Clap Your Hands Say Yeah “Clap Your Hands Say Yeah” / クラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤー『クラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤー』


Clap Your Hands Say Yeah “Clap Your Hands Say Yeah”

クラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤー 『クラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤー』
発売: 2005年6月28日
レーベル: Self-released (自主リリース)
プロデュース: Adam Lasus (アダム・ラサス)

 コネティカット・カレッジ(Connecticut College)在学中に出会った5人が、2004年にニューヨークで結成したインディー・ロック・バンド、クラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤー。

 本国アメリカでは特定のレーベルには所属せず、デビュー・アルバムである本作『Clap Your Hands Say Yeah』も、レーベルを通さない自主リリース。文字通り、インディペンデントな精神を持ったバンドです。

 ただ、本作に関して言えば、イギリスやヨーロッパではウィチタ(Wichita)、日本ではユニバーサルミュージック傘下のレーベルであるV2からリリースされるなど、世界規模のヒットに伴って、地域ごとにディストリビューションを個別のレーベルに任せています。

 その精神性と活動形態のみならず、音楽からも非メジャー的な香りが漂う、根っからのインディー・ロック・バンド。そう自信を持って呼べるのが、クラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤーです。

 では「非メジャー」と言っても、具体的にどんな音楽を指すのか。簡単に私見を述べさせていただきます。まず、2000年代以降の一部のインディーズ・バンドに見られる方法論は、激しく歪んだギターによるリフや、ノリの良い8ビートなど、それまでのロック的なアレンジを避けていること。

 結果として、旧来のロックには無い、新たなグルーヴ感を獲得したり、サウンドの面ではフォーク・ロックに接近したり、民俗音楽的・実験音楽的になったり、というのが2000年代における、インディー・ロックのひとつの特徴です。もちろん「インディーロック」という言葉自体が、意味が広く、定義するだけでも困難ですから、ひとつの個人的な解釈として捉えてください。

 1980年代にポストパンクから、ワールド・ミュージックへと繋がった、ロックから非ロックへの流れ。その流れと似たような現象が、1990年代のオルタナティヴ・ロックから、オルタナ・カントリーや2000年代のインディーロックへと繋がる過程にも認められるのではないか、というのが僕の考えです。

 さて、話をクラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤーに戻しましょう。彼らの音楽性も、いわゆるロック的なサウンドやアレンジとは、大きく異なり、オルタナティヴ民俗音楽、あるいは無国籍なワールド・ミュージックとでも呼びたくなるもの。

 デビュー・アルバムとなる本作でも、ハードなギターや、縦ノリしやすいリズムといった、ロックのクリシェを巧みにすり抜けつつ、新しいサウンド・プロダクションとグルーヴ感を提示しています。

 1曲目の「Clap Your Hands!」は、アルバムのイントロダクションとなる、2分弱の楽曲。賑やかで楽しい音楽に対して「おもちゃ箱をひっくり返したような」と形容することがありますが、この曲はまさにそのとおり。全体がトイピアノ的な、チープで可愛いサウンド・プロダクションで、おどけたボーカルも相まって、おもちゃ箱をひっくり返したというよりも、おもちゃそのものと言ってもいい曲です。

 2曲目の「Let The Cool Goddess Rust Away」は、ギター、ベース、ドラムと全ての楽器がリズムにフックを作りながら、躍動していく1曲。サウンドもリズムも、ゴリゴリのロックとは異なるのですが、ロックが持つダイナミズムの大きな躍動感が、演奏からは溢れています。1曲目の「Clap Your Hands!」と同じく、各楽器の音作りとフレーズは、ややチープで親しみやすい耳ざわりのものが多いのですが、全ての楽器が有機的に組み合い、いきいきとしたアンサンブルを展開。

 3曲目「Over And Over Again (Lost And Found)」は、音数を絞り、タイトでミニマルなアンサンブルが展開される1曲。各楽器のフレーズはシンプル。ドラムの手数も少なく、特に難しいことはしていないのに、ノリと加速感がある不思議な演奏。

 6曲目「The Skin Of My Yellow Country Teeth」は、滲んだような音色のシンセサイザーに、タイトで立体的なドラム、はずむように瑞々しいギターとベースが加わり、バンド全体がバウンドするように進行していく1曲。この曲も、わかりやすく難しいことはしていないはずなのに、全ての音とフレーズが心地よく、バンドが一体の生き物のように、躍動しています。

 7曲目「Is This Love?」では、歯切れの良いギターのカッティングに導かれ、浮遊感と疾走感のある演奏が、繰り広げられます。キーボードの電子的で柔らかい音質、声が裏返りながらも絞り出すボーカルの歌唱も、楽曲にカラフルさをプラス。クラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤー流のギターポップ。

 8曲目は「Heavy Metal」。タイトルのとおり、彼らにしてはハードな音像を持った曲ですが、もちろん一般的なヘヴィメタルとは異なるサウンドとアレンジ。荒々しく疾走するバンド・アンサンブルと、声を裏返しながら歌うボーカルからは、ローファイやガレージロックを感じなくもないですが、やはりカテゴライズ不能の個性的な楽曲です。

 10曲目「In This Home On Ice」は、空間系エフェクターを用いて、ギターが厚みのあるサウンドを作り上げ、ボーカルもギターに埋もれるように漂う、シューゲイザー色の濃い1曲。ボーカルも含めて、全ての楽器が、ひとつの塊のように一体となり、心地よい揺らぎのある演奏。

 多彩な楽曲が収録されているのに、どの曲もハッキリとしたジャンル分けがしにくい、個性的な曲ばかり。しかも、敷居の高いアヴァンギャルドな音楽をやっているわけではなく、出てくる音はどこまでもポップです。

 先ほど「根っからのインディー・ロック・バンド」と書きましたが、単純にメジャー・レーベルに背を向けているということではありません。音楽性においても、今までのロックの構造に頼らず、全く新しい設計図を一から作り上げています。深い意味でインディペンデントであり、オルタナティヴなバンドだと言えるでしょう。

 折衷的にも実験的にもならず、これまでに誰も作らなかった音楽を作り上げる、驚くべき創造力を持ったバンドです。この後の作品も良いのですが、思い入れも込みで、個人的にはこの1stアルバムがオススメ! 名盤です。