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Pavement “Terror Twilight” / ペイヴメント『テラー・トワイライト』


Pavement “Terror Twilight”

ペイヴメント 『テラー・トワイライト』
発売: 1999年6月8日
レーベル: Matador (マタドール)
プロデュース: Nigel Godrich (ナイジェル・ゴッドリッチ)

 カリフォルニア州出身のインディー・ロック・バンド、ペイヴメントの5thアルバムであり、最後のスタジオ・アルバム。プロデューサーを務めるのは、近年はレディオヘッド(Radiohead)との仕事で知られるナイジェル・ゴッドリッチ。

 また、レディオヘッドのジョニー・グリーンウッド(Jonny Greenwood)が、ハーモニカで数曲に参加しています。

 ローファイを代表するバンドのひとつに数えられるペイヴメント。ローファイとは、録音状態の悪いサウンド、およびそのようなサウンドを志向する音楽を指します。また、サウンドに比例して、演奏やチューニングにも不安定な要素を含むのが、このジャンルの特徴。

 確かにペイヴメントは、メジャー的なゴージャスなサウンドとは一線を画した、ローファイなサウンドを志向しており、演奏にもアヴァンギャルドな要素を多分に含んでいました。しかし、ただヘタクソで進歩がないバンドだったのかと言えば、全くそんなことはありません。

 言い換えれば、音質と演奏をチープにするのが目的化しているわけではなく、確固たる美学を持って、音楽を作りあげてきたということ。

 バンド全体の弦が伸びきったような、ヘロヘロなサウンドを鳴らしていた1stアルバム『Slanted And Enchanted』から、音楽性を微調整しつつ、一貫してアヴァンギャルドかつポップな音楽を作り上げてきました。

 音質面ではなく、演奏面に目を移すと、チューニングの怪しい不協和音や、コードをはみ出すような意外性のあるフレーズが、たびたび用いられています。しかし、それらが耳障りで、ハードルの高い音楽を作ることになっているかというと、結果は逆。

 一般的には単なるノイズや、実験的と思われるアレンジが、むしろフックとなり、ポップでクセになる音楽を作り上げていきます。ペイヴメントは、通常は不純物として排除される要素を、表現の中に取り込み、新しいポップ・ミュージックを作り上げようとしてきたバンドなのではないかと思います。

 さて、前述のとおりラスト・アルバムとなる本作でも、メロウでミドルテンポの曲が並び、穏やかな空気感の中に、実験性を含んだ、ペイヴメントらしい音楽を展開しています。

 1曲目「Spit On A Stranger」では、ゆったりとしたテンポに乗せて、各楽器が絡み合うアンサンブルが展開されます。実験性は控えめで、アンサンブルもサウンド・プロダクションも穏やか。

 2曲目「Folk Jam」は、イントロからバンジョーが用いられ、ゆるやかな躍動感を伴って進行する、カントリー色の濃い1曲。あからさまなノイズや不協和音は出てきませんが、再生時間1:15あたりからの間奏では、ギターが絡み合うアンサンブルの中に、浮遊感のあるサウンドが織り交ぜられ、サイケデリックな空気が漂います。

 5曲目「Major Leagues」は、ゆりかごが揺れるような、穏やかなスウィング感と、サウンド・プロダクションを持った1曲。ボーカルの歌唱も優しく語りかけるようで、子守唄にも聞こえます。

 6曲目「Platform Blues」には、レディオヘッドのジョニー・グリーンウッドがハーモニカで参加。フリーキーなプレイを聴かせています。穏やかな空気が支配的な本作において、ジャンクなサウンドを併せ持った1曲。

 8曲目「Billie」にも、ハーモニカでジョニー・グリーンウッドが参加。イントロは、アコースティック・ギターのストロークを中心に据えた、牧歌的な雰囲気。しかし、再生時間0:54あたりでフルバンドになると、歪んだエレキ・ギターが唸りをあげ、オルタナティヴな音像へと一変します。

 11曲目「Carrot Rope」は、サウンドもボーカルの歌唱も能天気で、アヴァンギャルドかつキュートな1曲。再生時間1:22あたりでリズムが切り替わり、軽快に疾走していくアレンジも鮮やか。

 テンポを落とした曲が多く、牧歌的でカントリー色の濃い1作。しかし、随所にペイヴメントらしい意外性のあるアレンジが散りばめられ、アヴァンギャルド・ポップとでも呼びたい質の音楽が展開されます。

 ラスト・アルバムだから、というわけでもないのでしょうが、アルバム・タイトルのとおり黄昏を感じさせる曲想が多く、バンドのアンサンブルも成熟を感じさせます。

 これまでのアルバムは、よりバラエティに富んだ楽曲が収録され、おもちゃ箱をひっくり返したようなカラフルさがあったのですが、本作はアルバムの色とコンセプトが定まっている印象。

 ただ、レディオヘッドのジョニー・グリーンウッドが、ハーモニカでゲスト参加した6曲目「Platform Blues」と8曲目「Billie」は、カオティックなアレンジを含み、オルタナティヴ・ロック色の濃い仕上がりとなっています。

 アルバムとしての完成度は高いのですが、何が飛び出すか分からないワクワク感は、やや後退。このあたりからも、このバンドでなすべき音楽はやり切った、という感じなのかな、と思います。