Silkworm “Developer”
シルクワーム 『ディベロッパー』
発売: 1997年4月8日
レーベル: Matador (マタドール)
プロデュース: Steve Albini (スティーヴ・アルビニ)
1987年にモンタナ州ミズーラで結成されたバンド、シルクワームの通算5枚目のスタジオ・アルバム。前作に引き続き、スティーヴ・アルビニがレコーディング・エンジニアを担当。次作『Blueblood』からは、シカゴの名門レーベル、タッチ・アンド・ゴー(Touch And Go)に移籍するため、本作がマタドールからリリースされる最後のアルバムです。
ギタリストのジョエル・R・L・フェルプス(Joel R.L. Phelps)が脱退し、前作『Firewater』から3ピース体制となったシルクワーム。前作は、各楽器が絡み合いながらグルーヴし、時には疾走する、3ピースの醍醐味が詰まったアルバムでした。本作は、3人のアンサンブルの精度がさらに向上した作品と言えます。その分、ラフさは後退しているため、前作の方が好みという方もいると思います。
しかし、荒々しさはややおさまった印象があるものの、今作でも随所で唸りをあげるようなギター、3者の有機的なアンサンブルは健在。スティーヴ・アルビニによる録音もすばらしく、臨場感あふれる生々しいサウンド・プロダクションも、このアルバムの魅力のひとつです。
サウンド的にも音楽の構造的にも、いわゆるオルタナティヴ・ロックに近く、ざらついた歪みのギターを中心に、タイトで機能的なアンサンブルが展開されます。テンポを落とした曲が多く、勢いだけで突っ走るよりも、アンサンブルを練り上げようという志向が、随所に感じられます。
1曲目「Give Me Some Skin」は、ゆったりとしたテンポで、音数を絞った隙間の多いアンサンブルが展開される1曲。音数が少ないことで、相対的に一音一音への集中力が高まり、各楽器の音が生々しく響きます。特に、イントロから入っているドラムは、残響音まで伝わってくるぐらい臨場感のあるサウンドで、録音されています。
2曲目「Never Met A Man I Didn’t Like」は、テンポが上がり、疾走感のある曲。弾むような軽快なドラムに、うねるようなベース・ラインが絡み、ギターとボーカルはその上を自由に駆け抜けていきます。
6曲目「Ice Station Zebra」は、イントロから、タイトかつ立体的なアンサンブルが繰り広げられる1曲。わかりやすいヴァース=コーラスの構造ではなく、ボーカルを含めた3者の有機的な絡み合いが前面に出てくる曲です。各楽器の残響音まで感じられるようなサウンド・プロダクションも秀逸で、さすがアルビニ先生!と思わせます。
10曲目「It’s Too Bad…」は、立体的なドラムに、メロディアスなベースと、捻れるようなギターが絡み合う1曲。歪んだギターとベースの音はともに硬質で、アンサンブルもラフな部分と、タイトな部分のバランスが非常に良いです。
ハードで生々しいサウンドで、3ピースらしい機能的なアンサンブルが展開されるアルバムです。前述したように、前作と比較してアンサンブルの精度が、確実に上がっています。まるで、3人で高度なコミュニケーションを楽しんでいるような雰囲気が伝わってくるところも魅力的。
また、1枚通しで聴いてみると、あらためて素晴らしいサウンド・プロダクションだなと感じます。数多くの録音を手がけるスティーヴ・アルビニですが、シルクワームとの相性は特に良いのではないでしょうか。