であるカントリー&ウェスタンが融合して誕生した、と一般的に説明されます。やや単純化が過ぎるとしても、大きな流れとしては、間違いではないはずです。重要なのは、いくつかの異なる音楽ジャンルが、融合して誕生したということ。

 ロックンロールという言葉が使われ始めたのは、1950年代初頭だと言われています。それから、1950年代中盤になると、エルヴィス・プレスリー、チャック・ベリー、リトル・リチャードなどがヒットを飛ばし、ロックンロールがジャンルとして認識され、定着していきます。

 また、ロックンロールのスターを発掘したのが、各地のインディペンデント・レーベルであったのも、注目すべき点です。前述した3名を例にとっても、エルヴィスはテネシー州メンフィスのサン・レコード、チャック・ベリーはイリノイ州シカゴのチェス・レコード、リトル・リチャードはカリフォルニア州ロサンゼルスのスペシャルティ・レコードから、それぞれデビューしています。

 当時のアメリカのレコード市場は、「六大メジャー」と呼ばれる6つのメジャー・レーベルが支配的な立場にいましたが、そこに風穴をあけるようにインディペンデント・レーベルが生まれ始めたのです。

 なぜこのような状況になったのか、それには多角的な理由が絡んでいます。まず「若者」という新しい購買層が生まれたこと、そしてメジャー・レーベルが粗野なロックンロールが売れるとは思わず、時代のニーズに対応できなかったこと、などが挙げられます。

 ロックンロール誕生以前、ティン・パン・アレー形式で製作されるポップスは、特定のリスナーを想定していませんでした。言い換えれば、家族で安心して聴ける、甘くて口当たりのいいポップスを量産していたということです。そのため、ティン・パン・アレーの楽曲には、ドラッグ、アルコール、政治、性的な話題などは、直接的なかたちでは表現されません。

 それに対してロックンロールは、それまでのタブーと思われる題材を歌い、大人も子供も安心して楽しめる楽曲ではなく、「若者」という特定のターゲットに訴える音楽を鳴らしていたということです。

 インディペンデント・レーベルが、メジャーレーベルの網にかからない音楽を拾い上げる、という構造は、その後のUSインディーズの構造と共通していると言っていいでしょう。

 1950年代中盤から、ロックンロールはアメリカを席巻します。しかし、1950年代後半になると、エルヴィスの徴兵、バディ・ホリーらの事故死、チャック・ベリーの逮捕などが重なり、ロックンロールは瞬く間に下火になっていきます。

ロックンロールからロックへ

 そんな時にアメリカを征服したのが、ビートルズを筆頭にしたイギリスのバンドです。エレキ・ギターのサウンドや、力強いビートといった、ロックンロールの特徴を下敷きに、彼らはさらに多くの音楽ジャンルを参照し、多彩でポップな音楽を作り上げていきます。多くのイギリス出身のバンドが、アメリカを席巻した現象は「ブリティッシュ・インヴェイジョン」と呼ばれます。

 アメリカ国内でも、ジミ・ヘンドリックスやドアーズ、ジャニス・ジョプリンなど、それまでのロックンロールの範疇には収まらない音楽が次々と登場し、1960年代中頃から「ロックンロール」は、単に「ロック」と呼ばれるようになります。

 さて、このティン・パン・アレー形式のポップスから、ロックンロール、さらにロックへの流れで重要なのは、消費の対象が楽曲から人へと移ったことです。

 作曲、編曲、演奏まで徹底した分業制を敷き、工場のように楽曲を生産するティン・パン・アレー形式。商品となるのは、あくまで楽曲であり、歌手は分業制の一部でしかありません。

 もちろん、1940年代からフランク・シナトラのようなスターは存在しましたが、エルヴィス、ビートルズと若者にターゲットを絞ったロックは、若者たちの間でカリスマ的な人気を誇り、徐々に人々の関心が「楽曲」から「人」へと移動します。

 ロックの歌詞には、それまでのティン・パン・アレー式のポップスには表現されない、政治性や性的な話題などが盛り込まれ、アーティスト側の自意識もますます前景化されます。

 また、ビートルズがカバー曲からスタートし、それから自作曲に移行したことも象徴的ですが、1960年代以降のバンドは、自分たちで作詞作曲し、自分たちで演奏する自作自演のスタイルが主流となります。

 このあたりの「楽曲」から「人」への興味および消費対象の移行と、自作自演至上主義とも呼ぶべき思想は、現代の日本で「アイドル」と「バンド」が、あたかもジャンル名であるかのように機能していることにも、繋がってくる話題です。

 1960年代後期以降も、より激しいサウンドを持ったハード・ロックや、前衛性やクラシック的な壮大さを持つプログレッシヴ・ロックなど、イギリスからはロックの範囲を拡大する音楽が、多数生まれます。

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