Goon Moon “Licker’s Last Leg” / グーン・ムーン『リッカーズ・ラスト・レッグ』


Goon Moon “Licker’s Last Leg”

グーン・ムーン 『リッカーズ・ラスト・レッグ』
発売: 2007年5月8日
レーベル: Ipecac (イピキャック)

 マリリン・マンソンやナイン・インチ・ネイルズに参加していたベーシストのジョージア・ホワイト(Jeordie White)と、マスターズ・オブ・リアリティ(Masters Of Reality)でギターとボーカルを務めるクリス・ゴス(Chris Goss)から成るバンド、グーン・ムーン。

 2005年に、デビュー作となるミニアルバム『I Got A Brand New Egg Layin’ Machine』をリリース。本作は、そのミニアルバムに続き、2007年にリリースされた1stフル・アルバムです。前作はスーサイド・スクイーズからのリリースでしたが、本作はレーベルを変え、イピキャックからリリース。

 前作では、サクラメント出身のマスロック・バンド、ヘラのドラマーであるザック・ヒル(Zach Hill)もメンバーとしてクレジットされていましたが、本作ではレコーディングに参加しているものの、ゲスト扱いとなっています。

 前作でもジャンル分けに困る、アヴァンギャルドで、バラエティに富んだ音楽を鳴らしていたグーン・ムーン。歌を中心に置かない曲も多かった前作に比べて、本作の方が歌メロのある構造のはっきりした楽曲が増加しています。

 アレンジとサウンドには、前作に引き続き実験的な要素もありますが、本作の方が歌メロに沿って曲を追いやすく、その点では聴きやすくなったと言えます。

 前作は、ザック・ヒルも含めた3人の個性がぶつかり合う演奏が主要な聴きどころでしたが、本作ではバンド全体のグルーヴ感や躍動感が前景化。個人プレーから、全体の有機的なプレーへと優先順位が移ったような印象を受けるアルバムです。

 特に前作では大暴れしてたザック・ヒルのドラムが、本作では楽曲の構造に寄り添ったかたちで、あまり冒険する場面がありません。このあたりは、やはりホワイトとゴスが制作の主導権を握っているということなのでしょう。ゲスト扱いになったのも、関係しているのかもしれません。

 1曲目「Apple Pie」は、イントロから、ストリングスによる金切り声のような音が響きわたり、不穏な空気を持ったまま曲が始まります。しかしその後は、各楽器が有機的に絡み合い、穏やかにグルーヴするアンサンブルが展開。ボーカルとコーラスワークも立体的で、アンサンブルに奥行きをプラスしています。

 2曲目「My Machine」は、ドラムとギターの音がノイジーに響く、アヴァンギャルドな雰囲気でスタート。その後、コンパクトのまとまった、疾走感あふれるロックが展開されます。

 3曲目「An Autumn That Came Too Soon」は、打ち込み的な小粒でタイトなドラムと、ギターの幾何学的なフレーズが重なり、タペストリーのように音楽が編み込まれていきます。途中から入ってくるギターのロングトーン、長めの音符を用いた漂うようなボーカルも、音楽を多層的にしています。再生時間1:53あたりからの間奏が現代音楽のようで、楽曲にさらなる深みをプラス。

 5曲目「Pin Eyed Boy」は、ゆったりとしたテンポに乗せて、緩やかにグルーヴするアンサンブルが展開される1曲。穏やかなボーカル、空間に浸透していくように響くギターが、その場を埋め尽くすように、優しく広がります。

 11曲目「The Golden Ball」は、9分を超える曲で、クレジット上は「a」から「h」まで8つに分けられ、それぞれにタイトルが付されています。ミニマルなイントロから、カントリーのような穏やかな歌モノ、ノイジーなサウンドへと次々と多彩に展開があり、情報量の多い1曲です。

 勢いと攻撃力重視の前作と比較すると、楽曲の構造を重視し、より大人になったアンサンブルが展開される1作と言えます。一聴した時には、前作のアグレッシヴで変態的なアンサンブルの方が好きでしたが、聴き込んでいくほどに、本作の奥の深さに引かれていきました。