Benoît Pioulard “Précis”
ブノワ・ピウラール (ベノワ・ピウラード) 『プレイシー』
発売: 2006年10月16日
レーベル: Kranky (クランキー)
写真家やライターとしても活動する、ブノワ・ピウラール(Benoit Pioulard)、本名トーマス・メラッチ(Thomas Meluch)の1stアルバム。
ミシガン州出身、オレゴン州ポートランドを拠点に活動するアメリカ人ですが、Benoît Pioulardが現地でどう発音されているのか、正確にはわかりません。カタカナで表記すると、フランス語だと「ブノワ・ピウラール」、英語だと「ベノワ・ピウラード」に近い発音のようです。
本作は、2006年にクランキーよりリリースされた、彼の1stアルバム。これ以前にも、CD-Rとカセットで、自主制作作品をいくつもリリースしています。
本作も、ほぼ彼自身の手により、宅録された作品のよう(クレジットに「Written & played at home」と記載あり)で、一連の自主リリース作品の延長線上にあると言って良さそうです。
さて、それでは実際にこのアルバムでは、どのような音楽が鳴らされているのか。上記の情報からは、音楽性までは想像できませんが、このアルバムで展開されるのは、生楽器のオーガニックな音色と、電子音が優しく溶け合った音楽。
アコースティック・ギターのアルペジオ、電子的な持続音、穏やかな歌声などが組み合わさり、様々な風景が目の前に浮かぶ、イマジナティヴな音楽が鳴り響きます。個人がマイペースで作り上げた、リラクシングかつパーソナルな空気も漂うアルバムです。
多様なサウンドが聴こえるアルバムですが、「エレクトロニカをやるから電子音を使おう」といった手段と目的の逆転がなく、全ての音が適材適所で用いられているように感じられます。このあたりは、バンドではないソロ・ミュージシャンの特性と言えるでしょう。
1曲目「La Guerre De Sept Ans」は、細かいリズムで、ベルのように鳴り響く、ギターらしき音から始まります。その後、徐々に音数が増殖し、やがて音に埋め尽くされていく、神秘的かつアンビエントな曲。途中からディストーション・ギターらしき音も入り、分厚い音の壁が立ち現れるようです。おそらく、エフェクターやコンピューターを駆使して、音を重ね、加工しているのだと思いますが、アルバムの1曲目から、サウンドとアレンジの両面で、生楽器とテクノロジーの有機的な融合が感じられます。
2曲目「Together & Down」は、アコースティック・ギターとボーカルを中心に据えた、スローテンポの穏やかな1曲。しかし、柔らかな電子音や、鉄琴のような高音も重なり、奥行きのあるサウンドが構築されています。生楽器だけでなく、電子音も多用されていますが、冷たい印象は無く、ヴェールがかかったように柔らかく、優しいサウンド・プロダクションを持っています。
4曲目「Triggering Back」は、躍動感のある軽快なリズムに乗って、立体的なアンサンブルが構成される1曲。波を打つようにノリの良いリズムに、アンニュイなボーカルが流れるように合わさります。
5曲目「Moth Wings」は、電子的な持続音に、エフェクト処理された鍵盤らしき音が重なる、音響的なアプローチ。
8曲目「Palimend」では、イントロから複数の音が絡み合い、立体的なアンサンブルを構成していきます。音を埋めすぎず、隙間の多いアレンジですが、スカスカ感は無く、各楽器とボーカルが緩やかに組み合わさり、心地よく響きます。
9曲目「Coup De Foudre」は、フィールド・レコーディングと思われる自然音と、エフェクト処理された楽器の音、電子的なノイズが溶け合う、穏やかでアンビエントな1曲。
13曲目「Sous La Plage」では、アコースティック・ギターのシンプルなコード・ストロークと、シンセらしき柔らかな音、穏やかなボーカルが溶け合います。楽曲後半には、エフェクト処理されたコーラスが重なり、フォーキーな雰囲気と、エレクトエロニックなサウンドが、見事に融合した1曲。
アルバムを通して、生楽器と電子音の組み合わせ方が、非常に優れた作品だと思います。歌モノのポップスとしても十分な耳なじみの良さと、カントリーを思わせるナチュラルな響きを持ちながら、同時にエレクトロニカを感じさせる電子的な音像も持ち合わせています。
そのバランス感覚が秀逸であり、緩やかなギターポップのようにも、柔らかなサウンドを持ったエレクトロニカとしても聴ける、両面性を持った作品と言えます。