6, USインディーロックの誕生


 このページでは、USインディーロックがどのように生まれたのか、おおまかな流れを把握できるよう、ご紹介したいと思います。

産業ロックとMTV

 1970年代以降、アメリカの音楽産業は拡大を続けます。しかし、レコードの価格上昇、テープ・コピーの増加、アメリカ社会全体の不況などを原因に、1978年を境にレコード生産が、マイナス成長の時期に入ります。(なんだか、最近の音楽業界の話みたいですね…)

 そのため、メジャー・レーベルの縮小やリストラも増加。リスクを伴う若手の発掘ではなく、手堅く売上を狙える中堅やベテランのリリースに、重きを置くようになります。

 そんな状況下で、1981年にMTVの放送が開始されます。MTVは、ミュージック・ビデオを中心に、音楽番組を24時間流し続ける、音楽専門のケーブルテレビ・チャンネルです。

 当時のテレビの影響力は今以上に絶大で、1980年代には多数のビッグ・ヒット、スーパー・スターが誕生します。マイケル・ジャクソンもその一人。1982年に発売された彼のアルバム『スリラー』は、1984年末までにアメリカ国内だけで約2000万枚を売り上げます。

 前述したようにレコード業界の不況により、1970年代後半から、ある程度の売り上げが期待できる、中堅以上のバンドに力を入れていた各メジャー・レーベル。言い換えれば、冒険をしない保守的なリリースが増加していきました。

 しかし、商業的には各レーベルの思惑通り、1970年代後半から数々のヒットを飛ばします。さらに1980年代以降は、MTVの流れに乗った、華やかでスタイリッシュなバンドも増加。ポップでキャッチー、ロック的な自意識が薄く、レコード会社の言いなりのようにも見えるこれらのバンドは、「産業ロック」(corporate rock)とも呼ばれるようになります。

インディーズ文化の特徴

 1970年代後半の不況を乗り越え、MTVや巨大なスタジアム・コンサートに例証されるように、アメリカの音楽産業は巨大化していきます。しかし、それは商業性を徹底させることにもなり、メジャー・レーベルは売れる音楽、それも中途半端なヒットではなく、メガ・ヒットを狙ったマーケティングに徹します。

 そんななか、メジャー的ではない音楽を志向するバンドが、全米各地で生まれ始めます。彼らは、音楽性と人気の面でメジャーとは契約を結べない、あるいは最初からメジャーで売れることを一義的には考えず、各地にインディペンデント・レーベルが生まれ、インディー・シーンが形成されていきます。

 アメリカでは1950年代にも、エルヴィスをデビューさせたサン・レコード、ブルースやR&Bを扱うチェス・レコードなど、各地でインディペンデント・レーベルが活躍していました。当時のインディペンデント・レーベルも、音楽的にメジャーの網にかからないアーティストのリリースが中心でした。

 また、シカゴ・ブルースを扱うチェス・レコード、ニューオーリンズのアーティストの発掘に積極的だったインペリアル・レコード、南部のブラックミュージックを好むサン・レコードといった具合に、当時からインディペンデント・レーベルは、音楽性や地域性と密接に結びついていました。

 これは、地元の音楽を紹介するために設立されることが多く、小規模なためメジャー・レーベルよりも設立者の意思を反映しやすい、インディペンデント・レーベルの特徴であり利点です。また、バンド自身が自分たちの作品をリリースするために、自らレーベルを立ち上げることもしばしばあります。

各地のインディー・シーンの誕生

 こうして、1970年代の後半から1980年代にかけて、全米各地でインディー・シーンが形成され、個性的で魅力的な音楽が多数生まれます。

 各地のインディー・シーン形成に大きく貢献したのが、音楽好きな個人やグループが発行するファンジン(ファンが作る同人誌)と、アメリカでは大学キャンパス内に開設され、学生主体で運営されるカレッジ・ラジオ局です。

 どうしてもレーベルやバンドにスポットライトが当たりがちですが、このようにコミュニティ単位で発展したのが、アメリカのインディー・シーンの特徴です。

 それぞれの街で、それぞれの文化と人々に密着したシーンが生まれる。その多様性とダイナミズムが、USインディーズの大きな魅力のひとつです。

 なぜ、この地域ではパンクが流行ったのか、なぜこの街のこのレーベルはオルタナ・カントリーに強いのか、なぜこんな小さな街から多数の魅力的なバンドが生まれるのか…そんなことを考えただけでも、ワクワクしてきませんか?

 まだまだ書きたいことは尽きず、各都市のシーンの歴史や特徴については、ここでは書き切れないので、また別記事に書きたいと思います。お読みいただきありがとうございました!

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