Free Kitten “Nice Ass”
フリー・キトゥン 『ナイス・アス』
発売: 1995年1月30日
レーベル: Kill Rock Stars (キル・ロック・スターズ)
ソニック・ユース(Sonic Youth)のキム・ゴードン(Kim Gordon)、プッシー・ガロア(Pussy Galore)のジュリア・カフリッツ(Julia Cafritz)、ボアダムスのヨシミ、ペイヴメント(Pavement)のマーク・イボルド(Mark Ibold)の4人からなるバンド、フリー・キトゥンの1stアルバム。
著名なバンドのメンバーが集った、いわゆる「スーパーグループ」と呼ぶべきバンドです。当初は、キム・ゴードンとジュリア・カフリッツのギター・ボーカル2名で、1992年に活動開始。その後、ドラムにヨシミ、ベースにマーク・イボルドを加え、4人体制へ。
本作リリース以前にも、数枚のミニ・アルバムやシングルをリリースし、1994年にはそれらを集めたコンピレーション・アルバム『Unboxed』を発売。翌1995年にリリースされた本作が、初のスタジオ・フル・アルバムとなります。
上記のとおり、クセの強い個性的なバンドのメンバーによって結成されたフリー・キトゥン。本作で展開されるのも、期待を裏切らない、ジャンクでノイジーなサウンドを持った音楽です。『Nice Ass』というアルバムのタイトルも、示唆的ですね。美しい歌心が前面に出たアルバムではないことは、察しが付くでしょう。
1曲目「Harvest Spoon」から、ざらついた歪みのギターが唸りを上げ、ドタバタしたリズム隊が立体的に躍動する、ノイジーなアンサンブルが展開されます。本作がリリースされたのは1995年ですが、同時期のソニック・ユースに近い音楽性。
2曲目「Rock Of Ages」では、ジャンクな音色のギターとボーカルが、前のめりに音を放出していきます。サウンドとアンサンブルの両面で、耳障りでオルタナティヴな魅力が充満。
3曲目「Proper Band」でも、各楽器の音作りは、下品でジャンク。この曲は、アンサンブルがややタイト。ロック的な
ダイナミズムを伴った演奏が展開します。
6曲目「Call Back (Episode XXT)」は、メロディー感の薄いボーカルと、殺伐としたサウンド・プロダクションが合わさった、アングラ臭が充満する1曲。
7曲目「Blindfold Test」は、メロディーとアンサンブルが、揺らめくように進行する、酩酊感のある1曲。
9曲目「Revlon Liberation Orchestra」は、チープで金属的な音色のドラムをはじめとして、多種多様なノイズ的サウンドが飛び交う、アヴァンギャルドな1曲。
10曲目「The Boasta」では、本来はドラムのヨシミがギター、ギターのキム・ゴードンがドラムを担当。そのため、どこかぎこちなくアンサンブルが進行します。おそらく、普通の演奏では得られない、違和感を生むことを目指したのでしょう。
12曲目「Secret Sex Fiend」は、パンキッシュに走り抜ける、40秒ほどの1曲。曲の短さもさることながら、前のめりに音が噴出するような、疾走感ある演奏を展開しています。
前述のとおり、実験的な要素を多分に持った4バンドのメンバーによって、結成されたこのバンド。各バンドの音楽性を考慮しても想像がつきますが、オルタナティヴなサウンドと発想を持った音楽が、アルバムを通して繰り広げられています。すなわち、選択肢の「じゃない方」を選び続ける、実験的なアプローチの充満した1作です。
著名なメンバーの集まった、スーパーグループであることを差し引いても、ジャンクな音像が、ロック的なダイナミズムを伴って鼓膜を揺らす、優れたアルバムと言って良いでしょう。